一誠が帰って一時間以上経つと、トイレからスッキリした顔をしているローズが出てきた。顔にキスマークが付いて気持ちよさそうな顔で気絶している堕天使――ドーナシークを肩に担ぎながら。
「ウフフッ。御馳走様でした♪ さ~てドーナシークちゃん、貴方の汚れた心を綺麗にする為にワタシのお店で――」
「随分お楽しみのようでしたね、ローズ店長」
ドーナシークを自分の店に連れて行こうとすると、突然声を掛けられたローズはすぐに振り向く。そこには鞄を片手に持って呆れ顔となってる兵藤隆誠がいた。
「あらリューセーちゃんじゃない、久しぶりねぇ。でも学生の貴方がこんな夜中に出歩くなんて、あんまり感心しないわねぇ~」
「ちょっと後輩と手合わせしてたんですよ。んで、帰ってる途中堕天使の魔力を感じて来てみれば……」
隆誠は堕天使を見て気の毒そうな目で見ている。ローズによって悲惨な目に合わせれていたのを知っているから。尤も、隆誠にとってはあくまでそれだけだが。
「しかしまぁ、堕天使も随分と躍起ですね。地方市街とも言える
「そうでもなさそうよ。確かにこの堕天使ちゃん達はイッセーちゃんを殺す為に来てるようだけど、他の目的もあるみたいだわ」
「どう言う事です?」
予想外な台詞を言うローズに、隆誠は訝って問おうとする。その問いにローズは肩に担いでるドーナシークを見ながら答えた。
「この堕天使ちゃんから粗方聞いたんだけど、その前にリューセーちゃん。この子の主のレイナーレって言う堕天使に会ったかしら?」
「この町で会った堕天使と言えば、天野夕麻って言う人間に扮した黒いロングヘアーの女堕天使ぐらいしか会ってませんが」
「ああその子よ。それでね、そのレイナーレがこの町に来る予定の現在堕天使側に所属してるシスターちゃん、正確にはシスターちゃんの
「
天野夕麻――レイナーレの目的に隆誠は不審な表情をする。
「イッセーの中にいる
「えっと確か……『
「っ!」
ローズが口にした
「成程な。そりゃあの女堕天使が欲しがる訳だ……」
「どうしたのリューセーちゃん? 凄く驚いてるけど、そんなに希少な物なのかしら?」
「ええ、本当に希少ですね。何しろその
――――――――――――――――――――
翌日。
日直当番の俺はイッセーより早く家を出て学校に向かっていた。
その途中で――
「ごきげんよう、兵藤君。今日は早いのね」
我が学園のアイドルのリアス・グレモリーと出会うと言う偶然が起きていた。
「これはこれは……。同級生とは言え、まさか駒王学園のトップアイドル様に声を掛けられるとは、今日の俺は運が良い」
「随分大袈裟ね。私は同級生として朝の挨拶をしただけよ」
心外そうな顔で長い紅髪を揺らすグレモリー。その表情と仕草をしても彼女の美貌は崩れなく、寧ろ余計に美しさを引き立たせている。現に近くを通っている駒王学園の生徒複数が見惚れている者もいるからな。
朝の挨拶、ねぇ。俺にはどうも意図的にしたんじゃないかと思うんですけど。第一、俺とアンタはクラスが違うだろうが。
ま、この純血悪魔さんが俺に声を掛けてきた理由は大体察してるがな。噂の真意を問い質す為に。
「そう言われても、挨拶されただけでも舞い上がっちゃうんだよ。まぁ同時に緊張もしてるけど」
「とてもそうは見えないのだけど……まぁ良いわ。取り敢えず、私と一緒に登校しない?」
ほら来た。やっぱり噂の真意を問い質す目的で俺に接触してきたよ。こりゃ支取や木場と違って下手な回答は出来ないな。何たってリアス・グレモリーはオカルト研究部の部長だし。
本当なら断りたい所だが、そうすると怪しまれてしまうし、更にはグレモリーを慕っている連中から敵視されてしまう。「我が学園のトップアイドルであるリアス・グレモリー様からのお誘いを断るなんて何様だ!?」、みたいな感じで。
まぁ一緒に行ったら行ったで、「我が学園のトップアイドルであるリアス・グレモリー様と一緒に登校するとは何事だ!?」って男子連中に問い詰められるけど。これって理不尽だよな? どっちを選択しようが、結局後から悪い方向にしか進まないって。
「……分かったよ」
どっちに転んでもただではすまないと分かった俺は、グレモリーと一緒に登校する事を選択した。
俺の返答を聞いたグレモリーはありがとうと言いながら、俺の横に並んで歩き始める。
そしてその光景を見た連中は――
「んなぁっ!? 何だアレは!?」
「あ、あのエロ弟と違って女に一切興味を示そうともしないあの兵藤が!?」
「どう言う事!? 一体何が起きたの!?」
「ひょ、兵藤君がリアスお姉さまと一緒だなんて………!」
男女問わず悲鳴を上げていた。失礼な奴等だ。
あと最後に言った奴。お前は俺やグレモリーと同じ三年の筈なのに、何でグレモリーの事をお姉さまって呼んでるんだ?
「それで兵藤君、貴方が旧校舎に忍び込んでるって噂は本当なのかしら?」
周囲の事を全く気にしてないグレモリーは単刀直入に問おうとする。
いきなりストレートに聞きますか。まぁ、回りくどい話をされるよりは良いけどな。
「木場から聞いてないのか? その噂は全くの出鱈目で、俺は忍び込んでないって。まさか同じ部員の木場の言葉が信じられないとか?」
「まさか。祐斗の言ってる事は本当なのは分かってるわ。だけどあの子は妙に貴方に懐いているところがあるから、少し気になったのよ」
懐いているって……それは自分の可愛い眷属が自分以外の者に取られたくないと言う一種の警戒心か? グレモリーって意外と心が狭いんだろうか。
まぁグレモリーが警戒するのは分からんでもない。何しろ「グレモリー」と言う悪魔は、深い情愛を持って眷属を慈しみ、その眷属や身内に手を出された場合の怒りは凄まじいからな。
例えば、もし俺が懐かれている木場を自分の眷属にしようと引き抜いた場合、コイツは絶対に俺を許さないだろう。特にこのお嬢さんは見るからに独占欲が強いし。まぁ更にもし仮に此処で戦う事になったとしても、俺の相手にならないけどな。これでも俺は一応元「聖書の神」だから、上級悪魔程度のリアス・グレモリーを瞬殺出来る力ぐらいは持ってる。かなり上から目線の物言いかと思われるだろうが、これは純然たる事実だ。
だが生憎そんな事をする気は毛頭無い。俺自身戦う気なんか無いどころか、寧ろ戦いたくもない。下手に手を出してしまえば、あのシスコン魔王が黙ってないだろう。加えて今の生活が危うくなる上に、家族にも危険が及んでしまうからな。前者のシスコン魔王はともかく、後者の家族だけは避けたい。転生した神とは言え、弟のイッセーや両親は俺の大事な家族だからな。
っと、話が脱線してしまったが、取り敢えずグレモリーには否定的な部分を見せなきゃダメだな。
「懐くって、犬や猫じゃあるまいし。俺は木場の事を唯の後輩としか見てないよ。ってか変に勘繰らないで貰えるか? 昨日は会話してただけで、俺と木場が実は同性愛者で付き合ってるんじゃないかって嫌な噂が流れてたんだからな」
「………そ、そう言えばそうだったわね。ごめんなさい、祐斗の件は聞かなかった事にして」
嫌な顔をしながら言うと、グレモリーは内心木場を取られる事は無いだろうと納得してるだろう。俺としてはそうしてくれる方が助かるよ。
「あと旧校舎の方だけど、俺は忍び込んじゃいないよ。全くの出鱈目だ。と言うか、俺がそこに忍び込んで何か物色でもしてると思うか? もしお宅が使ってる部室で何か無くなっているんなら、持ち物検査でもして身の潔白を証明するが?」
「………………」
あくまでそちらが封印してる引き篭もり眷属君に会ってるだけだからな、と内心付け加える。ま、もしあの子がグレモリーに話されでもしたらアウトだが。
俺の返答を聞いたグレモリーはジッと見ていたが――
「………貴方が自分からそこまで言うんだから、本当だって思わざるを得ないみたいね。
一先ず納得して引いてくれたみたいだ。“今のところは”って凄く強調していたけど。
そして俺とグレモリーは他愛ない会話をしながら学校に着いて、校内に入って別れた。その後、俺のクラスメートからかなり質問責めをされたが。
――――――――――――――
「どうだったの、リアス?」
隆誠と分かれたリアスが教室に向かってる途中、廊下に佇んでいる駒王学園生徒会長の支取蒼那――ソーナ・シトリーが問う。
「ダメだったわ。私が直接問い質しても、自分はそんな事してないってはっきりと言い返されたわ」
嘆息しながら首を横に振るリアスの返答にソーナは少し目を細める。
「リアス相手にそんな事が出来るなんて、彼は随分と強かなようね」
「そうね。私に話し掛けられて舞い上がったり緊張してるって言ってたのだけど、ちっともそんな様子を見せなかったわ」
今まで自分に話し掛けられた男子生徒の殆どが、緊張して声が上擦ったり呂律が回らなくなる事があった。リアスとしてはそうなって答えてくれるかもしれないと思い、今回は自分が直接問い質してみようと近づいた。
だが結果、自分が思った展開にならないどころか、はっきりと自分の身の潔白を示そうとする提案まで言い返してくる始末。予想外な返答にリアスは内心驚いていたが、ああまで言われた以上は引き下がるしかなかったのだ。
「彼がそこまで否定するなら、やはりあくまで噂なのかしら?」
「どうかしらね。噂の真意はともかくとしても、少しばかり彼に興味が湧いてきたわ。彼の弟君と同様に」
「……珍しいわね。貴女がそんな事を言うなんて」
今まで男子に対して興味を持たないリアスが思わない発言をした為、ソーナは少し目を見開いていた。
「他の男子達と違って普通に接してくるのは彼くらいだから、思わずね。そういう貴女もじゃないの?」
「……まぁ、それは否定しないわ」
ソーナも隆誠に興味を抱いているのは事実だった。彼女もリアスと同じく、後輩や同級生から憧れや尊敬の念を抱かれている。だが隆誠のように自分を一個人の生徒のように接してくる事に、ソーナは興味を持つどころか寧ろ好感を抱いていた。憧れの生徒会長としてでなく、ただの支取蒼那として。
「今まで普通に接してくれたお礼として、私が作ったお菓子でもご馳走させようって考えてるわ」
「………そ、そう。彼もきっと喜ぶんじゃないかしら?」
お菓子と聞いた瞬間、リアスは少し引き気味になっていた。
何故ならソーナが作るお菓子は壊滅的に下手で、とても美味しいとは言えない代物であるのをリアスは知っているから。しかも本人は全くその自覚が無い。
(もし彼がソーナのお菓子を食べる事になったら、不味い事になりそうね)
仮に隆誠が真実をソーナに言ってショックを受けてしまったら、とある魔王少女が絶対黙ってないと危惧しているから。