「ああ、いたいた。ラウラ・ボーデヴィッヒ、だよな?」
「?」
ある日の昼下がり
クリスは庭を歩くラウラを追っていた
「……オーランド教諭、でしたか。私に何か?」
「いんや。ちょっと聞いたんだけど、おたくドイツ軍人なんだよな?」
「そうですが」
「……クラリッサ・ハルフォーフって名前に心当たり無いか?」
「……ハルフォーフ大尉をご存知で?」
「まぁ、ちょっとな。んで?」
「……ええ。確かに、彼女は私の部下です」
部下
言葉にすれば簡単だが、どこか他人行儀なニュアンスをクリスは感じていた
「そうか。……今、連絡って取れるか?」
「可能だと思いますが」
「……悪いけど、頼める?」
「何故?」
「何故って……」
「旧知の仲だというなら、ご自分で取ればよろしいかと。では」
「いやあのちょっ……」
踵を返し、足早に立ち去ったラウラ
「……今の連絡先知らねぇよ」
◇◆◇
「……うし、ひとまずはこれで大丈夫だ」
───ありがと、クリス
───思っていた以上の早さだな。これも偏に、整備科の子達のおかげ、というわけだ
「まったくだ。こりゃ何か奢ってやらねぇとな」
放課後
いつものように職務を終え、整備室にてオメガ・プリンセスの修理をするクリス
熱心に行った甲斐あってか大詰めを迎えたその修理
そして……
「先生ー!ちょっとこっち来てー!」
「はいよー!悪ぃ、ちょっと行ってくる」
───いってらっしゃーい
「どうした……おお!」
「じゃーん!これがかんちゃんの専用機、「打鉄弐式」で~す!」
鎮座する一機のIS
かねてから開発、整備が進められていた、簪の機体、打鉄弐式
「なんとか形になったなぁ」
「はい……でも、まだ他にも色々やること、あります」
「だな。むしろ、ここからが本番だ」
開発を始めてから数週間
その過程で得た経験は大きく、整備科の生徒達との絆もまた大きくなっていた
「……先生」
「……ん?」
「ありがとう、ございます」
「別に。気にすんな。こっちも下心ぐらいはあったしな」
「………」
「……なんだよ」
「い、いえ」
「さて、と。今日はここまでにしとくか。続きはまた明日な」
「あ、はい」
「ほーれ、片付け始めて解散だー」
『『『はーいっ』』』
「……待たせたな」
───これで、また一緒に飛べるね
───待っていたぞ、クリス
整備室を片付け、寮へと戻る一行
そんな中、簪はふとクリスに声をかける
「……先生」
「ん?」
「ISを整備したりしてる時、何だか遠くを見てるような……」
「……あー、それな。いや、気にすんな。たぶん信じられないから」
「そんな、こと」
「あまりにも現実離れてるからな。その内な」
「……はい」
機械の声が聴こえるなどと、父親以外は誰も知らない
信じてさえくれなかった
………そう、ナターシャにすら、伝えていないこと
クリスは、ただ怖かった
それまで積み上げてきた絆が、不用意な一言で崩れ去ってしまうことが
◇◆◇
「……更識さんの機体の方はどうです?」
「は?」
翌日の昼休み前
そんな声を、トリッシュがかけてきた
「ナンノ、コトヤラ」
「ふふっ。隠さなくても。別に脅す気なんてありませんよ」
「……さいですか」
「……放っておけないんでしょう?あの機体」
「いや、まぁ」
「……昼食の時間ですね。どうします?たまには一緒に……」
「あっ、あの、オーランド先生!」
「山田先生?」
「あら……」
トリッシュと廊下を歩く中、不意に後ろから真耶が声をかける
「あっ、あの、オーランド先生。よろしければ、その、ご一緒にお昼ご飯でも……」
「あー、いや、遠慮し」
「いいんじゃないんですか?たまには」
「えっ」
「私は別の場所で取りますから、
「ちょ、あの」
「す、すみませんラーゼリア先生!さっ、行きましょう!」
「ひ、引っ張らんでも……!」
手を掴まれ、予想を遥かに越える力で引きずられていくクリス
そんな二人を微笑と共に見送るトリッシュだった
「あ゛ー。うまかったよ?うまかったけど量が……」
「ご、ごめんなさい……手料理なんて初めてでしたし……」
「……その相手、俺でよかったんですか?」
「はっ、はい」
「………」
「……な、何か言ってください……」
「いや、その」
変に勘ぐってしまう
心当たりなど無い、そもそも同室ということ以外、そこまで交流も無いはず
「……じゃ、俺こっちなんで」
「あ、はい。では、失礼しますね……く、クリスさんっ」
「えっ」
そう言って走り去る真耶
途中でコケたりしていた
「……マジで?」
疑問は確信に変わってしまった
クリス・オーランド
どこかの朴念仁ほど鈍くはなかった模様
◇◆◇
「さて、と。調子はどうだ、プリンセス?」
───すこぶる良好。この間までの損傷が嘘みたい
───やはり、本職の人間は違うな
明くる日の放課後
完全、とは言えないまでも復調を果たしたオメガ・プリンセスを首から提げているクリス
プリンセス、そしてオメガモンと言葉を交わしながら廊下を歩く
「まぁな。うし、打鉄弐式の方も残すはPICと武装と稼働試験……ん?」
整備室までの道を歩いていると、ふとアリーナが目に入ってきた
「……なんだ?プリンセス、ちょっと」
───あ、うん
視界限定でハイパーセンサーを起動
土煙が上がっているそこを凝視する
「……あれは!?」
───確か、ドイツの第三世代!?
───相手は、凰鈴音とセシリア・オルコットか!
「何やってんだアイツ等……模擬戦、訓練にしたってマジすぎだろう!」
窓を開け、身を乗り出した時、アリーナのシールドが斬り裂かれたように見えた
「零落白夜……織斑か!」
───クリス!
「しんどいリハビリになりそうだ、やれるか!?」
欄干に足をかけ、一気に飛び立とうとした時
「先、生?」
「!?」
かけられた突然の声に振り向く
そこにいたのは、信じられないものを見た表情の、更識簪
「っと、更識か……悪い、今ちょっと急いで」
「今、誰と話してたん、ですか……?」
「えっ……」
「聞き間違い、とかじゃ、ない。確かに、先生、誰かと……「誰もいないのに、誰かと話して」ました、よね?」
(聞か、れた……?)
痛恨のミスだと、そう感じた
簪の態度や性格を見るに、きっと誤魔化すことは無理だろう
だが
(言ってどうすんだよ、こんなの)
俺、機械の声が聴こえるんだよね
などと軽々しく言えるわけがない
「……先生?」
「っ……気のせいだっ!!」
逃げるように……窓から飛び出し、そのままISを展開
アリーナに向けて一直線に、逃げ出した
「あっ……」
「やはり敵ではないな。この私とシュヴァルツェア・レーゲンの前では、貴様も有象無象の一つでしかない……消えろ」
「ぐっ……!」
「ストップだそこのドイツ娘!」
「!?」
「クリス先生!?」
ラウラ・ボーデヴィッヒの駆る、シュヴァルツェア・レーゲンの前で硬直していた一夏
そこに放たれようとしていた一撃を、その前にクリスが割って入って止めることに成功した
「……どいてもらおう」
「悪いな、ただの模擬戦なら止めはしなかったが……」
そこまで言って、アリーナの壁にもたれかかる鈴音とセシリア……中破した、ISを見やる
「……アリーナのシールドまで壊されたんだ。それに……やりすぎだ」
「甘いな。弱い奴が淘汰される、世の常だ」
「……ラウラ・ボーデヴィッヒ」
「なんだ?」
「お前にとって、ISとは何だ?お前は、何のためにISに乗っている?」
一夏達専用機持ちにも投げかけたその問
ISがただの兵器、道具ではないと信じるクリスの信念の一つ
「何を言うかと思えば……」
その問に返ってきたのは、見下したような嘲笑と
「ISなど単なる兵器、人に使われる道具にすぎない。何のために、という問については、答える気はない」
「───」
その言葉
今まで溜め込んできた苛立ちの一部が、鎌首を擡げてクリスの脳を支配する
「……なるほど」
「わかったならさっさと」
「決定だ、お前はシバく」
「……は?」
「矯正……いや、修正してやるよ、ラウラ・ボーデヴィッヒ」
「ちょっ、クリス先生……」
「下がれ織斑、邪魔だ」
「面白い……二人目の男のIS操縦者……そこの愚図よりは楽しませてくれるだろうな?」
「口を開くな、閉じてろ」