グレモリーと一緒に登校した数日後。
辺りが夜の闇を覆う真夜中に俺はイッセーを連れて、とある廃屋へと向かっていた。そこには駒王町にとっての有害な存在で、イッセーの修行がてらの相手がいるから。
「此処がその廃屋か。………何かこの中からどす黒い気配感じるけど、これってもしかして『はぐれ悪魔』か?」
「ああ。今回ソイツがお前の相手だ」
廃屋に着いて中に入り、気配を感じて問うイッセーに俺はそう答える。
はぐれ悪魔とは、爵位持ちの悪魔に下僕となった者が、反旗を翻して主を裏切り、もしくは主を殺して逃亡した悪魔。諸事情で逃亡する悪魔がいるが、大半は悪魔と言う強大な力を使って各地で好き放題に暴れる傍迷惑な悪魔もいる。今回は傍迷惑な悪魔の方だ。
何故ならこの廃屋に入って奥に進む度に――
「うわっ、何だこりゃ。骨だらけじゃねぇか……! ってか、コレってまさか」
「察しの通り――人間の骨だ」
まるで肉を食い尽くしたように散らばっている人骨が床に散らばっているから。
これだけの人骨があると言う事は、この廃屋にいるはぐれ悪魔は人間を誘き寄せて食らっているんだろう。
有害同然のはぐれ悪魔は見つけ次第、主人か他の悪魔が消滅させる事になっているのが悪魔側のルールだ。
悪魔にとって、はぐれ悪魔を出してしまう事は即ち、他勢力に己の恥を晒してしまうも同然だ。故に悪魔達ははぐれ悪魔を見つけ次第早急に始末する。
尤も、はぐれ悪魔は他勢力から見ても充分に危険視しているから、天使や堕天使も見つけ次第すぐに殺している。強大な力を持ったはぐれ悪魔ほど危険な存在は無いからな。
それは当然、人間側である俺やイッセーから見ても充分危険な存在。コッチで見つけた以上始末させてもらう。
「けど良いのか? はぐれ悪魔ってのは基本悪魔の方で始末するんだろ? それにこの町には悪魔のリアス先輩がいるんだから、下手に俺達が手を出したら不味いんじゃねぇのか?」
廃屋の奥へと進みながらイッセーが更に問う。
確かにイッセーの言うとおり、この町を管理している上級悪魔のリアス・グレモリーがいるなら、彼女に任せるのがセオリーだ。俺達がやらずとも、後ほど彼女がはぐれ悪魔を始末してくれる。俺がグレモリーの存在や三大勢力の様々な裏事情を教えたイッセーが訊くのは当然だ。
「普通はそうした方が良いんだろうが、生憎とリアス・グレモリーはこの駒王町に『はぐれ悪魔』がいる事に未だ気付いてない。しかも討伐命令もまだ下されてない始末だ。向こうが知らないなら、コッチで先に始末すりゃ良い。悪魔にも色々と事情があるんだろうが、こちら側としても
「………まぁ確かに」
理由を説明する俺にイッセーは納得する。
恐らくイッセーとしても、気付いているのにも拘らず、そのまま放置してる間に自分の知り合いがはぐれ悪魔に殺されたなんて事態になったら堪ったもんじゃないと思ってる筈だ。
イッセーは何だかんだ言って正義感の強い弟だからな。誰かを守りたい気持ちは人一倍強い。スケベで変態なとこさえなけりゃ、自慢の弟だと認識してるんだがな。
まぁ人間誰しも完璧な存在なんていやしないし、寧ろイッセーはそれで良いと思う。俺としてもイッセーを大事な弟と見ているからな。言っとくが決してブラコンとかじゃない。あくまで家族として、だ。って、俺は一体誰に言ってるんだろうか。
「っ! おい兄貴」
「ああ、どうやら向こうが入ってきた俺達にやっと気付いたようだ」
俺達に威嚇でもしてるのか、はぐれ悪魔は敵意と殺意を送ってきている。
普通の人間相手なら足がガクガクと震えて逃げているだろうが、生憎俺やイッセーはこの程度じゃビクともしない。
「さてイッセー、今回は制限時間を設けさせてもらう。
「三分って……ちょっと短くねぇか?」
「あんな雑魚相手にはこれでも長い方だ」
魔力からして、はぐれ悪魔の力はそんなに大した事は無い。だが相手がどう言う戦い方をするのかは分からないので、敢えて少し長めにした。
因みにイッセーが全力と同時に奥の手を使えば瞬殺出来る相手だ。けれどそれじゃ意味が無い。これは討伐を含めたイッセーの修行なので、ある程度の条件を付けて勝利させる。ただ倒したからって強くなる訳じゃないからな。
「へいへい、わぁ~ったよ。やりゃ良いんだろ? そん代わり、倒したら何か報酬とかくれよ。経験値だけなんかじゃ物足りねぇし」
「そうだな、じゃあ――」
鞭だけでなく飴も与えようとする俺だったが、途中で言葉を止めた。
理由は簡単。眼前の奥からはぐれ悪魔からの敵意や殺意が更に濃くなった為だ。
「何か不味そうな臭いがするぞ? けれど美味そうな匂いもするぞ? 甘いのか? 苦いのか?」
地の底から聞こえるような低い女の声。
しかもかなり不気味さも含まれた声で、普通の人間が聞くだけで恐怖が頭を支配そうな感じだ。
そしてすぐに、はぐれ悪魔と思われる上半身裸の女性がぬぅっと姿を現した。
「おお♪ おっぱい!」
隠そうともしてないはぐれ悪魔の二つの乳房を見て、イッセーがだらしない顔をしている。
これから戦う相手に何処見てんだよ。ってかいくら女の容姿やスタイルが良くてもはぐれ悪魔だぞ?
「アンタがはぐれ悪魔か。随分と好き勝手やっていると見える。此処に来る間に人骨を結構見たが、一体どれだけの人間を食らったんだ?」
俺の問いにはぐれ悪魔は笑みを浮かべる。
「うふふふふふふ。それを知る必要は無い。お前達もその人骨の中に含まれるんだからな」
まるでこれから俺達を食うような言い方に、俺は少しばかり顔を顰める。
すると突然ずんっと思い足音が響く。その音の発生源ははぐれ悪魔からの物だった。何故ならはぐれ悪魔の下半身が巨大な獣の体をしたバケモノだから。
「げっ……。見せたがりのお姉さんかと思ってたけど、やっぱりはぐれ悪魔なんだな。あんなに良いおっぱいなのに、勿体ねぇな~」
さっきまで乳房を見てだらしのない顔をしていたイッセーだったが、はぐれ悪魔の下半身を見た瞬間、萎えたように顔を顰めた。
因みにはぐれ悪魔の下半身は四足で、全ての足が太くて爪も鋭い。尻尾は蛇で意思があるみたく独立して動いてる。まるで
大きさは約五メートル以上ってところか。今は四速歩行だが、二足で立ち上がったら更に大きくなりそうだ。
しかしまぁ、ここまで姿が醜くなるとはな。どうやらコイツは相当力に溺れて暴れまくってるようだ。
その証拠に、はぐれ悪魔の魔力は普通の悪魔以上にどす黒くて醜悪と言う位に歪んでいる。ついでに今はまだ意志があって会話も成立してるが、もう少し時間が経ったらコイツは完全に心を失っているだろう。そうなればもうはぐれ悪魔ではなく、本当の意味での食人鬼と化す。
「取り敢えずイッセー、さっきも言ったが三分以内に斃せ。良いな?」
「へいへ~い。んじゃ、
俺が近くにあった椅子に腰掛け、イッセーはトコトコとはぐれ悪魔に近づきながら
俺達の行動を見たはぐれ悪魔は不愉快そうな顔をしている。
「何のつもりだ? まさか一人で私の相手をするなんて気でも狂ったか?」
「そのまさかだよ。つーかもう始めて良いか? こっちは時間制限があるんだからな」
「こざかしいぃぃぃぃっ! ただ喰われるだけの人間如きがぁぁぁ!! 貴様は見せしめとして踏み潰してくれるわぁぁぁ!!」
イッセーの台詞に激昂したはぐれ悪魔だが、それを見た俺は鼻で笑った。
「出来るもんならやってみろ。尤も、出来ればの話だが」
俺の台詞が合図となったのか、はぐれ悪魔は太い足でイッセーを押し潰そうとする。
ドスンッ!!
巨大な足が凄まじい音とイッセーを踏み潰し、床がへこんで噴煙が出る。
イッセーを踏み潰したと思ったのか、はぐれ悪魔はニタァと笑みを浮かべて俺を見るが――
「どこ狙ってんだ? 俺は此処だぜ」
「っ!!??」
背後からイッセーの声が聞こえたのを振り向こうとする。
はぐれ悪魔には見えなかったんだろうが、イッセーは攻撃される直前に一瞬で背後に回っていた。それに全く気付くこと無く背後を取られると言う事は、それだけ奴とイッセーの実力差はあり過ぎると言う事だ。やはり条件を付けたのは正解だったな。
「あんま女とはやりたくねぇが……相手がバケモンだからしゃあねぇ、か!」
そしてイッセーは即座にはぐれ悪魔の懐に入って、
グシャッ!
「ぎゃぁぁぁぁああああっ!!!!!」
柔らかい粘土のようにグシャリと潰され、片足がもう使い物にならなくなった。
「え? 何か脆くね?」
「やっぱ所詮はぐれ悪魔、か」
あのはぐれ悪魔は力に溺れてる所為で魔力の使い方が雑過ぎる。いくら奴の魔力が高いとは言え、身体に大した魔力を纏わせず、イッセーのように闘気を込めた攻撃を受けてしまえば防御力なんて紙屑同然だ。
だがまぁ、流石にはぐれ悪魔も油断が無くなったようで、両手に持ってる槍に魔力を込めてイッセーに攻撃を仕掛ける。しかし、いくら槍を振るってもイッセーには当たらなかった。
「おのれぇぇぇ! ちょろちょろとぉぉ!!」
さっきから攻撃を躱されるイッセーにイラついてるのか、はぐれ悪魔の女の顔が段々醜悪になって口が裂けると同時に牙が剥き出し状態になっていた。
はぐれ悪魔の醜悪な顔を見たのか、イッセーはもう未練が無くなったかのように相手の二つの槍を両手で掴み取り――
「ったく。アンタみたいな良いおっぱいしたお姉さんとは、はぐれじゃない時に会いたかったぜ!」
ズバァッ!!
「グァァァアアアアアアアッ!!」
一瞬で奪い取って逆に自分の武器として振るうと、はぐれ悪魔の両腕が切断された。そして傷口から血が噴き出す。
即席で使った武器とは言え、一瞬で両腕を斬りおとすとは中々やるじゃないか。
「さて、今度は」
そう言いながらイッセーは持っていた二つの槍をポイッと地面に捨てる。
片足と両腕を切断されたはぐれ悪魔は完全に怒り狂い、下半身の腹部分の口を大きく開ける。
「小僧ぉぉぉぉ!!! もう喰ってやるぅぅぅぅ!!!!」
「あ――」
巨大な牙はイッセーを取り囲んで、巨大な口はバクンッと閉じる。
「あらら、イッセーが喰われちまった」
「ふふふふふ、ジックリと味わいながら食らってやるぅ!」
『誰を食らうって?』
はぐれ悪魔の体内から声が聞こえた瞬間、そこから赤い光が漏れ出ると――
『うおおおおぉぉぉぉ!!!』
「ぎぃやぁぁぁぁぁぁああああ!!」
イッセーが雄叫びの様に声を発して赤い光が一気に放出した途端、はぐれ悪魔の上半身と下半身が完全に分かれてしまった。
はぐれ悪魔の体内から脱出したイッセーは全身に赤い闘気を纏っている。どうやら全身から闘気を放出して、はぐれ悪魔の内部を破壊したようだ。しかも闘気を纏っているだけあって、服が溶けている様子が無い。
そして吹っ飛んだ上半身部分の女はぐれ悪魔は身体をジタバタと暴れているが、もう死ぬ寸前の状態だった。
「俺なんか食うと腹壊すぞ。って、今更言っても遅いか」
「食う相手を見誤ったな」
俺が呆れた視線を送ってると、イッセーがはぐれ悪魔の上半身へスタスタと歩いて近づいていく。
「ぎっ……! ぐっ……! こ、こうなったら……貴様を道連れにしてやるぅぅ!!」
「ん?」
突然はぐれ悪魔の下半身が意思を持ったかのように、戦う様子を見せず椅子に座ってる俺へと襲い掛かってきた。
「おやおや」
「あ、バカ! んな事したら……!」
イッセーは俺を助けようとする素振りは見せない。寧ろ逆にヤバイと言うように焦った様子だ。
そして襲い掛かってくるはぐれ悪魔の下半身は――
パチンッ!
俺が一瞥しながら指を鳴らした直後、光の槍によってザックリと貫かれ一瞬で消滅した。
「ば、バカな……こんな、こんな事が……」
一瞬で下半身を消滅された事により、はぐれ悪魔は完全に戦意喪失する。
「うひゃ~、相変わらず容赦ねぇな~兄貴」
「ったく。相手は俺じゃないっての。もう良いイッセー、さっさと止めを刺せ」
「へいへ~い」
俺の指示にイッセーは上半身のはぐれ悪魔の眼前で足を止めると、両手を前に出して両手首をくっ付ける仕草をした。
(ん? あれはまさか……)
「それでお姉さん、何か言い残す事はあるか?」
「…………………殺せ」
はぐれ悪魔はもう抵抗する意思を見せずに最後の一言を言い放つ。
「そうかい。んじゃ、最後にコレで締めと行きますか!」
そう言って両手首をくっ付けた状態で、そのまま腰へと持って行くと、イッセーの
「ドラゴン波ぁ!!」
ドンッ!!!!
イッセーから放たれた巨大な闘気の玉は、そのままはぐれ悪魔へと向かっていく。その身体を覆うほどの大きさとなって。
そして包み込まれたはぐれ悪魔の上半身は消滅し、俺は相手が死んだ事を確認した。
この作品のイッセーはリューセーの修行によって、「ドラグ・ソボール」主人公である空孫悟のような武道家キャラとなっています。