The Black α&White Ω   作:オパール

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EVOLUTION

落ちる、堕ちる、墜ちていく

意識はそのままに、動かぬ身体が海へと落下していくのを、ナターシャは矢鱈とゆっくりに感じていた

 

(……止めて、くれたのね)

 

眼前に見える子供達を見て、思う

身体の節々が痛むが、それでも感謝の念が強かった

 

───同時に、姿の見えぬ彼への想いも、強く

 

(クリス……)

 

襲い来る衝撃に、身体を強ばらせる

そのまま静かに目を閉じ、その時を待つ

 

 

 

 

 

『あーらら。負けちゃったか』

 

 

 

 

 

(……?)

 

『でも、まだ箒ちゃんと紅椿の真価は発揮されてない。それまで、勝手に堕ちるなんて許さないよ、福音』

「あなた、は……」

『そんなわけでー……ほいっ』

「!?」

 

脳裏に響く声

それに続いて、何かをキーボードに打ち込むような音が聞こえたと思った瞬間

 

【二次移行、起動】

 

「セカンド・シフト……!?」

『くふふっ、それじゃ。頑張ってねー』

「ま、待って!いったい何を……!」

 

動き出した、その機体

先程までとは段違いの力の流れ

 

光が全身を包み込み、耳に響いたナニカの声を最後に、ナターシャは再び意識を失った

 

 

 

───なるほど、そういうこと

 

───認めないわ、貴女を。やっていることは、ただの子供の悪戯と同レベル

 

───待っていなさい。いつか、こちらから会いに行く

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

「Shit!!ラーゼリア先生!」

「わかっています……ですが、貴方はどうするんですか!?」

「俺のことはいいだろうが!」

「私が離れれば、すぐにあの黒い機体が来ます!そうなったら……!」

「……そうさ。だから、あんたが奴を押さえてくれ!」

「っ!」

「頼む……ここにいても感じた。福音の二次移行は、普通と違う……!」

「オーランド先生……」

「だから、俺がどうにかする!俺……俺達なら!」

「……わかり、ました。ですが、くれぐれも無茶はしないでください……下手をすれば、死ぬ怪我ですから」

「ああ、わかってる」

 

 

 

「……さて、と」

 

「……聞こえてるか、プリンセス……オメガモン」

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

「うっ、あぁぁぁぁぁっ!!」

「シャルーーーー!!」

 

───それは、もはや戦闘と呼べるものではなかった

 

「この、野郎!!」

「一夏、無闇に突っ込むな!」

『……その勇ましさは、間違えればただの無謀』

「一夏さん、フォローいたしますわ!」

 

二次移行を果たした福音……マスティモンとの戦闘は、最早一方的な蹂躙の様相を呈していた

 

まず真っ先にラウラが墜とされ、持ち前の技量で翻弄しようとしたシャルロットが墜ちた

 

雪片を構え突撃する一夏の後ろから、セシリアがその手のライフルを連続して発砲する

 

だが

 

「っ……やはり……!」

「どういうことですの……当たっているはずなのに!」

 

シャルロットのばらまいた火器群も、セシリアのライフル弾も、吸い込まれるように福音に直撃したはずだったが、さしたるダメージが与えられない

むしろ、本当に当たっているのかすら疑わしいほどに

 

「くっ……!」

 

振るわれた雪片をいなし、福音は一夏の腹に膝蹴りを撃ち込む

 

「がっ……!?」

「一夏!」

 

続けざまに頭を掴まれ、そのまま重さなど感じさせずに振り回し、放り捨てられた

 

「貴、様ぁ!!」

「墜としてみせますわ、今度こそ!」

 

 

 

双刀を振りかぶる箒と、再びライフルを構えるセシリア

 

そんな後ろ姿を見つめ、小さく震えたままの簪がいた

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

「……ここ、は」

 

ふと気がつけば、クリスは見覚えのない景色の中にいた

 

上を見れば、散り散りになった雲が見える蒼穹

周りを見れば、山や森、草原が広がる大自然

そして、正面には小高い丘と……不似合いな、一つのベッド

 

「……?」

 

好奇心に導かれるまま、その場へと向かうクリス

傷など初めから無かったかのように、身体が軽い……というより、負っていたはずの傷は何一つとして身体に残っていなかった

 

「……!」

「……クリス」

 

丘を登りきって、初めてその存在に気が付いた

 

白く、細身の巨躯

左腕には橙色の、竜の頭部

右腕には青色の、狼の頭部

背中から伸びる赤いマントと、優しげな蒼い瞳

 

「……オメガモン」

 

デジタルモンスター、オメガモン

ベッドの傍らに跪き、まるでそこを守っているかのようだった

 

「……そうか。じゃあここは……プリンセスの、ISコアの中、ってことなんだな」

「ああ……君の意識だけが、ここにある状態だ」

 

オメガモンの言葉を聞きながら、クリスはベッドへと歩み寄る

 

そこには、一人の白髪の少女が眠っていた───まるで、死んでいるかのように

 

「……プリンセス」

 

それこそが、オメガ・プリンセスの人格

明るい声を発していたその主は、今は何も言わず、深い眠りについていた

 

「……あの時」

「ん?」

「突如として停止したプリンセスだったが……銀の鐘が直撃する寸前、一瞬だが無理矢理な再起動に成功した」

「………」

「彼女が最優先したのは……クリス、君を守ることだった。僅かでも絶対防御を発動させ、君の命だけでも守ろうと」

「……そうか。だから、何とか生きてたのか、俺」

 

ありがとう、そう言おうとして手を伸ばすクリス

 

「っ!」

 

その手は、目に見えぬ壁のようなものに弾かれた

 

「……プリンセスは、凍結状態とも言える休眠に入っている。被弾と、再起動によるコアへのダメージが深刻だったからな」

「……そう、か。でも、ありがとなプリンセス。こんなになってまで、守ってくれて」

 

クリスの瞳に、うっすらと涙が溜まる

その様子を見ながら、オメガモンが再び言葉を発する

 

「……行くのか、クリス」

「ああ、そのつもりだ」

「プリンセスが、こんな状態だというのにか?」

「……ああ」

「……無茶だ。何故、そこまで」

「……なぁ、オメガモン」

「?」

 

 

 

「『生徒達を守る』、『ナターシャも助ける』。両方やらなきゃならねぇのが大人の……男の辛いとこなんだ」

 

 

 

「……クリス?」

「俺はもう、あいつらと出会っちまった。ナターシャも助けるって、イーリスと約束もした」

「………」

「出来ることは……何かは、まだわからねぇけどさ。それでも、あるって信じてる」

 

照れ臭そうに笑いながら、クリスはそう告げる

 

「俺は大人で、男だ。子供達は守らなきゃならないし……惚れた女は、助けなきゃいけないんだよ、オメガモン」

「……君は」

 

その言葉に、オメガモンは僅かに顔を伏せる

すぐそその顔を上げて立ち上がると、真っ直ぐにクリスを見つめた

 

「……なら、私が力を貸そう」

「え?」

「……プリンセスが休眠に入っている今、この機体の主導権は私にある」

「………」

 

 

 

 

「私がプリンセスの代わりの人格となり、ISを動かす。本来ISとは無縁の私だ。外部からの干渉も完全に拒絶できるだろう。……そう、アルファモンのように」

 

 

 

「……いいのか?」

「……プリンセスが、何と言うかはわからんがな」

「……そっか」

 

それだけ告げて、クリスはオメガモンの足下まで歩み寄ると、その手を伸ばす

 

「……一緒に、戦ってくれるか、オメガモン?」

「今更だ、クリス。出会ってから今日まで、共に歩んできただろう?」

「ああ……そうだな」

 

空間を、光が包む

暖かな優しいそれは、次第に二人を覆い隠していった

 

「行こうぜ、オメガモン!」

「ああ、クリス……我が友よ!」

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

「……っはぁ!」

 

全身を苛む痛みと共に、意識が浮上する

目を開いたクリスの視界に広がるのは、白み始めている水平線

 

「……オメガモン」

 

ふと、胸元で握り締めていた手を開く

 

その中には、太陽と稲妻が合わさったような形の装飾───待機形態の、オメガ・プリンセスがあった

 

「………」

 

反対側の手で、それに触れる

ほんの僅か、それが暖かな光を放ったように見えた

 

「……さて、と」

 

そう口にして、背後へと振り返る

その先にいた、漆黒の巨躯を見据えて

 

「悪ぃが、今お前に構ってる暇はねぇんだ……アルファモン」

 

アルファ・エンプレス

トリッシュが足止めをしていたはずの存在が、そこにいた

 

『………』

「……もう話すこともねぇってか。はっ、上等だよ」

 

何も言わず、ただその手に巨大な斧剣……王竜剣を構えたアルファ・エンプレス

その姿を一瞥しただけで、クリスは前へと向き直る

 

「けど、今言った通りだ。俺が優先することは……お前の相手じゃない」

『ええ、まったく』

『っ!?』

 

王竜剣を振り上げたアルファ・エンプレスを、その真横からホーリー・ハザード……トリッシュの突撃が吹き飛ばす

 

その様子を横目で確認したクリスは、軋む腕を、その手の中の相棒を天高く掲げ、叫ぶ

 

 

 

「行くぜ相棒……オメガ・プリンセス・ロイヤルナイト!!」

 

 

 

爆ぜる閃光

荒れ狂う暴風

 

夜空を照らさんばかりの輝きは、真っ直ぐに、行くべき場所へと飛び立った

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

「あ、ぅ……」

 

簪は震えていた。それしか、出来なかった

共にいたみんなは既に堕ち、唯一粘っていた箒も、堕ちた

目の前の存在の力は自分達の想像を遥かに越えており、一人、また一人と効果的な一撃を与えられず、返り討ちに遭っていった

 

『………』

 

春雷も山嵐も、撃つ気にもならなかった

 

(やっぱり、ダメだった……)

 

あれだけの戦力差だったにも関わらず、今残ったのは自分一人

熟練の代表候補生達も、最新鋭の機体を駆る箒や死線に立ち続けてきた一夏も、もう誰も空にはいない

 

(クリス、先生……)

 

こんな時、恋い焦がれるあの人がいてくれたら、どれだけよかったか

 

だが、そんな望みは叶わない

 

『……ごめんなさい』

 

その一言と共に、異形は羽ばたく

背の翼が光り輝き、何度も見せつけられてきた閃光が迸る

 

 

 

『カオスディグレイド』

 

 

 

マスティモンが誇る、絶対の一撃

全てを彼方へと葬り去る輝きが、無防備な簪へと迫る

 

(ごめん、なさい……)

 

それは誰に、何に向けての謝罪だったのか

 

答えは見えず、閉じた瞼の向こうが、白く染まっていった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───あれ?

 

(まだ、当たら、ない?)

 

身体を襲うはずの衝撃は、いつまで経っても訪れない

だが、視界には未だに白い光が映り込んでいる

 

「………」

 

恐る恐る、その目を開く

その、向こう側にいたのは───

 

 

 

『……待たせたな』

 

 

 

見たことのない、だがどこか見覚えのある背中と、耳朶を優しく打つ声

 

「……そん、な」

『……貴方が、何故……!』

 

 

 

真珠色に白く輝く全身装甲

 

左肩の、太陽の描かれた小さな盾と、竜の頭部を模した腕

 

右肩は、数本の突起を生やし、腕の先は狼のような生物の頭部

 

背中に広がる四枚のウィングと、その間を埋めるように並んだ三枚のウィングはさながらマントの如く

 

頭頂部から三本の角が伸びる頭部装甲、その目元からは優しげな蒼い瞳

 

そして、胸の中央には、太陽と稲妻が合わさったような紋章

 

 

 

『……マスティモン、確かそれがお前の名前だったな』

 

身体の前で交差した腕

それを解き、顔を上げると同時、瞳が強く、意志を宿す

 

 

 

『覚悟しろよ……ここからは、俺のSTAGEだっ!!』

 

 

 

オメガ・プリンセス第二形態、ロイヤルナイト

 

終焉の聖騎士とその友───オメガモンとクリス・オーランドは、今、新たな段階へと、進化(EVOLUTION)を果たした




オメガ・プリンセス・ロイヤルナイトのイメージは、プラモデル版のオメガモンを意識しております
デジモンリブートでググっていただければ参考画像が出てくるかと
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