グレモリーと姫島に強制的なお誘いをされて向かった先は、校舎の裏手だった。
そこは俺が時折忍び込んでいた旧校舎で、現在はグレモリーがオカルト研究部の部室として使われている建物だ。内心占領し過ぎにも程があるだろと何度も突っ込んでいたが。
外見は古いイメージがある木造の旧校舎だが、あくまで外見だけが古いだけで、中は綺麗に掃除されている。旧校舎であるにも拘らずだ。
まぁ此処はグレモリーの根城とも言える場所だから、キチンと清掃されてるのは当然と言えば当然だ。
「此処がオカルト研究部の部室よ」
目的地に着いたのか、グレモリーがそう言ってくる。
目の前にある戸に掛けられたプレートには、『オカルト研究部』と書かれていた。
そしてグレモリーは扉を開けて中に入り、俺も続いて入る。
室内の周囲に至るところまで悪魔の文字が記されており、そして巨大な魔法陣も描かれている。正にオカルトと言う名に相応しい光景だった。
「そろそろ貴方の弟君も来ると思うけど、そこの椅子に座ってて待って貰えるかしら?」
「ああ、分かった。あと一応訊いておきたいんだがグレモリー、イッセーに寄越した使いは誰だ?」
「? 祐斗だけど、それがどうしたの?」
「………いや、あんま気にしないでくれ」
よりにもよって木場かよ……。イッセーは木場の事が嫌いだから、喧嘩とかにならなきゃ良いけど。
「取り敢えず、弟君が来るまでそこのソファーに座って寛いでて」
「へいへい」
グレモリーに言われたとおり、俺は中央にあるソファーにポスンと腰掛け、持っていた鞄をテーブルの上に置く。このソファー結構柔らかいな。随分と贅沢な物を使ってる事で。
「朱乃、兵藤君にお茶を」
「はい、部長」
俺がソファーに座ったのを確認したグレモリーは姫島に指示を出した後、そのまま俺の向かいにあるソファーに座る。
思わず周囲を見渡すと、奥にはシャワールームらしき物があった。おいおい、何で此処にそんな物があるんだ? しかもボイラーまであるし。
何かもうオカルト研究部の部室は完全に個人の私物なんだなぁと思ってると、急にグレモリーが不思議そうに見てくる。
「どうしたの?」
「……そちらの部室について如何こう言うつもりは無いんだが、この旧校舎にシャワールームなんてあったのか?」
「ああ、アレはここを部室にする際に取り付けたものよ。言っとくけど、ちゃんと学園側から許可を貰ってるわ」
取り付けたって……もう使ってない旧校舎で許可貰ったとは言え、公共の学校でそんなもん取り付けるのはどうかと思うんだが。
ってか学園側から許可貰ってるって言っても、あくまで口実だろう。何しろ駒王学園の最高責任者は学園長じゃなくて、目の前にいるリアス・グレモリーだからな。
「……そうかい。向こうは随分と気前が良い事で」
許可を貰ってるなら仕方ない、と言う風に俺は言い返す。
そうしてると、さっきグレモリーの指示でお茶を淹れてた姫島が来て紅茶入りのカップをテーブルの上に置く。
「粗茶です」
「……頂きます」
見るからに学校には無い高そうなティーカップを見て、コレも絶対に個人が持ち込んだ物だと俺は思った。
まぁグレモリーの事だから、「これもちゃんと学園側から許可を貰ってるわよ」と言い返してくるだろうと思った俺は、訊かずにカップを持って紅茶を飲み始める。
「……初めてだな。紅茶がこんなに美味しいと思ったのは」
勿論人間に転生した後での意味で。
「あらあら、うふふ。痛み入りますわ」
姫島が笑顔でそう言ってると、突然部室の扉が開いた。
「部長、兵藤一誠君を連れて来ました」
「……少し遅れました」
思わず振り向くと、そこにはオカルト研究部部員の木場と塔城が現れる。
「おいクソ兄貴! ちょっと一発殴らせろぉ!!」
「「「「!?」」」」
そして俺を見て早々に殴りに来るイッセーに、部員全員が驚愕した。
イッセーのパンチが俺の顔に迫ってくるが――
パシッ!
「ぐっ、くそっ!」
「何のつもりだ、イッセー?」
俺は紅茶を飲みながら空いてる片手で簡単に受け止めてジロッと睨む。
イッセーの不意打ちなんていつもの事だから気にしてないが、周りにはグレモリー達がいるんだから自重してくれよな。
ほれ、グレモリー達がいきなりの展開に唖然としてるじゃないか。
だがイッセーは気にしてないのか、俺に殴りかかる理由を言うとする。
「い、いや~、俺がイケメン野郎の木場に呼び出されたってのに、兄貴が見目麗しい先輩二人に呼び出されたのを聞いて、つい……」
「……………」
ゴキッ!
「$(%’#)%’(#)#=!!!」
余りにも下らない理由だったので、無言のまま思わずイッセーの右手首の間接を外してしまった。
「「「「………………」」」」
因みにグレモリー達は俺たち兄弟のやり取りに未だに唖然としている。
―――――――――――――――――
「えっと……右手は大丈夫なの?」
「あ、大丈夫っす。さっき兄貴が治してくれたんで」
ちょっとしたプチ騒動から数分経つと、イッセーが俺の隣に座って何事も無いように振舞っていた。
向かいに座ってるグレモリーが心配そうに問うが、当の本人は問題無しと右手を横に振ってる。グレモリーの後ろに控えて立っている姫島と木場、そして塔城も不思議そうに見ているが。
因みにさっき俺がイッセーの右手首の間接を外したが、あの後すぐに元に戻した。無論、後遺症が無いようコッソリと治癒術を施して。
「そ、そう、なら良いのだけど……」
「んで、そろそろ本題に入らないか? アンタ等が態々俺とイッセーを此処に連れて来させたのには、当然何か理由があっての事なんだろ?」
「……それもそうね」
俺の問いにさっきまでの雰囲気と打って変わって、一斉に真面目な顔となって見てくる。
「な、なぁ兄貴……」
一先ずお前は何も言わないでくれ、と言うように首を横に振って伝える。
俺の仕草を見たイッセーは伝わったのか、少し緊張して慌てていた様子を落ち着かせて真っ直ぐにグレモリー達を見ている。
「単刀直入に訊かせて貰うわ。貴方たちは昨日の夜、とある建物で私たちと会ったわよね?」
「………………」
……本当に単刀直入だな。
グレモリーが足と腕を組みながら笑みを浮かべると同時に、嘘は言わせないような威圧感を放ってきた事に俺は思わず驚いた。
けどまぁこの質問をしてくると言う事は、やはりグレモリーは昨日廃屋で会った二人を俺達だと気付いたみたいだ。
まぁだからと言って、そう簡単にボロを出す気は無いけど。一先ず敢えて惚けてみる。
「………おいおい、いきなりなんだよ。昨日の夜に俺とイッセーがアンタ達と会った? 何わけの分からん事を言って――」
「少なくとも、昨日会った二人のうち一人は、そこの弟君だって事は分かってるわよ。何しろウチの学園の制服を着てて尚且つ、その赤いTシャツを着てるのは今のところ貴方の弟君――兵藤一誠君しかいないわよ」
「………………」
おいイッセー、俺に言われたとおり黙ってるのは良いが顔を引き攣らせるな。それは自分からバラしてるようなもんだぞ。
しかし、グレモリーはイッセーだと分かっていたようだ。まぁ当然か。Yシャツのボタンを留めないで、その中に赤いTシャツを着てるのは駒王学園の中でイッセーしかいない。
加えて自分の監視対象だった事もあって、イッセーの服装も憶えてたみたいだな。あ~くそ、やっぱり制服じゃなくて私服で行けば良かったって今更後悔しちまってるよ。
「はぁっ。何の話か全く分からんが、それでイッセーと決め付けるのは早計なんじゃないのか? 第一、イッセーはずっと家にいたんだから廃屋なんかにいる訳が――」
「やっぱり昨日一人で私たちと相手をしたのは貴方ね、兵藤君」
「はい?」
何だ? 何かグレモリーが急に確信持って言ってるようだが……。
惚けたフリをしてる俺に、グレモリーは笑みを浮かべながらこう答える。
「私はさっき“とある建物”としか言って無い筈なのに、どうして貴方は“廃屋”だなんて知ってるのかしら?」
「…………」
………………あちゃ~~、俺とした事が初歩的なミスに引っ掛かっちまった。
確かにグレモリーは“とある建物”としか言ってなく、“廃屋”とは一言も口にしてない。
それはつまり、俺は自分から自白したも同然だ。
あ~くそ。もう向こうが予想してた上で話してたから、つい自分で言っちまった。白を切るつもりが逆に喋ってどうすんだよ。俺のバカと自己嫌悪したくなる。
イッセーもイッセーで「何やってんだよ、兄貴」、みたいな感じで俺に呆れた視線を送ってるし。否定出来ない自分が情けない。
「………………」
「どうしたの? いつも余裕そうに振舞ってる兵藤君らしくないわね」
してやったりと言うように不敵な笑みを浮かべるグレモリー。
ちくしょう、今回はあの顔を見てると少しばかりイラッと来る。
もうこうなりゃヤケだ。いっそ開き直ってやる。
「………いやぁ、失敗失敗。俺とした事が言ってもいない単語を自分から口にするなんてなぁ。それを言わせるとは、少しばかりアンタを甘く見てたよ、リアス・グレモリー」
「「「「っ!」」」」
俺が嘆息しながら首を横に振って笑みを浮かべた直後、グレモリー達は一斉に警戒しだした。特に後ろにいる木場がいつの間にか剣を持ってる。
「あの指摘だけで随分アッサリ白状したわね。私はてっきり、もう少し粘って惚けると思っていたのだけど」
「例えそうしても、俺がミスを犯した時点でアンタはコッチが白状するまで逃がす気は無いんだろ? だったらいっそ、自分から白状したほうが清々する。見苦しい言い訳をするより」
「……まぁ、それは同感ね」
理由を聞いたグレモリーは苦笑しながらも頷く。
そしてこれこそが本題と言わんばかりに問い質そうと、今度は威圧感タップリな笑みを浮かべてくる。
「それで、貴方たちは一体何者なのかしら? 私の素性を詳しく知っている上に、はぐれ悪魔のバイサーを簡単に倒せる弟君、天使や堕天使しか使う事が出来ない光の槍を作れる貴方。どう考えても唯の人間じゃない事は確かよ。一体何の目的で私の領地に今まで潜んでいたのかしら?」
「そう慌てなさんな。ちゃんと質問には答える。だから落ち着け」
両手を前に出してグレモリーを落ち着かせるように言い返し、俺は答えを用意するように話そうとする。
「先ず最初にグレモリーのお察し通り、俺たち兄弟は三大勢力の裏事情を知っている“そちら側”の人間だ」
「兄弟は? まるで貴方たちのご両親は無関係みたいな言い方ね」
「当然さ。両親は“そちら側”と一切関係の無い唯の一般人。知ってるのはあくまで俺とイッセーだけだ」
尤もイッセーは俺が裏事情を教えただけに過ぎないが、と内心付け加える。
両親が無関係なのは本当だから、此処はハッキリ言っておかないとな。もし変に両親を疑って何かされでもしたら、こっちとしちゃ堪ったもんじゃない。
「じゃあどうやって私たち悪魔や他の勢力の事を知ったのかしら? こちら側の情報なんて簡単に知る事は出来ない筈よ」
『
「ある龍から聞いたんだよ。色々と詳しくな」
「龍?」
グレモリーが思わず鸚鵡返しをしてると、俺は気にせずイッセーの方を見る。
「イッセー、アイツを呼び出すついでにアレも出せ」
「え? 良いのか?」
「構わん。此処でちゃんとした証拠を見せなければ、向こうは納得しないからな。それにコッチの手の内を見せたところで、不利になる事は一切無い」
俺の言い方に少しカチンと来たのか、グレモリーが顔を顰めていた。
「随分と強気ね。まるで私たちの事を相手にならないように聞こえるけど?」
「そんなつもりで言ってないが、そう捉えてしまった以上は謝ろう。すまなかった」
「………………」
素直に謝る俺に拍子抜けするような感じで俺を見るグレモリー。てっきり俺が当然と言うように言い返してくると思ってたんだろうな。
けどまぁ、もし仮にグレモリー達と戦う事になったら確実に俺達が勝つ。言っちゃ悪いが、今のグレモリー達じゃ俺とイッセーの相手にもならない。
力を制限されてるとは言え元『聖書の神』の俺と、上級悪魔クラス以上の実力を持ってる今代『赤龍帝』のイッセー。対するは未熟な上級悪魔のグレモリーと、その眷属三名。どちらが勝つかなんて明々白々だ。
「そんじゃイッセー、出してくれ」
「おう、分かった」
イッセーが座っていたソファーから立ち上がると、グレモリー達は何をするのかと思って構える。
「そう警戒しないで下さい、リアス先輩。俺はただ
「っ! じゃあ貴方やっぱり……!」
「来い! 『
驚くグレモリーを余所に、イッセーは左腕を翳して名を告げた。直後、左腕が反応したかのように赤い篭手が現れると、グレモリー達は一斉に驚愕した。
「ぶ、『
ほう、この反応をするって事はグレモリーは知っているみたいだな。
「ま、まさか兵藤君が言ってた龍は二天龍の――」
『そう。この俺『
「そしてコイツの魂が宿ってる
ドライグ、そして続けて言う俺の台詞にグレモリーと眷属達は余りの予想外な事実を知って再び驚愕する。
ちょっと無理な内容かと思う方がいるかもしれませんが、何卒ご容赦下さい。