徒然なる中・短編集(元おまけ集)   作:VISP

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転生モーさんが逝く 第四次聖杯戦争中編

 「夜分遅くに失礼。神父殿は居られるか?」

 

 合計6騎ものサーヴァントが一堂に会した後、間もなく夜明けという頃に、言峰教会に珍客がやってきた。

 

 「私が此処で神父をしている言峰です。キャスターのサーヴァント、とお見受けしますが?」

 「如何にも。この子の保護を頼みたい。」

 

 そう言って、竜種の骨のマスクをかぶったキャスターがその腕に抱えていた男児を示した。

 

 「その子は?」

 「私を召喚した者に両親を惨殺された。記憶は既に弄ったが、こちら側に関わってしまった以上、何がしかの縁が繋がった可能性もある。故に保護を頼む。」

 「はい分かりました。そう言う事でしたら、我々が責任を持ってお預かり致します。」

 

 言峰璃正は表向きの中立の役目から、同時に神父としてもこの子供に事情を知る誰かの保護が必要と判断した。

 

 「所で、キャスター殿のマスターは……。」

 「単なる連続殺人鬼だ。記憶処理の後、通報しておいた。」

 

 聖杯からの知識及び再日本人化したモーさんなら、その程度は楽々できる。

 今頃は家に警察が突入している頃だろう。

 

 「私は少々の野暮用を終えた後は消える予定だ。聖杯に用も無いしな。」

 

 ではな、とキャスターは軽い調子で夜明け近い冬木の街へと消えていった。

 

 「ふむ…一応知らせておくべきか…。」

 

 キャスターのサーヴァントは善性の存在で間違いない。

 しかし、その存在が確認された以上、璃正としては先代からの付き合いである時臣と息子の綺礼に知らせるのであった。

 

 

 ……………

 

 

 「が…きさ…。」

 「蟲が喋るな。」

 

 轟々と、間桐の修練場が燃えている。

 しかし、上の階には一切の炎も、蟲の一匹も出る事は無い。

 既にこの地はモードレッドの神殿と化し、例え齢200を超える間桐の怪物であろうとも、神代に匹敵する神秘の満ちる世界の裏側で1500年以上も戦士として魔術師として研鑚を積んだモーさんに勝てる道理は無かった。

 地脈の制御を乗っ取られ、自身の工房のある土地を一瞬で神殿化され、瞬く間に無力化された後、一匹も逃さずに灰になっていく。

 

 「さてと。」

 「……………。」

 

 蟲に集られていた目の死んだ幼女が、こちらに目を向けている。

 そこには何の意思もなく、このままではまともな意思疎通も出来ないだろう。

 

 「先ずはこれ飲みな。虫下しだ。」

 「………。」

 

 言われるままに少女は渡された指先程の小瓶の中身を飲み干す。

 さらりとした若草色の液体には苦みも甘味も無かった、後味だけは青臭かった。

 当然だ、これの原材料は世界の裏側にあるユーカリに似た木の葉。

 だが、似ているのは見た目だけでその毒性たるや中型の幻想種でも一口食べれば意識不明の重体に陥る程だ。

 この薬はそれを虫下し、対寄生虫用にしたものであり、その効果は開発されてからこっち、1000年以上改良を重ねて愛用され続けるモリグナのベストセラーな生活必需品として商標登録されている。

 

 「う!」

 「無理せず吐き出せ。」

 

 そして、幼女の背中を摩りつつ、その体内の全ての蟲が出ていくまでモーさんは付き添った。

 出てきた蟲は一匹残らず燃やしていき、やがて男性器の様な卑猥かつ一番大きな蟲が出た所で虫下しは終了した。

 

 『オノ…レ…サー……トフ…イ…ガ…。』

 「死ね。」

 

 こうして、間桐の怪物はあっさりと滅んだ。

 

 「うし、これでお前は大丈夫だ。取り敢えず身体洗って飯食うぞ。」

 「う……。」

 

 幼女が微かに頷いたのを確認したモーさんは、幼女を優しく抱えて灰しか残っていない地下空間を後にした。

 

 

 ……………

 

 

 間桐家と言えばワカメ親子であるが…この当時、慎二は既に余所に避難しており、間桐家長男である鶴野はと言うと……

 

 「聖杯戦争終わるまで余所行ってろ。」

 「ははははははいィィィィ!」

 

 そう言う事になった。

 なので、現在間桐家には虫おじさんことカリヤーンもいないので、幼女こと桜とキャスターのモーさん(母性増し増し)しかいない。

 で、今後の行動なのだが…

 

 (やっべ、後先考えてなかった。)

 

 モーさん、完全に勢いで行動していた。

 と言うのも、彼女は基本的に子供の味方である。

 子供を虐待して悦に浸ってる化け物がいたら、それは勿論一切の例外無く滅殺対象である。

 そして、自身を監視する蟲の視線に気づき、霊体化及び気配遮断により撒いた後、その蟲の魔術的ラインを辿って間桐邸へとやって来たのだ。

 そして、1500年ぶりに思い出した原作知識通りか確認した後、自身の宝具と魔術によって間桐邸を自身の工房と化し、地脈の契約すら上書きして殲滅戦…否、駆除活動を行ったのだ。

 これで冬木市民大量死のHFルートは完全に閉ざされたと言えよう。

 

 「ま、後から考えるか。」

 

 一先ずは風呂と食事、そしてこの子のためになる事をすべきだろう。

 

 

 ……………

 

 

 雁夜が間桐邸に一時帰還したのは、別に好き好んでのものではない。

 体内の蟲の活動が徐々に弱まっており、バーサーカーを運用するだけの魔力が足りないからだ。

 無論、先日の様に活発化すれば雁夜の寿命を益々削るだけだが、それとて必要ならば耐えられる。

 しかし、このまま蟲の活動が停止すれば、バーサーカーを維持する事が出来なくなる。

 故にこそ、雁夜は一時帰還を決断したのだ。

 

 (クソ…臓硯め、適当な仕事をしやがって…。)

 

 そして、何とか帰還した雁夜が目にしたものとは…

 

 「お姉さん、これで良い?」

 「お、そーそー上手いね。やっぱり薬味や色合いって大事だからね。」

 

 金髪の外国人美女と楽しそうに料理している桜ちゃんの姿だった。

 

 「あ、雁夜おじさん来たよ。」

 「ん?あらまぁ…。」

 

 その美女はあの少女のセイバーとよく似ており、あちらが清楚なのに対し、こちらはやたらと力強くも温かみがある。

 月並みだが、月と太陽の様な全く正反対の印象を受ける。

 

 「あ、あんた一体…」

 

 雁夜が問おうとする寸前、不意に目の前に黒い影が現れた。

 

 「■■■■■■■■■■■ーーーッ!!」

 「ば、バーサーカー!?」

 

 先程、散々暴れた末に撃退された黒騎士が再度出現し、いきなり目の前の女性へと飛び掛かったのだ。

 

 「■■■r■th■■―――!!」

 

 それを女性、キャスターは極寒の瞳で以て眺めていた。

 

 「誰と間違えてるか見当は付くがな…。」

 

 全身に魔力を走らせ、ステータスを一瞬のみ急上昇し、キャスターとは思えない程のステータスとなる。

 だが、それだけならかつて日中三倍の状態のガウェインを退けたこの黒騎士、ランスロットには脅威足り得ない。

 しかし、ここにいるのは当時のモーさんではない。

 1500年もの長きに渡り、影の国の女王や神霊を相手に(不本意だが)研鑚を積み上げたスーパーモーさんの経験を持っているのだ。

 何より、この目の前のド馬鹿に負けてやって良いと思う程、モーさんの心は広くない。

 

 「沈んどけ。」

 「」

 

 襲うために飛び掛かったのがまずかった。

 魔力放出や魔術のスキルを持たないNTR騎士では、空中での回避のしようがない。

 多少の身のこなしなら出来るが、良い鴨にしかならないのは原作にて証明済みだ。

 なので、この結果は必然だった。

 

 「うわぁ…。」

 

 キーンと、男なら誰でも竦み上がる様な音が、鋭い蹴り足の命中した箇所から聞こえた。

 直後、黒騎士はドシャリと股間を抑えながら地面に落ち、そのまま霊体化して消えていった。

 

 「あんたがこの子の言ってたおじさんか?オレはキャスターだ。取り敢えず飯食おうぜ。お粥位食えるだろ?」

 

 そう言ってキャスターは我が物顔で背後のキッチンを親指で示した。

 

 

 ……………

 

 

 「さーて、どう動くかねぇ…。」

 

 るんるんと夜の街を歩く。

 彼女にとって、英雄王位しか脅威足り得ない状況では聖杯戦争だろうと幻想種渦巻く樹海だろうとそう変わりない。

 厄介な仕事の3分の1は終わった。

 間桐家の蟲退治に雁夜と桜の治療。

 虫退治は即日で終わらせたし、治療もつい数時間前に完了した。

 とは言え、桜は兎も角、雁夜は寿命が後20年も無い程度なのだが…。

 裏側に行けば、もう少し良い素材や医薬品もあるのだが、こればかりは仕方ない。

 兎も角、これにより第五次聖杯戦争で大惨事が起こる確率は低くなった。   

 とは言え、当主を無くして衰退した間桐家に集ってくるハイエナの対策をしなければならないし、大聖杯に混入してしまったアンリマユの事もある。

 気を抜く事は出来ない。

 しかし、当面は聖杯戦争の推移に合わせて動くつもりだし、抑止力が頑張るべき案件なアンリマユに関しては余り干渉するつもりは無い。

 自分が過度に干渉して、英霊エミヤが生まれない様な事態はアラヤとしては最も避けたいだろう。

 となると、やり過ぎればこちらごと排除してきかねない。

 大筋に余り関係の無い事でしか、自分は干渉するつもりは無い。

 ブリテンを滅ぼす際にブリテン島を幻想種を解き放って無人状態にしたのも、態々偽の肉体を作って一度死んでみせたのも、世界にブリテンの歴史は正しく進行したと認識させるための偽装工作だ。

 もしあそこで下手にブリテン存続とかやったら、それこそ人理案件になっていただろう。

 滅んだと認識させる事で、裏側のこちらへと干渉する必要は無くなる。

 

 と、そんな事をつらつらと考えていると、不意に後方上空から神秘の気配がした。

 

 「おおう!こんな所に英霊とは…お主、キャスターか!?」

 

 戦車(+マスターの少年)に乗った征服王が現れた。

 

 「そう言うそちらはライダーか。何か用か?」

 「うむ!我が名は征服王イスカンダル!此度はライダーのクラスにて現界した!キャスターよ、その仮面の下にある叡智、余の下で生かす気は無いか!」

 「生憎と、冒険するよりぐだぐだやってる方が性に合っててね。そのお誘いは断らせてもらう。」

 「そうか……ダメかぁ……。」

 

 露骨にしょんぼりする征服王、そして背後でぎゃーすか喚いているウェイバー少年。

 うむ、実に良いコンビである。

 

 「お、そうだ。お主も付いて来んか?今からセイバーめの城で宴を開こうと思ってな!」

 「ほう、酒位は出るのか?」

 「無論!ほれ、此処にあるぞ。」

 

 そう言って戦車に積まれた樽を示す。

 すん、と香りを嗅げば、この時代のこの地域にしてはかなり上質な葡萄酒の香りを感じる。

 

 「王の宴に酒だけとは余りに寂しい。オレも参加するから、料理位は出してやるよ。」

 

 決して現世の味覚に引かれた訳ではない。

 だが、あの騎士王にもの申す事は山とあるし、奴が苦しむ様はマジ愉悦なので、ここは参加すべきだろう。

 

 「おお!では共に行くとしよう!」

 「応!」

 

 こうして、王達による聖杯問答に一人のイレギュラーが加わる事となった。

 

 

 

 

 

 

 

 




一応モーさんも王様(現在は象徴制、時折トラブルバスター)なので、参加資格あり〼

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