異世界転生にハーレムを求めて何が悪い!   作:壟断

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06:無双夢想

 ダンジョンに単独で潜る冒険者は相当な実力者か、零細ファミリアに所属する駆け出しのようなサポーターも雇えない金欠者、もしくはどうしようもないコミュ障や嫌われ者だろう。

 基本単独探索がメインの私はこの中で実力者兼嫌われ者に分類される。

 手にすることができたチートスキルや魔法は、私から友を遠ざけた代わりに最上級冒険者への道を開いてくれている。

 ダンジョン内での完全なる自給自足という馬鹿げたことを可能とするスキルや魔法は、私に人外の継戦能力を与えていた。

 

「……だからと言って疲れがないわけじゃないんだがな」

 

 友を得ることができない私の単独迷宮探索は、莫大な資金・素材・経験値を独り占めにできるという利点がある。

 他の冒険者ならとてもできないようなことでも私はできてしまう。

 

「な、何でそんなに落ち着き払ってやがるんだ、このくそ野郎!」

 

「ちっくしょー! 誰だよ、この野郎に『怪物進呈(パス・パレード)』仕掛けようなんて言った馬鹿は!?」

 

「そりゃテメェだよ、モルドォッ!」

 

「そうだったよ、こんちくしょーが!」

 

 私の横を走る如何にも荒事に慣れていそうな冒険者たちが涙ながらに全力疾走を続けている。

 場所は、迷宮内の第16階層。相当な距離を移動しており、幾度か縦穴を通過したので久々にここまで潜った。

 

「どうして深層にしかでないはずのオルトロスが中層で群れを成してるんだよ!?」

 

「お、俺たちが『怪物進呈』したのは、ヘルハウンドとアルミラージだったはずだぞ?」

 

「くっそが! このくそ野郎、一体どこでひっかけて来やがったんだ!」

 

 泣き叫ぶLv2の冒険者たちや私の後ろから追いかけてくるのは、2Mを超える体躯の獰猛な二頭犬(オルトロス)の群れ。

 Lv3相当の冒険者チームでも対処が難しいオルトロスに追いかけられるなど上級冒険者の区分に足を踏み入れただけに過ぎないLv2の冒険者たちには悪い冗談だろう。

 

「私は、人に嫌われるのと同じように迷宮からも嫌われているらしい。よく階層を無視したモンスターに出くわしている」

 

 事実はスキルによるものだが、一応秘密にしていることなので適当なことを冒険者たちに教える。

 

「ちっくしょー! これがテメェがランクアップした理由だってのかよッ!?」

 

「まぁ、そういうことだな。これに懲りたら単なる嫌がらせで『怪物進呈』を私にしないでくれると助かる」

 

 死に物狂いで逃走する彼らの横を息も切らさず走りながら忠告する私に冒険者たちは涙ながらにガクガクと何度も頷いた。

 

「わ、分かった! 分かったからこの状況をどうにしやがれ!」

 

「し、死ぬ! 燃やされる!」

 

「も、もうダメだぁあああ!」

 

 今にも足を縺れさせてオルトロスの餌食になりそうな冒険者たちの懇願に私は彼らの後方に移動してオルトロスの群れに立ちはだかる。

 

「本当に危ない時なら請け負うが、嫌がらせならやり返させてもらうからな!」

 

「ちっ、金輪際関わらねえぇから安心しろ、この疫病神!」

 

 背中越しに罵倒を捨て台詞にして去っていく冒険者たちに呆れながら私は『魔法の靴』を起動せる。

 

「さて、私は動体視力と魔力に自信がある。今日も稼がせてもらうとしようか」

 

 簡単なステップを踏むと同時に『魔法の靴』が冷気を発すると同時に私はアイスリンクの上でもあるかのように迷宮の岩肌を滑らかに移動する。

 まるでスケートでもするような感覚で瞬く間にオルトロスの群れを迂回するように迷宮内の壁面を走りながらオルトロスたちの側面に回る。

 

「さあ、魔石(いのち)を頂こうか!」

 

 チート魔法『グレーター・スティールⅡ』を手にした肉厚な刃を両端に備える大槍に付与してオルトロスの群れの横っ腹に切り込む。

 

『グルルルゥゥゥォォオオオ!!』

 

 私の切り込みに対してオルトロスたちも迎撃のためにヘルハウンドを遥かに超える炎の弾幕を撃ち出すが、私はスライディングの要領で迷宮の岩肌を抉る様に身体を回転させることで『魔法の靴』と岩肌の間から氷の波濤を生み出してオルトロスの炎を相殺する。

 

「悪いが私の靴を前に炎弾は意味を為さない」

 

 自分たちの炎が氷の波濤に呑み込まれたことに動揺したような隙を見せるオルトロスたちに必殺の攻撃を仕掛ける。

 自らの靴に大槍の穂先を撫でさせることで刃に冷気を纏わせる。

 

「『氷槍奪刃(アイシクル・スティール・エッジ)』――!」

 

 氷結の魔力と強奪の魔法を付与された大槍がオルトロスの身体を次々と切り刻み、直撃した個体は魔石を失い灰化し、ギリギリで回避した個体は氷の魔力により機動力を奪われる。

 これは今の私の必勝パターン。

 私が有する第一級魔法具である『氷原滑走(スライディング・ブーツ)』による高速移動と冷気による対象の行動阻害。

 これに『グレーター・スティール』を併用した連撃は、数で攻めてくるタイプのモンスターに対して圧倒的な優位性を確保できる。

 凹凸が激しい岩肌の壁面だろうが天井だろうが関係なく滑るように走ることができる『氷原滑走』は一撃離脱戦法の要だ。

 もちろん、常に滑走移動ができるわけではなく、冷気を生み出す際は威力によって溜めが必要になる。

 それでも『グレーター・スティール』と併用することで必要最小限の魔力消費と両刃の大槍『ブリューナク・ルーン』に魔法属性を付与しての攻撃は、大抵の敵を殲滅できる。

 圧倒的な資金力とレア素材にモノを言わせたオラリオでも最高ランクの特注品。

 これまでに単独撃破したモンスターのレベルは、最大でLv5相当にも及ぶ。

 さすがにそのレベルが群れを成して来たら対応できないが、今の私のステイタスと装備をもってすれば、単体なら階層主でも軽々と倒せるだろう。

 

「……慢心は、禁物だな」

 

 オルトロスの群れを撃滅し、周囲に転がるドロップアイテムと魔法によって取得した魔石がこれまた特注品の『魔法鞄(バックパック)』の中に自動収納された魔石を確認し、一息つく。

 高レベルモンスターを撃破できるのは、スキルと魔法によるところが大きい。

 格上のモンスターと戦うことで基礎アビリティの熟練度は瞬く間に上がっていくが、ランクアップに必要な『冒険』を経験することができなくなりつつある。

 スキルや魔法の特性、各種戦闘技術などの経験を積んだことで中層レベルはもとより、高ランクモンスターを相手にしても危険な賭けをする必要がないレベルに達している。

 

 次のランクアップを求めるのであれば、さらに深い階層に進出していかなければならない。

 しかし、それは大きなリスクを伴う。

 深い階層に潜るということは、それに見合った日数を費やさなくてはならなくなる。

 いくら私が迷宮内で自給自足が可能といっても不眠不休で戦えるわけではない。

 中層から下は、モンスターの出現頻度も尋常じゃないものになるだろう。

 さすがに休息なしの強行軍をできるほど私の精神は鍛えられていない。

 できないことはないだろうが、必ず限界は来る。

 

「単独探索の限界か……」

 

 私の決定的な弱点。

 それが仲間を作れないということ。

 最近は、ロキに加えてミアハ様も私のスキルの影響を受けなくなったようだが、神様を迷宮探索に連れていくわけには行かない。

 同じファミリアのナァーザも迷宮探索はできない、というかそれ以前にスキルの影響があるし、最近ではミアハ様が私にべったりなので別の意味でも殺意を抱かれているから一緒に迷宮探索でもしようものなら事故に見せかけて殺されかねない。

 やはり、ミアハ様に新しい眷属を勧誘してもらうしかないだろうな。

 少なくともミアハ・ファミリアが衰退した原因である借金の方は、返済が完了している。

 新規の眷属獲得の障害となるのは、私のスキルくらいなものだ。

 

「……それが一番の問題か」

 

 新しい眷属ができても私と一緒に探索をしてくれるとは限らない。

 一緒に探索をしてくれても連携が取れるかどうかも怪しい。

 いっその事、上位ファミリアの遠征に寄生(パラサイト)する方が確実かもしれない。

 

「それでも私のスキルがあったら意味ないか」

 

 やはり一人で何かすることの限界というモノは、存外に早く見つかるものだった。

 私に強大な恩恵を与え、命の恩神に報いさせてくれたスキルを恨むつもりはないが、どうにかしなければならないのは確かだ。

 今後のためにも誰かしらとパーティーを組めるようにならないといけないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかし、思ってもみないことほど意外とよくあったりする。

 それを私が体感するのはホームに戻ってすぐのことだった。 


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