ハイスクールD×D ~転生のG~   作:さすらいの旅人

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今回は今までの話数の中で一番長いです。


第十九話

    ~一誠が隆誠に電話をする数時間前~

 

 

「なぁアーシア、何処に行きたい? 今日は俺が好きなところに連れてってやるよ」

 

「え、えっと、イッセーさん。本当に学校をお休みしても良いんですか?」

 

「大丈夫大丈夫。アーシアは気にしなくて良いって」

 

 アーシアが家に保護されるのを了承してくれた翌日の朝。俺はアーシアを連れて繁華街に行こうと足を運んでいた。

 

 昨日兄貴から、「明日は学校休んでも良いから、今後の為に彼女を町に案内してやれ」って言われて、俺は速攻OKした。

 

 可愛い女の子と一緒に町を歩くってのは学校の授業より大事だからな。ウチの兄貴様は良く分かってらっしゃる……ホントは護衛だけど。

 

 にしても兄貴の奴、父さんや母さんに内緒とは言えアーシアを自分の部屋に泊めやがって。しかも兄貴は兄貴で俺の部屋で過ごそうとするし。

 

『このエロ満載部屋に彼女を泊めるのはNoだ』

 

 って、兄貴に言われて一夜を過ごす羽目になっちまった。ちきしょう………。

 

 …………けど正論過ぎて反論も出来なかった。確かに純真なアーシアを俺の部屋に泊めさせるのは教育上良くない。未成年が見ちゃいけない物がたくさんある。特にベッドの下に隠してあるエロ本や、元浜から借りてるエロDVDとか。

 

 確かに言ってることは分かる。……………けどさぁ、それでも可愛い女の子と一緒に寝てみたいって願望はあるんですよ。アーシアのような金髪美少女なら尚更!

 

 それを自分の部屋を泊めさせるって……まぁ兄貴は俺と違って、エロい物が一切無い。聖人もしくは性欲が枯れてるような老人みたいに。弟の俺がさり気なくエロ本やDVDを見せても、全く興味無いように呆れた顔してたし。

 

 余りの反応思わず「もしかしてホモなのか?」と口走った瞬間、俺は果てしなく後悔した。その時の兄貴は凄く爽やかな顔してたけど、修行の際に俺が死ぬ一歩手前でもずっとその顔をしてたからな。文字通り命懸けな日だった、アレは。

 

 まぁ取り敢えず部屋にエロい物が無くても兄貴はノーマルだってのが良く分かった。コレに懲りて、もうホモの話題でからかうのは止めようと心に誓ったほどに。

 

「お、着いたみたいだな」

 

 気がつくと繁華街に着いていた。

 

 あと繁華街を歩いている人たち――特に男共がチラチラとこっちを見ている。主にアーシアの方を。

 

 男共の反応はある意味当然だな。何せ俺の隣を歩いてるアーシアはすっげぇ可愛い美少女な上に、この町で見る事のないシスター服を着てるし。物珍しいと同時に可愛い女の子に目が行っちまうのは男として仕方ない。

 

「俺から離れないようにな」

 

「は、はい……」

 

 そう言ってアーシアは俺の手を握ってくる。予想外な行動をしてきたから、思わず俺は驚いてしまった。

 

 その直後、さっきまでアーシアを見ていた男共が一斉に俺を睨んできた。

 

 おお恐い恐い。いつも嫉妬の視線を向ける俺が、まさか向けられる側になっちまうとは。ハッハッハッハ。いや~モテる男は辛いなぁ~。

 

 ………な~んてな。アーシアが一斉に見てくる男達の視線に気付いたから、ほんのちょっと怯えて咄嗟に俺の手を握ってきたって事くらい分かってるよ。

 

 兎も角、兄貴にアーシアの護衛を任された以上、何が何でも守らないとな。敵とは言え多少思い出を作ってくれた夕麻ちゃんには悪いが、襲い掛かってきても倒させてもらう。目的を知ってしまった以上、情けを掛けるわけにはいかない。

 

「あの、イッセーさん。イッセーさんのお兄さんについて、ちょっと訊いても良いですか?」

 

「ん? 兄貴のこと?」

 

 手を繋いで繁華街を歩いてる最中、突然アーシアが俺に質問してきた。

 

「はい。昨日会ったばかりでそんなに分からない筈なんですが、あの人を見てると何故か不思議な気持ちになるんです」

 

「不思議な気持ち?」

 

 ………まさかとは思いたくないが、兄貴に一目惚れした訳じゃないよな? もしそうなら俺すぐに泣ける自信あるんですけど。

 

「初めて会った人の筈なのに、何といいますか……恐れ多い人のような、凄く尊い人で敬わなければいけない感じがしまして」

 

 ………ああ、そっち方面ね。あ~、マジで焦った。

 

 まぁそれはそうと、アーシアの言ってることは分からなくもない。

 

 知ってのとおり、兄貴は神器を持ってる俺とは別に普通の人間じゃない。天使や堕天使しか使えない光の剣や槍を出したり、他にも不可思議な力を持ってるから、別次元のような存在とも言える。

 

 昨日リアス先輩に何故か身に付いてた力で使い方も知ってると言ってたが、俺にはとてもそうは思えなかった。俺の修行で力を使ってた時には、熟練者みたく完全に使いこなしてるような感じだ。

 

 考えれば考えるほど、兄貴は一体何者なんだって疑問に思う。歳なんかたった一つしか違わないのに、どうして弟の俺とこうも力の差が全然違うのかが訳分かんねぇよ。っと、話が少し脱線しちまったな。

 

 兄貴と初めて会った人間は、何故かアーシアと同じ気持ちになってしまうらしい。

 

 現に俺が中学の頃に知り合った松田と元浜も、初めて兄貴を見た瞬間に跪いたんだよな。まぁその時は俺の部屋で元浜が極秘で手に入れたエッチなDVDを見てたところ、「いくら年頃だからって中一のお前等が見る物じゃないだろうが!!」ってメッチャ怒られたけど。

 

「まぁ、確かに色々と普通じゃないのは確かだな。俺も事を時々考える事はあるよ。けど兄貴である事に変わりないから、あんま気にしない事にしてんだ。だからアーシアも変に意識しないほうが良いぞ」

 

「はぁ……」

 

「それより、今日は俺が姫君に繁華街の楽しみ方を教えて差し上げましょう。先ずはゲーセンだ」

 

 

 

 

 

「はう~、横転しちゃいましたぁ~」

 

「あ~~惜しかったな~。後もうちょいでゴールだったのに」

 

 アーシアをゲーセンに連れてきた俺は先ず最初にレーシングゲームをやっていた。

 

 初めての操作に戸惑うアーシアだったが、ある程度慣れてきたのか順調に進んであと少しでゴールのところ、ちょっとしたミスで画面に映ってる車が横転してゲームオーバーになってしまった。

 

 ホントだったらレーシングゲームが得意な俺がアーシアに腕前を披露するつもりだったが、ゲーセン自体が初めてのアーシアにレクチャーする方を優先にした。

 

 マジで初心者丸出しのアーシアだけど、必死で頑張って操作してるところを見てて思わず熱が篭って応援しちまったよ。可愛い女の子ならではの特権ってやつかな?

 

 レーシングゲームの次に格闘ゲームをやろうと対戦モードで――

 

「イッセーさんに勝ちました!」

 

「げっ!」

 

 レクチャーするつもりが、あっと言う間に俺が負けちまった。

 

 ちょっと教えただけで俺に勝つって凄ぇよ。もしかしたらアーシアって格ゲーの才能あるかもな。

 

 格ゲーをある程度やった後、次に何のゲームをやろうかとゲーセンの中を歩き回ってると、突然アーシアがある物を見た途端にクレーンゲームの前に張り付いてる。

 

「どうしたの?」

 

「え? あ、いえ……。べ、別になんでも」

 

「………当ててやろうか、アーシア。もしかしてラッチューくんが好きなのか?」

 

 クレーンゲームの中にある、人気キャラクターの『ラッチューくん』の人形を見ながら訊く。

 

 因みにラッチューくんは、日本発なんだが世界的に人気なキャラクターなんだよな。

 

「え! い、いえ、そ、その……………はい」

 

 俺の問いにアーシアは顔を紅潮させながら誤魔化そうとするも、結局俯きながら恥ずかしそうに頷いた。

 

 やっぱりな。世界的に人気なキャラクターだから、当然アーシアも知ってる筈だ。

 

「よし。お兄さんの俺が取ってやる!」

 

「えっ! で、でもそんな!」

 

「いいからいいから。アーシアは気にすんなって」

 

 そう言いながら俺は即コインを投入して、クレーンを動かし始める。

 

 こう見えて、普段猥談で花を咲かせてる松田と元浜と三人でゲーセンに行って、各自得意なゲームでハイスコアを出している。

 

 一応クレーンゲームは俺の得意分野の一つでもあるんだぜ。

 

 そう思いきや、これが意外に苦戦してしまった。

 

 一度目と二度目は掴み所が悪くてスカ。けど三度目は何とか人形を落とし口に放り込む事に成功!

 

「よし!」

 

 俺は思わずガッツポーズを取ると、取り出し口に出てきたラッチューくん人形を見てすぐ手に取る。それをそのままアーシアに渡した。

 

「俺からのプレゼントだ」

 

「ありがとうございます、イッセーさん」

 

 ラッチューくん人形を受け取ったアーシアは心底嬉しそうに、それを胸に抱く。

 

「大袈裟だなぁ。そんな人形なら、また取ってあげるよ」

 

「いえ、今日頂いたこのラッチューくんは私にとって素敵なものです。私、この人形を大事にしたいです」

 

 ………恥ずかしい台詞だな。

 

 まあ良いか。ここまで喜んでくれるなら、俺としても護衛冥利に尽きるからな。

 

「よし! 今日は一日遊び尽くして――」

 

 

 グギュルルルル………

 

 

「……………………」

 

「………………え、えっと」

 

 勢い良く言おうとしたところを突然、俺の腹から空腹の音が鳴ってしまった。

 

 俺が思わず固まってしまったのを見たアーシアは何とかフォローしようとするが、どういえばいいか分からず言葉に詰まっていた。

 

「そ、そろそろお昼の時間帯ですから――」

 

 

 クゥ~~~~………

 

 

「……………………」

 

「………………あ、アーシアも腹減ってたんだな」

 

 フォローしようとするアーシアだったが、突然アーシアのお腹から可愛らしい音が聞こえた。その瞬間にアーシアは真っ赤に顔を染めながら俯いてしまう。

 

 今のアーシアを見てると、自分の事なんかどうでも良くなってきた。取り敢えず俺がフォローしよう。

 

「………お、お互いに腹減ってるからさ。ひ、昼飯食いに行こうか」

 

「…………はい」

 

 俺からの提案にアーシアは真っ赤な顔のまま俯きながらも頷いた。

 

 不謹慎だけど、凄く恥ずかしい顔をしてるアーシアを見て可愛いなぁって思ったのは俺だけの秘密にしておこう。

 

 

 

――――――――――――――

 

 

 

「御馳走様でした、イッセーさん。ハンバーガー、凄く美味しかったです」

 

「そうかそうか。また食べたかったら俺が連れてってあげるよ」

 

 ハンバーガーショップで昼飯を食った俺は、食休みも兼ねて近くの噴水公園にあるベンチに腰を下ろしていた。

 

 しかしまぁ、ハンバーガーショップでちょっと不思議な光景を見たな。

 

 レジでハンバーガーを注文する時に、初めてに入った事もあった所為か、注文に四苦八苦するだけでなく店員も困っていた。

 

 あの時は「一人でなんとかしてみせます」って胸を張りながら宣言してたけど、日本語が喋れない事に気付いた俺は即座に困っていた店員をフォローする為に代わりに注文した。

 

 アーシアはシスターだから、ああ言う所にあんまり縁が無いのは予想してたが、まさかハンバーガーやフライドポテトの食べ方まで知らないのは完全に予想外だった。ゲーセンとはまた違う意味で驚いたよ。

 

 因みに本当だったらまたゲーセンに戻って再開したいところだったけど、あそこで俺とアーシアが揃って腹の虫が鳴ったと言う恥ずかしい出来事が起きてしまったので止めることにした。

 

 食休みが終わった後は、他の店に行って遊ぶつもりだ。夕麻ちゃんが襲って来ない限りな。

 

「………なぁアーシア、いきなり無神経な質問をして悪いんだけどさ」

 

「はい?」

 

「アーシアが持ってる神器を夕……レイナーレが狙っているのは知ってるけど、どうして堕天使の組織に入る破目になっちまったんだ? 正直に言わせて貰うけど、君の持ってる神器は貴重だから、教会がそう簡単に手放すとは思えないんだが」

 

「……………………」

 

 突然の問いに、さっきまで笑顔だったアーシアが暗い表情になって無言となった。

 

「…………言いたくないなら、無理に答えなくても良い。悪い、今のは聞かなかった事に――」

 

「私、生まれてすぐ親に捨てられたんです」

 

 俺が謝ってる最中、突然アーシアが自分の出生から語り始めようとする。

 

「ヨーロッパの小さな田舎町の教会。その前で赤ん坊の私は泣いていたそうです。私はそこで育ちました。八つの時です。怪我をして死にかけた子犬が教会に迷い込んできました。私は一人で必死に祈りました。その時、奇跡が起きたのです」

 

「それがアーシアの神器(セイクリッド・ギア)――『聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)』が発動したんだな」

 

「はい。それからすぐ私は大きな教会に連れて行かれ、世界中から訪ねてくる信者の病や怪我を治すよう言い付かりました。私は、自分の力が人々のお役に立てる事が本当に嬉しかったんです。その時に私は信者の皆さんから『聖女』と謳われました」

 

 本心で言うアーシア。信者を助ける事が出来て本当に嬉しかったんだろうな。

 

 けど第三者の俺から言えば、教会の連中はアーシアを都合の良いように利用してたんだろうな。

 

「そんなある日、怪我をして倒れている男の人に出会いました。でも、偶然出会ったその人は悪魔だったんです。それを知らずに私は――」

 

 そこから先はマジで胸糞悪い話だった。

 

 アーシアが怪我をした悪魔を神器で治療したところを教会関係者に見られてしまい、それを司祭は驚愕し、こう言ったそうだ。

 

『悪魔を治療出来る力だと!?』

 

『魔女だ!』

 

『悪魔を癒す魔女め!』

 

 散々アーシアを利用してた司祭は掌を反すように『聖女』から『魔女』と罵り、異端者の烙印を押して追放されたそうだ。

 

 その為、行き場の無くなったアーシアを拾ったのは堕天使の夕麻ちゃんがいる組織って訳か。アーシアは夕麻ちゃんたちの組織が非道な事をしているとも知らずに。

 

 もしこの場に兄貴がいたら絶対怒ってるだろうな。いや、もしかしたら兄貴は知ってるかもしれない。でなけりゃアーシアを家に保護するなんて事を言い出さない。

 

 もうついでに、何故か知らんが兄貴は教会関係者に対して嫌悪感を抱いていた。と言っても主に裏であくどい事をしてる信者や上層部の連中だけだが。

 

「きっとこれは、主の試練なんです。この試練を乗り越えれば、いつか主が私の夢を叶えてくださる。そう信じてるんです」

 

「夢……?」

 

 思わず鸚鵡返しをする俺に、アーシアは気にする事無く話を続ける。

 

「たくさんお友達ができて、お友達と一緒にお花を買ったり、本を買ったり、お喋りしたり……そんな夢です」

 

 そう言った後、アーシアは俺に笑顔を向けながらこう告げようとする。

 

「私、友達がいないんです」

 

 ……………そんな笑顔で、そんな悲しい事を言わないでくれよ。

 

 おい神様よぉ。

 

 何でアンタはこの子を救おうとしないんだよ!

 

 この子は誰よりもアンタに救いを求めてるじゃないか! 誰よりも神様のアンタに敬意を払ってるじゃないか!

 

 …………あ、そう言えば以前神様に対して文句を言った時、兄貴が何かに耐えるよう凄く申し訳ない顔をしてたな。まるで自分の責めを負うかのように。

 

 ………もう止めよう。これ以上言うと、何故か知らんが兄貴に悪い事を言ってる気がする。どうしてかは分からないが。

 

 そして俺は意を決したかのように彼女の手を取り、悲しそうな顔をしている彼女の目を真っ直ぐ見つめながら言う。

 

「俺がアーシアの友達になってやる。つーかさ、俺たち、もう友達だ」

 

「え?」

 

「だって、さっきまで一緒に遊んだり喋ったり、ご飯食ったろ? まぁ、花とか本を買ってなかったけどな」

 

 俺の台詞を聞いたアーシアはキョトンとしている。

 

「こんなんじゃ、ダメか?」

 

「…………いいえ、いいえ、いいえ、いいえ! でも、イッセーさんがご迷惑じゃありませんか?」

 

「んな事ねぇよ。もし此処に兄貴がいたら、俺と同じ事言ってるよ。年上だけど良かったら俺と友達になってくれ、ってな」

 

 きっと兄貴はそう言う。普段俺に対して厳しいけど、アーシアのような女の子を放って置くわけないからな。

 

「……私、世間知らずですよ?」

 

「だったら俺、もしくは兄貴と一緒に町へ繰り出せばいいさ。色んな物を見て回れば、んなもん問題ないさ」

 

「……日本語も喋れませんし、文化も分かりませんよ?」

 

「言葉なら大丈夫。俺が兄貴に頼んで喋れるようにしてもらうよ。俺がアーシアの言葉を理解して話せているのは、兄貴のお蔭でもあるんだぜ。文化の事は俺に任せろ! なんなら日本の文化遺産でも見て回ろうぜ!」

 

「……友達と何を喋っていいのかも全く分かりません」

 

 未だに弱々しく言ってくるアーシアに、加減しながらも彼女の手をギュッと握る。

 

「さっきまで普通に話せたじゃないか。それでいいんだよ。だってさっきまで俺たち、友達として話していたんだからな」

 

「……本当に、私と友達になってくれるんですか?」

 

「ああ。これからもよろしくな、アーシア」

 

 その直後、彼女は泣きながら笑って頷いてくれた。

 

 ……しかしまぁ、自分で言ってて、何と言う臭い場面だろうか。

 

 もし兄貴がいたら俺は絶対にからかわれるだろうな。その後で俺は寝る時にベッドでこの場面を思い出して、余りの恥ずかしさにのたうち回ると思う。

 

 まぁそれでも良い。

 

 これからアーシアは家に住むことになるんだからな。大事な友達だと父さんや母さんに胸を張って言えるしな。

 

 それに、ん? ………ったく。折角の恥ずかしくも感動シーンなところを邪魔しに来たか。

 

「アーシア、絶対に俺の傍から離れるなよ」

 

「え?」

 

 繋いだ手を放し、ベンチから立ち上がってマジ顔で言い放つ俺にアーシアはキョトンとしていた。それでも俺は気にせず、ある方向を見る。

 

「いるのは分かってるぞ。出てきたらどうだ?」

 

「何だ、気付いてたの」

 

 俺の声に反応した第三者の声が耳に入った。

 

 その声には当然聞き覚えがある。

 

 視線を向けているところから、黒髪が艶々でスレンダーな堕天使――夕麻ちゃんが現れた。

 

「……れ、レイナーレさま……」

 

 彼女の登場にアーシアが俺と同じく立ち上がり、怯えるように身体を震わせながら夕麻ちゃんをそう呼んだ。

 

 そういや、夕麻ちゃんの本当の名前はレイナーレだったな。

 

「んで、何か用かい? ひょっとして、この前のデートの続きを御所望かな?」

 

 俺が話しかけると彼女は、前とは打って変わったかのように嘲笑する。

 

「人間風情が気軽に話しかけないでくれる?」

 

 堕天使は侮蔑を込めた目で俺を睨んでくる。

 

 何だ? この前は俺に追い詰められて逃げた筈なのに、今回は随分と強気な態度を取ってくるんだな。

 

 見た感じ、この前と比べて大して強さは変わってない筈なんだが……。どう言うことだ?

 

「昨日は勝手にアーシアを持って行ったようだけど、生憎その子は私の所有物なの。返してもらえるかしら? アーシア、その男の所にいたって無駄よ。観念して戻りなさい」

 

「……嫌です。私はもう、あの教会へは戻りたくありません。人を殺すところに戻りたくありません。……それにイッセーさんのお兄さんから全て聞きました。あなたは私の力を奪う為に此処に呼んだことも」

 

「ちっ、どうやら聞いてしまったみたいね。余計な事を」

 

 忌々しそうにまた俺を睨んでくる堕天使。別に俺が言った訳じゃないんだけどな。

 

「だからってそんなこと言わないでちょうだい、アーシア。あなたの神器は私の計画に必要な事なのよ。ねぇ、私と一緒に帰りましょう? これ以上、私にあまり迷惑を掛けないでちょうだい」

 

 そう言いながら近づいてくる堕天使レイナーレ。

 

 その行動にアーシアは俺の陰に隠れる。

 

 そして俺も彼女を庇うように前へ出ながら、レイナーレにこう告げる。

 

「おい待てよ。嫌がる彼女を無理矢理連れて行くのはダメだろう? ゆう、いや、レイナーレさんよ。つーかアンタ、俺がこのまま黙って見過ごすとでも思ってるのか? だとしたら、とんだ大間違いだぜ」

 

「人間、私の名前を呼ぶな。私の名が汚れてしまう。あなたに私たちの事は関係ないわ。さっさと諦めて自分の家へ帰らないと、後悔する事になるわよ?」

 

 レイナーレは手に光を集めだして、この前見た赤い光の槍を出そうとする。

 

 何であそこまで強気なのかは知らないが、取り敢えずやる気みたいだから一応こっちも神器(セイクリッド・ギア)を出しておくか。

 

 そう思いながら俺は頭の中で『赤龍帝の篭手(ブーステッド・ギア)』を思い浮かべると、俺の左腕は光で覆われて、赤い篭手へと変貌していく。

 

 俺の神器(セイクリッド・ギア)を見たレイナーレは虚を突かれたような顔をしてたが、すぐに哄笑をあげる。

 

「何かと思えば、ただの『龍の手(トゥワイス・クリティカル)』じゃない。とんだ見当違いだったようね。上の方々は一体何を考えて危険だと判断したのかしら」

 

「…………は?」

 

 この堕天使は一体何言ってんだ?

 

 俺の神器(セイクリッド・ギア)は『赤龍帝の篭手(ブーステッド・ギア)』で『龍の手(トゥワイス・クリティカル)』じゃないんだが……。

 

 キョトンとしてる俺を見たのか、レイナーレは心底可笑しそうに嘲笑いながら教えようとする。

 

「それは所有者の力を一定時間、倍にするありふれた物よ」

 

 おいドライグ、お前の神器(セイクリッド・ギア)がいつの間にかありふれた物になってるぞ?

 

『ほう、この俺を『龍の手(トゥワイス・クリティカル)』扱いとはな。……あの堕天使は余程死にたいと見える』

 

 おお、やっぱ怒ってたか。まぁそりゃ当然だな。

 

 『神滅具(ロンギヌス)』と呼ばれてる神器(セイクリッド・ギア)をありふれた物扱いされたら、そりゃドライグだって怒るわ。

 

 内心呆れてると、さっきまで嘲笑ってたレイナーレが急に真面目な顔をしてきた。

 

「けれど、この前のあなたの実力を考えれば、それを出されて倍になったら此方としては不利ね。ちょっと早いけど、手は打たせてもらうわ」

 

 そう言ってレイナーレは空いてる左手でパチンッと指を鳴らす。

 

 レイナーレの頭上から、空間が歪むように紫色の渦から何かが出てきた。

 

 そこには――

 

「っ!? 松田に元浜! 何でお前等が!?」

 

 気を失ってる俺の悪友二人が佇むかのように浮いていた。

 

 俺が焦った反応をした事に、レイナーレは優越感を得たように言い放ってくる。

 

「人間、この二人を殺されたくなかったら、大人しくアーシアをこっちに引き渡しなさい」

 

「テメェ……!」

 

 何て奴だ! 俺とまともに戦って勝てないと知った上で、人質と言う手段を取りやがったな!

 

「何で関係ねぇソイツ等まで巻き込む!?」

 

「関係無くは無いわ。だってあなた、私とデートする前、この二人に私の事を紹介したじゃない。迂闊だったわね、私にお友達の情報を教えるなんて」

 

「テメェがそんな卑劣な手段を使うとは思ってなかったんだよ!」

 

 まさかレイナーレがこんな手を使うだなんて予想だにしなかった。

 

 コイツ、堕天使としてのプライドって物が無いのかよ……!

 

「私としても正直こんな手は使いたくなかったわ。けれど今はそうも言ってられない状況なの。あなたたち兄弟の所為で私の計画が潰されそうになってるから、使わざるを得なかったのよ。分かるかしら? あなたたちが余計な事をしたから、関係無い一般人を巻き込む破目になったのよ」

 

 よくもまぁ、いけしゃあしゃあとホザきやがって……!

 

 今すぐにでも全力でレイナーレの口を黙らせたいところだったが、松田と元浜が人質として取られてる以上、迂闊に動く事が出来なかった。

 

 その証拠に、松田と元浜の周囲から、二人に狙いを定めてるかのように数本の光の槍がある。恐らく俺が動いた瞬間、あの光の槍は一斉に松田と元浜を貫く筈だ。

 

「アーシア、聞いての通り、この二人はそこの人間のお友達なの。あなたが戻ってくれるなら、この二人は殺さないであげる。応じてくれないなら、この二人を殺すしかないわよ?」

 

「そんな……!」

 

 俺の後ろにいるアーシアがレイナーレの身勝手な台詞に驚愕している。

 

 くっ! 俺はどうすれば……!

 

 あんな奴にアーシアを渡したくない。かと言って俺の大事な悪友二人を見捨てたくない。

 

 俺は、俺は……!!

 

「テメェ! こんな事してタダで済むと――」

 

「わかりました」

 

 俺の言葉を遮ったアーシアは堕天使の提示を受け入れた。

 

「アーシア!」

 

「イッセーさん。今日は一日ありがとうございました。本当に楽しかったです」

 

 アーシアが満面の笑みを浮かべる。

 

 止めてくれ。今そんなお礼を言う場面じゃないだろう。

 

「ふふっ。いい子ね、アーシア。それでいいのよ。問題ないわ。今日の儀式であなたの苦悩は消え去るのだから」

 

 歯軋りして動けない俺を無視するようにレイナーレはアーシアに近づくと、いやらしい笑みを浮かべていた。その直後にはアーシアの身体を黒い翼で覆うとしている。

 

「待ってくれアーシア! 俺たち友達だろう!」

 

「はい。こんな私と友達になってくれて本当にありがとうございます。あとイッセーさんのお兄さんにもこう伝えておいて下さい。私を保護してくれてありがとうございます、と」

 

 俺にそんな伝言役をさせないでくれ! そう言うのは兄貴に直接言ってくれ!

 

「さようなら、イッセーさん」

 

 それが彼女の別れの言葉だった。

 

「人間、この子の英断に感謝することね。約束通り二人は殺さないでおくわ。儀式が終わり次第返してあげるから、それまで今日一日大人しくしてなさい」

 

「っ! 待て! 何で松田と元浜まで連れて行く!? ソイツ等は解放するんじゃないのか!?」

 

「あなたちゃんと聞いてなかったの? 私はあくまで二人を殺さない約束をしただけ。別に今すぐ解放するだなんて一言も言ってないわよ」

 

「そんな! 約束が違います、レイナーレ様!」

 

 どうやらアーシアは自分が行けば二人を解放すると思っていたようだ。

 

「アーシア、今日は大事な儀式なの。あの兄弟に邪魔されたら困るから、あの二人はあくまで保険よ。別に手は出さないから安心して。まぁ向こうが邪魔してきたら無かった事にして殺すけど」

 

「こ、この野郎……!」

 

 必死に抑えてる俺の怒りが限界を通り越しそうだった。今すぐにレイナーレを殺したいほどに……!!

 

 そんな俺を嘲笑うかのように、レイナーレは虚しい抵抗をしようとするアーシアを無視しながらこう言って来る。

 

「じゃあね、イッセーくん。二人を殺されたなかったら余計な事はしないように」

 

 堕天使はアーシアを抱いたまま空高く飛び上がると、気絶してる松田と元浜も追うように、そのまま空の彼方へ消え去ってしまった。

 

「く、くっ………!」

 

 今すぐにでも堕天使の後を追いたい衝動を抑えながら、俺は懐から携帯を取り出して兄貴の番号に電話を掛けた。

 

『何だイッセー。今昼休みだからって――』

 

「兄貴、すまねぇ……!」

 

『――どうした、何が遭った?』

 

 電話に出て文句を言おうとする兄貴が、必死に押し殺してる俺の声を聞いて状況を聞き出そうとしていた。

 

「夕麻ちゃんが突然現れて……!」

 

『落ち着け。お前の携帯からミシミシと聞こえるぞ。んで、レイナーレがどうした?』

 

「松田と元浜を人質にして、アーシアを攫いやがった……!!」

 

『何だと!?』

 

 俺の報告に、兄貴が今迄に聞いたことの無い驚愕の声を出していた。

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