プロローグ
初夏。ミーンミーンと蝉が大きな鳴き声を上げている。そんな暑い日差しの中を怠そうに青を基調にした制服を着た少年が歩いていた。赤みがかった茶髪に黒眼をした普通の容姿をした少年だ。彼は自分が通う学園に向けて、歩を進める。眠そうな眼を擦りながら、小さな欠伸を漏らす。そして空を仰ぎ見て、一言呟いた。
「あぁ〜怠い」
彼の現在の心境が理解出来る一言だ。こんな暑い日に、何故長い道のりを歩いて学園に行かなければならないのか。今から引き返して、冷房をガンガンつけた部屋に戻ろうか、などと考えてしまう。そんな思考の中、歩いていると視界の先に自分の通う学園が入った。ここまで見えてしまったなら、引き返す事も出来ない。はぁ、とため息を漏らしながら諦めて足を学園に向けた。
ーーー星稜学園。
世界中の少年少女が入学する日本が誇るマンモス校。年間に入学する生徒は凡そ千人強と言うとんでもない数を誇る。その中には大財閥の令嬢やご子息が居る程だ。まぁ、一般人と金持ちで棟が分かれているから会う事は皆無だが。そんなテレビに出る程の超有名校に少年は在籍していた。別に頭はそれ程まで良くなく、スポーツ推薦ですらない彼が何故、この学園に通う事になっているのか? それは一文字で表すなら運があったからとしか言いようがない。
星稜学園は金持ちの道楽として、とある事をやっていた。簡単に言えば、クジ引きである。世界中に抽選を開始し、そして一等を当てた物にエリート校である星稜学園にタダで入学する権利を与えると言うもの。しかも、卒業までの幾つかが免除になり、学食も全てタダと言う巫山戯た物だ。そんなクジ引きを少年の両親は、確認も取らずに勝手に受けて、たまたま
そんなこんなで彼は二年間、学園に通い続けている。因みに一等が当たり、この特典を聞いた時、少年は本気で金持ち共の頭が可笑しいと思った。昔を思い出しながら、2-Bと書かれている教室に入り、自分の席である窓際の後ろから二番目と言う中々良い位置にある席に座った。
「ふぁ〜。さて、と寝るか」
席に着いた彼は、机の横に掛けた鞄の中から愛用の枕を取り出すと、そのまま机に置いて頭を倒し寝る準備に入る。教室には彼以外にも多くの生徒達が居るが、全員が寝ようとする少年の事など気にせずに友人同士と会話していた。如何やらこの光景は、2-Bの教室では見慣れた物らしい。
「お前等、席に着けっ‼︎」
そして教室のドアを開けて中に入る、スーツを着た担任である美女の声を聞きながら、少年は眠りに落ちて行った。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
誰も居ない公園に一人の少女が居た。歳の程は八、九歳程だろうか。少女は一人ポツンと公園のベンチで座り空を見ていた。太陽光を反射して幻想的に映す銀髪に、蒼穹の如く澄み渡った蒼い瞳。人形のような顔立ちをした少女は、世界で一番美しいと言われれば納得するだろう。そんな少女の前に、黒い服を着た男性が歩いてくる。
「探しましたよ。さ、戻りましょう」
「…………」
少し疲れたように口を開く男性に、少女は何も言わずに空を眺める。言葉が返ってこないのは分かっていたのか、男性は肩を竦めて少女に近付き手を取った。
「それでは帰りましょう。もう自由時間は終了です」
半ば強引に少女の手を引いて、公園の外で止まらせている車まで足を進めた。手を引っ張られている少女は無言で、着いて行くのみだ。少女に自由など許されない。籠の中の鳥。厳重に監視がされている部屋から出れたのは、彼女の世話係である人のお陰だ。少女は澄み渡った蒼い瞳で再度、空を見上げた。自由などない。だけど、もし自由が手に入れられるのならーーー
「………欲しい」
ポツリと本音を呟いた。しかし、それは夢物語。自分に自由が手に入る訳がないのだから。少女は車に乗せられ、車はそのまま発進した。少女はこの時、想像もしていなかった。近い未来に望んでいた自由を手にする事を、一人の少年と出会う事によって叶う事になろうとは。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
昼の時間になり、少年は昼食を食べる為に食堂に来ていた。流石は金持ちが通う学園だ。食堂にある料理は全てがシェフが作る豪華な物ばかりである。そんか料理を全部タダで食べれる彼は、この時だけは幸せを感じていた。
「ふぅ、ごちそうさま」
A5の肉で焼かれたステーキを完食して、満足気に笑みを浮かべる。この学園に来て良かったと思えるのは、コレがあるからだ。
「さて、と。昼寝昼寝」
食器を片付けて、早速と食堂で寝る準備に入る。はっきり言って彼は、星稜学園でほぼ寝ている。もう、それも寝過ぎな程に。マイ枕を取り出して寝ようとする少年の耳朶に、行き成り歓声が打った。突然の騒ぎに驚いた彼は、歓声の声が聞こえた方に視線を向けた。
「………なんだ生徒会長か」
それなら歓声は当たり前か、と当然のように息を吐く。星稜学園生徒会長と言えば、学園で一位の成績でなければいけない。それ故に生徒達の憧れの的なのだ。しかも、その生徒会長があの
彼女の後ろに付いて歩く生徒も、成績上位者しか入れない生徒会メンバーだ。そんな歓声を受ける彼女達を視界に収めながら、眠たそうなに薄くして興味がないと言う風に枕に頭を乗せた。確かに彼女達は美少女だ。しかし、ただそれだけ。例えどんなに騒いでも、あれ程の美少女とお近付きになれるとは少年は思っていない。自分の平凡な容姿では不可能である。
だからこそ、彼は差して彼女達に興味を示さなかった。
「…………」
「………? 如何したんだ翡翠?」
「ん? いや、なんでもないよ」
まぁ、逆にその態度が生徒会長に眼を付けられる事になるのだが。そんな事に今の少年は全くもって気付いていない。
彼が眼を覚ましたら放課後になっていた。如何やらそのままチャイムに気付かずに、午後の授業をサボって眠ってしまったらしい。
「ま、良いか」
サボった事をそんな言葉で流して、教室に戻り帰宅の準備をする。やっと完全に眠気から覚めたのか、今の彼は眼をパチッと開いている。下駄箱で靴に履き替えて、正門を通り少年は帰路に立った。何時もの帰り道を歩く彼は途中で寄ったコンビニで買ったアイスを食べていた。この暑い日にはアイスは凄く美味い。ぺろぺろとアイスに夢中になりながら歩いていると、次の角で飛び出した人影とぶつかった。ぶつかった衝撃により、スルリとアイスが手から離れてゆっくりと地面に落ちて行き、そしてーーーベチャッ。
「お、俺のアイスがぁぁぁぁぁぁぁッッッ⁉︎」
自分のアイスが無残な姿に変わったのを見て、彼は絶叫した。
「くっ⁉︎ よくも俺のアイスを。一体、だ、れが」
涙を少し浮かべながら、行き成りぶつかって来た相手に文句を言おうと振り返り、その人物を見て全身を硬直させた。幻想的に煌めく銀髪、蒼穹の如く澄み渡った蒼い瞳。人形のような容姿をした絶世と呼ぶ程の幼い少女が居た。感情を表に出さない無表情の顔が、より人形と錯覚させる。
「ごめんなさい」
「え、あ、あぁ、もう過ぎた事だから気にしなくても良い」
感情を出さずに頭を下げる少女に、彼は我に返って先程の怒りが鎮火している事に気付き、大丈夫だと告げる。すると、少女は頭を上げると、そのまま走り去ってしまった。
「なんなんだ一体」
少女の後ろ姿を見ながら、彼はそう呟いた。
「ただいま、と」
玄関のドアを開けて、誰もいない家に声を上げる。彼の家は三階建ての一軒家だ。そんな家で、少年は一人暮らしをしていた。というのも、未だに新婚並みにイチャイチャな彼の両親は、少年が学園の入学式から帰って来るや否や、突然に二人で世界一周旅行をすると馬鹿げた言葉を告げて彼に通帳とカードを渡して行ってしまった。その日、叫んだ少年は悪くない筈。時折、送られてくる写真には如何にラブラブなのかが分かる。
勿論、その写真と両親が書いた甘々の手紙は毎回、ゴミ箱に投げ捨てている。何故、こんな親の子供に産まれてきたのかと真剣に悩む事も多々あった。まぁ、仕方ないと割り切ったが。
「ふぅ、しっかし。さっきのはなんだったんだ?」
二階の奥にある自分の部屋のベットに腰を掛けて、鞄を放り投げると先程の事を思い出した。何故だがあの少女の事が頭から離れない。一目惚れか? と思うも瞬時に一蹴する。そんな漫画のような物はあり得ない。ただ、気になったのは少女の容姿ではなくその瞳だ。無感情、無表情な少女の顔だったが、何故か彼には少女の眼が助けを求めてると感じた。完全に無表情だったのにだ。
その所為で家に帰るまでずっと考えていた。胸がモヤモヤする。
「考えても仕方ねぇか。一旦、忘れよう」
ガシガシと自分の頭を掻いて、取り敢えずは忘れる事にした。しかし、それでも心の奥にはなにかつっかかりが残る。この時、彼は気付く良しもない。後、数時間で面倒ごとに巻き込まれるなど。しかも、それが世界中を巻き込む事になるなど想像も付かなかった。
「風呂でも入るか」
ベットから腰を上げて、少年ーーー神宮寺隼人は一階にある風呂場に向かった。彼と少女が再度、出会うまであと五時間。
まだ、至らない点もありますが、ご了承ください。誤字、脱字があった場合は遠慮なくご報告お願いします。