そして今回、主人公は余り出ません。
魔術結社『黄昏の乙女』。その本拠地とも言うべき建造物の屋上で、一人の少女が立っていた。時刻は深夜を回る。頭上には夜を照らす満月が浮かんでいた。桜色の髪を背中あたりまで伸ばし、橙眼を地平線の向こうに向けている。浮かべるのは、妖艶な笑みだ。つい先程、自分の仲間から貰った情報に彼女は我慢出来ずに笑ってしまう。面白い。こんな感情を得たのは久方ぶりだ。近頃は面白い事がなく、イライラしていた。つい最近なんかも、自分達の結社を攻撃してきた組織の壊滅させた所だ。
『黄昏の乙女』を攻撃するのだから、腕には自身があるのではないかと、ワクワクしていたのだが、いざ行ってみれば雑魚しか居らず期待外れも良い所だ。そんなイライラが溜まっていた時、来たのが先程の情報。『神具』保持者など希少中の希少。しかも、『宝具』も所持しているらしい。一つ持つだけで、世界の覇者と呼ばれる代物を二つも所持している人物に、彼女はにやけが止まらない。
「如何したの『メイビス』?」
「ん?
突如、背後から掛かる声に『メイビス』が振り返ると、そこには一人の少女が居た。夜の帳と同化してるかのように、全身が黒に包まれている。口元には地面まで垂れ流している黒いマフラーを回していた。もしもここに、隼人が居たら「忍者だっ⁉︎」と少女を見て叫んでいただろう。そう、目の前の少女の格好は忍者のそれであった。彼女がここに居る事は珍しい。何時も仕事で出かけているからだ。因みに、菖蒲の仕事は格好から想像出来る通り暗殺である。
その鮮やかな手際から、『黒の死神』と安直ながらに呼ばれていた。
「今日は珍しく仕事が無くて」
「あら、そうなの」
残念そうに肩を落とす忍者に、苦笑しながら『メイビス』は言った。そして確かに彼女に仕事が無いのは珍しいと思った。それ程までに、菖蒲の受ける依頼は異常なのだ。一日に百は下らない。
「それに、ボスから仕事があっても受けずに、ここに来いって言われてたから」
「ボスに………?」
そして菖蒲の言葉に首を傾げる。あのボスが、自ら呼んだ事に疑問を覚えた。決して自分のエリアから出ずに、その全てを掌握する魔術を持つ人物。彼はその自身のエリアに人を招く事は嫌いだった筈だ。故に、『メイビス』は何かあると確信した。
(ま、私には関係ない事だけど)
とは言え、ボスが何かを考えていても『メイビス』にとっては興味のないものだ。
「それにしても『メイビス』。なんか嬉しそう」
「ふふ、そう見える菖蒲」
すると、菖蒲が彼女の顔を見てそう言った。『メイビス』は他を魅了する程の微笑を浮かべて聞くと、菖蒲は頷いた。
「何があったの?」
「教えない」
気になった菖蒲が聞くと、返ってくる言葉は可愛らしく言った一言だ。教える筈がない。玩具は独占したい主義なのだ。自慢などせず、一人で楽しく遊ぶのが彼女の楽しみ方である。それに『神具』保持者なんて言う面白い存在など、誰に教えるか。まぁ、自分にその情報を教えた男がボスに言うまでの間だが。その知られるまでの間に遊びつくせば良い。益々、笑みが深まるのを彼女は自覚した。その姿に菖蒲は首を傾げるばかりだ。
「ふふ、どんな人なんだろうね」
自分の遊び相手を想像しながら、夜空を眺める。夜が更けていき、その日は終わった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「神宮寺。何か言う事はあるか」
「…………何もありません」
星稜学園の二階にある教室内。2-Bの教室で、担任教師である美女教諭、
「神宮寺、何度言えばお前の遅刻癖は治るんだ」
「本当にすみませんでした」
穏やかな口調で言う
何故か自分のリビングで敷いた布団の中に、アリアが入るハプニングが発生したり、所々、常識がないのか十一時までアリアの世話をしていたのだ。家から出る時に、大人しくしてくれと言ったが、少し心配だ。そして、急いで学園に向かって現在に至る。これで通算、十九回の遅刻であった。頭を下げている彼の頭に手が乗る感触がした。眼を動かして目の前の美女教師に視線を向けると、彼女は隼人の頭の上に手を乗せていた。
「神宮寺、私はな何時お前がちゃんと遅刻せずに来るのかを期待してたんだぞ。そんな私の期待を、裏切らないでくれないか」
「…………先生」
悲しみを込めた瞳で、そう告げる担任に隼人は罪悪感が芽生えた。まさか、柚子先生が自分の事をそこまで思っていたなんて。これからは、遅刻はしないと彼は心で誓った。
「そして遅刻をしたお前に、罰を与えるのは本当に心苦しいよ」
「…………え?」
ーーーメキッ‼︎ 音が響いた。具体的には隼人の頭から。理由は語るまでもないだろう。隼人は目の前の柚子教諭に視線を投げた。そこには、男を魅了する程の笑みを浮かべる女性が一人。彼の頭の上に置かれている手が、力強く握られている。
「神宮寺 隼人。本当に反省してるなら、甘んじて罰を受けろ」
その言葉に彼は顔を青褪めた。死刑宣告に似た発言と共に、握られている力が強くなった。メキメキメキッッッ‼︎ と聞こえてはならない音が響く。それでも力は万力の様に強まって行く。
「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁッ⁉︎ 痛い痛い痛いッッッ。あ、頭が割れるぅッ⁉︎」
「心配するな神宮寺。人間は頑丈だ。そんな簡単に頭が割れたりはしない」
ニコリと笑って答える彼女に、隼人は反応しない。反応出来ない。一体、どれ程の力で握られているのか。人を超えた身体能力を持つ自分が痛がるなど、とんでもない事だ。教室内で余りの激痛に叫ぶ隼人と、それでも力を緩めず逆に込めて行く美女。因みに、この二人のやり取りを見ていたクラスの生徒達はというと、柚子教諭の容赦のなさに恐怖の色を顔に出して、ガタガタと震えていたりする。こうして、隼人の遅めな一日が開始した。
「頭がまだ痛い」
それから柚子教諭の説教から解放された隼人は、食堂で何時も頼む料理を待ちながら立っていた。自分の頭に手を置いてほぐしながら。まだ痛みが収まらない。一体、あの美女教師は何者なのか、と考えてしまう。すると、注文していた料理が白のトレイで運ばれ食堂のおばちゃんに手渡される。何時ものように、そのトレイを受け取ると、空いている席に座った。頭をほぐしている手を離して、目の前にある料理を食べる事にした。
「ごちそうさま」
綺麗に料理を食べ切ると、食後の挨拶をしてトレイを片付けた。それからお気に入りの昼寝スポットである保健室に足を運ぶ。
「あら? 神宮寺君、如何したの」
「あ、早川先生。ちょっとベットを使わせてもらおうかと」
ガラッとドアを開けると白衣姿の綺麗な女性が居た。
因みに隼人の場合は、話をする為ではなく静かな昼寝の場所として、ここに訪れている。もう常連と言っても良い程の頻度で来る為、菫は彼の言葉を聞くと苦笑をしてから綺麗に整えられたベットに視線を向けた。
「ふふ、そうだろうと思って準備しといたわよ」
「ありがとうございます‼︎ 早川先生」
彼が来る事を予想して、菫はベットを綺麗に整えていた。これは隼人が気持ち良く寝させる為だ。整えられているベット(隼人がよく使う奴)を見て、隼人は感謝した。早速、ベットの上に横になり寝る準備に入る。それを菫は微笑を浮かべて眺めていた。眼を閉じて彼は、昨夜の事を思い出す。
(人助けとはいえ、見せちまったな。しかも、魔術師に)
アリアを助けた事には後悔はしていない。しかし、それでも今まで三年間隠していた物を魔術師に見せた事は思う所があった。これで、あの魔術師が所属している結社が動く事だろう。それ程までに彼が所持する『宝具』または『神具』は強力なのだ。一つを持つだけで世界の覇者に成れる程の代物。魔術師にとっては喉から手が出る程に欲しい筈だ。
(結社が動くとなると、面倒な事になるな)
魔術結社。魔術師は、その魔術という神秘を隠す事を暗黙の了解としている。魔術結社は神秘を隠し、研究する為に魔術師達が集った組織だ。まぁ、中には隠す事などせず殺人に使う者など居るが。それはさておき。有名な会社が実は魔術結社だった事例など幾らでもある。それだけ彼等は隠れながらにして、社会に溶け込んでいるのだ。そこが厄介だと、隼人は頭を悩ませる。そして何故、あの魔術師がアリアをあそこまで狙うのかが気になった。彼奴はアリアを道具だと言っていた。
(アリアには、道具と言われる程の何かがあるって事だよな)
今はそれが何なのかは分からない。アリア自身に聞こうにも、何も喋ってくれない。さて、如何したものか、と眼を瞑りながら思考を巡らせる。アリアを助ける事を、もう決めている。確かに自分の夢は平穏な生活だ。だが、誰かを犠牲にして得る平穏など隼人にはいらない。そこまで考えて、彼は眠りに落ちて行った。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
黒服の男性ーーー賀川はビル街の内の一つのビルの屋上に居た。
「ふぅ、そろそろですか」
右腕にある腕時計で、時間を確認して男性は呟いた。すると、呟いてから間も無くして、賀川の眼前の空間が歪んだ。まるで圧迫してるかのように
「久しぶりですね。『メイビス』」
「そうね賀川。半年振りくらい?」
目の前の少女に、賀川が挨拶を含めて告げれば、少女は笑みを浮かべて返した。少女の機嫌が良い事を悟ると、ため息を吐いてから言った。
「随分と機嫌が良いですね。………余り暴れないで下さいよ」
「分かってるわよ」
彼は目立つ事は避けてくれと、言外に告げれると、少女は賀川の顔を見ずに答えた。その反応に、再度ため息を吐いた。自分の言う事を聞いてくれないと悟ったからだ。後始末が大変だと、これから彼女によって起こされる未来に頭が痛くなる。
「それで? その『神具』保持者が何処にいるのか分かったの」
そして早速とばかりに急かすように本題に入った。彼女の眼がキラリと光ったのを賀川は見逃さない。頭痛を和らげるように頭に右手を置いた状態で、調べた事を語る。とはいっても名前も知らない少年の事を調べるのは極めて難しい。
「まだ『神具』保持者の事は分からず仕舞いです。何しろ此方にとって、あの少年の情報は顔ぐらいしか分かってないので」
「何それ。役立たず」
故に、彼は情報を全くといって良い程に得られなかった。顔以外は何も分かっていないのだ。例え、魔術という神秘を使えたとしても、それだけでは見付ける事は出来ない。そんな何も情報を手に入れられていない男性に、彼女はガッカリとしたように肩を落として鋭い視線を向けた。折角、すぐに遊べると思ったのにこれだ。期待を裏切られた気分で、先程までの元気がなくなり逆にイライラしてくる。そんな彼女の感情に気付いたのか、賀川はジワリと背中に冷や汗を流した。そして言い訳とばかりに早口で言葉を告げる。
「で、ですがあの少年が、この近くに居るのは確かですっ」
冷や汗を垂らしながら、叫び終わる。対して少女はジト目を向けて言った。
「はぁ。まぁ、良いわ。この街に居るのが確かなら、後は探せば良いだけだしね。………ねぇ、貴女もそう思うわよね。菖蒲」
「………うん。人を探すのは私の得意分野」
「ーーーーーッッッ」
背後から声が聞こえた。少女が賀川から視線を外し、誰かに問いかけるようにして口を開いた。その次の瞬間だった。賀川の後ろから声が聞こえたのは。眼を見開き、驚愕と共に背後に振り向くと、視界に黒が映った。夜の帳のような黒を纏った少女。賀川は彼女の名前を知っていた。
「『黒の死神』………⁉︎ 何故、貴女がここにッ」
結社の中で一番、仕事をこなしている者と言えば彼女だ。鮮やかに標的を殺し、鮮烈に殺害し尽くす。暗殺術の腕で、彼女の右に出る者は結社には居ない。コードネーム『黒の死神』菖蒲が、音もなく賀川の背後に立っていた。そして彼の疑問に黒の少女は間を置かずに答えた。
「ボスに『メイビス』と一緒に行動しろと言われたから」
「ま、そう言う事よ。全く、折角楽しめると思ったのに、ボスに邪魔されるなんて」
その言葉に賀川は納得した。恐らくは、ボスの耳に『神具』保持者の情報が入り、『メイビス』一人に行かせたら面倒になると思って任務に忠実な菖蒲を同行させたのだろう、と推測した。ふぅ、と賀川は息を吐く。これは喜ばしい事だ。自分一人ならば、止められなかったが、菖蒲が居れば少女も大人しくするだろう。対して少女ーーー『メイビス』は、バレるまで遊ぶという自分の計画が筒抜けだった事に、少し不貞腐れていた。
「では、菖蒲さん。お願い出来ますか?」
「………うん、了解」
早速とばかりに賀川が口を開く。主語が抜けた頼みだったが、菖蒲はなんの事か理解したのか、頷きと共に自分の
「じゃ、私も行くわ」
「何処に行くんですか?」
「観光よ。か・ん・こ・う」
続けてそう言って彼女は背を向け、空間を歪ませて消えてた。一人残された賀川は、無茶を言わなかった『メイビス』にホッと息を吐く。しかし彼は気付いていない。彼女が背を向けた時、楽しそうに口元に笑みを浮かべていた事を。賀川が胃を痛めるのは未来の話。
『メイビス』改め月美 桜は、先ほど居た場所から離れた所を歩いていた。ここは商店街だ。肉屋、八百屋、魚屋などの店が開いており、学校終わりの小学生が走っている。桜はそれに微笑を貼り付けて見渡す。そんなただ歩いている彼女に、周りの男達は見惚れて立ち止まっていた。桜色の髪に橙色の瞳を持ち、そこらの女優やアイドルなど上回る容姿をしている美少女だ。それが商店街に来ていれば、周りの男達が立ち止まるのは当然と言えた。何人もの男達に見られている事に知ってか知らずか、彼女は鼻歌を歌いながら歩を進めている。
時折見える学生達にチラチラと月美 桜は視線を向ける。
(ん〜学校かぁ。そう言えば、行った事がないかな)
十歳から裏の世界に居た彼女は、学校というものに無縁だった。通り過ぎて行く学生に向けている視線に、少し悲哀が込められている事に彼女自身は気づいていない。
「あ、そうだ。学校に行こう」
すると、名案とばかりに彼女は手を叩く。菖蒲が何らかの情報が見付ける時間までの暇つぶしとしては丁度いい。ならば、早速と何処の学校に侵入するかを考える。と、その時、彼女の顔に影がかかった。顔を上げると、そこには金髪の髪をした軽薄な笑みを浮かべる不良学生が一人。後ろには、不良学生の連れが数人、こちらに同じように軽薄で下卑た笑みを浮かべていた。その中には濃い化粧をしている女子も居た。
(しめた………‼︎)
口元に笑みを浮かべる。今の彼女の心境は正しく、これだろう。鴨がネギをしょってやってきた。桜の視線は目の前の男ではなく、後ろに居る不良の連れの中に居る携帯を弄る女生徒に向けられている。
「ねぇねぇ、か〜のじょ。俺達と遊ばねぇ?」
「そうそう、俺達と楽しもうぜぇ」
桜の思惑など梅雨知らず、彼等は軽薄な笑みのまま口を開く。
「別に良いわよ。私も貴方達に用があったの」
「うおっ、マジかよ。へへへ、俺達に用ってまさか君も期待を」
「それなら、そうと早く言ってくれよ」
予想外の返事を返す桜の言葉に、男達は興奮が止まらずに下卑た笑みを深める。女優以上の美貌を持つ美少女も期待していたのだと、自分の都合の良いように勘違いしていく彼等だ。そんな勘違いの元となる言葉を発した少女は、女生徒の制服から視線を外さない。
「じゃ、早速俺達とホテル行こうぜ」
桜を好きに出来ると勘違いしている男は、彼女の肩に手を置きホテルに連れて行こうとする。しかし、彼女はなんの反応もせずに彼等と一緒に足を進めた。数分が経ち。目の前に彼等の目的であるホテルが見えた。その歩いている間、桜は男達に尻や胸などを触られる行為をされ、眉尻が落ち不機嫌になっていたが、学校に行きたい一心で我慢を続けた。そして彼女達はホテルの中に入りホテルの人に部屋の鍵を貰うと、部屋にへと向かって行った。
「早くやろうぜ。俺、もう我慢出来ねぇよ」
「おいおい、落ち着けよ。我慢出来ねぇのは俺も同じなんだからよ」
「そうだぜ。焦る事はねぇ。中に入れば、あの体を好きに出来るんだからな」
自分達の入る部屋の前で、言葉を交わす男達。勿論、その言葉は桜に聞こえていたが、興味ないので無視する。自分の体を無遠慮に見られるている事は知っているが、慣れているので特に気にもならなかった。
「あぁ、楽しみだ。あの女が善がるのがなぁ。なぁ、お前も楽しみだと思わないか? 直美」
「別にぃ〜。私はた〜だあんた達が無理矢理ヤるのをとって売るだけだし」
ここで初めて女生徒が喋った。ピコピコと携帯を打つのは辞めず、かったる気に言葉を紡ぐ。彼等にとってこれは遊びだ。街を歩き、良い女を見付ければ声を掛け、嫌がるなら無理矢理ホテルに連れ込み、犯し尽くす。そしてその犯しているのを、この女生徒がカメラで撮りそれを高く売る。男達は性欲で満足し、金もたんまり入る。犯罪に片足どころか両足を突っ込んでいるのだが、彼等は何度も成功した為に、その味を噛み締めていた。だから、今回も何事もなく成功し、目の前の美少女を自分達で陵辱出来ると思っている。………誰に手を出したのか知らずに。
「ささ、中に入って」
「えぇ分かったわ」
そして彼等は部屋を開けて、桜に入るように促した。名前と同じ桜色の髪を翻して、彼女は開けられた部屋の中に足を踏み入れる。続いて男達も中に入って行った。そこで地獄が待っている事など思いもしないで。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「さぁ、ヤろうぜ。もう我慢出来ねぇよ」
中に入って開口一番に言ったのは、金髪の男だった。制服の上着を脱ぎ捨て、桜をベットの上に押し倒した。すると、彼女の両手と両足を別の男達が押さえ付ける。その光景を全て映すように、離れた位置に女生徒がビデオカメラを構えている。
「へへへ、今からあんたを
「…………」
押し倒した桜の服に手をかけ、脱がして行く。服がはだけ、肢体が露わになった。透き通る程の白い肌、瑞々しい肢体に彼等はゴクリと唾を飲み込んだ。そして豊満な胸に付けられているブラジャーに手を伸ばす。次の瞬間ーーー
ーーーボギッ‼︎
音が聞こえた。何かがへし折れるそんな音だ。発生源は、男の右手からだった。右手はあらぬ方向に折れ曲がり、骨が皮膚を突き破っていた。
「………え?」
呆然とした声は果たして誰が上げたものか。彼女以外の全員が驚愕から覚められないでいた。そんな時。
「い、痛いぃぃぃぃぃぃぃッッッ⁉︎」
「お、おい大丈夫か大ちゃん‼︎」
突然の事に麻痺していた痛みが返ってきて、余りの激痛に男は叫び声を上げる。それに連れの男が側に駆け寄る。腕に訪れる痛みに叫ぶ男とそれに騒ぐ彼等の耳にため息が聞こえた。別に大きな物ではないにも関わらず、ため息は室内に響いた。彼等はため息が聞こえた方に視線を向ける。そこには、服がはだけた美少女が一人。
「少し興味があったから、何もせずにジッとしてたのに。貴方さ、触るの下手すぎ。それと途轍もなく気持ち悪かったわ」
そう言って彼女は腕を薙いだ。瞬間。背後の空間に波紋が波打ち、腕が折れた男が吹き飛んだ。ドンッ‼︎ と何かが衝突した音と共に男は後方にまるで、ピンボールの如く飛んだ。目の前で見せられた超常現象に、彼等は暫く呆然としていたが、何が起きたのかを理解したと同時に少女に対して恐怖を抱いた。何が起きたのかは理解した。しかし、何をやってこう言う事が起きたのかは分からない。理解出来ない事に恐怖を抱くのが人間だ。
「ほらボーッとしてたら、死ぬわよ」
「…………ひっ⁉︎」
恐怖が募る彼等に続けて少女は、右手を頭上に掲げた。すると、先程と同様に空間に波紋が広がる。それに彼等は何が起きるか分からないが、自分の仲間が吹き飛んだ光景を思い出し小さな悲鳴を上げる。ここに居ては行けない。動かなければ、何かされる。胸中でそう思った男達は、部屋の外に逃げ出そうと走り出した。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ⁉︎」
「助けてぇぇぇぇぇぇぇぇッッッ⁉︎」
「あら? だけど逃がさないわよ」
走り出した彼等に彼女は、動けたんだと驚いたが、しかし逃がさないと言い指を弾いた。パチンッ‼︎ 小気味良い音が室内に鳴り響く。男達は部屋のドアの前に辿り着き、ドアノブに手を掛けて部屋から出ようとし、そこで視界が揺らいだ。次の瞬間。目の前に桜色の髪が映った。
「「…………え?」」
「ふふ、久しぶり」
間の抜けた声を出す彼等に、少女は見惚れる程の微笑を貼り付けて口にする。そして横に腕を薙いだ。次いで訪れるのは全身を揺さぶる衝撃だ。体が何かにぶつかったかのように吹き飛び、二人の男は部屋の壁に叩き付けられた。そして最後に残るのは女子学生一人である。
「……ぁ……ぁぁ………」
ペタンとその場に座りこみ、表情に恐怖の色を浮かばせる。そんな女生徒に桜色の髪を揺らしながら、彼女は言った。
「ねぇ」
「………ひっ⁉︎」
「その制服、私に頂戴」
笑顔と共に言われた言葉に、女生徒はブンブンと勢い良く頭を下げるのだった。
「よし、これで準備完了っと」
月美 桜は女生徒から手に入れた制服に着替え、街を歩いていた。目指す場所は超有名校であり、数々の令嬢や子息が通う学園。星稜学園である。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「………大きいわね」
月美 桜は目の前に建つ星稜学園を見上げて、感嘆な声を上げた。学園に行った事がない彼女は、初めて行くその学園の巨大さに驚いていた。頭の中で全ての学園はこれほどデカイのかと勘違いしてしまったが。誰もそんな事を指摘する者は近くに居ない。
「よし、入ろうかな」
余りの大きさに呆然としていた彼女だが、気を取り直して星稜学園の中に入る事にした。とはいえ、棟が違うとは言え、ここは令嬢や子息が通う場所だ。故に、警備も厳重である。たかがこの学園の制服を着ただけではバレてしまう。ならば、如何するか? 桜には簡単に入る事が出来る力があった。
「………開け」
右手を前に突き出した状態で、ポツリと呟いた。その次の瞬間。一瞬だけ彼女の体から魔力が噴き出し、魔術にへと現象が変わる。眼前の空間が揺らめき歪んでいく。すると、孔が開いた。何処までも暗く続く空間の孔。指定した場所に空間の孔を開けて移動する空間魔術『ゲート』である。転移魔術ではないが、それと似た芸当が出来る代物だ。彼女は躊躇なく孔の中にある暗闇に飛び込んだ。中は暗く周りを見る事は出来ない。しかし、桜は迷いがない足取りで前を進んで行く。すると、視線の先に一筋の光が見える。その光の先に足を進めると、彼女は星稜学園の屋上にへと辿り着いた。
「潜入成功っと」
誰も居ない事を確認し、空間の孔から出る。
「さて、何で遊ぼうかなぁ」
そして屋上から学園の中に入って行く。桜の顔には、何かがあるのを期待している笑みが浮かべられていた。
桜こと『メイビス』が暇つぶしの名目で学園に言っている間、菖蒲は影の中に潜みながら自分が欲しい情報を探していた。あの後、賀川に頭の中で思い浮かべたものを見せる投映魔術で、『神具』を扱う少年の顔を見せて貰ったのだ。彼女にはそれだけで十分だった。菖蒲の本業は暗殺と情報集めである。顔さえ分かれば、彼女にとって探すのは簡単だ。
(………ここの何処かに居るはず)
故に彼女は少年が在籍する学園を見付け侵入していた。絶対にこの学園の何処かに、その少年は居る、と確信を持ちながら。後は、ゆっくりと探せば良い。居場所が分かればこっちの物なのだ。見付けるのも時間の問題だろう。クスリと楽な仕事に彼女は笑みを浮かべる。だが、菖蒲も
影の中に潜りながら賀川に見せて貰った、少年の顔を思い出す。赤みがかった茶髪をした、何処にでも居る平凡な容姿をした少年だ。そんな少年がインド神話において最強と名高い帝釈天の神器を所有する。とても、信じられる事ではない。しかし、投映魔術で見せて貰った物が現実だと物語る。
(………少し話とかしてみたいかな)
脳裏に浮かぶ『メイビス』に申し訳ないと思いつつ、
少年と少女達の邂逅は近い。