修行を終えた決戦当日。
「イッセー、今回の『レーティングゲーム』でお前は――」
「そう何度言わなくても分かってるって」
俺はイッセーの部屋で最終確認の打ち合わせをしていた。
今は夜の十時。決戦時刻は二時間後の深夜零時丁度だそうだ。
言うまでも無く本日はオカ研――悪魔の仕事は無しとなっている。学校が終わっても、すぐに部室へは行かず一旦帰宅だ。
部室へ集まるのは決戦の三十分前に集まる予定なので、此処にはあと一時間程度しか残っていない。それでも俺は時間を無駄にしないよう、イッセーと最後の打ち合わせをしている。
現在、イッセーはとても緊張している。今まで修行の旅とかで悪魔やはぐれ悪魔と戦っていたが、今回の『レーティングゲーム』が非公式とは言え、悪魔の本格的な表舞台とも言える行事に参加するから当然とも言える。
かく言う俺も俺で緊張していた。何しろ弟のイッセーと妹分のアーシアが参加するから、兄として色々と心配している。
「ところで兄貴、服は本当にこの学生服で良いのか?」
「リアスが言ってたろ。アイツの眷属のユニフォームは、駒王学園の学生服だって。それとも修行で使ってる赤の胴着でも着るか?」
「……いえ、結構です」
一人だけ浮ついた格好をしているのが恥ずかしいと思ったのか、イッセーは学生服で良いと断った。
コンコンッ
すると、突然部屋をノックする音が聞こえた。アーシアだな。
「イッセーさん、リューセーさん、お話中にすいません。よろしかったら入ってもいいですか?」
「ああ、いいよ」
「どうぞ」
イッセーが了承すると、ドアを開けて入ってきたアーシアの格好に俺は思わず軽く驚いた。当然イッセーも驚いている。
何故なら彼女はシスターの服を着ていたからだ。いつものロザリオは胸に下げているが、ヴェールまでは頭につけていない。
「アーシア、その格好……」
「やはりその服の方がしっくり来るみたいだな」
「は、はい。部長さんに訊いたら、『自分で一番良いと思える服で来て欲しい』と言ってましたので。それで私、悩んだんですが、やっぱりこれが一番良いかなって思いました。……私はもう
いやいやアーシア。君はたとえ悪魔になったとしても充分に
君に大変申し訳無い事をしたと言うのに、それでも君は
「そんなことないよ、アーシア。ってか、もし神様がアーシアを叱ろうとしたら俺がぶん殴ってでも抗議するからさ」
「い、イッセーさん、何もそこまでしなくても……」
元気付けようとするイッセーにアーシアが少し困った顔をしている。
ま、仮にそんな展開になれば俺は何の抵抗もすること無く受け入れるがな。何しろ
「けどまぁ、俺としてもアーシアはシスターの姿が一番良いな。学校の制服も捨てがたいけど、アーシアと初めて出会った時はシスターの格好だったしな。やっぱり、そっちのほうがよく似合ってるよ」
「イッセーに同じく」
「ありがとうございます」
イッセーと俺が褒めると、アーシアは心底嬉しそうな笑顔を浮かべた。
「あ、あの、リューセーさん」
「ん?」
「お話は、もう終わりましたか?」
何故か急に言い辛そうに、モジモジとしだすアーシア。
「もう粗方終わったが、後は……ああ、そう言う事」
アーシアの行動に俺は笑みを浮かべながら気付いた。何が言いたいのかを。
「イッセー、残りは部室で話すから、それまでアーシアとゆっくりしててくれ」
「え? あ、ああ……」
俺の意図が読めてないイッセーが頷くと、俺はアーシアの肩に軽く手を置いて小さく呟く。
「リアスには内緒にしておくから、出かけるまでイッセーを独り占めして良いよ」
「はうっ!」
図星を突かれたのか、アーシアは途端に顔が熟れたトマトみたく真っ赤になった。可愛い反応ありがとう。
「おい兄貴、アーシアに何言ったんだ?」
「別に大した事じゃないよ。そんじゃお二人さん、出かけるまでどうぞごゆっくり」
イッセーからの追求に俺は即座にアーシアから離れて部屋を出ながらそう告げた。
「アイツの傍にいれば落ち着く……ん?」
アーシアがイッセーに甘える光景を想像しながら自分の部屋に戻ると、突然床に光が走った。前回にイッセーの部屋で見たグレモリー家の紋様である魔法陣が展開されていく。
そこからは――
「お久しぶりです、兵藤隆誠さま」
「これはこれは。まさか貴女がまたいらっしゃるとは」
十日前に会ったメイド且つサーゼクスの眷属――グレイフィア・ルキフグスが現れた。
――――――――――
「さて諸君、十日間の修行で一切音をあげずに頑張ってくれた事を嬉しく思う」
深夜の零時二十分前。
俺は旧校舎の部室に集まっているリアスと眷属達、そしてイッセーとアーシアに労いの言葉をかけていた。
俺の言葉にリアスと朱乃は修行が終わった事に少し安堵の息を吐いており、小猫は無表情ながらもオープンフィンガーグローブを付けてる両手で小さくガッツポーズをしている。
対して祐斗は安堵の息を吐きながらも、まだ修行がしたかったのか少しばかり残念そうな表情だった。俺の修行で祐斗が一番活き活きしていたからな。
そしてイッセーは俺の台詞に少々呆れた様子で見ており、アーシアは嬉しそうな表情をしている。
「では、そろそろ『レーティングゲーム』が始まるから、四人とも約束通り両手足に付けてるバンドを外して良い」
「はぁっ、やっと外せるわ……」
俺がバンド解禁宣言をした直後、リアスは肩の荷が下りたかのようにすぐにバンドを外そうとする。
「この十日間、これにはかなり苦戦させられましたわ」
「……でも、これのお蔭で新しい事が出来ました」
「僕としてはまだ付けていたいですけど、そうも言ってられませんね」
朱乃、小猫、祐斗もリアスに倣ってバンドを外そうとする。祐斗は名残惜しそうな感じだが、状況が状況なので外さざるを得ない感じで諦めていた。
そしてリアス達が一斉にバンドを外した途端――
ゴウッ!!
「な、何よこれ!?」
「魔力が溢れてきますわ!」
「……しかも、身体が凄く軽い」
「こ、これは……!」
全身から凄まじい魔力が溢れんばかりに出てきた。
「きゃあっ!」
「おっと」
突然の魔力の波動を受けたアーシアが驚きながら悲鳴をあげるが、すぐにイッセーが支えようとする。
「お前等、バンドを外したんだから早く魔力を抑えろ」
呆れながら指示する俺にリアス達は言われたとおり、全身に迸らせてる魔力をすぐに抑えて通常の状態に戻った。
僅か十日の間で、随分と上昇したみたいだな。流石は悪魔と言うべきか、元から身体能力が高いから更に上がったようで。尤も、俺から見ればまだまだだが。
「凄いな。十日前と比べて部長たちの魔力がかなり上がってる。俺なんか結構掛かったってのに。やっぱり悪魔ってのは凄ぇな」
リアス達の魔力上昇を感知したイッセーは驚いたように言葉を発している。
そう自分を卑下するな、イッセー。お前もお前で結構強くなってるんだからな。
そんな中、開始十分前位になると部室の魔法陣が光だし、グレイフィアさんが現れた。
「っ! ………皆さん、準備はお済みになられましたか? 開始十分前です」
グレイフィアさんがリアス達を見て以前とは違って魔力が上昇してる事に一瞬驚いた表情をしていたが、若干間がありながらも何事も無かったように確認する。その問いにリアス達が一斉に立ち上がると、グレイフィアさんは説明を始めようとする。
「開始時間になりましたら、ここの魔法陣から戦闘フィールドへ転送されます。場所は異空間に作られた戦闘用の世界ですので、どんなに派手な事をされても構いません。使い捨ての空間なので思う存分にどうぞ」
知ってはいたが、悪魔は異空間の戦闘用フィールドを簡単に用意出来るんだよな。
けどまぁ、そう言った空間を作らなければ色々と不味い。これが人間界や冥界のどこかでやってしまえば破壊は免れないし、色々と影響が出るかもしれないから、それ用の世界を作る必要がある。
それはそうと、一応リアスに再度確認する事項があった。
「そういやリアス、もう一度確認しておきたいんだが」
「何かしら?」
「本当にもう一人の『
あの引き篭もり眷属のハーフヴァンパイア君を、と俺は内心付け加える。
あの子とはオカ研に入部する前から何度も会っているが、まだリアスに話してないので、取り敢えず入部した時に聞いて知った事にしている。いつ頃話せば良いかと今も迷ってはいるが。
俺の質問に、人間のイッセーとアーシア以外のメンバーは急にガラリと空気が変わった。まるで腫れ物に触ったような感じで口を閉ざしている。
「ええ、貴方の言うとおりもう一名の『僧侶』は参加出来ないわ」
「そうか」
やはりリアスはあの子に相当手を焼いているようだな。まぁ仕方ないと言えば仕方ないか。
あの子は途轍もなく厄介な
「説明を続けさせてもらいます。今回の『レーティングゲーム』は両家の皆様も他の場所から中継でフィールドでの戦闘をご覧になります」
まぁ当然だな。出来レースとは言え、一応両家の将来に関わる戦いだから立場上見ない訳にはいかない。
「更には魔王ルシファーさまも今回の一戦を拝見されておられます」
だろうな。あのシスコン魔王が大事な妹の『レーティングゲーム』初舞台を見ない訳がない。
グレイフィアさんの台詞に、イッセーやアーシアだけじゃなくリアスも心底驚く様子を見せた。
「……そう。お兄さまが直接見られるのね」
リアスの呟きにイッセーが俺に近づいて小声で訊いてくる。
(なぁ兄貴、今の魔王ルシファーって確か)
(そう。現魔王サーゼクス・ルシファーはリアスの兄だ)
リアスのファミリーネームと違うが、サーゼクスは歴としたグレモリー一族。その彼が何故ルシファーと名乗っているのかは当然理由はある。
嘗て
その対策によって、何とか三竦みの内の一つである悪魔勢力として維持する事は出来た。だがそれはあくまで苦肉の策でしかない為、悪魔は三竦みの中で一番力を持っていない。だから現在もかなり危ない状況である事に変わりなく、現魔王が先代魔王に匹敵する力がある為に薄皮一枚で繋がっている状態だ。
それなのにも拘らず、現魔王派を除く悪魔上層部――特に貴族派のバカ共は、人間を頼らなければ勢力を維持出来ないのに下等な存在だと見下している。恩知らずな連中だよ、ホント。加えて危うい状況だってのに、他の勢力に対しては傲慢な振舞いをしてるんだよな。呆れてものが言えない。
けれど悪魔は元来そう言う存在だから、仕方ないと言えば仕方ない。リアスやシトリーのように人間を友好的に接する悪魔、無駄な争いを好まない現魔王派の悪魔達は珍しい存在とも言えよう。尤も、それは別勢力にも言える事だが。
とまあ少し脱線しかけたが、現魔王であるサーゼクス・ルシファーがリアスと同じ家名じゃないのは魔王の名を受け継いでいるので、次期当主である妹のリアスが必然的に家を継がなければいけないって訳だ。グレモリー家の長男が魔王になれば、仕方ないとしか言わざるを得ない。何せ悪魔社会を背負う魔王となってしまったんだからな。
「そろそろお時間です。皆さま、魔法陣の方へ」
ですが、とグレイフィアさんが付け加えながら俺に視線を移す。
「兵藤隆誠さま。お話したとおり『レーティングゲーム』に参加せず、ある場所へ行って頂きます」
「了解しました」
「? 一体どういうこと?」
突然とも言える俺の不参加発言にリアスが顔を顰めながら問う。
「いやなに、一時間前にグレイフィアさんが家に来てな。その時こう言われたんだ。今回の『レーティングゲーム』は参加しないで欲しい、ってな。しかも魔王ルシファー様からのお達しだそうだ」
「加えて彼はリアスお嬢さまの眷属でもなければ、兵藤一誠さまとアーシア・アルジェントさまのような眷属候補でもありませんので。お嬢さま、誠に申し訳ありませんが、どうかご理解願います」
頭を下げてリアスに謝罪するグレイフィアさんだが――
「ふ~ん。良かったわね、リューセー。不参加の口実が出来て」
「ああ。態々向こうから言ってくれたから、コッチとしては断る手間が省けたよ」
「――それは一体どう言うことですか?」
リアスと俺の会話を聞いた途端、すぐに頭を上げて尋ねてきた。
「グレイフィアはリューセーから聞いてないの? リューセーは今回の『レーティングゲーム』に初めから参加する気はないって言ってたのだけど」
「………………」
うわぁ、グレイフィアさんが初耳だと言わんばかりに俺を睨んできてるよ。
だってしょうがないだろ。グレイフィアさんが突然家に来て不参加の達しとその理由を言い終えて、『準備がありますので後ほど』って言ってすぐに帰っちゃったんだからさ。いくら準備に忙しいからって、せめて俺の話を聞いてから帰って欲しかったよ。
そう思ってると、グレイフィアさんは訊かなかった自分の過失を認めたのか、再度咳払いをして安堵したような表情をする。
「最初から参加されないと言うのでしたら、こちらとしても却って好都合です。では兵藤隆誠さま、そちらにある魔法陣の方へ」
「へ~い」
リアス達とは別の魔法陣を指して促してくるグレイフィアさんに、俺は言われるがままそこの中央に立つ。
「一応訊いておきたいんですが、グレイフィアさん。ある場所って何処ですか?」
「魔王ルシファーさまがいらっしゃる観戦ルームです」
『っ!?』
………わお。俺はこれから敵陣の真っ只中に行くのか~。逃げようかな~?
リアス達が驚いている中、魔法陣は光り輝きながら俺を包んで転移するのであった。
相変わらず進行が遅いと思われるでしょうが、どうかご容赦下さい。