「と、いうわけなんです!箒の奴は剣の鍛錬ばかりで全然ISのこと教えてくれないし、クリス先生だけが頼りなんです。だから……!」
「………」
「俺にっ、IS操縦の基礎だけでも教えてください!セシリアとの勝負は明日なんですっ!!」
「お前バカだろ」
新年度が始まって最初の日曜日
学校が休みと言うことで一日を整備室で過ごそうと思っていたクリスは、やたら焦った様子の一夏に捕まっていた
「だいたい、セシリアってイギリス代表候補生の、セシリア・オルコットのことだろ?何でまたそんな展開になったんだよ?」
「それは、その」
代表候補生
読んで字の如く、国家代表の候補生。詰まるところのエリートのこと
早い段階からISに関しての知識、操縦技術を身に付け、その技量は並の生徒よりも数歩先を進む、その更に一握りのまさしく選ばれた者をそう指す
「俺と同じ、今年に入ってIS動かしたお前が、専用機があるっつっても勝負になると思うか?」
「で、でも、今更撤回なんて!」
「男だから、か?」
「っ!」
「そんな理由で安請け合い、そしてそんなんでどうにかなるほど現実もISも甘かねぇ。ここにいて、代表候補生に喧嘩売った以上、素人だとかそういうのは通じねぇよ」
「………」
正論
ぐうの音も出ないほどに叩き伏せられ、一夏は改めて現実を見た
「……でも、まぁ」
「………?」
「その若さは嫌いじゃない」
「そ、それじゃ……」
「だが、俺に教えられるのは知識までだ」
「えっ」
「当たり前だろ。俺は一応教師だ。生徒一人のためにアリーナの開放、指導なんて他の奴らに示しがつかない」
「あ……そう、ですね」
「その代わり、基本的なことから応用編まで幅広く教えてやる。お前のやる気次第でどうにか出来るほどにはな」
「あっ、ありがとうございます!」
「んじゃとっとと行くぞ。時間が惜しい」
「はいっ!」
◇◆◇
「あっ、クリス先生!どこに行ってたんですか!?」
「今日は整備科に講義してくれるって約束だったのに!」
「悪ぃ、急用だ」
「そ、それって隣にいる織斑君と関係が!?」
「めんどくせぇ……急ぐぞ」
「アッハイ」
迫り来る整備科の振り切って、二人はクリス(と真耶)の部屋に入る
「し、失礼しまーす」
「生憎山田先生と相部屋なんでな、落ち着かないかもしれんが耐えろ。ほれ、始めるぞ」
「はっ、はい!」
「………」
「……理解できたこと……いや、質問は?」
「………」
「……死んでる、か。まぁこれまで意識もしてなかったことだからな」
無理も無い、と言って、机に突っ伏す一夏の肩を軽く叩く
「何か摘めるもんでも貰ってくる。少し休んでろ」
「……ぁぃ」
「こりゃ重傷だな」
パンク寸前の頭でも何とか返事をする一夏に苦笑しつつ、部屋を出る
そして、食堂に向かう道中
「ん?」
「あら」
件の代表候補生、セシリア・オルコットが向かい側から歩いてきていた
「こんにちは、オーランド先生」
「あぁ、こんにちは。……というか、俺の名前は覚えてくれてるんだな」
「クラスは違えど先生ですから。それに、世界中で先生と織斑一夏の名を知らない者などおりませんよ?」
「さいですか」
「……では、わたくしはこれで」
一礼し、クリスの横を通るセシリア
その最中に向けられた、どことない軽蔑の視線
だから、問う
「織斑一夏をどう思う?決闘するって聞いたけど」
「敵ではありませんわ、あんな男。口だけです」
「手厳しいねぇ」
「所詮は素人、男などという情けない性別に生まれたこと自体があの男にとっての不幸、わたくしと『ブルー・ティアーズ』が完膚無きまでに蹂躙してみせます」
───あ、この子おばかさんだ
───そうなのか?傲慢で高圧的だとは思うがそう言うのとはまた別な気が
(自分から聞いてもいないのに機体名開かすって時点で、な。余程の自信があるのか、プリンセスの言うとおりバカなのか……いや、これは前者だな)
「……そうか」
「はい」
「……それで」
「?」
「その「男は情けない」ってのは俺にも適用されるって解釈でいいのかな?」
「……それは」
「……いや、意地が悪かったな。すまん」
「いえ……」
「すまん、最後にもう一つだけ」
「何でしょう?」
立ち去ろうとしたセシリアを呼び止める
その表情には目に見えて苛立ちが感じられた
「お前にとってISとは何だ?お前は、何のためにISに乗っている?」
「───」
一瞬だけ眼を見開いたセシリア
すぐに顔を伏せ、呟いた
「……守る、絆を守るための、手段ですわ」
そう言い、セシリアは足早に立ち去った
今回は、彼女の機体の声は聞こえなかった
「お待たせー……お?」
「ブツブツ……」
「………」
部屋に戻ったクリスが見たのは、机にかじりついて先程教わった箇所を必死に頭に詰め込む一夏の姿
それに小さく噴き出し、その傍らにおにぎりを乗せた皿を置く
「ほれ」
「あ、どうも……」
「順調か?ってか、休んでろって言ったはずだ」
「すみません……でも、今は一分一秒も惜しいですから……」
「……そうか。なら、これでも腹に詰めとけ。幸いなことに、オルコットの機体もわかった」
「本当ですか!?」
「反則スレスレもいいとこだがな。ほれ、続けるぞ」
「はいっ!」
◇◆◇
「せんせ~」
「ん?布仏本音……だったか?どうした?」
「おねがいがあるんですけど~」
一夏への個人授業を終えた夕刻
廊下を歩くクリスを、一年一組の布仏本音が呼び止めた
「……言ってみろ」
「かんちゃんのISのかいはつが、けんきゅーじょのほうでちゅーしになっちゃって……」
「かんちゃん?って、それより研究所が開発を中止しただぁ!?何だってまた!」
「んーと、んーと………たしか、おりむーのISをつくるためー、とかなんとか~」
「おりむー……織斑、一夏?」
「はい……」
世界初の男性IS操縦者、織斑千冬の弟、上げればネームバリューならほいほい出てくる、が……
───いくら何でも優遇されすぎじゃない?
───一週間足らずで専用機持ち、しかも代表候補生に見合う実力は彼には無い。……確かに、異常だ
「……事情はわかった。俺に、その子のIS開発を手伝えってことだな?」
コクリ、と頷く本音
普段のぼんやりのほほんとした雰囲気は鳴りを潜め、その表情は恐らくは大切な友人なのであろう少女のことを思っていることが伝わってきた
「……いいぜ」
「ふぇ?」
「教師が個人に肩入れするなんてルール違反もいいとこだが、本来やるはずだった研究所にすっぽかされたんだ。技術屋としては放っておけねぇ」
「せんせー……」
「それに、今まで専用機の開発なんぞやったことが無かったからな。腕が鳴るってもんだ」
「……ありがと~!」
曇った表情から一転、何故か着ていた着ぐるみの耳がピコピコ跳ねる(ように見える)ほどに本音がはしゃぐ
「んで、その子はどこに?」
「せーびしつのだいにはんがー」
「よっしゃダッシュだ!」
「おー!!」
「お断りします」
「」
「かんちゃ~ん」
開口一番玉砕だった
本音を連れて向かった、整備室第2ハンガー
そこにいた水色の髪をISのヘッドパーツで装飾した少女……一年四組、更識簪
感情の少ない表情で、膝から崩れ落ちたクリスを見下ろしていた
「な、なにゆえ……?」
「……オーランド先生が、ISに関して飛び抜けてすごいっていうのは、これまででわかって、ます。整備の腕も、実家が研究所だっていうのが本当なんだっていうのも、データを盗むつもりとかが無いのも、わかってます」
「だ、だったら……」
「でも」
「これは、私が一人でやらなくちゃいけないことだから」
「………」
「だから、ごめんなさい……先生や本音の気持ちは嬉しいけど、遠慮します」
◇◆◇
(まずったかなぁ)
「あ、あの、オーランド先生?元気無い様ですけれど……」
「んー」
「ば、晩ご飯まだでしたよね?もしよかったら、ご一緒に、なんて……」
「んー」
「あうぅ……」
「んー」
「ぶっ、ブルー・ティアーズの性能、及び戦闘法、対処法は!?」
「ビットを射出しての広域攻撃。多対一における高い空間把握、認識能力が無ければまともに扱えないイギリスを代表する機体。ビット使用中は操縦者がほぼほぼ無防備になるけどそれを扱える奴ならスターライトmkⅢで嬲り殺し。懐に飛び込まれても近接武装のインターセプターや腰のミサイルで迎撃できる。近接型ならビットを撃ち落としつつ接近、そこまで高い接近戦技能は持ち合わせないからインターセプターは驚異じゃないしミサイルだって出だしで止めれば無問題、つまりそういうこと。遠距離からなら、分が悪いけど同じくビットの破壊を最優先。武装にもよるけど広範囲を狙ってくるブルー・ティアーズに撃ち合いなんて愚策もいいところだからまずそれから。ビット破壊したらどうやって機動力もある機体を撃ち落とすか。要は操縦者同士の腕がものを言うな。あとは」
「じ、十分です!ほら、夕食の時間ですよ!」
「勝てよー織斑ー」
真耶に腕を極められ、食堂に引っ張られていくクリス
簪に協力することを断られたのは、存外ショックだった模様
───ビョーキだね
───クリス………
簪ちゃんあっさりさせすぎかしら?