時間とは残酷に流れ続ける

人はそんな時間の流れに身を任せる

変わりようのない常識

ならば、人ならざる者は…

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死というものは曖昧で

「死ぬわ」

 

 

あっさりと、キッパリと。まるで息をするかの如く、彼女は言った。

 

本当に馬鹿げていると思う。自分の死に目を自分に見せたいだけなのか、自分がどれ程人気者かも知らないのか。呼ばれたのは、私だけ

 

 

「もうすぐ死ぬわ」

 

 

二度も言わなくていい

 

そう言っているのに言い続けるは、嫌がらせか。はたまたは、ボケでも始まっているのか

 

 

「失礼ね。年は食ったけど、ボケたつもりなんてないわ」

 

 

…あの、白くスベスベだった肌は今ではシワシワで。綺麗だった黒髪はもう白く。布団に横たわる彼女からは生気を感じない

 

悲しいことである。若い頃はライバルとして凌ぎあった。

彼女は強かった。才能の塊とも言える彼女は、地味な努力を続ける自分のような存在に喧嘩を売ってるとしか思えなかった

 

 

「ライバルはそっちが一方的にでしょ」

 

 

ライバルだと思っていたのは此方からの一方的だったらしい。年を取ると忘れっぽくていかんな

 

とはいえ、彼女は強さとその性格故に謎のカリスマがあって、知らぬ間に周りに人……が増えていた。彼女は忌々しそうだったが。満更でもなさそうなその顔を見て、少し妬いたものだった

 

懐かしい、過去の話である

 

 

「そうね…懐かしいわ。そう思えるのは、それほど時間が経ったってことかしら」

 

 

…聞いておきたいことがあった。彼女には友人もいたし、家族と呼べるものもいたし、育て親的存在もいた筈である。最後のは本人が否定しそうであるが。

何故、私なのか。人生最後の瞬間に、何故私だったのか

 

 

「…理由なんて、必要かしら?私は人生最後の瞬間にあなたと居たいと思っただけよ。ただの気紛れで、一瞬の気の迷いで、理由なんて、これっぽっちもありゃしないわ」

 

 

……照れ臭いな

 

そんな風に思われてるとは知らなかった。何十年と一緒に居たが、まさかお前からそんな言葉聞けるとは思わなかった。以外過ぎて笑いそうなぐらいだぜ

 

 

「うっさい。あんたこそ、口調がちょっと戻ってるわよ」

 

 

おっと、ぜをと付けるのは卒業した筈だったんだがな。お前の前だからかな?

 

 

「言ってて恥ずかしくない?」

 

 

お前程ではないよ。お前はどうしようもなくお前だからな。死ぬ間際までそんな性格とは、私としても驚きだ

 

 

「いいじゃない。最後まで私だったってことで…」

 

 

少し、語尾が弱まった気がする。さらに生気を感じなくなっていく彼女に、私は語りかける。

最近どう?と、世間話のように、死ぬ間際の人間に話す話題ではないな、自分でも内心笑いながら

 

 

「最悪よ、最悪最低。生きた心地がしないわ…」

 

 

そりゃそうだ、死ぬ間際なんだもの。自分でも笑いが込み上げる。

 

…おかしいな、ちっとも笑えやしない。寧ろ目の前がモザイクが掛かったみたいだ

 

 

「泣いてんの…?アハハ、死に目に泣いてもらえるなんて、私は幸せね…」

 

 

もう、目は閉じかけだった。動いているのは口だけ、さっきまで口論していた奴とは思えない

 

 

「━━━ねぇ、魔理沙」

 

 

私はビクッ、と体を震わせた。彼女が久しぶりに私の名前を呼んだ。本当に久しぶりだった、数年…下手すると十年以上…もっとかと思う程久しぶりに名前を呼ばれた。何故か無性に照れ臭くなって、ちょっと焦ったように私も返す

 

 

「どうした、霊夢」

 

 

『霊夢』そう、霊夢。それが彼女の名前。

 

ライバルとして、よき隣人として、友人として、知り合いとして、親友として、戦友として、私の数十年共にいた彼女の名前

 

 

「あなたは…100年なんて簡単に過ごすのでしょうね」

 

 

人だった頃からすれば長い時間だ、100年。今となっては、どれ程価値のあるものかも曖昧だが

 

 

「━━━ふん。100年後ね、私は生まれ変わってる…かしら…」

 

 

わからん。あの閻魔次第だな

 

地獄という可能性もなきにしもあらずだが。彼女の魂がそのままというのも考えづらい。あの賢者や閻魔が何かしそうである

 

 

「あんたにあげてもいいけどね、私の魂…」

 

 

嬉しい提案だが、私にお前の魂を扱いきれる気がしない

 

……まぁでも、お前がこんど生まれ変わった時、その時も知り合いでいられるように、魂に目印でもつけてやろうか?それぐらいなら私でも可能だ

 

 

「勝手に、やればいいわ…死人に口無しよ…」

 

 

ならば勝手にさせてもらう。もとより聞く気なんてないしな

 

 

「━━━ねぇ、魔法使い」

 

 

「なんだ、人間」

 

 

「…………おやすみ」

 

 

唐突だった、急激だった、突然のことだった。人とは突然に死ぬ。彼女も例外にあらず、気がつけば死ぬ

 

わかっていたことで、決まっていたこと。しかし、あっさりと、あっけなく彼女は死んだ

 

 

「……」

 

 

不思議なものだ、人間も止めても涙は失われなかったようだ。それとも、彼女が死んだからか。涙とは、こんなにも簡単に流れるのだ。久しく、流していなかった

 

 

私は、あいつのことが、好きだった。それだけが、涙と一緒にわかったことだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

━━━━━

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

視界の向こうで、小さい黒髪の子供が遊んでいる。赤い大きなリボンの可愛い女の子

 

私はそれを見て、静かに家へと帰った

 

 

 

彼女とまた、友人になれる日を楽しみにして。


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