「よし、行くぞ」
「おう」
準備を終えて万全な状態となった俺はイッセーと一緒に教会へ向かっていた。
その時もう既に空は暗く、街灯の光が道を照らす夜の時間となっている。
「先輩、兵藤君、お待ちしてました」
教会へ向かってる途中、剣を腰に差して爽やかな笑顔をしてる木場と会う。
木場の登場にイッセーがほんの少し顔を顰めるが不満を口にしなかった。
てっきり木場に対してまた何かしらの不満を言うと思っていたが、何も言わなかった事に少しばかり安堵した。
これから人質となってる松田と元浜、そしてアルジェントを救い出す為の味方だからな。イッセーがそれ位の分別をついてくれて何よりだ。
そう思いながら俺はイッセーと木場の三人で教会へ向かうと、見える位置まで辿り着く。
俺達はそこで足を止めて様子を窺うが、教会に人の出入りは無かった。まぁあそこは現在使われてない教会だから出入りなんて無いが。
「兄貴、あの教会の中にゆう……レイナーレの気配がする」
「分かってる。だからその物騒な
レイナーレの名前を言い直すイッセーは体中から怒気全開とも言えるオーラを醸し出していた。
そのオーラに木場が思わず驚いてると、俺はすぐにポンとイッセーの肩に手を置きながら落ち着かせるように言う。
「えっと、先輩。図面を持ってきました」
木場が恐る恐ると言うような感じで、路面に建物の図面を広げた。
これは教会の図面か。
「態々用意してくれたのか、ありがたい」
「気にしないで下さい。それに、相手陣地に攻め込む時のセオリーですし」
にこやかに笑う木場。
細やかなフォローをありがとう。一応教会の中はレイナーレが来る前から知っているが、折角の厚意を無下にしたくないので敢えて言わなかった。
「聖堂の他に宿舎。怪しいのは聖堂でしょうね」
そう言いながら木場は図の聖堂を指差す。
「だろうな。『はぐれ
「それって教会や神様に対する一種の仕返しみたいなもんか?」
落ち着かせていたイッセーが俺に問う。的を射た質問だったので俺は思わず口を噤み、木場は苦笑している。
「まぁそんなところだね。今まで敬っていた聖なる場所、そこで神を否定する行為をする事で、自己満足、神への冒涜に酔いしれるんだ。彼らが神を愛していたからこそ、神に捨てられたからこそ、憎悪の意味を込めて態と聖堂の地下で邪悪な呪いをするんだよ」
別に『
ま、そんな言い訳をしたところで今更遅い。原因の根源は『
「話を戻すね。入り口から聖堂までは目と鼻の位置だから、一気に行けると思う。問題は聖堂の中へ入り、地下への入り口を探す事と、待ち受けているであろう刺客を倒せるかどうかと、後は――」
「人質の松田と元浜が何処に囚われているか、だろう?」
繋げて言う俺に木場が頷く。
アルジェントも大事だが、今俺達が真っ先にする事は人質となってる松田と元浜の救出だ。
因みにあの二人の気は宿舎から感じられない。あの二人がいるのは目の前にある聖堂、もしくは地下だ。
「イッセー、すぐにでもアルジェントを助けたいだろうが、先に松田と元浜の救出だぞ」
「分かってる。アイツ等は俺の中学時代からの悪友だ。見捨てたりしねぇ」
一応念を押そうと言ったが余計な確認だった。
いつも馬鹿な事をやって学園の女子達から嫌われてる事をしてるが、何だかんだ言ってもイッセーはあの二人を大事に思ってるようで何よりだ。
「よし、そんじゃ先ずは聖堂まで突っ走るぞ。二人とも、用意は良いか?」
「んなもん聞くまでもねぇだろ!」
「いつでも」
先頭に立つ俺が教会入り口前で二人に問うと、力強い返事をするイッセーと、落ち着いた返事をする木場。
ドンッ!
返答を聞いた俺は入り口を潜り、一気に猛スピードで聖堂まで駆け抜ける。
後ろにいるイッセーと木場も追いかけるように俺と似たスピードで追いかける。
イッセーはともかく、スピードを特性とする「
俺達が入り口を潜った時点で、レイナーレは乗り込んできた事をもう察知している。この教会は奴の
そして猛スピードを駆け抜けた数秒で聖堂に辿り着くと、俺は勢い良く両開きの扉を開け放ち、そのまま聖堂の中へ足を踏み入れた。
中の周囲には長椅子と祭壇があり、一見普通の聖堂だった。
だが、此処は普通の聖堂とは違う部分がある。俺達の前方にある十字架に磔となってる聖人の彫刻の一部分――頭部が破壊されていた。
さて、人質となってる松田と元浜を――
パチパチパチパチパチ
探そうと思ってたが、突然聖堂内に拍手が鳴り響いた。そして柱の物陰から神父の格好をした白髪の男が現れる。
ソイツの顔は昨日イッセーがぶっ飛ばしたと思われる少年神父だった。
「やぁやぁやぁ! ご対面! 再会だねぇ! 感動的だねぇ!」
見るからに神父とは思えない下品な口調と歪んだ顔をしている。
一瞬、不愉快な奴だから一瞬で伸してやろうかと思ったが、人質の二人がいる以上迂闊に手が出せなかった。
あと目の前の少年神父の他に、もう一人の気配が感じた。しかもそれは俺にとってあんまり会いたくない気配。
「やぁクソ人間、久しぶりだねぇ! 昨日はよくも俺の顔を傷物にしやがったなぁ! テメェは俺が絶対にチョンパしてやるから覚悟しときなぁ! それとそこのバケモノ兄さん! アンタが堕天使の姉さん達を殺した所為で、ウチの上司は大変ご立腹でございますよ! つーかそこにいる金髪のイケメン君は悪魔でしょ? 悪魔ですよね!? いけませんなぁ~! 人間が悪魔と手を組むなんて人としてエンドですよエンド! クソ悪魔と手を組むクソ人間とバケモノ兄さんは俺が纏めてチョンパしてあげますよぉ~! だからさっさと死にやがれクソ共がよぉ~~~~!!!」
………………頭もイカれてる上に感情表現が豊かな奴だ。
俺の両隣にいるイッセーや木場が不快な顔をしてるよ。
少年神父の言動に呆れてると、奴は懐から拳銃と柄を取り出す。
そして柄から光の刃がブゥゥンと出現する。
「テメェ等、アーシアたんを助けに来たんだろう? ハハハ! あんな悪魔も助けちゃうビッチを救うなんて人間様と悪魔さまはなんて心が広いんでしょうか! てか、悪魔に魅入られてるクソ人間と一緒にいる時点であのクソシスターは死んだほうがいいよね!」
「彼女は地下で例の儀式をするつもりか?」
「おー、バケモノ兄さんは知ってたんでございますか。その通りでござんす。そこの祭壇の下に地下への階段が隠されてございます。そこから儀式が行われている祭儀場へ行けますぞ」
「っ!」
祭壇に隠されてる地下階段を指しながら、あっさりと場所を教える少年神父。
イッセーが思わず飛び出しそうになるのを、俺が既の所で肩に手を置いて止めた。
こうも簡単に俺達に教えるって事は、俺達を纏めて殺す相当の自信があるのか、または人質がいるから絶対的有利と思ってるのか……どちらにしろ、俺達はかなり甘く見られてるようだな。
「一応もう一つ訊いておきたい。レイナーレが人質として捕らえた学生二人はどうした?」
「んー? あ~、アイツ等ねぇ~。上司からそこのクソ人間の親友だって聞いたんで、俺のストレス発散の為にちょっとばかし半殺しを――」
「フリード君、その挑発は却って己が身を滅ぼす事になるわよぉ?」
「「「っ!?」」」
突然聞こえた女性の声に俺達はその方へ視線を向ける。
そこには少年神父が隠れていた対象の柱から、美しい銀髪の女が現れた。
「ちょっとちょっとお姉さ~ん、これから良いところだってのに、人のやる事に水を差さないで下さいよ~」
「いくらコッチに人質がいるからと言って、少しは向こうの実力を考えてから言いなさいね~。あそこにいる美少年悪魔君はともかく、あの兄弟が本気になったらとんでもない目に遭っちゃうわよ~」
「……おい兄貴、確かアイツは」
「……エリー、何故貴様が此処にいる?」
少年神父を窘める様に言い放つ銀髪の女――エリーに問う。
すると奴は声を掛けられた途端、すぐに俺を見て妖艶な笑みを浮かべる。
「はぁい、ダーリンとイッセー君♪ 久しぶりねぇ。会いたかったわぁ。ダーリンに名前を呼ばれるだけで身体が疼いちゃうわぁ♪ もし良かったら今すぐ私とベッドの上で――」
「そんな事どうでもいいから、さっさと質問に答えろ」
誘うように言ってくるエリーに俺は斬って捨てるように言い放つ。
「んもぅ。ダーリンってば相変わらずつれないわねぇ」
「………お姉さん、あのバケモノ兄さんとお知り合いっすか?」
「ええ、彼は私の唯一愛しい人なんだけど、私からの求愛をいつも断られてるのよ~。でもそこがダーリンの良いところなんだけどねぇ~♪」
質問に答えろと言ったにも拘らず、エリーは少年神父に俺の事を話し始めてる。
「先輩、彼女は一体……?」
エリーの事を知らない木場が俺に問いかけてくる。
「一先ず俺達の敵とだけ言っとく。もうついでに、俺はあの女と恋愛関係は一切無い。アイツが勝手に言ってるだけだ」
今詳しく教えてる暇は無いので簡潔に言うと、俺の台詞を聞いたのか心外そうな表情をする。
「ひっどぉ~い、ダーリンってばあれだけ私と激しい夜を過ごしたのにぃ~」
「誤解を招く発言は止めろ。激しい夜と言っても、真夜中に戦闘しただけだろうが」
以前、この女と戦ったのはイッセーの修行で遠出をした際に出会って戦った。俺が本気を出さなければいけないほどに。
それからと言うもの、コイツは俺に会う度ちょっかいと言う名の戦いを仕掛けてくる。自分が勝ったら夫になってもらうと言う、訳の分からんプロポーズをしてくる始末だ。
「……はぁっ。お前が何でいるのかはもうこの際どうでもいい。人質の二人は何処にいる?」
「フフフ♪ 上をご覧下さ~い♪」
エリーが面白そうに片手の人差し指を上に指したので、俺達は相手の二人を警戒しながらチラリと上を見る。
そこには宙に浮いて気絶してる松田と元浜がいた。身体が縄で縛り吊るされているようだが、それでも一応無傷のようだ。
「松田に元浜!?」
二人の姿を見たイッセーが大きな声で叫ぶ。
「ちょっとお姉さん、何でもうネタ晴らしするんすか~?」
「別に良いじゃない。どうせ何れ分かる事なんだし」
「………ま、それもそっすね。という訳でクソ人間、上にいるお友達を殺されたくなかったら、このまま大人しく帰るか、儀式が終わるまで何にもしないで此処で待つかの選択をしてくださいね~。まぁ前者を選んだら俺が二人を殺すし、後者を選べばてめぇらは俺のサンドバックになってチョンパされてもらいやすがね~!」
「先に言っとくけど、二人を助けようだなんて馬鹿な真似はしない方が良いと思うわよ~。もし
「ほう?」
こっちの立場を教えるかのように言ってくる少年神父とエリー。
俺達が動いたら松田と元浜が殺され、黙って見守っても少年神父に殺される。どっちの選択を選んでもバッドエンド確実、か。
…………だがしかし、あの少年神父には申し訳無いが選択肢はもう一つある。俺の予想が正しければ松田と元浜は助かる筈だ。
「さぁさぁどうするクソ人間にバケモノ兄さん、そしてクソ悪魔。どっちを選ぶかはお任せするよ~! ってか早く選びやがれ!」
「………イッセー、木場、俺が良いと言うまで決して動くなよ」
「「…………………」」
イッセーと木場は少年神父の外道な選択を受け入れるしかない状況に、悔しそうな表情で必死に堪えていた。
「お~、このまま黙って俺に殺される選択を選んでくれましたかぁ! 俺としちゃ嬉しいですね~! んじゃ先ずは……クソ人間、先ずはテメェからだぁ! そのまま黙って今度こそ俺にチョンパされろやぁ!」
そう言って少年神父が動いた瞬間――
「今だ木場! 何も聞かずに黙って今すぐ上の二人を助けろ!」
「え!? あ、は、はい!!」
すぐさま木場に二人の救出を命じた。
突然頼まれた木場は戸惑いつつも言われたとおり、松田と元浜を救出する為に跳躍して、吊るされてる縄を剣で斬った。
ロープが斬られて気絶してる二人がそのまま落下するが、木場がすぐに剣を仕舞って二人を抱え、そのまま着地する。
思ったとおり、木場が救出しても問題無いようだ。
さっきエリーの奴はこう言った。人間の俺とイッセーが動いたら術式が発動して二人は死ぬ、と。
それはつまり、あくまで人間の俺とイッセーのみにしか発動しない術式だから、悪魔である木場が動いても問題無い訳だ。
ちょっとした賭けだったが、取り敢えず二人を救出できて良かった。
「お、おい木場! 松田と元浜は!?」
「大丈夫だよ。二人は気絶してるだけだから」
悪友の松田と元浜が助かった事にイッセーは軽く安堵の表情を浮かべた。
「……え、えっとぉ~、これはどう言う事っすか?」
「フフフ、やっぱりダーリンは気付いてたみたいね~♪」
突然の展開に少年神父が信じられないように唖然としている。エリーは俺を見ながら意味深の笑みを浮かべているが。
「木場、また頼むようで悪いがそのまま二人を安全な場所まで運んでくれ。後は俺達が何とかする」
「分かりました。では」
再度頼む俺に木場は文句を言う事無く、松田と元浜を担いで聖堂から脱出する。
それを確認した俺はイッセーにある事を命じる。
「イッセー、あの女は俺が相手するから、お前はあの少年神父を」
「おう! 任せろ!」
いつもなら女の相手をしたがるイッセーだが、今回は何の文句も言わず少年神父に狙いを定めていた。
ありきたりな展開かと思われますが、どうかご容赦願います。