徒然なる中・短編集(元おまけ集)   作:VISP

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IS転生 三組代表が逝く4

 さて、専用機を担当する企業だが…

 

 「一度皆さんの推す機体に試乗させてからにしてください。」

 

 灯のその一言で、取り敢えず各社の中で直ぐに試作機なり現在ある程度形になっている機体をIS学園に持っていく事になった。

 無論、難色を示した企業もいたのだが…

 

 「では今回はご縁が無かったと言う事で。」

 

 即行で切られてしまい、以後一切話を受け付けなくなりそうだったので、各企業は慌てて態度を翻した。

 何せ相手はかつて織斑千冬がそうであった様に、現在の日本国代表候補生筆頭なのだ。

 もし代表に就任せずとも、優秀なISライダーの卵と関係を持っていて悪い事は無い。

 その様な思惑もあって、結局は全ての企業がこのコンペに参加したのだが……その結果は散々なものだった。

 

 「死屍累々だな。」

 

 急遽開かれた国内IS産業参加企業による合同コンペは、なんと全滅と言う結果だった。

 

 「皆脆過ぎです。」

 「馬鹿者。お前がやり過ぎなんだ。」

 

 徐々に己の力の何たるかを把握しつつある灯にとって、現在のISは脆過ぎた。

 まぁ常人向けの機械に、いきなり人類外の身体能力持ちをぶっこめば、そりゃ内側からぶっ壊れるってもんである。

 

 「我が有澤の霧積であってもこれではな…。」

 

 現状、辛うじて原型を保っているのは有澤重工製の霧積のみだった。

 全身装甲による運動性の低下に対し、高い信頼性と堅牢性を持ち、高出力のロケットブースターで強引に動かす機体なのだが、それでも機体全体にガタが出る程であり、たった数十分の搭乗でオーバーホールを余儀なくされていた。

 

 「有澤さんは良いですよ。うちの迅雷なんて開始一分でお釈迦ですよ?」

 

 がっくりと肩を落としているのは桐山重工の社長の息子である英二だ。

 桐山重工が持ってきた迅雷は航空機開発メーカーの一角である事を生かし、脚部と腕部、それに非固定浮遊部位に安定翼兼推進翼としての機能を内蔵させた高機動仕様なのだが、如何せん華奢であったために即行で大破した。

 他にも同じ様に大破判定を受けた試作ISがゴロゴロ転がっており、豪和インスツルメンツ製の人工筋肉搭載モデル等は装甲も薄く、ご自慢の人工筋肉すら破断して、バラバラになっていたりもする。

 

 「反応速度はうちのを専用機化して漸くってレベルとか…完全に規格外ですねぇ…。」

 

 そう言うのはヤガミ重工の担当者だ。

 持ってきた新型の高機動型ISは専用のスーツと併せる事で真価を発揮し、極めて鋭敏な筋反応センサーと専用OSによる高い反応速度と運動性を併せ持つのだが、機体の強度は並程度であり、連続戦闘時の関節部の摩耗対策が不十分であった事からやはり大破してしまった。

 

 「あー、取り敢えずヤガミさんと桐山さんと有澤さん。分野は違えど凄い所があったので、第一次コンペは合格で。他の人はすみませんが、不合格と言う事で。」

 

 灯のその言葉に合格した三社以外はずーん…と暗い雰囲気が漂う。

 何せ自分達の御自慢の最新鋭試作ISがお釈迦になった上、現状日本代表候補生の筆頭格の専用機コンペに落ちたのだ。

 そりゃー国内企業としてのプライドはズタズタだろう。

 

 「質問よろしいかな?」

 「はいどうぞ。」

 

 そんな中、めげずに挙手したのは白衣を纏ったキサラギの社員だった。

 大出力ブースターを内蔵した高機動機体を持ってくるものの、やはり強度不足でぶっ壊れて落ち込んでいたのだが、何とか精神を立て直したらしい。

 

 「今後も試作機の作成時にこの様な機会を作ってもらっても良いでしょうか?」

 「んー…。」

 

 ちらりと灯が織斑教諭に視線を向けると、眉根を寄せたブリュンヒルデの姿が見えた。

 

 「先生、ここは許可すべきかと。」

 「理由を述べろ。」

 「他の生徒にも今後開発・量産される予定のISに触れる機会を与えるべきかと。」

 「むぅ…。」

 

 実際、現在のコンペにも多数の生徒が見学に来ており、整備課の中には携帯端末に何やら打ち込んでいる者もいれば、自身の推す機種について熱心に話し合う者もいる。

 

 撮影こそ禁止されているものの、気合の入った者なら擦り抜けてくるだろうし、各社もその上でコンペに合意していたので、その点は問題ない。

 まぁ全機壊されるとは思ってなかったが。

 

 「あー、取り敢えず暫くの間は打鉄乗りますんで、急いでどうにかしてください。」

 「了承した。我々が責任を持って君の専用機を完成させよう。」

 

 こうして、IS学園における第一回日本代表候補生筆頭の専用機コンペは企業側の大敗に終わったのだった。

 

 

 ……………

 

 

 『どう思う?』

 『現状の我が社の技術では短期間の実用化は無理ですね。』

 『うちもです。まさかあれ程とは…。』

 『流石はブリュンヒルデの再来と言われるだけはありますな。』

 『ならば…。』

 『えぇ、あの話、お受けします。』

 『我々4社による合同のIS開発ですか。また面白い事になりそうですな。』

 『とは言え、余り我を張ってはいられん。テロによる襲撃もあったばかりだ。最低限、先行試作型を早急に作成する必要があるだろう。』

 『多少不格好でも、彼女の動きに壊れずに済む機体。その運用データを取ってから、彼女の動きに追従できる機体を。』

 『その果てに、彼女に応えられるだけの機体を。』

 『胸が躍るな。この様な難題は実に久しい。』

 『技術屋としての腕がなりますな。』

 『では有澤さんは装甲とフレーム部分を。ヤガミさんはOSと駆動系を。うちは推進系を。キサラギさんは…』

 『それなら武装とFCS関連を担当しましょう。丁度面白いのが研究中でして。』

 『では…』

 『えぇ、4社でのIS共同開発計画、スタートです。』

 

 

 ……………

 

 

 「倉土、専用機が完成するまでは打鉄の改修機になるが良いな?」

 「それしか乗れないので、それでお願いします。」

 

 結局失敗したコンペの後、私は織斑先生から連絡を受けた。

 打鉄の改修機、とは言っても学園の整備課の教師と生徒、更に友人である簪らによる改修であり、そこまで大仰なものではない。

 量産型ISの専用化リミッターを解除して専用機化した上で、各関節部を最新の部材に変更する事で強度を30%UPし、OSを高機動戦向けにカスタマイズして反応速度を向上させている。

 とは言え、あくまで付け焼刃の改修に過ぎない。

 なので、全力の戦闘機動ではなく、それ以外の方面を暫くは鍛えていく事になるだろう。

 

 『………。』

 

 与えられた専用機の収納状態、Gショックに似た腕時計のそれを見る。

 先程から何かを訴えている様な気がするが、その内容を聞き取る事は出来ない。

 やはり、コアとの対話も必要か、と考えるが、方法が分からないのでは…。

 

 「話を聞け。」

 「っと。」

 

 風を斬って振るわれる出席簿を頭を傾けて回避する。

 当たればかなり痛そうなものに当たってやる義理は無い。

 

 「暫くは壊さん様に気を付けろ。それとこの書類に目を通し、全て記入しろ。」

 「うわお」

 

 渡された分厚い書類に口元が引きつる。

 これ、厚さだけでも30cm近くありません?

 

 「規則は規則だ。それ全てに目を通して記入しておけ。」

 「了解です。」

 「ISはどう言い繕った所で力だ。なら、厳正に管理せねばならん。」

 

 そう告げる織斑千冬の目には、複雑な感情があった。

 何せ目の前の少女こそが管理されぬ暴力によって全てを失い、また今もその暴力に縛られているのだから。

 未だ彼女をそうした勢力の調査は終わっていない。

 しかし、何れ尻尾を掴んでみせる。

 少なくとも、目の前の彼女が学園で保護できる内にケリをつける必要がある。

 それが、せめてもの償いだと千冬は思った。

 

 「先生?」

 「っと、すまんな。では来週中にラトロワか私に提出する様に。」

 「分かりました。では失礼します。」

 

 去って行く少女の背を、千冬はその場で見送る。

 その背が何故か年相応よりもか細く見えるのは、きっと単なる感傷だと知りながら。

 

 

 ……………

 

 

 「……………。」

 

 自室で座禅を組み、目を瞑り、精神を集中する。

 同居人は今現在部活で出払っており、一人静かに寮の一室瞑想を続ける。

 外界からの情報を遮断し、己の内側へと神経を集中する。

 自分は未だ弱く、装備でそれを補う事も今は無理だ。

 ならば、もう一つの自分の力を鍛えるべきだ。

 「ライダーになりたい」。

 それが自分のチートであり、範囲の広すぎるそれはランダムで転生する世界ごとに最適化されると言う。

 この世界におけるライダーとは、即ちISライダーとなる。

 では、どうやって最適だと判断しているのだ?

 それは恐らく、自分の認識を用いてだ。

 このIS世界における最も必要とされるのはISライダーだと、私が判断したからだ。

 そして、最高のISライダーとは誰かと言われると、それは織斑千冬に他ならない。

 つまり、今の自分は彼女並の適正と操縦技能を持っている事となる。

 無論、経験や彼女の持つ剣士としての技量は持っていないので、このまま戦った所で当然負けるのだが。

 しかし、自身をISライダーとして最適化しておきながら、自転車やスクーター、果てはセグウェイに乗っても他人よりも遥かに上手く扱えた。

 これは偏にFateにおけるライダーのクラススキルのお蔭であり、本来ならこの世界にないものだ。

 ならば、きっと出来るのだろう。

 

 あの仮面のヒーロー達の力を借りる事が。

 

 底へ、底へ、底へ。

 自身の中、前世の記憶でもなく、今世の記憶でもなく、その二つの間。

 あの名も知らぬ超越存在と出会った時の事、その直後の何も感じられない虚無。

 自身の存在すら曖昧な、自身の認識できない所で何かを加えられた時の事を。

 

 「………………ッ。」

 

 そして、目を開ける。

 その右手を前に伸ばし、意識を切り替える。

 同時、その右手が特撮の怪人の様に人間以外のものへと変質し、ものの数秒で昆虫や甲殻類の様な外骨格を備えたものへと変身した。

 

 「これが、仮面ライダー……。」

 

 その日、私は戦慄と興奮を抑えられず、殆ど眠れなかった。

 

 

 

 

 




そりゃ(子供の頃憧れたヒーローになれたんだから)そう(興奮して眠れなくもなる)よ。

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