「んじゃ、位置に着いて~」
体育館にいる小猫ちゃんとライザーの眷属達が呆然としてる中、俺はクラウチングスタートをする姿勢をする。
「よーい……ドンッ!」
バビュンッ!
全力疾走する俺に、向かってくる三人は驚いているが反応しきれなかった。その隙に俺はすれ違う際、棍使いの少女と双子の胸に左手で優しく触れる。
「「「きゃあっ!」」」
胸に触れられた事に気付く三人だがもう遅い。俺の仕込みはもう完了だ。
「ふっ、小ぶりながらもいい感触だったぜ」
三人をすり抜けて走りきった俺がキザッたらしい台詞を言うが、向こうはキレている様子だった。
「お嬢さんたち、無様な姿で負けたくなかったら、そこから動かないほうが良いぜ?」
「こ、この変態……! どさくさに紛れて人の胸触っといて何言ってるのよ!?」
「もう! こんな変態男に負けたらライザーさまに怒られちゃうわ!」
「絶対にバラバラにする!」
いつの間にか棍を持った棍使いの少女とチェーンソーを持った双子は、それぞれ持っている武器に炎を纏わせて俺の警告を無視してコッチに来る。
おお。ライザーはフェニックスを象徴とする一族だから、眷属には炎の属性が付与されるのか。
だが今の俺にはそんなの関係無い。では早速拝ませてもらう為に、俺の久々の必殺技をご披露だ!
「警告はしたぜ。そんじゃいくぜ! 俺の必殺技!」
俺の発言に三人だけじゃなく、小猫ちゃんやチャイナドレスのおねえちゃんもコッチを見てくる。ふふふ、さあ見るがいい! 俺の数少ない必殺技の一つだ!
「くらえっ! 『
パチンッ!
俺が左手で指を鳴らすと同時に、双子と棍使いの服が弾けとんだ。
服だけじゃなく、中の下着すらも粉々。それらが無くなった事により、白く丸みを帯びた女性の裸体が俺の眼前で展開される。
うひょ~~! 久々に使ったけどやっぱ最高だぜ! 眼福じゃ~~~!
『……これを見てる兵藤隆誠の呆れ顔が容易に想像出来るな』
ドライグが何か言ってるが今は無視だ! 脳内保存を優先!
「「「イヤァァァァァァァァァァアアアアアアッッ!!」」」
そして服が無くなった三人は体育館中に響き渡らせる。すぐにその場に蹲り、大事な部分を隠そうとしていた。
「アハハハハハ! だから言わんこっちゃない! 俺の警告を聞いてれば恥ずかしい姿を晒すこと無かったのになぁ! 因みに今の技は『
この技は兄貴からの修行で極限状態に追い込まれ、俺は思わず女の子の裸を見たいと思った時の出来事だ。その時に襲い掛かってきた犯罪グループの女魔法使いたちを見て、全裸を見せろと思いながら服に触れた瞬間、一気に弾けとんだ。俺は思わず感動した。これは数少ない俺の素晴らしい才能の一つだと。
俺の技を見た兄貴は当然とも言うべきなのか、メッチャ呆れ顔となっていた。その才能を他の方向に活かしてくれ、って。けれど俺にはそんなの関係ない! この技は俺にこそ相応しい技だと思ったからな!
「最低!」
「女の敵!」
「ケダモノ!」
技を食らった三人が涙目で俺を罵ってくるが、敗者の戯言にしか聞こえんなぁ~。
「……ドスケベなのは知ってましたが、途轍もなく見損ないました」
ごふっ! さ、さっきと違って見えない刃が俺の胸に刺さった気分だ。
その台詞は、遠くからボソリと呟いて俺に軽蔑の眼差しを送ってる小猫ちゃんからだ。敵ならともかく、味方に言われるのはキツイな。
ってか小猫ちゃん、いつのまにかチャイナドレスのおねえちゃんを無傷で倒してたんだな。兄貴の修行で強くなってるようだ。
「い、いや小猫ちゃん。これはだなぁ……」
「……リューセー先輩が苦労してるのがよく分かります」
ぐっ! な、何故かその台詞に反論する事ができねぇ……。その時、耳につけていた通信機器に音が入る。
『イッセー、小猫。私よ、聞こえるかしら?』
あ、部長の声だ。どうやらこれは小猫ちゃんにも届いているみたいだな。
「はい、部長。ついさっき俺と小猫ちゃんで『
『丁度良いわ。朱乃の準備が整ったから、例の作戦通りに動いて!』
お、本当に丁度いい頃合だ。俺は小猫ちゃんと視線で合図を送りあって頷き、うずくまってる少女たちに目もくれずに体育館の中央口へ向かう。
「ちょっ! 逃げる気!?」
「ここは重要拠点なのに!」
俺達の行動に驚くライザーの下僕達。
確かに彼女達の言うとおり、此処は重要拠点だ。両者にとって『センター』である此処を占拠するのが当然とも言える。それ故に俺やあんた達も集まったんだからな。
だがしかし、部長はそれとは別の事を考えてる。重要拠点を占拠するよう見せかけ、俺と小猫ちゃんを囮にし、此処を破壊しようと。
そして俺と小猫ちゃんが中央口から飛び出た瞬間――
カッ!!
眩い閃光の直後――
ドォォォォオオオオオオオオンッッ!!
轟音と共に巨大な雷柱が体育館へと降り注がれる。
雷が止むと、さっきまであった筈の体育館は根こそぎ消失していた。
「お~お~、物の見事に無くなったなぁ~。流石は朱乃さん」
あとちょっと遅かったら俺はともかく、小猫ちゃんがただじゃすまなかったな。
確かあれは、前に兄貴との模擬戦で使おうとしてた『天雷』だったか。あの時は兄貴に阻止されたが、発動したら此処まで凄い威力とはな。
「
声がしたので振り返ると、ニコニコ顔の朱乃さんが悪魔の翼を広げて空に浮いていた。加えて右手を天にかざしている。『天雷』を使った後なのか、その手からバチバチと電気が走っていた。
『ライザー・フェニックスさまの「
審判役のグレイフィアさんの判定がフィールド中に響く。
まぁ当然だな。あそこにいる四人の実力からして、あの威力をまともに食らえばあっと言う間に瞬殺される。
しかし、部長も結構大胆な作戦を考えるなぁ。まさかこの体育館を初めから囮に使うとは俺も考えなかった。ともかく第一段階の作戦成功って事で良いか。
「やったな、小猫ちゃん」
俺が小猫ちゃんの肩をポンと叩こうとするが、彼女はさらりと避けてしまう。
「……触れないで下さい」
完全に蔑んだ声と顔で俺をジトーと睨んでくる小猫ちゃん。
うぅ、今更ながらちょっと後悔してきてる。冷静に考えれば、あんな技を見たら味方の女の子でも警戒するよな。
「大丈夫だって。俺、味方に使うことはしないからさ」
「……それでも最低な技です」
あ~らら。どうやら、本格的に嫌われ始めてしまってるみたいだな。
『皆、聞こえる? 朱乃が最高の一撃を派手に決めたから、最初の作戦は上手く出来たわ』
通信機器から嬉しそうな声を出す部長。
『朱乃は修行の成果が出てるのか、あの雷をもう一発撃てるわ。けれどまだ向こうの数が上だから、相手に悟らせないよう魔力回復を優先させるわ。朱乃の魔力が回復次第、私たちも前へ出るから、それまで各自は次の作戦に向けて動き出してちょうだい!』
部長とアーシアが出る、か。本当なら俺が派手に動いて眷族達を半分以下にさせたいんだが、そこまでしたら不味いか。
これは部長がメインの『レーティングゲーム』だから、人間の俺が出張りすぎるのはダメだしな。
まぁ取りあえず俺と小猫ちゃんの次の行動は、木場と合流して運動場にいる敵を撃破することに専念するか。
「んじゃ小猫ちゃん、運動場に行きますか」
「……そうですね」
頷く小猫ちゃんは俺を置いてスタスタと向かっていく。
こりゃ、ちょっとやそっとじゃ機嫌を直すのは……ん? 何か俺の周囲に見慣れない魔法陣が――
ドゴォンッッ!!
――――――――――
「……い、イッセー、先輩……?」
一誠を軽蔑して先に行こうとする小猫だったが、突然の爆砕音に振り向いた。音の出先に小猫が目を向けると、凄まじい爆発だったのか一誠がいた場所で大量の煙がモクモクと上がっていた。 急いで戻る小猫だが、そこは煙の所為でイッセーの姿が見えない。
「
謎の声に小猫は反応する。見上げると、翼を広げて空に浮遊している人影があった。フードを被り、魔道師と思われる格好をしている女性。
小猫はその姿を見て、すぐにライザーの『
「……どうして、『女王』のあなたが此処に……!?」
予想外な登場に戸惑いの表情を見せる小猫に、ユーベルーナは不敵な笑みを浮かべる。
「ふふふ。獲物を狩るとき、獲物が何かをやり遂げた瞬間が一番隙だらけとなって狩りやすい。本当なら貴女を狙おうと思っていたんだけど、人間の坊やが一番気を抜き過ぎてたから変更させてもらったわ」
「………………」
小猫は迂闊な行動をしてしまった事を後悔した。自分が一誠から離れてなければ、ライザーの『
彼女は一誠を軽蔑しても実力は自分より上だと小猫は分かっている。けれどこんな序盤で自分より強い一誠を失ってしまった事により、どこかで見ている隆誠に非常に謝りたかった。
「っ! ………え?」
ユーベルーナを睨んで構えようとする小猫だったが、急にキョトンとした顔になりながら相手を見る。正確にはユーベルーナの背後を。
「諦めなさい。貴方たちがどんなに足掻いたところでライザーさまは倒せないわ。尤も、それはあの坊やにもいえることだけど」
愉快そうに笑うユーベルーナを――
「それはどうかな? 戦いってのは最後までやってみねぇと分かんねぇぜ、お姉さん」
「っ!?」
背後にいる一誠が声を掛けられた事に驚愕する事となってしまった。
ユーベルーナがすぐに振り向くと、そこには全く無傷な姿をしている一誠がいる。
――――――――――
「ば、バカな!?」
「ライザー殿の『
「あの人間、一体何をした!?」
魔王サーゼクスの隣で『レーティングゲーム』を観戦してる俺――兵藤隆誠は貴族悪魔達の驚きに呆れていた。
「あの程度の爆発を回避しただけで驚き過ぎだろうが」
「いやいや、アレを避ける君の弟くんは見事だよ」
隣にいる魔王サーゼクスは面白そうな笑みを浮かべながら、イッセーを賛辞する。
「魔法陣が展開されてる事に気付いて爆発する瞬間、高速で相手の背後まで移動する人間は私も見たことがない。彼らが驚くのは無理もないさ」
「そうですかねぇ」
俺から見れば大したことは無いんだが、向こうからすれば驚愕ものか。
それにしてもあのバカ、予想通りと言うべきか、やっぱり『
あの変態技を使った所為で、貴族悪魔達は『レーティングゲームをバカにしてるのか!?』って憤慨してたし。俺は若干肩身が狭かったよ。
サーゼクスは『随分と独創的な技だね』って苦笑してたが、その気遣いは虚しかった。出来れば冥界の魔王にあんな恥ずかしい技を披露しないで欲しかったよ、イッセー。
けどまぁ、そんなバカな技と気を抜いた仕草をしたお蔭で、向こうは小猫からイッセーを標的にしてくれたから却って好都合だった。もしあそこで小猫を失ったら、彼女の修行の成果を大して披露する事なく終わってたからな。
「さて、敵の背後を取った弟くんは一体何をするのやら」
「……随分楽しそうですね、サーゼクス様。何やら俺の弟を高く買ってるような気もしますが」
「なに、弟くんが次にどんな行動をして我々を驚かしてくれるのかと期待してしまってね」
冥界の魔王とは思えない台詞だな。もしガチガチ思考の悪魔上層部が聞いたら絶対に何かしらの反論をすると言うのに……。
それとさり気なくサイラオーグがいる所を見てみると……彼も彼で興味深そうにイッセーを見ている。しかも目がマジだ。
隣にいるポニーテールの女性眷属が声をかけても全く反応してない。今の彼はイッセーの動きを決して見逃さないよう集中しているな。
やっぱりサイラオーグはいずれイッセーのライバルになりそうだと思いながら、俺は再び『レーティングゲーム』の方を見始める。