アルジェント、もといアーシア(本人よりこれからは名前で呼んでほしいとの事)が我が兵藤家で暮らす事になってから数日が経った。
彼女はイッセーと一緒に学校へ行く事が段々お決まりとなっていたから、俺は一足先に登校して既に教室にいた。
あの二人が一緒に歩いてるだけで、傍から見るだけでいかにも恋人同士のような雰囲気だったので、それを邪魔しないよう俺なりに気を遣った訳だ。
けどその行動は俺にとってある意味最良な選択とは良い難い物かも知れなかった。
現に――
「おい兵藤! 何故お前の変態エロ弟が美少女転校生のアーシア・アルジェントさんと同じ方向から学校に来てる!?」
「これは一体何事なんだ!?」
「その転校生まで毒牙にかけてるの!?」
「それに最近リアス様とも一緒にいることが多くない!? どう言うこと!?」
ウチのクラスメイト達が悲鳴に近い声で一斉に俺に詰問してきてるんだよ。まぁ、コイツ等の行動は当然かもしれない。何しろ我が弟の評判の悪さを知っている者なら、その状況は断じてあり得ないだろう。
以前まで学園で(主に女子に)迷惑を掛けていたエロ弟のイッセーが、急にアイドル級の美少女達と接点を持って仲良くなっているからな。
加えて転入初日から学年関係なく全校生徒の話題騒然であった金髪美少女のアーシアが、イッセーと毎日登下校している。
これまでの事が起きていると、第三者からしたらパニックに陥るほどの現象らしい。大袈裟だろうと呆れると思うが、それだけイッセーの評判が悪いと言う証拠だ。
因みにウチのクラスメイトや別クラスの男子達の大半が「エロ弟の兵藤で大丈夫なら、俺でも行ける筈!」と意気込んでアーシアに告白したらしいが、あっと言う間にフラれて撃沈したみたいだ。
それ以来、アーシアに撃沈された男子共は弟のイッセーに要らん恨みを抱いている。イッセーを呪ってやると怪しげな儀式を行うほどに。
イッセーの事だから、男子共の恨みなど歯牙にもかけていないだろうし、寧ろ楽しんでいる筈だ。今頃「モテる男は辛いなぁ~」とか余裕な笑みを浮かべて内心高笑いしてると思う。
まぁ、今はアイツよりも目の前にいる連中をどうにかしないといけないんだが……。
「えっと、結論を言わせて貰うが……転校生のアーシアは兵藤家にホームステイしてるんだよ。だからイッセーとアーシアが一緒に登校してるって訳だ」
『ッッッ!!!!!?????』
聞いた途端にムンクの叫びとも言える顔をして絶句するクラスメイト達(主に男子だが)。最早言葉すら出ないみたいだな。
ってか教えたんだから、さっさと自分の席に戻ってくれないか? こうも人の席に詰め寄られたら鬱陶しいんだが。
『嘘だぁ~~~~!!!!』
全否定する男子共。中には涙を流している奴もいる。悔し涙ってやつだろうな。
「ば、バカな……。兄のお前はともかく、あのエロ弟が、金髪美少女と一つ屋根の下で……だと? あ、あ、あり得ない……世界の法則が崩れてしまう!!」
何の法則だよ。ってか、生まれたての小鹿みたいに両足がガクガクと震えてるぞ。
「おい兵藤! お前がいながら何故そんな事になってるんだ!? そこは普通に兄であるお前が反対する筈だろうが!?」
「反対するも何も、彼女を家にホームステイさせるって提案したのは俺だ」
『な、なぁにぃ~~~~っっっ!?』
『ええ~~~~~!!??』
男子だけでなく女子も一斉に信じられないように叫ぶ。さっきから喧しい奴等だ。
「お、お、お、おおお前しょしょ正気か!? いいいくらお前がエロ弟のストッパー役だつっても、それは流石に不味いだろうが!!」
「兵藤君! いくらなんでもソレはあの転校生が危険よ! 盛りに盛ったオオカミの巣に無垢な小鹿を招き入れるようなものよ!?」
盛りに盛ったオオカミとはイッセーの事で、無垢な小鹿とはアーシアの事を指しているのは言うまでもない。
内心強ち間違った例えじゃないなと思いながらも、俺は心外と言わんばかりに顔を顰める。
「勝手に人の家を危険地帯扱いすんな。それにいくらイッセーが変態だからって、お前等の頭の中で考えてるような事をする外道な弟なんかじゃない。そこは兄の俺が保証するよ」
「そ、そうは言うがな兵藤……。も、もしあのエロ弟が美少女と一つ屋根の下で住んでるのを良い事に、取り返しのつかない事をしたら当然お前が成敗するんだよな?」
「………まぁ、言いだしっぺの俺が責任を持って対処するよ。今まで以上に容赦無くな。それなら文句は無いだろ?」
『…………………』
納得が行かない顔をしつつも、俺が本気でやると感じた事にクラスメイト達は漸く引き下がった。
尤も、アーシアがイッセーと結ばれる事を望んでるなら邪魔する気なんて微塵も無いが。
さぁこの話はもう終わりだからいい加減に戻れ、と言って席に着くよう促してると――
バンッ!
突然教室の扉が開く音が聞こえたので、俺やクラスメイト達が何事かと思って振り向く。
そこにはイッセーの悪友二人――松田と元浜がいた。
その二人の登場により、女子のクラスメイト達が嫌悪感を示している。アイツ等もイッセーと同様に迷惑を掛けてる連中だから、その反応は至極当然だな。
そんな女子達の反応を気にしてない松田と元浜が俺の席まで来る。しかも凄く深刻そうな顔で。
「リューセー先輩、さっきイッセーから聞いたんすけど、転校生のアーシアちゃんと一つ屋根の下ってマジっすか?」
「あれはイッセーの出任せですよね? 俺たちを悔しがらせて惑わす為に言った嘘ですよね? そうと言って下さい」
コイツ等もかよ。
ってか三年の教室に来てまで訊きに来る事か?
「………残念ながら事実だ」
「「っ!?」」
取り敢えず返答するとクラスメイトの男子達と同じくムンクの叫びのような顔をする松田と元浜。
「バカなぁ~! イッセーの出任せじゃ無かったのか~~~!!??」
まるでこの世の終わりのように泣き叫ぶ松田に、
「ま、まさか、本当だったとは……。こ、これは、ほ、本当に……世界の法則が崩れる……!」
手をふるふると震わせながらズレた眼鏡を直す元浜だった。
何かさっき見た光景だな。
因みにクラスメイトの男子共も同感だと言わんばかりに頷きながら首を縦に振っている。
だがしかし、元浜と松田は急に真面目な顔になってすぐ俺に頭を下げてくる。
「リューセー先輩、恥を忍んでお願いします。俺たちにも誰か紹介してください!」
「イッセーの奴がオカルト研究部に入部して、学園の二大お姉さまのリアス先輩や姫島先輩! 更に小さなアイドル小猫ちゃんと知り合ってるんすよ! そして今度は金髪美少女転校生のアーシアちゃんと仲良いだなんてあり得ないっす! その理不尽で俺が壊れそうなんすよ!」
「…………………」
本当に恥を忍んで暴露してるな。ってかそんな泣きながら顔を近づけないでくれ。
此処にいる女子たちは呆れた目で見ているが、男子達は二人に同情してるのかまたもやウンウンと頷いていた。
「一応訊くが、何で俺に頼むんだ?」
「イッセーの奴がアーシアちゃんと知り合えたのは兄貴のお蔭と言った後」
「そんなに紹介して欲しかったら兄貴に頼め、ああ見えて結構知り合い多いからと言われて此処に来たんす」
あんにゃろう、コイツ等の相手をするのが段々面倒になってきたからって俺に丸投げしやがったな。
ってか俺の知り合いと言っても、裏側の人間か、人外な存在しかいないっての。
松田や元浜と気が合う一般人なんかいる訳が………ん? 待てよ………まぁ、いなくもないのか? 一応心当たりが無い訳じゃ無い。
微妙な顔をしつつも俺はケータイを取り出し、メモリを検索する。
おう、あったあった。一応この前、番号とメアドを交換したんだよな。
「確認するから、ちょっと待ってろ」
そう言って俺は二人から離れて教室の隅に行き、電話をして確認を取る。俺が電話した事に向こうは喜んでいたが。
確認の問いをする俺に向こうは一発OKだった。俺の知り合いなら大歓迎だと。
「訊いてみたら大丈夫だってさ。寧ろ全然構わず今日でもOKみたいだ。あと友達と憧れの
「「ありがとうございます!!」」
速攻でお礼を言いながら俺が表示しているケータイの番号とメアドを登録する二人。
「まことにありがとうございます! リューセー様、いや神様! 俺はこの御恩を決して忘れません!」
「俺達、ソッコーで彼女作った後、イッセーとアーシアちゃんを連れてトリプルデートするっす!」
コイツら随分と良い笑顔をしてるな。幸せを堪能、と言うより、頭の中が完全にお花畑満開になってそうだな。
「で、どんな子なんすか? 美少女なんすよね?」
紹介した相手の容姿を尋ねてくる松田に、俺はどう言おうか判断に迷った。
「えっと、まぁ……オトメ、だな」
あくまでも内面的な意味で。
「乙女! ………そ、それは素晴らしいっす! 素敵ッすよ、リューセー様!」
「全くこれはこれは、リューセー先生に頭が下がる思いですな」
お前等さぁ、喜んでるところを悪いが重大な何かを見落としてる事に全く気付いてないぞ。
確かに俺は一般人を紹介したが、誰も『女』を紹介するだなんて一言も言ってないぞ? あとついでに嘘も吐いてないからな。
内心呆れてる俺に、ニコニコ顔の松田が更に訊いてくる。
「ところでリューセー様、『ミルたん』って、どうして『ミルたん』なんすか?」
そんなのお前等が直接訊いてくれ。んなもん寧ろ俺が知りたい位だ。
「な、なぁ兵藤、良かったら俺たちにも紹介してくれないか?」
止めとけお前等。もし行ったら地獄を見る羽目になると思うぞ。
恐らくミルたんが言った憧れのお姉様とは女じゃなくて……筋骨隆々のオカマさんかもしれないんだからさ。
原作以上の地獄を体験するであろう松田と元浜にエールを送って下さい!