「イッセーさん、大丈夫ですか? 無理に二人目の契約を取りに行かなくても」
「気にすんなって。さっきの人は主にアーシアが対応して俺は何もやんなかったからな。今度は俺が頑張らないといけないし」
俺とアーシアの初仕事――と言うよりアーシアメインの契約取りが無事に済んだ。しかも何事もなくスムーズに終わってな。
さっきも言ったとおり、俺は本当に殆ど何もせず見てるだけだった。俺だけがこのまま何もせずに終わるのは不味いと思ったから、帰還後に部長からもう一人の契約取りをお願いした。
それを聞いた部長は仕事熱心だと感心そうに褒めて、俺の意を汲んで新しい仕事を用意してくれた。
何でも今回の依頼は小猫ちゃんからの指名依頼だ。だが、その肝心な小猫ちゃんは別の契約が入ってしまい、それを急遽俺が代理として行くことになった。
本当は俺一人で行くつもりだったんだけど、アーシアが自分の手伝いをすると言って同行している。俺を気遣うように一緒に来てくれるなんて、アーシアはホントに良い子だよ。可愛くて気遣ってくれて可愛くて優しくて……あ、やべ。可愛いって二回も言っちまった。でも事実だから仕方ないよな。
と、ちょっと脱線しかけたが、俺はアーシアが持っている兄貴作成の転移アイテムを使って、今は依頼者のアパートと思われる玄関前にいる。
本当なら悪魔召喚用チラシに描かれてる魔法陣を通じて転移するけど、人間の俺やアーシアはそれが出来ない為、こうして玄関前にいるってわけだ。因みに一人目の契約者も同じ事をした。
「さて、いっちょやりますか」
「イッセーさん、頑張って下さい」
俺の意気込みにアーシアが励ましてくれる。アーシアのような美少女に応援されると気合が入るなぁ。
そう思いながら俺はコンコンとドアをノックする。
「こんばんは! 悪魔グレモリー様の使いの者です! すみません! 召喚された方はこの家ですよね?」
こう言っても問題無い筈だ。
因みに俺がこんな時間にデカイ声を出しても、周囲からは何の認識もされない。
今の言葉もドアの奥にいる依頼者以外には感知されていなく、悪魔のお仕事に関して特殊な魔力が働いている為、無関係な一般人には迷惑が及ばない。以上、部長からの説明だ。
「だ、誰だ!?」
中からは、狼狽している男性の声が聞こえた。
「えっとですねぇ、悪魔の代理としてきた人間です。一応新人ですけど、お呼ばれされたんで来ました」
「う、嘘を吐くな! 玄関を叩く悪魔なんかいるもんか! それに悪魔の代理で人間が来るわけ無いだろうが! 悪魔はこのチラシの魔法陣から出てくる筈だ! 今までの召喚もそうだったぞ! それに僕が呼んだのは小猫ちゃんだ! 男なんかに用はない!」
ですよね~。その気持ちは分からなくもないです。
もし俺も悪魔の女の子を指名したにも拘らず男が来たなんて知ったら、中にいる人と同じこと言ってると思うよ。
「あ、すみません。さっき言ったように、俺、人間なんで魔法陣から出現できないんですよ。あと小猫ちゃんは別の契約が入って仕事中のため、俺が代わりに来たんですよ」
「ふざけるな! 帰れ!」
…………ちょっとカチンときたが、ここは堪えてもうちょっと粘るとしよう。
「そうは言いましても、小猫ちゃんは現れませんよ。ですから今日は俺の事を小猫ちゃんだと思って――」
バンッ!
「ふざけるのもいい加減にしろ!! 今すぐ小猫ちゃんに謝れ!!」
思いっきりドアを開けて、文句を言ってくる依頼者。
いかにも不健康そうで、痩せ型の男だった。
怒り心頭の男性だったが、俺の隣にいるアーシアを見て表情を緩和させる。
「えっと………君は?」
「わ、私ですか? イッセーさんのお手伝いで来ました、アーシア・アルジェントと申します」
ペコリと挨拶をするアーシアを見た男性は――
「……ま、まぁ話ぐらいは聞こうか。ささ、汚いところだけど入って」
陥落したかのように俺達を家に招きいれた。
つーかこの野郎、アーシアを見た途端に手のひら反すように招きやがって。後でぶん殴ってやろうか?
――――――――――
「なるほど。君たちは訳ありで悪魔のお手伝いをしてるのか……」
「まぁ、そんなところです」
依頼者――森沢さんは俺とアーシアを部屋に入れてもらい、お茶まで出してくれて話を聞いてくれた。
室内は小綺麗で、一人暮らしの男性の部屋とは思えないほど小ざっぱりしている。
聞けば、森沢さんは昼間公務員をやって真面目に働いている人だ。
けれど仕事の関係で人との触れ合いに飢えていたみたいで、あのチラシを見て思わず悪魔を召喚したらしい。
「う~ん……そこの彼女の可愛さに思わず招いたけど、後々になるとやっぱり小猫ちゃんが良いって考えちゃうな……」
「申し訳ありません、小猫ちゃんは忙しくて……」
「あ、いや、別にキミが悪いわけじゃないからね」
アーシアの謝罪に悪い事をしてしまったかのようにすぐに謝る森沢さん。
何でもこの人は始めての契約を交わした小猫ちゃんに一目惚れしたみたいで、それ以来彼女を呼ぶようになったそうだ。
「小猫ちゃんは人気らしいですよ。つーか、可愛い系の担当らしく」
因みに森沢さんが持ってるチラシで、ソレに願いを込める時に指名したい悪魔の名を呼べば召喚させる事が出来る。のだが、今日は無理だったので俺に仕事が回ってきたって訳だ。
「ぼ、僕も、可愛い系のお願いを契約チラシに願った筈なんだけど……」
「だったら俺を可愛い新人悪魔代理ってことで、ここは一つ納得してくれませんかね?」
「ハハハハ! 無茶を言うね、キミは! そこの可愛いお嬢さんはともかくとして、キミは無理だろう! もし此処に釘バットでもあったら、ふざけた事を言うキミをソレで殴っちゃうところだよ!」
冗談だってお兄さん。つーか顔は笑ってるけど、目がマジだよ。
あと釘バットと言う単語が分からないのか、アーシアは可愛らしく首を傾げていた。知らないほうが良いだろうな。
「えっと、ちなみにお訊きしますが、小猫ちゃんを呼んで一体何を願うつもりなんですか?」
俺の質問を聞いた森沢さんは、部屋の片隅からあるシロモノを取り出してきた。
「これを着させようと思ったんだ」
……どっから見ても女子高生の制服だよな。ってかまさかソレを小猫ちゃんに着させるって、一体何の変態行為を……いや、待て。あの制服、どこかで見たことがあるような。ないような……あっ!
「もしかしてソレって……短門キユの制服ですか?」
「おお、よくわかったね」
やっぱりか。
確かそのキャラは、暑宮アキノシリーズに出てたキャラで、昨今話題になったアニメだったな。
「悪魔代理くん、キミは短門が好きかい?」
「いえ、どっちかと言うと俺は夜水可子派ですので」
「その理由は?」
「お……ンンッ! 失礼、隣に女の子がいるので、敢えて大きいから好きとだけ言っておきます」
「?」
やっべ~。思わずおっぱいって言いそうになっちまったけど、何とか堪える事が出来て良かった。
取り敢えずアーシアに気付かれないよう、俺は巨乳派である事を伝える為に自分の胸をトントンと人差し指で突っつく。
俺のジェスチャーに気付いたのか、森沢さんはフムフムと頷いてくれた。
「成程ねぇ。キミは大きいほうが良いのか。僕とは真逆のようだね。僕は、小さいほうが好きなんだ」
「あ~それも分かります。俺の友人にそういうのがいますから」
小さい……って事は貧乳か。
「あの~。大きいとか小さいとか、一体何の話なんでしょうか?」
「っ! こ、これは俺と森沢さんにしか分からない話だから気にしないでくれ。ねぇ森沢さん!?」
「そ、そうだね、うん! この話は男にしか分からない内容だから!」
いつの間にか息ピッタリな連携プレーをする俺と森沢さん。
あ~、ここまで話が通じる人だったんならアーシアを連れてくるのは失敗だった。
何しろ俺と森沢さんは猥談にも等しい話をしてるからな。純真なアーシアにはとても聞かせられねぇよ。当然森沢さんもそれを承知してるから、俺に合わせている。
とにかくアーシアの気を逸らすように猥談から別の話に切り替えるとしよう。
「えっと、もしかしてその制服を、小猫ちゃんに着させようとか?」
「そうなんだよ。小猫ちゃんは何となく短門に似てるだろう? 雰囲気とか。少しばかり背は足りないが」
言われて見れば、確かに小猫ちゃんは小柄で無表情キャラで、あんまり凹凸が少ない体型で、髪も短い。うん、似てなくもないな。
「だからこそ、これを小猫ちゃんに来て欲しかった。着て欲しかったんだよッッ!」
無念と言うべきか、森沢さんが悔し涙を流していた。
短門好きなこの人にとっちゃ、よほど着て欲しかったんだな。
仕方ない。ここは俺が一肌脱ぐか。
「それは本当にすみませんでした。では俺が代わりにそれを着ましょう――」
「着たらマジで殺すぞ、この野郎!」
俺が言ってる最中に叫ぶ森沢さん。取り敢えず号泣しながらキレないでくれ。ほんの冗談だから、冗談。
ってか、そんな台詞をアーシアの前で言わないでくれる? アーシアがちょっと怯えちゃってるんですけど。
そう思ってると森沢さんは涙を拭い、深呼吸して落ち着こうとしていた。どうやら冷静さを取り戻したようだ。
「まあいいや。それで悪魔代理君、特技はなんだい? 悪魔の代理と呼ばれるんだから、当然何かあるよね? 不思議な力的なものとか。因みに小猫ちゃんは怪力が自慢だったよ。僕はそれでお姫様抱っこされたもの」
それを自慢げに言うアンタもどうかと思いますよ、森沢さん。
けどまぁ、可愛い女の子に持ち上げられることに興奮する男もいるんだろうな。何せ俺の目の前にいるし。
それにしても特技か。うーむ、兄貴の修行で色々と教わったが、何を教えれば良いか……。
俺が腕を組んでしばし考えてると、森沢さんが隣にいるアーシアの手を握ろうとしていた。
「まぁキミじゃなくても、隣のお嬢さんが僕とデートでもしてくれるなら、それはそれで――」
ガシッ!
「ハッハッハッハ! 何ふざけた事を言ってるんですかぁ~森沢さん? つーか、なに気安くアーシアの手を握ろうとしてるんですかねぇ~?」
聞き捨てならない事をほざく森沢さんの腕を力強く握る俺は、そのまま思いっきり握り始める。
「ちょっ! い、痛いよキミ!?」
「不純な動機でアーシアに近づくんでしたら、俺の全力のドラゴン波で肉体ごと消滅させますよぉ~?」
「わ、分かった! 分かったから放してくれ! 凄く痛いから放して~~!!」
「い、イッセーさん! 依頼者さんに酷いことをしたらダメですよ!」
おう、いかんいかん。アーシアの声が無かったら、掴んでる腕を再起不能にするとこだった。
取り敢えず放すと、森沢さんは痛そうにその腕を擦りながら俺を恐ろしい目で見ていたが、急に何か思い出したような顔をする。
「ちょ、ちょっと待ってくれ。キミ、さっき全力のドラゴン波って言ったけど、撃てるのかい?」
「勿論撃てますよ。あと空も飛べたり、気を探る事も出来ます。と言うか、それが今の俺の特技です」
「…………冗談も程ほどにしてくれ。そんな事出来る人間がいる訳がない」
「あ、その顔信じてませんね?」
「当たり前だ! 真顔でドラゴン波を撃てるわ空を飛べるわ気を探れるなんて言うこと自体間違ってるわ!」
「だからここにいるよ! こ・こ・にぃ!」
「そんなに出来るもんならやってみろよ! どうせハッタリだろうけどさ!」
ピキッ!
………ほほ~う、そこまで言いますか? 俺はマジで言ってるんですけどねぇ~。
兄貴からの死んだ方がマシと思われる厳しい修行で漸く使うことが出来たってのにこの人は……!
「あー良いですとも! やってやりますよ! その眼ん玉ひん剥いて俺のドラゴン波をよく見やがれってんだ!」
「撃てるもんなら撃ってみろってんだ! ドラグ・ソボール世代を舐めるなよ。僕等が小学生時代の頃には、毎週月曜日になれば学校の休み時間はいつもドラゴン波を撃ってたさ。そしてアルティメット豪気玉を作る為に、地球上の豪気だって無駄に集めたよ。僕等の世代を舐めないでもらおうか!」
「うっせぇ! 直撃世代がなんだってんだ! 俺や兄貴だって、全巻持ってんぞ! 特に兄貴なんか大のドラグ・ソボール好きで俺と一緒に特装版を全巻初版で買ったわ! 隠れてる悪友を気で探っていつも見つけたっつーの!」
「け、喧嘩はダメですよ~!」
違うんだアーシア。これは喧嘩じゃない。男がやらなきゃいけない大事な場面なんだ。
それにもう、俺はキレたよ! 物の見事にぶちギレだ!
なら見せてやろう! この俺、兵藤一誠の最強技、渾身のドラゴン波をな!
そう決意した俺は無断でベランダの窓を開け、すぐに
「ド…ラ…ゴ…ン…」
俺の声に反応するように、手のひらの中心から赤い玉が形成され眩い光を放つ。
「波ぁーーーーーーっっ!!!!」
ドォォォォンッッッ!!
放ったドラゴン波は空に向かい、そのまま宇宙へ行くんじゃないかと思うほどに突っ切っていった。
「…………す、凄いです……イッセーさん」
「どうでい! これが俺のドラゴン波だ!!」
「………………………」
褒めるアーシアの台詞に、俺は得意気な顔で唖然としてる森沢さんを見ると――
ブワァッ!!
号泣すると同時に、目から物凄い勢いで涙が滝のように流れ、すぐに本棚からドラグ・ソボール一巻を取り出してきた。
そしてそのまま俺の手を取って熱い握手をしてくる。
「前言を撤回するよ!! 素晴らしい! 何て素晴らしいものを見せてくれたんだキミはぁ!! 僕は大感動したぁぁ~~~!!! そして語ろうかッッ!!」
ブワァッ!
森沢さんからの大絶賛を聞いた俺は目から涙が溢れ出した。
あと最後の一言も聞いて俺も思いっきり頷く。
「ええ! 存分に語りましょうっっ!!」
この後、俺は森沢さんとドラグ・ソボールについての語り合いを何時間も続ける事になった。
「え、えっとぉ……これは、契約成功、なんでしょうか?」
ゴメンなアーシア。今は君を気遣う余裕なんて無いんだ。
今の俺はドラグ・ソボールファンの同士である森沢さんと熱く語らなければいけないんだぁ!!
そして結局、俺の契約が取れなかった事に報告を聞いた部長は、以前の兄貴と同じく微妙な顔をしていた。
ついでに部長と一緒に報告を聞いていた兄貴から――
「このバカ弟がぁ! 何故そこで俺を呼ばなかった! 俺も一緒に語りたかったよ畜生がぁ!」
物凄く悔しそうに説教された。
何しろ兄貴は俺や森沢さんにも負けず劣らずドラグ・ソボールの大ファンだからな。