The Black α&White Ω   作:オパール

30 / 40
Determination ─決意─

「「一夏ァッ!」」

「一夏さんッッ!!」

「嫁ェッッッ!!!」

「うおわっ、なんだぁ!?」

 

ドアバーン

そんな擬音が聞こえそうな勢いで開かれた襖、その向こうに一年専用機持ちの四人がいた

 

「み、みんな……どうしたんだ?」

「ええ、ちょっと自分の不甲斐なさを思い知らされてね」

「あとは、一夏の意思を聞きに、かな?」

「俺の……?」

 

一夏が言い終わる前に、ドカドカと部屋になだれ込む四人

最後に入ったセシリアが襖を閉め、一同はちょこんと一夏を囲うように腰を下ろした

 

「……単刀直入にお聞きしますわ、一夏さん」

「……?」

 

「一夏。お前はこのまま塞ぎ込んで終わるつもりか?」

 

「っ!」

 

ラウラの直球極まりない一言に、一夏の表情が一気に曇る

 

「……気持ちはわかる、なんて軽々しく言えないわ」

「一夏、本当にオーランド先生に懐いてたもんね」

 

入学初日

周りは女子ばかりで肩身の狭い思いと不安を抱いていた一夏に、クリスは笑みと共に手を差し伸べた

その時は思わず感極まって泣きついてしまった一夏

そんなことの後でも、クリスは同じ男同士、一夏に対して親身に接してくれていた

 

セシリアとの決闘の時には特別に一夏に対して座学を行い、鈴音と一悶着あった時には、最終的に部屋から蹴り出されたものの、相談にはしっかり乗ってくれた

シャルロットが男装した少女だと判明した時、クリスは彼女の意志を尊重して、隠し通すことを約束した

一夏はそのことを知らなかったが、後にシャルロット本人から聞かされ、大いに感謝していた

ラウラが気持ちを改めて周囲と馴染むようになってからは、何かと一夏について回る彼女に関する悩みにも、皮肉混じりではあったが、対処法を教えてくれもした

 

そんな、一夏にとっては感謝してもしきれない人が、墜ちた

 

密漁船を守ろうとして千載一遇のチャンスを台無しにした自分と、過信と慢心に打ちのめされた箒を守り、逃がした、その後で

 

「……どうしろ、ってんだよ」

「……一夏さんは、どうしたいんですの?」

「っ……!」

 

あくまでも優しく語りかけるセシリアの言葉に、一夏の口から堰を切ったかのように怒号が飛び出した

 

「そんなの……そんなのっ!仕返しに行きたいに決まってるだろ!俺、本当にクリス先生に憧れてるんだ!その人が、俺のせいで墜ちたんだぞ!?こんなことしてる今でも、先生を捜しに行って、助け出して、福音も止めたいっ!!」

 

いつの間にか、その双眸からボロボロと涙を流しながら、一夏は大声で捲し立てる

それを、四人は口を挟まず真剣な表情で聴いていた

待機を厳命され、破った者には処罰を科す、という千冬の言葉はあったが、そんなもので止められる衝動ではなかった

 

「……でも」

 

一転、弱くなった口調と共に、一夏は膝から崩れ落ちる

 

「怖いんだ……全部終わって、もし、先生が死んでたら……そう考えると、怖いんだよ……そうなってたら、俺、きっと死ぬまで自分を恨むと思う……」

 

頭を抱え、さめざめと泣きながらそう零す一夏

その様子をしばらく見ていた一同だったが、やがてその内の一人──ラウラが立ち上がる

 

「ラウラ……?」

 

シャルロットが不安げに声をかけるも、ラウラはそれを視線で制して、一夏の前へと座り込む

 

「……一夏」

「うっ、くっ……!」

 

ラウラの動きに気付いていないのか、一夏は尚も泣きじゃくっている

 

ラウラは、そんな一夏の胸倉を掴んで顔を上げさせる

 

「ラウ……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んっ」

「うむぅっ!?」

「「「!?!?!?」」」

 

 

 

───そのまま、その唇を奪った

 

 

 

「ちょっ、ラウラァ!?」

「こんな時に何やってんのよあんたは!?」

「うらやま……はしたないですわよラウラさん!?」

「ぷはっ」

 

三人により引き離されたラウラ

その顔は、してやったりと言った感情がない交ぜになった顔だった

 

「腰が引けている男をその気にさせるには、これが一番だとクラリッサが言っていたのだが……」

「そっ、それは間違いなく別のシチュエーションのことを指しています!」

「ていうか、本気で一度その副官さんとは話し合う必要があるよね、主にラウラの今後的な意味で……!」

「あぁ、アンタも何か言いなさいよ一夏!」

 

鈴音に怒鳴られるが、当の一夏は何が起きたのかわからないといった表情だった

そんな一夏を見つめ、ラウラは再び口を開く

 

「……一夏。先ほど、我々はある人物がお前と箒を指してこう言ったのを聞いた」

「……何だ?」

 

その言葉に、他の三人もハッとなる

 

「『自分の責任だと感じているのなら、何故それを果たそうとしないのか』、とな」

「!」

 

それは、四人が聞いた、ナタリアの言葉

一夏と箒を腰抜け、甘ったれと断じた時の言葉だった

 

「一夏よ。オーランド先生が死んでいたらどうしよう、お前はそう言ったな」

「……うん」

「正直に言うが……それは「もしも」の話だ。今はまだ、生きているのか死んでいるのかもわからん」

「ぁ……」

「……そうね。わからないなら、確かめに行くしかないんじゃない?」

「うん。僕もね、一夏。先生には感謝してるんだ。だから……お礼もちゃんとできてないのに、死に別れなんて嫌だ」

「それに、先生から出された宿題の回答もまだ出来ていませんわ」

 

クリスからの宿題

それは、かつて一度だけ問われたもの

 

「お前らは、何のためにISに乗っている?何故乗ることを選んだ?」

 

「……そう、だな」

 

そう呟いて、一夏はスッと立ち上がる

 

「泣いてるだけじゃ、変わらないよな。待ってても、何も変わらない……セシリア」

「はい」

「鈴」

「ん」

「シャル」

「うんっ」

「ラウラ」

「うむ」

「気を遣わせて、ごめん……ありがとう」

 

頭を下げ、謝辞を述べる

顔を上げた一夏の瞳には、強い意志が宿っていた

 

「そうと決まれば……あとは、箒だ」

「……あの子、大丈夫なの?」

 

鈴音が危惧していたのは、箒が再び立ち上がるか否か

それをわかっている一夏は、首肯でそれに応じると、足早に部屋を後にした

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

「カンザシ、私だ。入るぞ」

 

同時刻

返事を待たずに、ナタリアは簪の部屋へと足を踏み入れていた

 

「……ストラタス、さん」

「だからナタリアと……いや、そんなことはいいか」

 

一つ嘆息して、簪の隣へと腰を下ろすナタリア

 

「……クリスが、墜ちたな」

「っ……」

「織斑一夏と篠ノ之箒の尻拭いをしようとした結果、だそうだな」

「………」

「腹立たしいだろうな、お前からしてみれば」

「……そんな、こと」

「ならその目に見えそうなほどの殺気を隠せ」

 

しばし、沈黙

一夏と箒への怒りを沸々と沸き上がらせる簪を尻目に、ナタリアが再び声をかける

 

「……それで?」

「それで……って?」

「お前はどうする?まさかこんな所であの腰抜け二人を恨んだまま待っているだけか?」

「………」

「……それでもいいがな」

「え……?」

 

思わず顔を上げてナタリアを見つめる簪

その表情はいつもと同じ仏頂面、だが瞳にはどことなく優しい色が見えた気がした

 

「むしろそれが普通だ。専用機持ち三人、内一人は最新鋭の機体を駆っていた。なのに、落とせなかった。実戦経験に乏しい一生徒では、やる気すら起きないのが当たり前だ」

「………」

 

その言葉に、簪は再び顔を伏せる

箒はともかく、一夏とクリスは死線を潜り抜けてきた経験があった

そんな二人を相手にしても、なおクリスを撃墜した福音の性能は、データしか見ていない簪にもわかること

ましてや、人並み以上に気の弱い簪にとっては、自分が立ち向かうなどという発想自体、浮かばなかった

 

「……多少なりともクリスには借りがある身、機体さえあれば私が行ってもいいんだが……まぁ、放っておけば教師達がどうにかするだろうよ」

 

自分では勝てない

それに、千冬から直々に待機を厳命されている身

 

そう、待っていればいい

 

───待っているのが最悪の結果だったとしても、待つしかできないのだ

 

「……だが」

「……?」

 

「そんなことで理解はできても……納得できるほど安い気持ちでもあるまい?」

 

「───っ!?」

 

心の奥底を見透かされたような言葉

簪の顔が、一気に茹で蛸の如く赤くなった

 

「なっ、なん……!」

「惚れた男が生死不明だというのに、待つことしかしないと言うか、お前は?」

「あぅ……」

 

先程とは全く別の感情から顔を伏せる簪

そんな彼女を生暖かい目で見下ろしながら、ナタリアは続ける

 

「いいか、カンザシ。お前には力がある。あの男が手塩にかけて造り上げた、打鉄弐式という力が」

「……先生、が」

「ああ……ま、どうするかは好きにしろ。そこまでは面当見切れん」

「………」

「……怖いか?」

 

こくり、と頷く

 

「さっきも言ったが、それが普通だ。行くか待つか、お前が決めろ」

「あっ……待って……」

「ん?」

「……どうして、そこまで、言ってくれるの?」

「さぁ?何故だろうな?」

 

どこか皮肉げな笑みを残して、ナタリアは部屋を後にした

 

「………」

 

残された簪は、左中指の打鉄弐式をじっと見つめる

 

「………先生」

 

彼がいなければ、恐らく打鉄弐式の完成は大幅に遅れていた

彼がいたから、自分はこうして、ここにいる

あの日、ほんの少しの勇気と、意地を張るのをやめた

それだけで、自分はここにいることができたのだ

 

「……なにができるのか、わからない。きっと、なにもできないと思う」

 

 

 

「でも……お願い、打鉄弐式。力を、貸してね」

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

「箒」

「……一夏か、どうしたんだ……?」

「……箒の力がいる。もう一度、福音に仕掛けるぞ」

 

簪の決意と時を同じくして

一夏は、未だ床に伏せったままの箒の部屋へと赴いていた

 

「何を馬鹿な……千冬さんから、待機命令が出ているだろう」

「ああ。破ったら、キツい罰があるってこともわかってる」

「だったら」

「それでも」

 

箒の言葉を遮って、告げる

 

「俺は、俺の責任を果たさないまま泣き寝入りなんて出来ない……したくないんだ」

「………」

「元はと言えば、俺が自分で福音を倒せるチャンスを台無しにしたから、クリス先生は墜ちた。それで、あの子……四組の更識さん、だっけ?泣かせることになっちまった……」

 

未だ熱を持つ、簪に張られた頬に触れる

あの時向けられた憎悪に気圧され、改めて自分が仕出かしてしまったことの重さを知った

 

「だから、頼むよ箒。もう一度、紅椿に乗ってくれ。俺一人じゃない。セシリアも、鈴やシャルにラウラも、協力してくれるんだ。みんななら、きっと……!」

「……なら、お前達だけで行け」

「……え?」

 

 

 

「私はもう……ISには乗らない」

 

 

 

「ほう、き……?」

「………」

 

箒は無言のまま、左手首に巻かれていた待機形態の紅椿をむしり取るように外すと、それを一夏の足下へと放り投げた

 

「おま……!」

「そんなものは、もういらない。邪魔なだけだ」

「箒……何、言ってるんだよ……?」

「言っただろう?……もう、ISには乗らない」

 

身体を起こし、一夏を見据える箒

その瞳には、何の感情も無く、まるで人形のようだ、と一夏は思った

 

「……オーランド先生の言う通りだ。私は、何もわかっていなかった。……ISに乗る資格なんて、無かったんだ」

「そんな……でも、俺は今日、何度も箒に助けられたぞ!?それに、束さんが専用機まで用意してくれたのに、資格が無いなんて……!」

「……ハハッ、確かにそうだな。姉さんは、私の我が儘を叶えてくれた……私が望んだから、紅椿を開発してくれた」

「箒が、望んだ……?」

「……羨ましかった。セシリアが、鈴が、シャルロットが、ラウラが。みんな、みんな専用機を持っていて、私よりもお前の近くにいることができる……なら、私は?何も無いさ。何も、出来ない」

「箒……そんな、こと」

「っ……お前にわかるか!?いつもいつも、危険な場所に行って、戦って、傷ついて!他のみんなは、そんなお前と肩を並べて戦っていた!私は!私は、いつも、見ているだけだったんだぞ……!」

 

堰を切ったかのように、矢継ぎ早に飛び出す箒の言葉

彼女が抱いていた不満と不安、一夏の近くにいながら、彼を守ることもできない自分と専用機を持つ皆へのコンプレックス

 

「私だって、守られるだけなんて、もう真っ平だったんだ!やっと、やっと、お前を守れると思った!一夏と肩を並べて、私も……!」

「箒……」

「……でも」

「?」

「その結果が、これだ。手に入れた力に舞い上がって、何が正しいかも見失って……だから、もうやめるんだ、ISに乗るなんて……」

「………」

 

自嘲するように吐き捨てた箒

一夏は、そんな彼女の前まで歩き、その肩を両手で優しく掴む

 

「……箒」

「………」

 

「……やっと、本音が聞けた」

 

「な……!」

「箒、ここ最近溜め込んでたように見えたからさ。だから、どんなことでも、箒の本音が聞けて、嬉しいよ」

「なっ、ばっ、何を言っているのだお前は!こんな、こんなことを聞かされて嬉しいなどと……!」

「箒」

 

狼狽える彼女の瞳を真っ直ぐに見つめ、一夏はなおも優しく語りかける

 

「俺はさ、箒が責任感の強い奴だって、よく知ってる。それが、今は空回りしてるだけなんだって思ってる」

「………」

「……周りが見えなくなるなんて、俺にもあるよ。そんな時、どうすればいいのかもわからなくなる。でもさ」

「……?」

 

「だから、みんなと一緒にいるべきなんだよ。みんながいれば、間違った方に向かっても、きっと正しい場所に戻っていける……俺は、そう思う」

 

「みんなと……正しい……」

 

言われて、箒は思い返す

福音との交戦の最中、犯罪者は捨て置けと言った箒

そんな箒を、一夏は咎め、宥めた

それこそが一夏が言う、正しい場所へと引き戻してくれる、ということなのだと

 

「……私は、まだ戻れるのか?」

「戻るも何も、箒はまだどこにも行ってないよ」

「……そう、か。まだ、間に合うのか……」

 

閉じた瞳から一筋の涙が流れる

一夏はそれを優しく拭うと、立ち上がって箒へと手を差し伸べる

 

そこに、箒が投げ捨てた紅椿を乗せながら

 

「……行こう、箒。やられっぱなしは趣味じゃないだろ?」

「……ああ!」

 

その手を掴み、立ち上がる

 

迷いはあった、正しい道も、まだ見えない

 

それでも

 

この握り締めた手から感じる温もりと、自分を待ってくれているであろう友人達

 

そして、目の前を走る愛しい少年

 

彼らを守りたいというその想いは、間違いではないと信じていた

 

 

 

「あっ、来た!」

 

シャルロットが、笑みと共に声を弾ませる

 

「遅いわよー。……まったく」

 

嘆息しながらも、微笑を隠さない鈴音

 

「お待ちしておりましたわ、一夏さん、箒さん」

 

淑女らしく、優雅な佇まいを見せるセシリア

 

「福音の場所は既に割れている。いつでも行けるぞ」

 

右腕に部分展開したISを見ながら、ラウラが言う

 

そして

 

「………」

「更識、さん……?」

 

更識簪

イマイチ感情の薄い表情を浮かベていた

 

「……なんていうか、その」

「謝らないで……わたしも、その……」

 

沈黙が流れる

それを破ったのは、動の性質の中国娘

 

「ほら、行くならさっさと行くわよ!」

「あ、おっ、おう!」

 

海岸線に並んだ一同

各々が、その愛機の名を、高らかに叫ぶ

 

 

 

「白式!」

 

───白き、理想を求める少年の剣

 

「ブルー・ティアーズ!」

 

───蒼き、誇り高き少女の雫

 

「甲龍!」

 

───強き、奔放な少女の龍

 

「ラファール・リヴァイヴ!」

 

───優しき少女の、再誕の疾風

 

「シュヴァルツェア・レーゲン!」

 

───黒き、高潔な魂の少女の雨

 

「打鉄、弐式……!」

 

───静かなる、不器用な少女の鉄

 

「……行くぞ、紅椿!」

 

───紅き、想いを遂げんとする、少女の椿

 

 

 

「みんな……行こう!!」

 

一夏が叫ぶ

 

七人は一斉に飛び立ち、リベンジの幕は切って落とされた




章管理において、第三章を変更しました
あのタイトルは後々に回すことにします
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。