『結局、箒は教えてくれなかったな、ISについて』
『………』
『眼を逸らすな』
『し、仕方がないだろう。腑抜けになっていたお前が悪いっ』
『へいへい』
『だ、だいたい!昨日は鍛錬をサボってどこに行っていたのだ!』
『クリス先生に色々教わってたんだよ。誰かさんが剣道しか教えてくれなかったから』
『く、クリス……?』
『そ。クリス・オーランド先生。俺の次にISを動かした男の先生で、四組の副担任やってる人。いやー、助かったぜ。教え方上手いから色々覚えられたしセシリアの機体のことだって教えてくれふげぅっ』
『お、お前という奴は!お、女の私よりも男の教師を選んだというのか!私がどんな思いでいたかも知らないでぇ……!』
『待て待て落ち着け箒!』
『問答無用だ!その歪んだ性癖、今ここで矯正してくれるっ!!』
『何でそうなるんだよぉっ!!』
ピッ
「……さて。個人への肩入れはまぁ許そう、無知なままの織斑ではもっと無様にやられていただろうからな。だが、専用機の詳細データまで明かしたのは見過ごせん。……言い訳を聞こうか、オーランド先生」
「反省も後悔もしてません」キリッ
「山田先生、そこの石畳を持ってきてくれ」
「はっ、はい!」
「なんでさ」
ズドン
結果から言って、一夏は敗北した
理由は単純、エネルギー切れ
クリスの授業で得た知識とブルー・ティアーズのデータ、セシリアの戦術
その全てを纏め上げて準備を終えて出陣したまではよかったが、如何せんシミュレーションと実戦は違うもの
何とか攻撃をかい潜り、避け続け、一次移行したものの、発現した
「……ごめん、クリス先生。せっかく色々教えてくれたのに……」
「気にすんな。昨日も言ったが、素人が代表候補生とまともな勝負できるってこと自体珍しい……ってか、ほとんど無ぇからな」
「先生……」
「それよりも拷問喰らってる人間の前で平然としていられるお前らの正気を俺は疑うね……!」
「山田先生、もう一枚だ」
「ごっ、ごめんなさいオーランド先生!」
「Shit!!」
石畳と一夏の隣に立つ篠ノ之箒から向けられる親の仇を見るような視線に晒され針の筵状態だった
◇◆◇
「開発手伝わせてくださいオナシャス!」
「!?」
授業の合間の休み時間
一人でディスプレイと睨めっこしていた更識簪に、綺麗な角度でクリスが頭を下げていた
「え、なに?」
「クリス先生が頭下げてる!?」
「何してるのかしら更識さん……」
「ちょ、やめ、やめて、くださ……」
「いーややめない!はいかYesかjaかдa以外認めない!
」
「そ、外、廊下に……!」
顔を真っ赤にした簪に引っ張られ、廊下に連れ出される
「き、昨日も言いましたけど、わたし、一人で……」
「でも昨日見た感じだと、あのままじゃ年度末まで間に合うかってレベルだったぞ?」
「っ……」
「何か事情があるみたいだから深入りするつもりは無いけどよ。意固地になってどうするよ」
「……でも、やらなきゃいけない、から。そうしないと、私……」
「ふむ……思春期の女子ってのは複雑だねぇ」
俯いて、震えながら話す簪
確かに自分のやっていることはお節介、大きなお世話なのだという自覚は、クリスにもある
「ま、そんなことは今はいい」
「そんな、こと……!?」
「……悪い。本人にとっては大事なことだよな」
「……何も」
「え?」
「何も、知らないくせに、適当なこと……!」
「おう、知らん。でも事情は知らんが現状は知ってる」
顔を上げ、怒りに満ちた簪の表情を見ても、クリスは揺らがない
譲れないものなら、こちらにもあるのだから
「せ、先生が個人に肩入れして、おかしいと思わないんですか……!?」
「技術屋として話してるんだがな。言い方が悪いかもしれんが、俺ぁ別にお前さんのためなんて一言も言ってねぇ」
「え……?」
「意地になってる操縦者のせいでいつ飛べるかわからないIS……不憫すぎる。俺が飛ばしてやりたいのはあくまでISだ」
次の授業の時間が迫っているせいか、廊下に他の人影が見えなかったのが幸だった
クリスの発言は、教師にあるまじきもの
根っこが技術屋であると、如実に表した言葉だった
「お前にとって、そこまで意地になる理由はよっぽど大事なんだろうよ。けど」
「っ……!」
聞きたくないと言わんばかりに、簪は教室に駆け込んだ
「……やっちまったぁ」
とりあえず、戒めと言わんばかりに自分で自分を殴っといた
◇◆◇
それから少し時は流れ
毎年恒例、クラス対抗戦の日がやってきた
聞いた話では、織斑一夏は二組に転校してきた中国の代表候補生と一悶着あったらしくそれに関する相談も持ちかけてきたが、とりあえず一蹴
織斑千冬と山田真耶、他の教師陣が見守る中、四組のクリスとトリッシュだけは校外の警邏を行っていた
「本当に、こんなことする必要が?」
「万が一、ってのもあるからな。ここは国家の干渉は受けないけど、逆に言っちまえば、テロリストだとかそういう国に帰属しない奴らは好きに出来るってことにもなる」
「なるほど……」
言葉を交わしながら周囲を警戒する二人
クリスもオメガ・プリンセスのハイパーセンサーの索敵をフルに使い、細心の注意を払いながら歩を進めている
「……そういえば。最近更識さんと何かありました?」
「……あー、それな。ちょっと不用意に踏み込みすぎちまった」
「踏み込んだ?」
「あぁ。白式……織斑の専用機の方にかかりきりになって、倉持技研が更識の専用機開発を中断しちまったって聞いてな。どうにか出来ないかと思って申し出てみたんだが……」
「言い方でもまずかったんですか?」
「まぁな。教師としてじゃなく技術屋としてならワンチャンあるかと思ったんだけど」
「バカな人」
「仰る通りで……」
以前の整備室でのやり取り以来、どことなくトリッシュは優しくなった……ようにクリスは思う
というよりも、ちょっと近い
物理的にも精神的にも
「まぁでも、下手に取り繕うよりいくらかマシかと。本音で生徒にぶつかれる教師なんて、今や希少ですから」
「さいですか……」
出会ってそれなりに時間が経つ二人
同じクラスを受け持つようになってから、互いに研鑽してきた時間は、ある種の絆を生んでいた
そして、その時間は終わりを迎える
───クリス、十時の方向!
───これは……!
「IS、反応……!?」
「え……?」
オメガ・プリンセスの声に、その方角を向く
ハイパーセンサーが捉えた視界には、高速で飛来する何かが映し出されていた
───■■■■■■■
「ぐっ!?」
雑音とも呼べる不快なノイズ
クリスの耳に飛び込んできたそれは、その何かの声なのだと、直感で理解した
「オーランド先生!?」
「……ラーゼリア先生。至急、学園に通達。襲撃だ」
「え、でも、貴方は?」
「着く前に落とす!行くぞ、プリンセス!」
───了解!
───久しぶりの戦闘だ。やれるか、二人とも?
───当たり前!
「来い!」
駆け出しながら、クリスは専用機……オメガ・プリンセスを起動
全身をその白い装甲に包み、一気に飛び立った
「……いた!」
───目標、目視!
「止まれっ」
正体不明の何かの前に立ちはだかる
それは、ISと呼べるかも怪しいほどの何か
かつて戦った漆黒のIS……アルファモンとは似ても似つかぬ鉄塊だった
「ここはIS学園の領内だ。所属、国籍、目的を言え。じゃなけりゃ……落とす」
それへの返答は……アリーナへ向けての、砲撃だった
「テメェ!!」
放たれた一撃はアリーナを覆うシールドを呆気なく破壊
それを横目でみやりつつ、クリスはその鉄塊を押し出していく
「上等だテメェ……五体満足で帰れると思うなよ!」
左腕の長剣を掲げながら、クリスはそれに向かって吶喊した