翌日の朝。通学路を歩くイッセーとアーシア、そして俺。
いつもなら二人より先に学校へと行くのだが――
「な、何か今日は太陽が黄色く見えるような気が……」
バカな弟が燃え尽きたかのようにゲッソリとなってるだけじゃなく、更には物凄くバカな発言をしてるので同行している。
しかも家族が寝静まってる際、俺が偶々トイレ起きで部屋から出た時には、コイツの部屋のドア越しから何か悶え苦しむような呻き声をあげていた。
極め付けは全然起きようとする気配を見せないイッセーを、アーシアの代わりに俺が部屋に行くと、案の定と言うべきか酷かった。
部屋の中は丸められた大量のティッシュがゴミ箱に入ってて、更には嫌な臭いで充満している中、あの
余りにも酷かったので、俺は即行でイッセーを起こすために渇を入れた後、臭いを消す為に窓を開けると同時に換気扇もフルパワー状態にさせた。余りにも情けない姿を見せている弟に、俺は思わず少しばかり涙を流してしまった。
「イッセーさん、だいじょうぶですか?」
そんなイッセーの状態を全く知らないアーシアは心配そうに声をかけていた。
「だ、大丈夫だよアーシア。こ、このとおり元気だからさ! あ、あはははは!」
ゲッソリとした顔になりながらも元気そうに振舞うイッセー。
恐らく純粋に心配されてるアーシアに、自分がどれだけ汚れているのかと自己嫌悪してると思う。だって何気にアーシアから目を逸らしているからな。
「全く。お前がバカやった所為で今朝のトレーニングが出来なかったじゃないか」
「ご、ゴメン兄貴。昨日はマジで大変だったから……」
俺の嫌味に反論することなく受け入れて反省するイッセー。
ま、そんなゲッソリした状態で、トレーニングなんてやっても出来やしないがな。
イッセーがフラリフラリと覚束無い足取りだったが、それでもちゃんと通学し、二人と別れて教室へと向かって行く。すると――
「ひょぉぉうどぉぉぉリューーセェェェェェェッッ!!」
松田が憎しみが篭った憤怒の形相で、廊下の遥か先から俺の方へと凄まじいスピードで駆け寄ってくる。
もしやアレの件か?
「この人の皮を被った悪魔めぇぇぇぇぇぇ!!」
逆の方向からは元浜も松田と同様、高速で走ってくる。
失礼な。誰が悪魔だ。それはリアス達に言ってくれ。
そう思ってると、二人が同時にラリアットの体勢に入った。廊下だから逃げ場は無いが、俺は焦る事無く持ってる鞄を真上に放り投げて
バキッ!(×2)
「「へぶっ!」」
迫ってくる二人の顔面に裏拳をかました。それを受けた二人が仰向けに倒れると、俺は右手を掲げて落ちてくる鞄をキャッチする。
因みにこの一連の流れに見ていた生徒達はパチパチと拍手していた。
「そんでお前等、何か用か? いきなり襲い掛かるだなんて随分良い度胸してるな」
撃退した二人を何事も無かったかのように尋ねると、途端にガバッと起き上がってくる。
「ふ、ふざけんなぁぁぁぁっっ!」
頬に食らった痛みを堪えながらも松田は慟哭する。
「リューセーさん!! アンタって人は!!」
先輩であるにも拘らず、痛みを堪えてる元浜は俺の襟元を掴みながら殺意の篭った瞳で睨んでくる。
「なんだよ、その如何にも殺したいほど恨んでます、みたいな目は。俺何かしたか?」
心外だと言い返してくる俺の態度に、二人の激昂は更にヒートアップする。
「ふざけんじゃねぇぇぇ! なんだよあれ!? 何がミルたんだ! どう見ても格闘漫画に出てくる強敵みたいな
泣きながら訴えてくる松田。元浜も一緒に泣いてる。どうやら昨日、コイツ等は出会ったようだな。
やはり、「ミルたん」の衝撃は凄まじかったようだ。俺でさえ、ミルたんを見た途端に言葉が出なかったからな。
因みにミルたんとは、先日俺が出会ったお得意様で、
オカマのローズさんと同じく筋骨隆々な肉体を持った、魔法少女に憧れを抱いてる
お前一体何言ってるんだ? みたく疑問を抱かれるだろうが、それしか言いようがないんだ。
某探偵アニメ風に言うなら、『見た目は
「しかも、アンタ! お友達とか言ってよ! なんの集会かわかんないスけどさ! 『ミルたん』と同じようなのが複数集まってきたんスよ! 怖かったッスよ! 肉体的な意味で死ぬかと思ったッスよ!!」
おおう。あの強烈な存在がまだ複数いたのか……。あ、待てよ。もしその連中にも、先日ミルたんに授けたあの『魔法少女の杖』を与えたら………三大勢力とガチンコバトルが出来る最強の軍団が出来そうだな。名付けて、『
『止めて!! アンタは弟の俺をマジで殺す気か!?』
ん? 何処かからイッセーの声が聞こえたような気が……まぁ良いか。
「魔法世界について延々と語られたんスよ! なんスか、『魔法世界セラビニア』ってよぉぉぉっ! そんなの俺は知らねぇぇぇぇぇスよっ!」
俺の体をぶんぶんと激しく揺らしながら訴えてくる松田。何かコイツの身体能力が以前より格段に上がってるような気がする。
ってか何? 魔法世界セラビニアって。もしかしてミルたんは以前魔法少女になる為にその異世界にでも行ったんだろうか。
「俺なんて、邪悪な生物『ダークリーチャー』に出くわした時の対処方法なんて習いましたよ……。死海から抽出した塩と夜中にしか咲かない
頭を抱えながら元浜も唸るように言ってくる。
光った杖だと? もしやミルたん、その集会とやらに『魔法少女の杖』を持って行ったのか?
「あとミルたんが何故かアンタを神様のように崇めてたんスよ! 一体何を仕出かしたんスか!?」
「『あんな素晴らしい人と同じ学園にいるなんて羨ましいにょ』、って嫉妬染みた恐ろしい顔して言ってきましたよ! 貴方アレに何吹き込んだんですか!?」
んなこと言われても、向こうが勝手に俺を神様扱いしてるだけなんだけどな。などと言ったところで、今のコイツ等に通用しないだろうが。
取り敢えずソレを逸らそうと、俺は話題を変えようとする。
「そう言えば、ミルたんの他に来てなかったか? 昨日俺が言った憧れのお姉様たちは」
「「………………………」」
俺が尋ねた途端、急に無言になった松田と元浜。まるで今思い出したかのように顔が真っ青となってる。
そして数秒後に二人揃って涙を流しながら再びガシッと俺の胸倉を掴んできた。
「何で、何でアンタに訊かれるまで忘れたのか分かんねぇっスけど、アレは、アレは……!」
「俺達、危うくミルたん以上の地獄に落ちるところでしたよ……! アレは、アレは……!」
「「お姉様じゃなくてキモ過ぎるオカマ共じゃないかぁぁぁああああぁぁぁぁ~~~~~~ッッッ!!!!!!!!!!!」」
周囲の迷惑を一切考えずに思いっきり叫ぶ二人。どうやら相当絶望と恐怖を味わったみたいだな。
「何なんだあのオカマ共は! パッツンパッツンのメイド服着て老本さんみたいな声したオカマが俺を見て、『イッセーちゃんと同じ変態ちゃんはちょっとワタシとラブホテルでOHANASHIしましょうね♪』って途轍もなく恐ろしい場所で貞操を奪われるとこだったよぉぉぉぉ!!」
「俺なんか、ミニスカナース服着て背中に黒い羽を付けてるオカマに、『ちょっとおトイレでお尻の治療をしてあげるわ。大丈夫、痛いのは最初だけで後から段々気持ちよくなるわ♪』って危うくトイレで掘られるところでしたよ~~~!!!」
「「俺らマジでオカマ共に食われるところだったよ~~~!!!!!」」
二人の台詞に周囲の男子達は一斉に顔を青褪めながらお尻に手を当てていた。しかも松田と元浜を物凄く気の毒そうに同情的な目で見てるし。
ローズさんはともかくとして、堕天使のドーナシークはもう完全にソッチ系の道に走りまくってるようだな。もしバカ娘のカラワーナやミッテルト、そしてレイナーレが見たら完全にドン引きすること間違いないだろう。
しかしまぁ、コイツ等あの二人から良く逃げ切れたな。あのローズさんとドーナシーク相手にどこにそんな力が……あ、待てよ。
「確認するがお前等、二人から逃げる時、突然妙な事が起きなかったか?」
「知らねぇよ! 俺等はあの二人から逃げる事しか考えなかったよ!!」
「もう無我夢中で
………成程な。どうやら二人は俺が前に施した術式が発動したみたいだ。
以前レイナーレに人質に取られた事もあって、万が一にまた同じことにならないよう、死の危険に晒された際に発動する『守りの加護』を施した。
恐らく『
「良かったじゃないか。案外、神様がお前達を助けてくれたかもしれないぞ」
まぁ一応助けたのは
だが向こうからすれば無責任で他人事な台詞としか捉えてなく、そのあと膨大な憎しみと殺意を抱いた松田元浜コンビが、己の持つ身体能力以上のパワーとスピードを最大限に引き出して俺に戦いを挑んできた。
結果は言うまでもなく俺の勝ちだが、憎しみと殺意だけでここまで身体能力が上がるのかと痛感した。
取り敢えず今後の為に松田と元浜には後日、イッセーが二人に内緒で隠し持っていた秘蔵の無修正版エロDVDを貸した事によって機嫌を直してくれた。勿論イッセーには内緒でな。