山道の走り込みをやってある程度時間が経ち――
「何だ何だ、もう十往復程度でへばってるのか?」
「はあっ! はあっ! はあっ! あ、あなたねぇ……!」
バンドを付けて走っているリアスが凄く汗を掻きながらも激しく息切れしていてダウン寸前だった。今はもう立っているのがやっとの状態だ。
「はぁっ……! はぁっ……! はぁっ……! こ、これは流石に……」
「はあっ! はあっ! はあっ! ふ、普段の走り込みならまだしも、これは、本当に、僕でもキツイ……!」
「………リューセー、先輩達は、普段から、こんな事を、してたんですか?」
どうやらリアスだけでなく、朱乃、祐斗、小猫もかなりへばり気味だった。朱乃ならまだしも、体力のある祐斗と小猫までもコレとは。
まぁ仕方ないと言えば仕方ないか。祐斗や小猫は普段魔力を放出する事はしてないから、今回のように慣れないことをやれば簡単にへばってしまうのは無理もない。
逆にリアスと朱乃は魔力があっても体力が余り無く、重りを調節する為に魔力を放出したままでの走りこみなんてやった事ないだろうから、ダウン寸前になるのはある意味当然か。
それ故に今回のトレーニングで少々危険はあるが、身体能力の低い部分を四人纏めて上げようと言う寸法で一石二鳥ならぬ一石四鳥って訳だ。リアスと朱乃には体力上昇、祐斗と小猫には魔力上昇、とな。いくらそれらが低く苦手だからと言って、ある程度上昇しなければ話にならないからな。
「コレくらいやらないと、三大勢力とまともに戦えないからな。尤も、このトレーニングは人間用だから、悪魔のリアス達にやるのは初めてだが」
「いやいや兄貴、コレ普通に人間の領域を超えてるやり方だからな」
思わず俺に突っ込みを入れてくるイッセー。
因みに俺たちもリアス達と同じ条件で山道の走り込みをしている。彼女たちが途中で諦めてしまわないよう監視をする為にな。
「まぁ取り敢えず残り半分の十往復頑張ってくれ。と言っても、そんな状態じゃ無理そうだから少し休憩してから再開しても構わん。んじゃイッセー、俺はちょっとアーシアを見てくるから此処は任せた」
今この場にアーシアはいない。彼女は最初俺たちと一緒に山道の走りこみをやっていたが、五往復ほどで完全にばててしまって現在別荘の部屋で休んでいる。
こんな舗装もされてない山道を五往復やりきったから寧ろ褒めたいくらいだ。イッセーがずっと傍にいた事もあって頑張っていたしな。それを見ていたリアスが少し面白く無さそうな顔で見ていたが。
一先ず俺は一旦別荘に向かおうとすると――
「兄貴、アーシアと二人っきりの間に変なことしたらタダじゃおかねぇからな」
「………お前にだけは言われたくない台詞だ」
アホな事を言ってくるイッセーにしかめっ面で言い返した。
「そんな事より、リアスが倒れそうだからちょっと支えてやれ」
「へ? ……って部長、大丈夫ですか?」
「え、ええ……。ありがとう、イッセー」
倒れそうになるリアスにイッセーが一瞬で駆けつけて支えると、彼女は息切れしながらも満更でもない表情をしていた。アレはリアスにとって飴かもしれないな。好きな男に支えられて嬉しくない女はいないだろうし。
「い、イッセーくん、よろしかったら私も支えてくれませんか? 私、そろそろ倒れてしまいそうで」
「え? あ、は、はい」
「ちょ、ちょっと朱乃……あなた、どさくさに紛れて何を……!」
………朱乃が態とあんな事を言ってリアスをからかっているような気がするのは俺の気のせいだろうか?
あのまま見てるのも面白いが、一先ずアーシアが休んでいる部屋へと行くか。
リアスと朱乃のちょっとしたやり取りを後に、俺は別荘に入ってアーシアが休んでいる部屋の前に止まってコンコンっとノックする。
「アーシア、入っても良いか?」
「あ、リューセーさん。どうぞ」
ドア越しから聞こえるアーシアの返答に俺がドアを開けると、ベッドに横たわっていたアーシアはさっき目覚めたばかりな感じで上半身だけ起こしていた。
「大丈夫か?」
「はい、もう大丈夫です。すみません。私の所為でご迷惑を掛けてしまいまして」
すぐに申し訳無さそうに謝ってくるアーシアに俺は気にせず手を横に振る。
「気にすんな。君は元から身体能力の高い悪魔のリアス達とは違うから、倒れてしまうのは仕方ない。今はまだまだだが、アーシアの場合は徐々に体力を付けていけば良いよ」
人間のアーシアにはリアス達のようなトレーニングは出来ないから、少しずつ体力を上げるしかない。リアスが見れば贔屓かと思われるかもしれないが、人間と悪魔じゃ身体能力が違いすぎるからな。加えてアーシアの体力はかなり低いから、いきなり上げるのは無理だ。さっきも言ったように少しずつあげていくしか方法はない。
「さて、折角休んでいるところを悪いが――」
「あ、はい。私はもう平気ですので、すぐにランニングを再開しますね」
「いやいや、君には別の事をやってもらうよ。ついてきてくれ」
ベッドから離れて立ち上がろうとするアーシアだったが、俺の発言にキョトンとした顔になりながらも後を追う。
部屋を出てそのままリビングに向かい、中に入った俺は後ろに付いてきてるアーシアの方へと体を向ける。
「あのぅ、どうしてリビングに?」
「君には此処でリアス達とは別の特訓をやってもらう」
「え? でもイッセーさんや部長さんたちがランニングをしてるのに、私だけがそんな……」
「またやっても倒れるどころか、アーシアの体にも支障をきたす。さっきも言ったろ? 徐々に体力を付けていけば良いって」
もしアーシアが転生悪魔になっていればもう少し続けさせているが、人間の身でアレはオーバーワークになってしまうので、これ以上やらせる訳にはいかない。
と言うか、アーシアを酷使させたら
「体力作りはまた後でやるとしてだ。アーシア、今度はコレを使っての特訓だ」
「それは……水晶玉、ですか?」
俺が前以て用意した物を見せると、それはアーシアの言うとおり球状の水晶玉だ。占い師とかが使っているアレと同じサイズの物。
「そう、この水晶玉が今回の特訓相手だ」
「はぁ……。一体どんな特訓なんでしょうか?」
「まぁ見てな」
俺は手に持っている水晶玉をテーブルの上に置くと――
ピシ……ピシピシッ……ガラガラッ!
「きゃっ! す、水晶玉が!?」
突然罅が入って、吹き飛ぶ事無くバラバラに砕けてしまった。言うまでもないが、コレは自然に壊れたんじゃなく俺が力を込めて破壊したものだ。
「落ち着け。んで、この壊れた水晶玉を」
そう言いながら俺は砕けた水晶玉に左手で翳し、そこから発する光を当てると――
「あっ、どんどん元に戻ってます……!」
ソレは動画を巻き戻しているかのように修復され、さっき見た球状の水晶玉へと元に戻った。
「わぁっ、リューセーさん凄いです」
「はしゃいでいるところを悪いが、今度はさっき俺がやったのをアーシアにもやってもらう。君の
「え?」
特訓内容を聞いたアーシアは途端にポカンとした表情になる。
「あ、あのぅ、私の
「分かってるって。だからアーシアの
一度やってもらうよう、俺が人差し指の爪でコンッと水晶玉に当てると真っ二つに割れた。
「ほれ、この割れた水晶玉に
またもや驚くアーシアに、俺はやってもらうよう催促した。
言われるがままにやろうとするアーシアは両手の中指から一対のエンゲージリング――
すると割れた水晶玉は反応するように光り輝いて、まるで意思を持っているように割れた部分を合わさる。その直後には割れた水晶玉は修復するようにくっ付いて、再び元の形に戻った。
「す、水晶玉が、元に戻っちゃいました……!」
「な? 言ったろ? 君のソレに対応出来る物だって」
用意したこの水晶玉には、治癒の光を与える事によって再生出来るように俺が施した。それ故にアーシアの
「え、ええ……。でもリューセーさん、一体どんな細工を施したんですか?」
「………まぁ細かい事は気にするな」
だって俺は人間の姿をした聖書の神だからな、ってな事を口が裂けても言えないよ。
もし言ってしまえば、アーシアは即行で俺に跪いて『知らなかったとは言え、数々のご無礼大変申し訳ありませんでした!』と言って只管謝り続けると思う。その後はミルたんのようにずっと俺を崇拝し続けると断言出来る。だから言える訳が無い。
「話を戻すよ。ついさっきアーシアが二つに割れた水晶玉を戻したけど、それはまだまだ序の口。君の目標は……砕けた水晶玉を
「あ、また……」
そう言って俺は水晶玉を再び砕いてバラバラにする。同じ光景を二度見たのか、アーシアはまた驚く様子を見せない。
「も、戻すって、さっき私が戻した方法と同じではないんですか?」
「じゃあ、もう一回やってみな」
アーシアは疑問に思いながらも、砕けた水晶玉に両手を翳して力を発動させる。
普通に考えれば、さっきと同じく元に戻る――
「あ、あれ? 水晶玉が、元に、戻りません……」
――筈だったが、そうはいかなかった。一応水晶玉は光に反応して元に戻ろうとしているが、大量にある破片が数える程度しかくっ付かない。
「りゅ、リューセーさん、これは一体……?」
「思ったとおりだ。やはりこの特訓にして正解だったな」
「え?」
不可解と言うような顔をしてるアーシアに力を止めるように指示する。
「つかぬ事を訊くがアーシア。君は誰かが怪我をした際、すぐに患部を治療するよな?」
「え、ええ、そうですけど……」
「じゃあ、その怪我が複数あった場合は? 例えば片腕が骨折、片足に大きな裂傷、更には内臓が大損傷してたらどうする?」
「それは……先に内臓を――」
「ならば片腕と片足のどれもが致命傷だったら?」
「え、えっと、えっと……はうぅぅ」
更に問いを重ねる俺にアーシアは迷ってしまい段々涙目となってきた。何か意地悪な質問をしてるようで罪悪感が湧いてくるな。
「悪かった悪かった。別に君に意地悪をする為に訊いた訳じゃ無いから」
ちょっと申し訳ない気持ちになった俺は謝り、質問の意図を教えようとする。
「俺が言いたいのは、その致命傷となった複数の怪我を一つずつ治すのは効率が悪いって事だ」
「は、はぁ……」
まぁ怪我が一つだけだったら問題ないが、と付け加える俺は更に続ける。
「アーシア、君はさっき二つに割れた水晶玉は、割れている部分がハッキリと分かっていたから元に戻せたよな?」
「え、ええ、そうですけど……」
「だが今回みたくバラバラに砕けた水晶玉は元に戻せなかった。その違いは分かるか?」
「えっと、二つに割れたのと違って、今は数え切れないほど砕かれていましたから……あっ!」
「気付いたみたいだな。そう。君が一回目に修復したのは割れている箇所が明確に認識出来たからで、二回目はその箇所が多くあり過ぎたが故に修復出来なかったんだ」
そして俺は更に説明を続ける。
今回アーシアには
さっきも言ったように一つずつ怪我を治しては効率が悪いので、身体の全体に光を行き渡らせてあっと言う間に治療させるのが俺の理想だ。戦闘中に一つずつ怪我を治してる最中に襲われたら、折角の治療が無駄となってしまう。
今回使う水晶玉で複数の傷を治療させる練習台として、アーシアには頑張ってもらうと言うわけだ。当然これはかなりの集中力が必要だから、そう簡単にはいかない。
「とまあ、このバラバラに砕けた水晶玉を完全修復させるのが最終目標だ。出来るか?」
「は、はい! 頑張ります!」
「結構」
けれど、この十日の修行期間でその目標を達成させるのはハッキリ言って無理だ。アーシアは水晶玉の修復だけじゃなく、身体能力を上げる必要もある。だから今回の特訓で半分近くまで修復できれば上々だ。それだけで複数の怪我が充分に治せる。
加えてこの水晶玉はただ修復されるだけじゃなく、アーシアの
「では早速やってもらおうか。と言っても、いきなりこのバラバラ状態をやるのは流石に無理だから、先ずは五個ほど割れたのを修復してもらおうか」
そう言って俺は再び水晶玉をある程度戻し、五個となった塊をアーシアに修復させようとする。
頑張れよ、アーシア。回復役の君は一番重要な存在なんだからな。