The Black α&White Ω   作:オパール

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速くも四名の方がアンケートにご意見を寄せてくれました
まだまだ募集中ですので、他の方もよろしければ

さて、今回新たにロイヤルナイツが取り憑いた機体が登場します(本人が出るとは言ってない)


Lose Heart ─消沈─

パァン

と、掌が頬を打つ乾いた音が響く

直後に同じ音が響き、それを果たした少女の瞳からは大粒の涙がボロボロと零れ落ちていた

 

手を振り抜いたのは、更識簪

頬を打たれたのは、織斑一夏と篠ノ之箒

 

「あなた、達……あなた達のせいで……!」

「………」

「……俺、は」

 

箒は茫然自失といった表情でへたりこみ、一夏は動揺を隠しきれない面持ちで立ち尽くしていた

 

オメガ・プリンセス撃墜

 

それが、陸に引き上げられた二人に伝えられた事実だった

海面に叩きつけられたショックでしばし意識を失っていた二人が気が付いた時には、既に陸の上

直後にその場に来ていた千冬により伝えられたそれに、一夏は自身の不甲斐なさを、箒は自分の不注意と慢心が招いた結果をどこか他人事のように呪っていた

 

そんな二人を責めるものは、誰もいなかった

ただ一人、クリスを慕う簪を除いて

 

「一緒にいたのに……どうして?どうしてクリス先生だけが戻ってきてないの……!?」

「………」

「………」

「……!」

「そこまでにしておけ、更識」

 

何も言わない二人を更に張ろうとした簪を、千冬が制止する

 

「……作戦は失敗。オーランド先生の探索と救助にはラーゼリア先生が向かった。生徒全員は直ちに旅館に戻れ。待機命令は継続する。……以上だ」

 

抑揚の無い声でそう告げ、千冬は去っていった

それに続いて他の生徒や教員達も、列をなして立ち去っていく

 

「……許さない」

「え……?」

「このまま……このまま、クリス先生が帰って来なかったら……あなた達を、一生許さないから……!」

 

瞳に込められた憎悪を、隠すことなく一夏と箒に向ける簪

それに気圧された一夏と未だ座り込んだままの箒を残し、本音に手を引かれながら簪もその場を去っていった

 

「……箒」

「………」

「俺達も、行こう……」

 

言葉が届いているのかもわからない、そんな箒の肩を抱え、一夏は先を進む一同の後に続く

 

(先生……!)

 

知らぬ内に頬を流れ落ちる涙を、一夏は拭うこともせずに歩みを進める

 

そんな彼を、セシリア達専用機持ちは不安げに見つめていた

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

オメガ・プリンセスが撃墜された場所から少し離れた、無人の小島

その波打ち際に、死んだように倒れ伏す一人の男の姿があった

身動ぎ一つしない男……紛れもなく、クリスであった

 

貫かれた腹からは今もなお鮮血が流れ落ち、光の雨をモロに浴びたその全身は、見るも無惨に焼け爛れている

呼吸も無く、このまま何もしなければ死んでいると判断されそうな状態であっても……その命は、微かに鼓動を刻んでいた

 

『……驚いた。まだ生きているか』

 

上空から、そんな声と共に漆黒の機体が現れる

アルファ・エンプレスは、その手の血糊がこびり付いた聖剣をクリスの心臓の位置へと突きつける

 

『……だが、これで』

 

振り上げてから突くといった、物語でやるような大仰な真似はしない

聖剣の切っ先が皮に食い込み、アルファ・エンプレスはそのまま最後の一線を断ち切らんとした

 

『申し訳ないけれど、その人をやらせるわけにはいかないの』

 

『!?』

 

かけられた声に、反射的に剣をその方向へと構える

 

直後、耳障りな金属音と共に剣の腹に長大な突撃槍の矛先がぶち当たった

 

『貴様……!?』

 

アルファ・エンプレスは、眼前に現れた敵を睨む

基本的な色は銀、だが随所は黒や紫色に包まれ、禍々しい雰囲気を放つ、全身装甲のIS

右腕には鈍く光る突撃槍、左手にはその体積の半分を覆い隠せるほどの巨大な真円の盾

そして、背中にはアルファ・エンプレスとはまた違った青紫色のマント

 

その姿には、嫌と言うほどの見覚えがあった

 

 

 

『デュークモン……貴様が、何故……!?』

 

 

 

デュークモン

オメガモンやアルファモンと同じく、ロイヤルナイツの一人に数えられる聖騎士型デジモン

だが、その姿や雰囲気は、アルファモンの知るそれとは大きく異なっていた

 

『……いや、違うな。貴様は、ロイヤルナイツ崩れの方か』

『………』

『なるほど……破壊と混沌の化身たる貴様、デジタルワールドを崩壊させるこの男を救わずにはいられない、というわけか』

『……何の話をしているのかわからないけれど』

『!?その声……貴様、何者だ……!?』

 

『トリッシュ・ラーゼリア。IS学園一年四組担任よ。それと……この機体の名は、ホーリー・ハザード(聖なる災厄)。間違ってもそんな名前で呼ばないでちょうだい』

 

頭部装甲から届いたその声

紛れもなく本人であるトリッシュは、右腕の槍を構え直すと、間髪入れずにアルファ・エンプレスへと吶喊した

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

「………」

 

花月荘の一室

待機を命じられた一夏は、床に寝ころびながら虚ろな眼で天井を見上げていた

 

砂浜を立ち去ってから少し経った

トリッシュがクリスの救助に向かってからもそれなりの時間が経ったはずだが、戻ってきたという報告は入っていない

 

「……ちくしょう」

 

また、守られるだけで終わってしまった

これまでは姉に護られ、今回は少なからず慕っていた人に護られ……そして、その人は撃墜された

 

「何が、守れるようにだよ……俺、弱いままだ……」

 

目頭がじわりと熱くなり、再び涙がこぼれ落ちる

静かな嗚咽を聞く者は、誰もいなかった

 

 

 

別室では、箒も同じように床に倒れ伏していた

 

(私は……とんだ大馬鹿者だ……)

 

出撃前、クリスが言ったことは正しかった

最新鋭の機体性能、一夏と肩を並べて戦えるという事実に有頂天になり、作戦達成以上にそれを振るいたいという衝動の方が圧倒的に大きく……結果、無様を晒し、クリスは撃墜されることとなってしまった

 

「……私、は」

 

 

 

更に別室

部屋の隅でうずくまり、静かに涙を流す簪の姿があった

 

「先生……クリス、先生……!」

 

最初から不安で仕方がなかった

それでも、何度も危険を乗り越え、ちゃんと戻ってきていたクリスなら大丈夫だと、思っていた

 

だから、生きているか死んでしまったのかわからないこの状況が、不安だった

 

「まだ、何も出来てない、のに」

 

打鉄弐式のお礼もできていない

まだまだ教えてほしいこともたくさんある

 

それに、何より

 

「好きだって、やっと気付いたのに……!」

 

知らぬ内に、その背中に憧れて、いつの間にか好きになっていた

その想いも、伝えていない

 

「お願い……先生……!」

 

どうか、速く帰ってきて

そう、祈るしかなかった

 

 

 

「………」

「……山田先生」

「っ、あ、織斑、先生……」

 

司令部に戻った千冬

部屋に入るなり耳に届いた、同僚の静かな嗚咽

それに僅かに眉尻を下げるも、すぐに毅然とした態度を取り戻して声にかける

 

「……ラーゼリア先生、オーランド先生を発見したと報告がありました。ですが……」

「ああ……例の、黒いISだな?」

「はい……」

 

トリッシュから通信で伝えられたことは、クリスの発見と彼の撃墜の一端を担った黒いISに救助を妨害されているとのこと

福音の姿は確認できないものの、おおよその目星を付けた位置座標も送られてきていた

 

「……あのISは、どうあってもオーランド先生を始末したいらしい」

「……っ」

 

千冬の告げた事実に、麻耶は零しそうになった声と涙をすんでの所で堪える

 

「……山田先生」

「大丈夫、です……私の仕事は、ここで信じて待つこと……それしか、出来ませんから……!」

 

顔も視線も千冬に向けず、声と身体を震わせながら麻耶はそう口にする

押し潰されそうな不安と今すぐにでも飛び出して助けに行きたいという衝動を必死に抑え込む、麻耶の姿

 

頭では理解できても、千冬にはそんな感情は実感できなかった

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

「………」

 

海中で羽を休めるように身体を丸めている、銀の福音

その中にいるナターシャの瞳は、絶望に沈んでいるようだった

 

意識を取り戻したのは、クリスの呼びかけがあったから

眼前で福音に呼びかけるその姿を見て、安心した

自分と、何よりこの機体を救いに来てくれたのだと

 

だが、彼は墜ちた

 

シールドバリアー、絶対防御さえ失った機体は、漆黒の機体に貫かれ、銀の鐘によって打ち砕かれた

 

(クリス……)

 

生存は絶望的

誰よりも、愛する人の死

 

ナターシャが全てを諦めるには、それだけで十分だった

 

 

 

『L,a……』

 

「え……?」

 

福音が発した声に、微かなノイズが混じっていた

360°の視界を送ってくるハイパーセンサーが捉えたのは、福音の機影に重なって見える、別のナニかの姿だった

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

「どいつもこいつも腑抜け揃いだな」

 

海岸線に集まった、複数の少女達

セシリア、鈴音、シャルロット、ラウラの代表候補生達と、ナタリアの五人

開口一番、ナタリアは蔑むように告げていた

 

「……何よ」

「いや、お前達のことじゃない。旅館で勝手に諦めてるあいつらのことだ」

「……しょうがないよ。僕達も聞いただけだけど、一夏の性格を考えたら」

「だから腑抜けの甘ったれだというのだ」

「貴女……先ほどから何が言いたいんですの!?」

 

ナタリアの容赦ない物言いにシャルロットが静かに語り、セシリアは食ってかかる

それでも、ナタリアの瞳には一夏と箒への侮蔑の感情が見て取れた

 

「自分に責任があるのだと言うのなら、何故それを果たしに行こうとしない?命令されているから?ハッ、笑わせてくれる。要するに……奴らは慰めてくれる誰かを待っているだけだ。だから……ただの甘ったれだ。そんな奴らが誰かを守れるか?いや、出来ない。……お前ら、そんな腰抜けのどこがいいんだ?」

 

その言葉に、一同から一斉に殺気が吹き荒れる

不用意に口を開けば、その喉元を引き裂くと、眼が告げていた

 

「……口を慎めよ、貴様……」

「あんたに、一夏の何がわかるってのよ……!」

「流石に、聞き捨てならないよ?」

「………」

「慎まないし、何も知らんし興味も無い。聞き捨てならんというなら……どうする?あの男にしているように、私も叩きのめすか?」

 

それだけ吐き捨て、ナタリアは背を向けて来た道を戻っていく

 

「ちょっ、お待ちなさい!」

「言いたいこと言って逃げるつもり!?」

「……私はな、クリスに多少なりとも感謝しているつもりだ」

「……は?」

 

静かに呟き、ナタリアは紅く染まり始めた空を見上げる

 

「私が求めていたのは、平穏だった。奴らはそれを与えてくれると信じて、私はひたすら付き従った。だが……」

 

「求めて止まない平穏は、こんな所にあった。クリスは、私にそれを与えてくれた」

 

『『………』』

 

クリス達に敗北して、捕らえられて

そして見たのは、死とは無縁の静かな世界

笑い声の絶えない、ナタリアが何よりも望んでいたもの

 

「……だから、あの男が気にかける奴のフォローぐらいしたくもなるというものだ。……さて、お前達はどうするのかな?」

 

そうして、今度こそナタリアは立ち去った

 

後に残された四人は一様に顔を見合わせ、同時に頷きあうと、旅館への道を走り抜けていった

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

───ナターシャ!

 

闇の中、何よりも大切な人が、目の前から遠ざかっていく

こちらには振り向かず、ただ前だけに視線を向けながら

 

───待て、待ってくれ!

 

その身体はやがて銀色の翼に包まれ、それが晴れた時には、福音の名を冠する甲冑の姿へと変わっていた

 

───頼む、福音!そいつを連れて行かないでくれ!

 

その言葉が届いたのか、そうでないのか

銀の甲冑は翼を広げ、声の主を見下ろしながら静かに舞い上がっていく

 

───待て……待って!お願い、だから……!

 

───ナターシャは……俺の……!

 

そして、甲冑は飛び去った

その中に、彼の大切な人

 

 

 

クリスの、想い人を乗せたまま

 

 

 

「ナターシャァァァァァァァァァッ!!!」

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

「っ!?」

 

眼を、覚ます

自身の身体はどこかに寝かせられており、空が見えることから、ここは外なのだと気付く

 

「ぎっ、あ゛!?」

 

両手足の感覚はあるので、五体満足だと判断できた

が、指先を動かそうとするだけでそこから全身に引き裂かれんばかりの激痛が走る

 

「は、あぁ……!」

 

これでは、起きあがることもできはしない

というよりも、まず生きていたことを不思議に思っていた

 

「……目が覚めましたか?」

 

傍ら、すぐ側からそんな声が聞こえてきた

 

「……ラー、ゼリア、先生……?」

「はい」

 

そこにいたのはトリッシュ

どこか疲労を滲ませた表情だった

 

「ど、して……」

「それには色んな意味が含まれているのでしょう……私がここにいるのは、撃墜された貴方の救助。できるならこのまま旅館まで運びたいのですけれど」

 

言って、すっかり暗くなった空を見上げる

 

「……あのISが、どこかで狙っています。きっと、貴方を抱えては私がうまく動けないのをわかっていて……そこを、叩く心算かと」

 

トリッシュの言葉に、アルファ・エンプレスの存在を思い出す

同時に、自分がどうなったのかを

 

「……っ!?」

「動かないで!今は、身体を動かせない状況だからどうにか最低限の処置ができただけです!」

「福、音は……!?」

「……え?」

「福音は……ナターシャは、どうなった!?」

 

口だけでなく、あらゆる箇所から血をまき散らしながら、叫ぶ

 

「……福音は、見失いました。ですが、どこにいるかの見当はついています。今、織斑先生が対策を……」

「それじゃ、遅い……」

「なっ……!」

 

言うや否か、クリスはボロボロの身体を、起きあがらせた

 

「オーランド、先生……」

「助けなきゃ……俺が……俺、がっ!?」

 

一歩

前に踏み出した途端、膝から下が力を無くし、そのまま前のめりに海へと倒れ込んでしまう

 

「オーランド先生!?」

「げほっ、げほっ!」

 

口や鼻から入り込んだ海水に咳き込む

その度に全身をあらゆる痛みが襲い、残り少ない血を更に流れ落としていく

 

「無茶です……機体は大破、貴方もそんな、瀕死に近い状態なんですよ!?どうして、そこまで……!」

「……決まって、る」

 

砂に腕を押し込み、再び立ち上がる

目までもがやられたのか、視界は紅く染まっている

それでも、空に輝く星の光だけは判別できた

 

「……俺は、さ。一度、あいつを置いていっちまった……」

「………」

「そんな俺が、置いて行かれるのがイヤだ、なんて、都合のいいこと、言えるわけねぇ……でも」

 

脳が血液を求め、その影響かフラフラと頭が揺れる

だが、瞳の輝きは、未だ消えず

 

「……助けなきゃ、ならねんだ……ナターシャも、福音も……あのまま、暴走したままになんて、させられない……」

 

「機体が無い?まだ、身体がある。瀕死の重傷?それでも、まだ生きてる」

 

「諦めないって誓った……何も捨てないって、誓ったんだ」

 

 

 

 

 

「それに……惚れた女一人救えないで、何が男だよ……!」

 

 

 

 

 

「───」

 

緊急事態に、私情を挟む

あまりにも幼稚なその発言に

 

だが、それ以上に、それを何の臆面も無く言い放つクリスに、トリッシュは言葉を失った

 

「離れてから、十年近く経ってさ……あいつ、本当に綺麗になってたんだ……それで、最近、やっと気付いた……俺、まだナターシャが好きなんだって」

 

艶やかに揺らめく、金砂の髪

少女を通り過ぎ、一人の女性として美しく成長した、そ姿

もはや妹分とは呼べないほどになっていた彼女を、クリスは愛してしまっていた

 

「あいつが苦しんでるなら、手を差し伸べる……悲しんでるなら、一緒に泣いてやる……助けを求めてるなら、俺が、助ける……それしか、今の俺には、出来ないから……!」

「……やっぱり、貴方は……」

 

それだけ呟くと、トリッシュは今にも倒れそうなクリスの肩を支えた

 

「……?」

「……今の社会人にあるまじき発言は、聞かなかったことにします」

「ラーゼリア先生……」

「……ああ、やっぱり、私は貴方が羨ましいです」

「え……?」

「恥ずかしながら、生まれてこの方、恋とか愛とかそういうのとはどうにも縁が無くて。だから、素直に羨ましいです……そう言える相手がいて、そう想ってくれる相手がいる、その人のことが」

「ははっ……今からでも、遅くないんじゃねえ?織斑辺りどうよ?」

「流石に子供はノーサンキューです」

「ははっ……ぐっ、げほっ」

「……でも、本当にどうするつもりですか?」

「……それなんだけどな、ラーゼリア先生……」

 

そこまでクリスが呟いた、その時

 

「……?」

「?どうか、したんですか?」

「……あれ」

 

クリスの視線の先を、トリッシュが追う

 

「あれは……!」

 

 

 

彼方に、白い軌跡を先頭にし、紅、蒼、紫、橙、黒の六色の光

それから少し遅れて、水色の光が一直線に夜空を駆け抜けていくところだった

 

「……!?そんな、あの子達……!」

「どうした……?」

「織斑君たち、一年の専用機メンバーです……更識さんまで……!」

「なっ……!?」

 

一夏を先頭としたいつもの面子に、簪を加えた七人の専用機持ち

トリッシュの機体のハイパーセンサーは、その様子を明確に映し出していた

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