「全く、あくまで形としての入部じゃなかったのか?」
「入部した以上は悪魔の仕事内容を知ってもらわないとね」
今朝のプチ騒動が終わった放課後の夜。
オカルト研究部の部室でソファーに座りながら愚痴る俺に、胸の下辺りで腕を組みながら立派な机に寄りかかって座ってるグレモリーが苦笑してる。
「だからって本来使い魔がやる筈のチラシ配りをイッセーにやらせるか? 契約仕事ならまだしも」
「イッセーは私の眷属候補だから、研修も兼ねてるのよ」
「眷属候補、ねぇ。眷属化に失敗しても諦めないとは」
あの騒動が終わった後、グレモリーは
悪魔になった時のメリットを中心とした交渉内容で、最初は上手い話に必ず裏があると疑念を抱いていたイッセーだったが、その気になればハーレムを築けると知った瞬間に陥落した。それと同時にだらしない顔をしていたイッセーをアルジェントが可愛らしく頬を膨らませて嫉妬をしていたが。
んで、物の見事に引っ掛かってしまったイッセーはグレモリーの眷属になろうとした。グレモリーは昨夜レイナーレと戦った際に感じ取ったイッセーの実力を考えて『
理由は簡単。イッセーとグレモリーとの実力差があり過ぎたから。それに加えて『
それを知ったグレモリーは最初落ち込んでいたが、目を付けたからには何が何でも自分の眷属にさせようと、苦肉の策として『眷属候補』で一先ず収まった。
「……ほっといて頂戴。それに私は一度目を付けた以上は諦めない性質なの」
「自覚してんのか。ならイッセーと一緒に手伝ってるアルジェントはこの先大変だな」
因みにアルジェントも眷属候補で、『イッセーさんが悪魔になるなら私もなります』と言う理由で立候補した。それを聞いて俺は内心、イッセーは本当に彼女に愛されてるなぁ~と思ったよ。
あとアルジェントの立候補にグレモリーは特に反対する理由も無くアッサリ受け入れた。てっきり恋敵として断ると思っていたので理由を聞くと、「ライバルはいた方が良いし、
「………ねぇリューセー。ちょっと訊いても良いかしら?」
「何だ?」
グレモリー、もといリアスは訝る表情で俺に質問してくる。
俺とリアスはもうお互いに名前で呼ぶ事になっていた。リアス曰く『オカルト研究部の部員として入部したなら、“リアス”で呼んでほしい』だそうだ。
因みにイッセーは『部長』で、アルジェントは『部長さん』だ。何で俺だけ名前なんだと疑問を抱いたが、同級生の男子に部長と呼ばれるより名前の方が良いらしい。
「今更だけど、リューセーはどうして私がイッセーを眷属候補にする事に反対しなかったの? 私はてっきり何か言うのかと思っていたのだけど」
「別に。アイツが自ら進んで眷属になるって言うなら俺は口を出す気は無い。まぁ、イッセーを無理矢理眷族にして一生奴隷のように扱き使うって言うんだったら話は別だが」
「……リューセー、それは私やグレモリー家に対する侮辱かしら?」
顔を顰めながら声を低く言うリアス。
「違う違う、例え話をしただけだ。それに俺が知ってる中で、リアスは誰よりも眷属想いで信用出来る悪魔だと思ってたから、敢えて反対しなかったんだよ」
「………なら良いけど」
「ところで、アルジェントの正式な駒王町の居住と、駒王学園に入学出来るのはいつ頃になるんだ?」
話題を変えるとリアスは少し難しそうな表情をする。
「学園の入学手続は済んでるけど、居住の方は色々な準備や手続きが必要だから、もう数日待ってちょうだい」
「そうかい」
ま、向こうがちゃんとやってくれるんなら文句は言わない。
アルジェントには悪いが、両親に紹介して正式な形で兵藤家にホームステイするまでは、もう暫く我慢してもらうしかないな。
そう考えていると、部室の出入り口じゃない別の扉が開いて姫島が現れた。
「部長、契約の依頼が入ってしまったのですが」
「随分急ね。朱乃は行けるかしら?」
「申し訳ありません。私はこの後、予定している別の契約者のところへ行かなければなりませんので」
「そう。小猫や祐斗も今は仕事中だし、私もこれから予定が入ってるから……」
そう言いながらリアスは考える仕草としてると、急に俺の顔を見てニッコリと笑みを浮かべる。
「…………何だリアス、その顔は?」
「ねぇリューセー、もし良かったら貴方が代理として行ってくれないかしら? 一応貴方もオカルト研究部の部員だし」
おいおいマジかよ。知らないとは言え、
「部員だからって今朝入部したばかりの俺を行かせるか? 契約の取り方を知らないのに。ってか俺は悪魔じゃなくて普通の人間だぞ」
「天使の力を使える貴方の何処が普通の人間なのかしら? それに契約って言っても、願いの叶え方と代価はコレを使えば大丈夫よ」
そう言ってリアスは用意周到と言うべきか、携帯機器を俺に渡してくる。俺を行かせる気満々だな。
「大丈夫ですよ、リューセー君。今回の契約はそこまで難しい内容じゃありませんから」
うふふと言いながら笑みを浮かべる姫島、ではなく朱乃。因みに朱乃もリアスと同様に名前で呼び合うことになっている。
もうついでに、昼休みに廊下でバッタリ会ったリアスと朱乃を俺が名前で呼んでしまった事に、クラスメイトや別クラスの連中から一斉に問い詰められたのは言うまでもない。
この二人が学園のトップアイドルだって事をすっかり忘れてたから、そりゃもう面倒臭い事態になって収拾するのが一苦労だったよ。
あと俺がオカルト研究部に入部した事を知った生徒会長の支取が、「私が以前から生徒会に勧誘しても断っていたのに、リアスの勧誘はあっさりと受けたんですね」と少しばかり小言を言われる始末。ホント散々な日だった。
「………はぁ。わぁったよ、行けば良いんだろ」
断ったとしても、リアスが色々な理由を付けて行かせようとするのが目に見えてるので、諦めて契約取りの仕事をやる事にした。
――――――――――
「此処か」
リアスから悪魔専用の携帯機器を受け取って場所を確認した俺は、移送方陣の術を使って依頼者が住んでるマンションのドア前に到着する。
本当なら依頼者の部屋の中に入る事は可能だが、流石にそこまでする気が無かったので呼び鈴を鳴らした。悪魔の代理とは言え、人様の家に無断で入るのは良くないからな。
数秒後にはインターフォンから反応が来る。
『開いてます。どうぞにょ』
野太い声の人だな。ってか俺の聞き違いだろうか、『にょ』って言わなかったか?
思わず首を傾げながらドアを開けて、玄関で靴を脱いで中に入る。
そしてガチャリと部屋の扉を開けた瞬間――
「いらっしゃいにょ。ミ~ルたんだにょ♪」
鍛えに鍛え抜かれた筋骨隆々な男が、ゴスロリ衣装を身に纏って俺を歓迎した。
「……………………」
余りにも強烈とも言える存在感を放つ目の前の依頼者に、俺は何を言っていいのか分からなくなってしまい口を閉ざして無言になる。
因みにこの人が着てる衣装、見るからにサイズが合ってなくボタンが引き千切れそうだ。それに服の端々も今にも破れそうな感じで悲鳴をあげてるし。
更に依頼者の双眸がある意味凄い。威圧感を放っているにも拘らず、瞳は純真無垢な輝きを放っている。
あと最後に思わず頭部に視線が行ってしまう。だってこの人、頭部に猫耳を付けてるし。
う~ん、まさかオカマのローズさんみたいな人が、この駒王町にいるとは思わなかった。イッセーが知ったら卒倒するかもしれないな。
「………えっと、一応確認ですが……。貴方がグレモリーの眷属を召喚した人ですか?」
取り敢えず無言のままでいる訳には行かないので尋ねる。
その問いにミルたんと呼ばれる依頼者はカッと目が光り、何故か身体全体から闘気を出していた。
「そうだにょ。お願いがあって、悪魔さんを呼んだにょ」
………やっぱり「にょ」と言ったのは俺の聞き違いじゃないようだ。
ホントにこの人ある意味凄いわ。ここまで俺を驚かせた人は初めてだよ。
「ミルたんを魔法少女にしてほしいにょ」
「………異世界にでも転移して、その願いを叶えた方が良いんじゃないですか?」
一瞬何の冗談かと思ってしまった俺だが、暗に無理だと別の願いを叶えさせようとする。
ってかミルたんって何? 偽名かあだ名のどっちかは知らんが、少なくとも目の前にいる男――いや、
「それはもう試したにょ」
「……ちょっと待って下さい。貴方は一体どうやって異世界に転移したんですか?」
「それは企業秘密にょ。でも行っても無理だったにょ。ミルたんに魔法の力をくれるものは無かったにょ」
「いやいや、異世界に行けた時点で充分凄いんですけど」
「もう、こうなったら宿敵の悪魔さんに頼み込むしかないにょ」
悪魔が宿敵ですか。と言うか俺、悪魔じゃなくて頭に“元”が付いた神なんですけど………。等とそこは声を出して突っ込めないが。
「悪魔さんッッ!」
漢――ミルたんが発する声量で部屋全体が震えた。
一瞬何かの音声魔術かと思ったよ。あと近所迷惑ですよ。
「ミルたんにファンタジーパワーを下さいにょぉぉぉぉっ!!」
「…………貴方の存在自体が充分にファンタジーなんですけどね」
さて、どうしようか。悪魔としての願いを叶えるのは絶対無理だと思う。
だってその証拠に、携帯機器が機能してない。しかも電源ボタンを押しても全く反応を示さない状態だ。恐らくさっきミルたんのバカでかい叫び声の所為で壊れてしまったんだろうな。
「ちょっとミルた~ん、何騒いでんの~? 近所迷惑じゃない」
ん? 別の部屋から何やら聞き覚えのある声が……。
思わず視線を其処へ向けるとガチャリとドアが開き――
「あらぁ? リューセーちゃんじゃない。どうして貴方が此処にいるの?」
「それはこっちの台詞でもありますよ、ローズさん」
オカマバーの店長であるローズさんが現れた。しかもパッツンパッツンのメイド服を着て。
前門のミルたん、後門のローズ。
筋骨隆々な漢の娘とオカマを相手に、果たして、隆誠は無事生還出来るのであろうか!?(笑)
因みに作者の私でしたら生還出来る自信は全くありません!(断言)