「………」
「……え、と……更識さん、だよね?」
「簪で、いい……名字だと、私より目立つ人がいる、から」
「そっか。じゃあ、僕のこともシャルロットでいいよ」
「……ん」
「……怖い?」
「……うん」
「……しょうがないよ。今からするのは、本当に危険な戦いだから」
「……貴女達は、怖くないの?」
「……まぁ、怖くないって言えば嘘になるかな」
「なら、どうして……?」
「……僕ね、オーランド先生に助けられたことがあるんだ」
「え……?」
「まぁ、結果からみればそこまで大袈裟なことでも無かったんだけど、ね。でも……感謝してるんだ」
「………」
「だから、ちゃんとお礼したいなって。……後悔するようなことには、したくないから」
「シャルロット、さん……」
「……簪さんは?どうして来たの?」
「……わたしも」
「ん?」
「わたしも、後悔したくない、から。それに……できることがあるかもしれないのに、何もしないのは……イヤだから」
「……そっか」
「うん……」
『お二人とも、間もなくですわよ』
「あ、うん、セシリア。……大丈夫、僕達もフォローするから」
「うん……ありがとう」
『ラウラ!初撃頼む!』
『任せろ……シュヴァルツェア・レーゲンとパンツァー・カノニーア、Feuer!!』
◇◆◇
───!?
海中にて羽根を休めていた銀の福音を、突如として轟音と衝撃が襲った
ハイパーセンサーが伝えてきたのは、こちらに向けて砲身を構える黒い機体と、その周囲に展開したIS達
───敵
それだけを判断すると、福音は翼を広げ一気に飛び立つ
(………)
操縦者、ナターシャ・ファイルスはそうなっても何も言わなかった
年端もいかぬ、あのような子供達に何か出来るとは思えなかった
◇◆◇
「来たぞ!」
「みんな、あの頭のスラスターに気をつけろよ!数で勝ってても、その差を埋められるだけの性能だからな!」
『『『了解!』』』
一夏の檄に、少女達は一斉に応え、各々散らばっていく
その内、シャルロットだけは簪に寄り添っていた
『一夏!僕は簪さんについてるよ!』
「シャル?……いや、わかった!頼む!」
このメンバーの中で、一番防御の安定感を誇るのはシャルロット
その彼女が、実戦経験の無い簪のフォローに回るのは、妥当且つ最適だと、一夏にも判断できた
『一手、踊っていただきますわよ!わたくし、セシリア・オルコットとブルー・ティアーズの奏でるwaltzを!』
強襲用高機動パッケージ「ストライク・ガンナー」
普段は周囲に展開しているビットをスラスターへと変えた、まさしく高速機動戦闘に適したパッケージ
その手に構えた長大なライフルから、いくつもの閃光が迸るも、福音はそれを紙一重で回避していく
『でぇぇぇりゃああああああっ!!』
烈昂の気合いと共に、双刃の牙が振るわれる
それさえ読んでいたかのように、かわす福音
『……きひっ』
───そんな、悪戯が成功した子供のような笑いを浮かべたのは、凰鈴音
その機体、甲龍の背後に浮かぶ二つの球体から、計四門の砲口が顔を覗かせ
───ズギャンッ!!
と、空気をつんざく音がしたと思った瞬間、福音が大きく吹き飛ばされた
『ざっまぁ見なさい!甲龍と機能増幅パッケージ『崩山』、一度に四つの衝撃砲の威力はどうよ!?』
『……!』
一撃必殺の砲撃主と、高速機動を続ける射手
そして、機動と汎用性に優れた機体
綿密な作戦を立てている、そう判断した福音はこの場からの即時離脱を最善だとした
───が、福音が相手をしたのは、未だ半数である
『悪いけど、ここから先は通行止めだよ!』
『……逃がさない……クリス先生の、仇……!』
そう言って現れたのは、シャルロットの駆る、専用パッケージ「ガーデン・カーテン」を纏ったラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡと、簪が乗る打鉄弐式
シャルロットが前進しつつ、両手のアサルトライフルを乱射する
『離脱は不可と判断……標的の殲滅を、最優先』
『やる気になったってわけだね……!』
弾幕を全身に浴びながらも、福音は一切怯む様子は無い
銀色に光るその腕を一層鈍く光らせ、シャルロットに向かっていく
『わたしを、忘れないで……!』
シャルロットに気を取られたのか、いつの間にか背後に回り込んでいた簪への対応が、一瞬遅れた
『春雷……お願いっ』
ガオンッ!!と言う音と共に、打鉄弐式に搭載された二門の荷電粒子砲「春雷」が火を吹いた
背部に直撃を受けた福音は、僅かにその姿勢制御に乱れを生じさせる
『貰ったよっ!!』
続けざま
アサルトライフルから切り替え、両手に握られたショットガンの至近距離での直撃が福音の胴体を抉り抜いた
『……銀の鐘、最大稼働』
追撃を持ち前の高速機動で回避
一気に臨界まで達したエネルギーを爆発させ、辺り一帯を薙払わんと、周囲全ての敵へと向け、光の雨を縦横無尽にばらまいた
『ナメてんじゃ、ないわよぉおおおおっ!!!』
各々が回避、防御行動を取る中、鈴音はただ一人、銀の鐘が降りしきる中を吶喊していく
『鈴さん!?』
『お願い、甲龍!!』
シールドバリアーが削られ、装甲が穿たれてもなお、スラスターを一気に吹かせて肉薄する
そして、その距離が衝撃砲の射程に入った時
『吼えなさい、崩山!!』
四つの砲門が再び火を灯し、意趣返しと言わんばかりに砲弾の雨を福音へと降り注がせた
『……!?』
削がれ続けた装甲が悲鳴を上げ、一つの鈍い音と共に、頭部の翼が一つ、根元からへし折れた
『よっし……キャアッ!?』
効果的なダメージを与えた事実に一息吐いた瞬間、爆煙の中から飛び出した福音が放った、勢いをそのまま乗せた渾身の蹴りが甲龍の腕部装甲もろとも鈴音を吹き飛ばした
「鈴!」
「一夏、行くぞ!!」
「っ、おう!」
その真下から迫るのは、白式と紅椿
この一撃に全てを賭ける、そんな満身の気合を秘めた三つの剣
「雨月、空裂……!」
「零落、白夜……!」
「断ち斬れぇぇぇぇぇっ!!」
「全、開だぁぁぁぁぁっ!!」
左右と上段から振るわれた必殺の太刀
『危険レベル、最大値……!』
決まれば間違いなく撃墜されるであろう、その閃きを
「なっ!?」
「ぐあぁっ!」
───福音は、発射した銀の鐘を
だが
『……そのパターンは、初めて』
背後から、聞こえる声
振り向けば、背部のミサイルラックの砲門を全て開いた状態の打鉄弐式の姿
『でも、おかげで見えた……!』
『「山嵐」、お願い!!』
山嵐
打鉄弐式に搭載された「マルチロックオンシステム」による、全八門からなるミサイル兵装
だが、理論のみは完成しているそれは、実用面ではまだ未完成
本来、この臨海学校で最終調整を行うはずだったそれを、簪は使用した
その目的は、攻撃に非ず
『うむ、ナイスアシストだ』
ミサイルを避け続け、周囲全てが煙に覆われた福音
その最中、背後の、それもかなり近い距離からゴリ、という音が聞こえた
『私を忘れていたようだな……Feuer!!』
シュヴァルツェア・レーゲンが持つ、大口径レールカノン
それが超至近距離……0となんら変わりない距離から放たれ、まるでバウンドしたかのように福音の身体は前方に弾き出された
そして、そこに待ち受けていたのは
爪先からレーザー刃を放つ紅椿と、白く揺らめく剣を手にした、白式
「これで!」
「終わりだぁぁぁぁぁっ!!」
ソバットの如き回し蹴りが残った福音の翼を、大上段から振り下ろされた零落白夜が、その肩から腰にかけてを一気に斬り裂いた
◇◆◇
「あの子達……」
「……どう、なった?」
そこから離れた、無人島
ハイパーセンサーで成り行きを見守っていたトリッシュと、トリッシュから聞かされる情報だけが頼りのクリスがいた
「……篠ノ之さんと、織斑君の攻撃がクリーンヒット。福音、墜落していきます」
「……そう、か」
その報告に、クリスの眉尻が下がる
(何も、できなかった、か……)
だが、結果から見れば無事終わった
そう思い、クリスは胸に凝りを残したまま地に腰を下ろそうとした
「……待って」
それを止めたのは、打って変わって焦ったようなトリッシュの声
「……どうした?」
「まずいわ……
「!?」
───夜は、まだ明けない
◇◆◇
───それは、異質という意味では間違いなくこの上ないものだった
海面に叩きつけられたはずの福音、それが光と共に浮上、光が晴れ中から変化したであろう、その姿を見た瞬間
得も言われぬ恐怖と悪寒が、少年達を包み込んだ
───それは、本来ならばありえない「進化」の姿
天使と悪魔の姿と二面性を併せ持つ、その双方を束ねる能力を持つもの
右半身は白く、左半身は黒い
空色の結晶のような突起の生えた右側と、桃色の結晶を生やした左側
羽根を思わせる装飾を持つバイザー、その下半分から見えるのは、人の顔
何よりも目を引くのは
その背から生えた、明らかにエネルギー体ではない、白と黒の、六対十二枚の翼
『……人間……そう、私が表に出る時が来た……来て、しまったのね』
無機質なマシンボイスなどではない、命のこもった、生物の声
『……ごめんなさい。貴方達に恨みは無いけれど……』
翼が、はためく
『止められないのは、私も同じなの』
悲痛な声でそう語る、異形
その名は、マスティモン
究極体に分類される、異界の軍師
そんなわけで、福音のデジモンはマスティモンとなりました
イメージに合っている、という言葉通り神々しいですよね