神具と宝具を携えし者   作:葛城 大河

3 / 4
急展開かもしれません。


第一話 二度目の出会い

夜の八時が回る頃、少女は走っていた。月光によって少女の白銀の髪がより幻想的に煌めいていく。汗を掻きながらも、足を止める事はせずに走っていく。時折、後ろを確認しては慎重に移動する姿は、誰かに追われているようだ。建物と建物の間を走り抜け、容易に追跡出来ない場所を通る。

 

 

姿は見えずとも、少女は止まる事をしない。分かるからだ。自分の事を追い掛けている事を。見えなくても彼女には感じ取れた。故に、止まらず走り続ける。自由を求めて。

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

少年ーーー神宮寺隼人は自分の部屋にある机の上で突っ伏していた。目の前の物は最強の敵。その敵に敗れたのだ。隼人を突っ伏しさせた敵の名はーーー

 

 

「くそぉ〜、マジで分かんねぇ⁉︎ この問題っ」

 

 

宿題と言う名の彼にとって最強の敵が、机の上で存在感を放っていた。それに頭を抱える少年が一人。しかも、隼人に出された宿題は他の生徒の倍近くはあった。優しい優しい担任である女性が、何時も授業を寝てサボる彼の為に容易した物である。完全に隼人の自業自得であった。

 

 

「なんだよ柚子先生は。別に良いじゃねぇか、少し寝ても。それなのに、なんだよこの宿題の量は」

 

 

愚痴を吐きながら、改めて目の前にある宿題の量に絶望する。因みに言っておくが、隼人の寝る時間は決して少しではないとここに記しておこう。それはさて置き。絶望的な量の宿題を前に少年が考えた結果は。

 

 

「もう良いや。諦めよう」

 

 

宿題をやるのを諦める事だった。机の上にある(しゅくだい)を片付けて一階のリビングに降りる。現在の時刻は七時五十分だ。キッチンで自分の夕食を作ろうと隼人は冷蔵庫を開けるが。

 

 

「なにも入ってねぇな。はぁ、仕方ねぇ買いに行くか」

 

 

冷蔵庫の中に材料が入ってないと知ると、ため息を吐きつつ近くにおるスーパーに行く為に上に青のフード付きのジャケットを着て、外出の準備をする。財布に幾ら入ってるかを確認し終えると懐に入れて、外に出てスーパーに向けて足を進めた。別段、そんなに急ぐ事はないのでゆっくりと歩く。一瞬、宿題の事と明日激怒するであろう美女教師を思い浮かべるが、忘れるように頭を振った。

 

 

時折、気持ち良い夜風が髪を揺らす。空には綺麗な満月が上っていた。

 

 

「ん〜、良い風だな」

 

 

何度も髪を揺らす夜風に、隼人は背を伸ばした。スーパーまでは徒歩で約五分の距離だ。その道程を歩きながら彼は月をぼーっと眺めていた。静かだ。夜の静けさが実に心地良い。何時までもこんな平穏(・・)が続けば良いのにと、内心で無理だと分かりながらも自嘲する。幾ら自分が求めても、彼方からやってくるのだ。力と力は引かれ会う。それは自然の摂理と言えた。暫く歩いている隼人の耳に、それは突然聞こえる。

 

 

「っ⁉︎ これは………⁉︎」

 

 

耳朶に響いたのはナニカの衝撃音。次に魔力(・・)の波動。それを感じた隼人はすぐさま体の向きを変えて、衝撃音が鳴った場所に走り抜けた。人通りが少ない道を駆けていき、公園方向に向かう。何が起きてるのかは、分からない。しかし、少年は逃げる事など決してしない。それが例え彼から平穏を遠ざけようとも。そして隼人は音が聞こえたのは公園内だと気付いて、公園の中に入ろうとした。その時ーーー前方から人影がぶつかり彼の全身が揺れた。

 

 

「わ、悪い‼︎ だ、大丈夫………か」

 

「…………」

 

 

ぶつかった事に急いで謝ろうとして、それでも早く現場に向かう為に動こうとした隼人は、ぶつかった人影を見て体を止めた。無機質な蒼穹の瞳が、彼を見据えていた。月光によって一層に輝く銀髪を隼人は忘れない。美を体現した少女がそこには立っていた。

 

 

「き、君は」

 

「…………」

 

 

下校中に出会った少女である。この少女との二度目の出会い。それは果たして必然か運命か。だが、こうして止まっていた歯車が回り始め、物語が動き出したのは確かだ。隼人は幻想的な少女との出会いにより世界を巻き込み、遂に隠してきた自分の力が知れ渡る事になる。

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

隼人はぶつかった少女に困惑していた。少女は公園から出て来た。という事は、先程の衝撃音に関係するのかと考える。が、それよりも先に隼人は又もや魔力を感じた。その魔力は自分ではなく、前に居る少女に狙われていると気付き、すぐに抱きかかえると、人間とは思えない跳躍力を持って後退した。瞬間。彼がというより、少女が立っていた場所に光の鎖が飛来した。

 

 

(アレは攻撃の為じゃなく、拘束する為の魔術(・・)?)

 

 

後退した彼は次に何が起きても対処出来るように周りを警戒する。両腕には少女が抱えられており、隼人の顔をジーと見つめていた。すると、隼人の視線が鋭くなると同時に、目の前にあった空間が歪みそこから一人の男性が現れた。

 

 

「やれやれ、彼女を連れ戻す為に来たのは良いのですが。よもや、一般人が紛れ込んで居ようとはね」

 

 

肩を竦ませながらも、鋭い視線を外さない。

 

 

「さて、少年。ソレは私達の所有物(・・・)です。即刻、此方に渡しなさい」

 

「所有物だ、と」

 

 

少女の事を当然のように所有物だと告げる黒服の男性。それに隼人は嫌悪感を滲ませて、男性を睨み付けた。しかし、その視線など意に返さずに男性は一歩を踏み出した。

 

 

「さぁ、私達の所に帰りましょう。貴女の居るべき所はそこじゃない。我々の元だアリア」

 

 

アリア。それが少女の名前なのだろう。なんて良い名前なのだろうと今の状況を忘れて思ってしまう。だが、すぐに我に戻り少女ーーーアリアを下ろして背に庇った。

 

 

「ん? どう言うつもりですか少年」

 

「いや、な。あまり状況は分からないが、あんたが悪い奴だって事は分かる」

 

 

だからこの子の味方になる、と男性に向けて言い放った。それに対して男性は、ニコリと笑みを浮かべながら全身から魔力を迸らせた。

 

 

「………ッッッ⁉︎」

 

「少年。お遊びのつもりならば、すぐに辞めなさい。知り過ぎれば死にますよ」

 

 

これは警告だと、魔力が辺りを迸った。その余りにも膨大な魔力量に眼を見開く少年。だが、それだけだ。彼は少女を庇いながら口角を吊り上げた。如何やら目の前の男は、未だに自分の事を只の一般人と認識している。それが如何しようもなく可笑しく笑ってしまう。自分が如何に一般人とは程遠い(・・・・・・・・)事など知らずに。

 

 

「………目障りですね。その笑みは。良いでしょう、そんなに死にたいなら望み通りに殺して差し上げましょうっ‼︎ 『ウィンドレイス』」

 

「こんな所でッ⁉︎」

 

 

放出していた魔力を風と言う事象に変化させて、巨大な風の砲弾を飛ばす。対して隼人は人が少ないとは言え、魔術を行使した事に驚愕した。後ろには一人の少女。避ける事も出来ない。とはいえ、アリアを抱えて避ける事も迫る砲弾の距離からして不可能。なら、やる事は一つ。隼人は覚悟を決めた。これをやれば、少なくとも魔術師に自分の事が知られてしまう。しかし、少女を見捨ててまで隠そうとは思わない。

 

 

地面を削りながら、迫り来る風の砲弾。それを見据えながら、息を整える。そして自分の中に潜った。底にあるのは己の武器庫。そこから引き出すのは、大妖怪である鵺さえ一矢で滅した大太刀。そしてーーー風の砲弾が激突した。爆音を鳴らし、土埃を巻き上げる。

 

 

「やれやれ、一般人が歯向かうからこうなるのです」

 

 

男性は首を何回か振り、土埃が舞う場所を見下すような瞳で見た後、足を進めた。

 

 

「さて、威力は弱めたのですが。まぁ、アリアなら大丈夫でしょう。この程度では()すら付かないでしょうから」

 

 

少女を捕獲する為に男性は新たな魔術の用意をした。しかし、土埃が晴れた場所、そこには誰も居なかった。

 

 

「っ⁉︎ まさか、逃げられた?」

 

 

誰も居ない事に眼を見開く男性。あの一般人は風の砲弾で、消し飛んだと仮定すれば納得は出来る。が、アリアまでも居ない事は分からない。確か彼女は、誰よりも魔力を所持している(・・・・・・・・・・・・・)筈。消える事などあり得ない。ならば、何処に? そこまで考えた時、男性は怖気が奔る程の殺気を感じた。次の瞬間ーーー背中にナニカが飛来した。全身に警報が一気に鳴り響き、身体能力を魔力強化してその場からすぐさま離脱する。

 

 

公園内に爆音が響き渡る。男性が立っていた場所には、大きな五メートル程の斬痕が刻まれていた。

 

 

「一体、なにが⁉︎」

 

 

突然に放たれた殺気と、先程の斬撃。それに戸惑うしかない男性だ。しかし、そんな男性に戸惑わせる時間すら与えない。迫るのは大太刀を手に持った少年。暗い所為か顔が見えない。その大太刀を上段から振り下ろした。

 

 

「くっ⁉︎ 守護しろ『ポルグ』」

 

 

手を前に突き出して魔術名を唱える。すると、障壁が三百六十度展開される。大太刀と障壁がぶつかり、一瞬の拮抗の内。障壁を大太刀が斬り裂いた。

 

 

「な………⁉︎ そんな事が」

 

 

己の魔術が刀に負けた事に驚愕の声を上げる。本来なら防御魔術『ポルグ』は、ただの(・・・)大太刀などに斬れる物ではない。例えミサイルを放たれても防げる自信が彼にはあった。だが、結果は如何だ。その障壁が一瞬しか拮抗せずに、斬り裂かれたのだ。

 

 

「くッ、姿を見せなさい‼︎」

 

 

未だに暗闇の所為で顔が分からない敵に、男性は風魔術を行使して、旋風を吹かせた。これ以上、近付くのは危険と判断したのか敵は後退した。そして男性も距離を取り、息を整えて冷静になる。信じられない出来事が何度も起き、少し取り乱してしまった。だが、もう大丈夫だ。数秒もすればすぐに元通りになる。これでも男性は一流の魔術師なのだ。

 

 

「………貴方は一体、何者ですか?」

 

「…………」

 

 

鋭い眼光を向けて目の前の人影に問い掛ける。しかし、返事などなく、大太刀を青眼に構えるだけだ。対して男性も構えを取り、戦闘態勢に移行する。お互いに見合い、そして雲に隠れていた月が顔を出し、月光が人影を映した。

 

 

「あ、貴方は………⁉︎」

 

「行くぞ“獅子王”」

 

 

敵対者の顔を見て男性は眼を見開く。敵対者。まさかその正体が、自分が一般人と決めた少年だったのだから。隼人は驚く男性など気にせずに、一言を自分が持つ大太刀ーーー“獅子王”に呟くと地面を蹴った。ドンッ‼︎ と発破を掛けたかのように地面が爆ぜるが、関係なく凄まじい速度で肉薄する。

 

 

「ふっ………‼︎」

 

「ッ⁉︎ 『肉体強化(ブースト)』‼︎」

 

 

懐に潜り込み“獅子王”を横一閃に振るった。それに強化の魔術を全身に施し、男性は勢い良く上に飛んで躱す。頬から冷や汗が流れる。

 

 

(全く見えませんでした。彼は一体、何者なんですかっ⁉︎)

 

 

隼人の放った一閃を視認する事が出来なかったのだ。それだけでどれ程の技量が、あの少年にあるのかを分かる。分かってしまう。離れた所で着地した男性は、そこである事に気付いた。周りを見渡しても、ここに居るのは自分と目の前の少年の二人(・・)だけ。可笑しい。何故、二人だけしかいない。

 

 

「貴方、アリアを何処にやったのですか」

 

「あんたみたいな悪漢に教えると思うか?」

 

 

居なくなったアリアが何処に隠したかを聞けば、隼人は肩を竦めて惚ける。その態度が男性の苛立ちを募らせる。探知魔術を周りに使っても、全く反応がしない。如何なっている? まさか、あの少ない時間で遠くまで逃げたのか。男性の脳裏に転移魔術の名が浮かぶが、すぐに消した。それこそあり得ない。確かに転移魔術を使えば、一瞬で遠くまで移動が出来るが、目の前の少年は魔力がない。

 

 

魔術師ですらない彼には不可能な事だ。それにこの世界で、転移魔術が使えるのは三人だけのはず。それ程、転移魔術と呼ばれる魔術は高位で圧倒的な魔力を必要とする。

 

 

「ならば、貴方を痛め付けて聞き出すしかありませんね」

 

「はっ、やってみろ」

 

 

アリアの居所を知っている筈の少年を、痛め付けて探せば良いと男性は考えた。もしも、何も言わなかった時は殺せば良いのだ。警戒すべきはあの大太刀のみ。それ以外は警戒に値しない。男性の瞳に油断の色がなくなり、最初から全力で行くと言う意思が現れた。全身強化を施し、そして己の十八番である風魔術を行使する。

 

 

「さぁ、避けられるなら、避けてみなさい‼︎」

 

「これは………?」

 

 

隼人を囲うように風の檻が展開し、上空から風が押し潰さんと下ーーーつまり隼人めがけて落ちてきた。上級風魔術『ダウンスウインド』。相手を逃がさずに囲い、上空から圧倒的質量の風で押し潰す魔術。この魔術ならば、逃げる事も真っ正面から斬り裂く事も出来はしないだろう。男性の口元が弧に描かれた。しかし、隼人は冷静に落ちてくるモノを見据えていた。この程度か。胸中で彼は呟いた。舐められた物だと。

 

 

ここから男性を見ると、口元を歪めているのが分かる。もう勝ったと判断した表情だ。それに隼人は失笑した。何を勝った気になっている。この程度で勝った気など、まだ舐めているんじゃないか。この身は、あの時から人など疾うに超えている。世界を制する力(・・・・・・・)を持つ自分にとって、こんな魔術など決して危険ですらないのだから。両手に持った“獅子王”を右手に持ち替え、何もなくなった左手を頭上に掲げた。

 

 

自分の奥底にある武器庫から、新たなる武具を取り出す。インド神話に置いて最強と謳われた主神。かの主神が持ちし『神具』。

 

 

「ーーー薙ぎ払え“ヴァジュラ”」

 

 

開いた左手に現れたのは金の金剛杵。両端が三つに分かれており三鈷杵とも呼ばれる物。三鈷杵がバチバチと雷を迸らせ、主である少年の言葉に従い、上空から迫り来る質量を雷が奔り抵抗もなく消し飛ばした。風の檻すらも放出された雷の余波だけで吹き飛ばす。

 

 

「ーーーーーー」

 

 

絶句。男性は目の前の光景に言葉を発する事が出来ない。何が起きたのか分からず思考が停止してしまう。確実に殺したと思った。しかし、次に起きたのは視界を覆う程の閃光。それは上空にあった魔術と風の檻を、まるで紙の如く消し飛ばした。理解出来ない。いや、理解しようとする事を認められない。

 

 

「………んですか」

 

「ん? なんか言ったか?」

 

「なんなんですか貴方はッ⁉︎」

 

 

聞き返す少年に男性は恐れを含んだ瞳で叫んだ。それに対して隼人は、左手に“ヴァジュラ”、右手に“獅子王”を持ちながらも当たり前のように答えた。

 

 

「…………俺はただの学生だ」

 

 

少し特殊だがな、と内心で続ける。だが、男性はその言葉に自分が舐められていると勘違いしたのか、顔を赤くして両手を前に突き出した。放つのは最上級の風魔術『ルード・レジサス』

 

 

「舐めるなぁぁぁぁぁぁぁッッッ⁉︎ 小僧がァ⁉︎」

 

「消し飛ばせ“ヴァジュラ”」

 

 

小型だが七つもの竜巻を発生させる強力な魔術だが、少年が左手に持つ三鈷杵に命令を下すと、幾重もの雷が周囲に奔り、七つの竜巻を貫き、破壊し、消し飛ばした。たった数秒で、男性の最上級魔術が消えたのだ。最早、呆然とするしかない。男性の眼には隼人の事が、人の皮を被ったバケモノにしか見えない。

 

 

「無駄だ。幾ら魔術を使っても、お前は俺に勝てない。もし、渡り合える奴が居るなら、俺と同じ『神具』や『宝具』の所持者でも連れてくるんだな」

 

「…………『神具』、『宝具』」

 

 

呆然としながら、隼人の言った言葉の中で気になる単語を二つ呟く。男性はその単語を知っている。いや、魔術師ならば知っていて当然の言葉の筈だ。『神具』と『宝具』。隼人と互角に戦うならば、それを持つ者でなければならない。例え、どんなに強力な魔術を放っても、英雄が持つ超常的な武器には及ばない。ましてや、神話の神々が所持していた武器なのだ。ただの魔術師風情が抗える筈がない。

 

 

「ま、まさか…………」

 

 

そして漸くここで思い至った。目の前の少年が両手に持つ武器が何なのかを。

 

 

「馬鹿なっ⁉︎ あり得ない。貴方のような少年が、『宝具』をましてや『神具』の二つを所持するなど、あり得るはずがないッ‼︎」

 

 

信じたくはないと。認めたくはないと。男性は頭を何度も振る。それ等を持つと言う事は、英雄に世界の覇者に成るのと同義。男性は何故、ただの学生が所持しているのかに困惑する。すると、男性の横を閃光が奔った。全身が硬直して、彼は恐る恐るといった風に前方に顔を向ける。そこには、三鈷杵を此方に構え、バチバチと放電させている少年が一人。

 

 

「なぁ、今は戦闘中だぞ。考えてる暇なんてあんのか?」

 

「…………ッッッ⁉︎」

 

 

最後の言葉と共に、雷が迸った。三鈷杵を頭上に掲げると、空に雷雲が生まれゴロゴロと音を鳴らし、幾重もの落雷が降り注ぐ。男性はそれに中級土魔術の『土壁の盾』を発動。地面が盛り上がり、盾のように土が出来上がる。落雷を地面に逃がす為だ。しかし、落雷は土壁を破壊し、地面に逃げる事なく男性に直撃した。

 

 

「ぐぅぅぅぅぅぅぅーーーーーッッッ⁉︎」

 

 

全身が焼かれ激痛が駆け巡る。公園内に凄まじい程の雷音が轟いた。たったの一撃。だが、その一撃は余りにも強大だ。地面に両膝を付く。視界がボヤけ、思考が纏まらない。ジャリ。足音が聞こえ、顔を上に上げた。見えるのは一人の少年の姿だ。

 

 

「俺の声が聞こえるか? まぁ、恐らく聞こえてないんだろうな」

 

 

隼人は両膝を付く男性を見下ろしてから、“ヴァジュラ”の放った落雷の影響で、耳が聞こえていないのだと分かった。だから、一言だけ分かりやすい仕草と言葉を放つ。

 

 

「俺はあんたを殺さない。だから、逃げたければ逃げろ」

 

「……う、うあ………」

 

 

右手に持つ“獅子王”ごと横に振る彼を見て、何を言ったのか分かったのか、最後の力で風魔術を使った。発動したのは『疾風の嘶き』。ボォォォォォォッッッ‼︎ と風の勢いが増していき、男性に纏わり付く。そこに攻撃的な意思などない。すると、疾風が男性の体を持ち上げ、そのまま戦線を離脱するかのように、正しく疾風の如く公園から出て行った。それを黙って見ていた隼人はため息を吐くと、何もない空間に視線を向けた。

 

 

「もう大丈夫だぞ。だから()を外して出てくれ」

 

 

誰も居ない空間に彼が、そう告げると数秒後に空間が揺らめき、一人の少女が突然現れた。

 

 

「………これは?」

 

 

少女ーーーアリアは、自分が助かった一因になった物を隼人に出した。あの時、風の砲弾が迫っていた時、彼はすぐにある物を少女に渡して、この場から完璧に消した(・・・)のだ。

 

 

「あぁ、これね。これはなーーー」

 

「…………」

 

 

出された物を手に取り、少年は首を傾げて聞きたそうな彼女に苦笑してから、言った。

 

 

「ーーー“ハデスの兜”だ」

 

 

それはギリシャ神話の冥府の神ハデスが持っていた兜。これを被った者は、姿、気配、匂い、その全てが隠れる能力を持つ代物。神宮寺隼人の三つ目の『神具』であった。

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

「………くぅ、はぁ……はぁ………⁉︎」

 

 

『疾風の嘶き』で離脱した黒服の男性は、荒い息を上げながら公園から数百メートル離れた住宅街、その建物の屋上に居た。止まる事なく、全身から汗が噴き出す。だが、数秒で息を整えた男性は、右手を耳に当てると誰かに通信するかのように声を出した。

 

 

「聞こえるかい『メイビス』。返事を下さい」

 

『…………なに? 私、今忙しんだけど』

 

 

すると、男性の脳内に女性の声が響いた。『念話』と言う離れた相手と喋る事が可能な魔術だ。女性の声音は何処かイラついている風にも聞こえた。それに男性は、本当に忙しい時に話し掛けてしまったと後悔する。彼女が怒ると、物理的に命の危険がある。だが、男性は組織の一員として報告しなければならない。あの少年の事を。

 

 

「後で貴女の怒りは全て受けます。ですから聞いて下さい」

 

『………………もし下らない話だったら、あんた殺すから』

 

 

言外に喋ってみろと言う女性に、安堵の息を吐く。そして口を開き、言葉を紡いだ。

 

 

「アリアの捕獲に失敗しました。その場に居合わせた者の所為で」

 

『なにそれ、あんた任務を失敗したって事? しかも、その居合わせた奴に負けて、おめおめと逃げて来た訳ね。この事はボスに報告するから、そしたらあんたは殺されるわね。まぁ、私には関係ないから良いけど。じゃあ生きてたら、また会いましょう」

 

「ま、待って下さい⁉︎ ボスに報告は構いませんが、最後まで話を聞いて下さい」

 

 

男性は淡々と告げて『念話』を切ろうとする女性に、待ったをかけて次が重要だと答えた。それに女性はため息を付くと早く言えと告げる。

 

 

「その私の邪魔をした者は『神具』保持者です」

 

『…………ッ⁉︎』

 

 

伝えたい事を伝えると、『念話』越しから絶句した雰囲気を感じ取った。しばらなく女性が無言になり、その数秒後に口を開いた。

 

 

『………ねぇ、賀川。それは本当なの?』

 

「はい。本当です。この眼でしかと、彼が『神具』と『宝具』を使うのを見ました」

 

『二つ持ち⁉︎』

 

 

返ってきた女性の確認の言葉に、即答で返す。と、また新たな情報に驚愕の声を上げる。内心で彼女が、ここまで驚いた事に男性は何故だか気持ち良い気分になった。すると、女性から驚くべき言葉が来た。

 

 

『………今からあんたの所に向かうわ。場所を教えなさい』

 

「なっ⁉︎ 『メイビス』貴女が来るのですか⁉︎」

 

『そうよ。何か文句でもある訳? 賀川』

 

「し、しかし貴女が来る必要性はない筈です。他の者達でも良い」

 

『必要ならあるわ』

 

「そ、それは何ですか」

 

『私が気になったんだもの』

 

「……………」

 

 

その言葉に何も言えなくなった。男性ーーー賀川は思い出したのだ。この『念話』の相手がどんな存在かを。組織内でも我儘で自分勝手。何か気になれば命令すら破る破天荒さ。本来なら罰を与えるのだが、彼女の実力は組織でもトップクラスに入る。故に、ボスですら好きに動かせろと匙を投げる程。賀川は頭が痛くなったのか、右手で頭を抑えた。彼女が来るとなれば、面倒くさい事になるのは必至。組織または結社『黄昏の乙女』。コードネーム『メイビス』。組織内序列第二位。空間系魔術の極致に至った存在。月美 桜がこの街に来る事が決定された瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

あの後、隼人はアリアを連れて自宅に帰ってきていた。そして今現在。

 

 

「……………」

 

「……………」

 

 

お互いに向かい合う形で座り、二人は顔を何十分も見合っていた。こんなに見合っているのに、アリアの顔には変化がなく、無表情のままだ。逆に隼人は頬に汗を垂らししている。彼の現在の心境を表すのならこうだろうーーー気まずい、と。

 

 

「え、え〜と何か飲むか?」

 

「…………」

 

 

静寂に耐えかねて、そう聞くが無言で隼人を見続ける。音に表すならジーーーと聞こえるだろう。それでもめげずに、隼人は話し掛けた。

 

 

「か、菓子食うか? 俺の家には菓子が一杯あるからな」

 

「…………」

 

 

飲み物が駄目ならと、言うが無言で自分の事を見るのに徹するアリアだ。如何すれば良いんだと内心で頭を抱える。目の前の少女を見ても無表情で、何を考えているのか分からない。

 

 

(ど、如何すれば良いんだ⁉︎ 考えろ神宮寺隼人。何を言えばこの子と、コミュニケーションが取れる)

 

 

幼い子供を相手にした事がないが故に、如何したらいいか分からず、この状況を打破する為に必死になって考える。

 

 

「………なんで」

 

「…………え?」

 

 

すると、気まずい雰囲気を破ったのは、目の前の少女だった。アリアは隼人に自分の疑問をぶつける。

 

 

「なんで、助けてくれたの」

 

 

アリアにとって見ず知らずな自分を助けた隼人の行動が理解出来なかった。故に疑問を口にした。それに対して隼人は、何を言われるのかドキドキしていたが、その言葉に「なんだその事か」と頭を掻いた。

 

 

「そんなの決まってる。目の前で危ない目にあってる奴が居たら助けるだろ? 普通」

 

「…………普通?」

 

 

助けるのが当たり前だと言う隼人に、アリアは首を傾げた。勿論、隼人の行動は普通ではない。どんなお人好しでも、死の危険性があれば動けなくなるのが人間だ。それなのに、彼は死の危険を顧みずアリアを助けた。しかも、信じられない武器を用いてだ。アリアはその武器の名を知っていた。その中でも、あの雷を司る武器の名は、有名中の有名である。

 

 

「…………あなた、何者?」

 

 

そして再度、彼女は尋ねた。あれ程の『神具』を所持している者が何者なのか気になったのだ。

 

 

「何者って言われてもなぁ。俺はただの学生だしな」

 

「……………」

 

 

その質問に困ったように呟く隼人だ。その言葉を聞いてアリアは、まるで見定めるように蒼穹の瞳を少年に向けた。気になる事は、まだまだ沢山ある。しかし、分かっている事が一つあった。目の前の少年は自分に敵対意思などなく、助けてくれたという事だ。

 

 

「もう夜遅いからな。質問は明日答えるよ。だから、もう寝ろ俺の部屋を使って良いから」

 

「…………」

 

 

口を開こうとしたアリアより先に、 隼人が言った。それから、自分の部屋の場所を教えて、彼はリビングのソファーで寝る事にした。そして、一日が終わった。

 

 

こうして、少年と少女は出会った。物語の歯車が動き始め、これまで少年が隠してきたモノが世界の裏に知られてしまう。誰よりも平穏を求めた彼は、他でもない自分自身の手で平穏から遠ざけてしまった。とある組織に軟禁されていた少女は、少年と出会う事によって変わって行く事になる。これは交わるべくして交わった、運命の出会いと呼べるもの。ここから、新たな神話、英雄譚が幕を開けた。

 

 

 

 

 

 




投稿に時間が掛かるかも知れませんが、気長に待って頂けたら幸いです。

あと、魔術の名前と効果を募集しています。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。