時間を少し遡ろう
クリスやトリッシュから離れた距離にいた一夏達も、同様にデジタルワールドへと飛ばされていた
幸いだったのは、七人全員が多少離れていても比較的近場にいたこと
近くに始まりの町があったことである
「う、んん……」
「あっ、一夏!」
「あれ……シャル、か?」
「よかったぁ……みんな!一夏が起きたよ!」
ぼんやりと目を開いた一夏の眼前には、シャルロットの顔
それが安堵の表情に変わり、シャルロットが皆を呼ぶ内に一夏も身体を起こす
「……どこだ、ここ?」
先程までいた砂浜とは打って変わった、鬱蒼とした森林
目に入る植物はどれも見たことのないものばかり、更には鳥なのか獣なのか判別のつかない鳴き声まで聞こえてくる
「一夏!」
「ご無事ですわね一夏さん!?」
そこへ、箒とセシリアを先頭にして駆け寄ってくる一同
それぞれが焦りを顔に浮かべて、一夏へと詰め寄った
「無事だったんだな、みんな……よかった」
「何言ってんのよ!一番最後に起きたくせに!」
「ははっ、悪い……」
「身体は大丈夫か一夏?」
「ああ、ありがとなラウラ」
そこまで言って立ち上がり、ふと幾人か足りないことに気付く
「……クリス先生や更識さん達は?」
「あ、うん。簪さんと、アメリカ代表の……イーリスさん?は、近くで気絶してたけど、今は二人で人がいそうな場所を見に行ってもらってるよ。僕達も、二人が戻ってくるまでここで待機してるんだ……オーランド先生は、近くにはいないみたい」
「……そうなのか」
「……どういうわけかISが使えんからな。空を飛んで探すことも出来ないから、手持ち無沙汰だったのだ」
「ISが使えない?」
シャルロットの言葉にラウラが注釈を加える
それを聞いた一夏が試しに白式に意識を集中させるが、何の反応も返ってこなかった
「……本当だ」
「そろそろ、お二人も戻る頃だと思いますわ」
「……どうやら、ちょうどみたいだな」
箒が指し示した方向を見る
すると、後ろにナニカ……二足歩行の、赤いバンダナとボクシンググローブを付けた青色の熊のような生き物を引き連れた簪とイーリスの姿が見えた
「更識さんにイーリスさん……と……」
「お。起きたみたいだな」
「……身体、平気?」
「あ、ああ……あの、その後ろのは……?」
「ん?こいつか?こいつは……」
「私はガオモンだ」
『『『喋った!?』』』
「ははっ、まぁ驚くわな」
「……この子が、近くの町まで案内してくれるって」
「えっ、と……信用して大丈夫なんですか、イーリスさん」
「ああ。それは私が保証する」
「……なら」
「よし。んじゃ、頼むぜガオモン」
「イエス、マスター」
「ここは……」
「『始まりの町』。私たち、デジモンの生まれる場所だ」
「デジ、モン……?」
多くの、見たことのない生きもの達が楽しそうに跳び、走り回るその町
一夏を初めに、一同はその光景に呆気に取られていた
「ジジモン。いらっしゃいますか?」
「おお、ガオモンか」
ガオモンの呼びかけに、一番奥の家から、一匹の異形が現れた
老人の顔に、毛皮の生えた身体と四肢を持つ、酷く小柄なそれ
「む?……ほうほう。人間のお客さんとはまた珍しいのう」
「あの、貴方は……?」
「ワシか?ワシはジジモン。この町の町長をやっとるもんじゃ」
「……それじゃあ、貴方……貴方達は、いったい……」
「ワシらはデジタルモンスター。略してデジモン。お前さん達の言葉を借りるなら、別世界のデジタル生命体じゃよ」
◇◆◇
そうして、一夏達は始まりの町に迎え入れられた
そこでデジモンやデジタルワールドの簡単な説明を受け、こうした状況になったのである
「……何やってんだお前ら」
「あっ、クリス先生、えぇぇぇぇぇ!?」
「せっ、先生、怪我っ、ひどい……!」
「ん?……うおおおおおいっ!大丈夫かクリス!?」
「あー、騒ぐな騒ぐな」
メタルガルルモンの背から降りるなり、青ざめた顔で駆け寄ってくる一夏と簪、イーリスを宥めるクリス
疲れ切った表情で、トリッシュの肩を借りてその場に腰を下ろす
「……しっかし、面白いもの頭に乗っけてんなお前」
「へ?あぁ、何だか懐かれちゃいまして……」
「わたし、イチカのこと好きだよ?」
「……まぁ、こんな感じです」
「イーリスは……なんだ、舎弟にでもしたのか?」
「あ、あぁ……なかなか筋が良さそうな奴だからよ」
「光栄です、
「先生、それよりも怪我……!」
「心配すんなって。……なんかもう、痛覚とか鈍ってきてるから」
「「「それ大丈夫じゃない(です)!!」」」
その一連の騒ぎに、デジモン達と戯れていた他の生徒達もその場へと集まってきた
「……まずは、ご無事で何よりですわ、オーランド先生」
「ああ」
「その怪我……大丈夫なんですか?」
「まぁ割と大丈夫じゃないな」
「僕たちみんな、心配しました……」
「そっか……それは、悪かったな」
「クラリッサの嫁が帰らぬ人となったなんて、報告できませんから、どうかご自愛を」
「なんだよクララの嫁って……」
「……オーランド先生……」
「何も言うな篠ノ之。俺もちっと言い過ぎだった」
口々にクリスの身を案じる言葉を送る一同
それに一人分ずつ言葉を返し、最後にクリスはイーリスへと視線を向ける
「……ナターシャは?」
「……ああ、大丈夫。今は、あっちの家で眠ってるよ」
「……そうか……よかった……」
心から安心しきった息を吐く
ふと、トリッシュがイーリスの指し示した家から出てくる何かを見つけた
「あれは……」
「ほうほう。また人間のお客さんが増えたのう」
「ジジモン」
それは、ジジモンだった
のほほんとしていたジジモンだったが、手で顔の髭を撫でながらクリスとトリッシュを見て──その目を、見開いた
「……むぅっ!?お、お前さん達は……!」
「?」
「知り合いですか、オーランド先生?」
「いや、知らねえけど……」
「……いや、失礼した。そうじゃな、あの者達が……」
「……?」
「気にせんでくれ。それよりも、挨拶が遅れたの。ワシはジジモン。この『始まりの町』の長を務めておる」
「……クリス・オーランドだ。生徒達を保護してくれたこと、感謝する」
「トリッシュ・ラーゼリアです。私からも、お礼を」
「クリスにトリッシュ、か……それよりもじゃ、イーリスちゃん」
「だからちゃん付けはやめてくれって……どうした?」
「お前さんの友人のお嬢さんだがの、今し方目を覚ましたぞ」
「本当か!?」
「ナターシャが!?」
ほぼ同時に叫んだクリスとイーリス
直後に顔を見合わせ、イーリスがクリスを担ぎ起こした
「行くぞ、クリス!」
「ああ……!」
覚束ない足取りのクリスに合わせ、ゆっくりと、だが早足で進むイーリス
喜びを隠さぬ表情の二人を見送る一同の中で
「………」
ぎゅっと胸元を握り締め、悲痛な面持ちの簪がいた
「……更識さん?」
「……大丈夫、です。クリス先生、あんなになっても助けようとした人と、会えるんだから……だから、わたし……」
「………」
「……ねぇ、あの子」
「まさかとは思ってたけど……やっぱり、オーランド先生のこと……」
◇◆◇
ナターシャは、意識を失っていたところを町の近くを見回っていたガオモンに保護された
その後ジジモンの指示で、この家に寝かされていたのである
「ナターシャ!」
「ナタル!」
開いていた入口から、中へと入る二人
見たこともない造りの家の、生活感溢れる室内
その中央のベッドに、寝ぼけ眼の女性を見つけた
「……いーり……くり、す……?」
「………」
「ナタルー!」
ぼんやりと呟いたナターシャに、クリスの肩を下ろしたイーリスが駆け寄り、その身体を抱き締める
「わぷっ……もう、どうしたの、イーリ?」
「どうもこうもねぇよ!あぁ、もう、とにかく、怪我とかしてねえよな!?大丈夫だよな!?」
「え、えぇ……私は、平気……クリス!?」
イーリスを抱き返してその背中を叩いていたナターシャ
ふと視線を移すと、入口の壁にもたれかかっていたクリスに気付く
重傷を負ったままの、その姿に
「あ、ぁぁぁぁぁぁ……!」
「……ナターシャ」
「そうだ……私、福音と……あの子と、私が……」
「……大丈夫だ、ナターシャ」
「……っ!ごめんなさい!ごめんなさいクリス!」
笑顔から一転
暴走した福音、それを止めるために現れたクリス達との交戦
そして、堕ちていく白い機体
全てがナターシャの脳裏に早回しで浮かんでは消えていく
気付けば、ナターシャは目から止めどない涙を流していた
「わたし……わたしのせいで、貴方、こんな……!」
「……気にすんな」
「どうして!気にする、わよぉ……だって、だってわたし……」
「お前が無事だったなら、それで十分だ」
「……クリ、ス?」
「なんつーか、さ」
照れ臭そうに頬を掻くクリス
実際、その頬は薄く朱に染まっていた
「……うん。やっぱり、大事だから。だから、何が何でも助けないとって思ってた」
「……私の、こと?」
「ああ。それに、福音も」
「………」
「……ナタル。そもそもは私がクリスに頼んだんだ」
「え……?」
「福音を止めて、ナタルを助けてくれって。だから、クリスの怪我の一因は私にもある」
「俺が自分で決めて、その結果なんだよナターシャ。お前が気に病むことじゃない」
「クリス……」
涙の溜まった瞳でクリスとイーリスを交互に見やるナターシャ
それを拭って、弱々しい微笑を浮かべ、口にした
「……ありがとう、クリス」
「どういたしまして。……それと」
「ぁ……」
言いながらゆっくりとナターシャに歩み寄るクリス
その眼前に立ったところで……その身体を、抱き締めた
「おかえり、ナターシャ」
「……ええ。ただ、いま……!」
抱き合う二人と、それを優しく見つめるイーリス
異界において、穏やかな時間がそこにあった
───やがて、終わりを迎えたとしても
『うわあああああっ!?』
「「「!?」」」
外から聞こえてきた、誰かの悲鳴
それに一瞬で険しい表情へと変わった三人は、一様に頷きあって外へと飛び出した
◇◆◇
「おい、何が……!?」
外へと出たクリス達が見たもの
それは、人型の異形の群れだった
白い甲冑に大きな蒼い翼と爪を持つもの
同じく甲冑は白、翼は天使の如く、手には変わった装飾の細剣を持つ異形
紫色の鎧を纏い、巨大な双刃剣と盾を持った騎士
桃色の鎧に身を包み、手には大きな楯を装着したもの
その四体が、一夏や幼いデジモン達を見下ろしていた
「……説明してもらおうか、ジジモン」
「何故人間がここにいる?」
その内の、剣を持ったデジモンと桃色のデジモンがジジモンに問う
「……迷い込んだらしくての。故あってここで保護しておったのじゃ」
「ほう……」
「『デジタルゲート』は閉じているはずなのに、迷い込んだ、か」
ジジモンの言葉に、今度は紫色の巨体が呟き、蒼い翼と爪を持つ闘士が言う
「…─まぁいい」
そして、剣を持つ異形が呟き……その剣を、一夏達へと向けた
「っ!?」
「貴様への処分は後だ。今は……この余所者共を粛正する」
「ま、待たんか!」
「聞く耳持たん。……我らが主は、人間がこの地を穢すことを何よりも嫌う。15年前を忘れたか?」
「……それは……」
「……そうだよ」
異形達の言葉に、簪の側にいた小さな白いデジモン……ハックモンが、ぽつりと呟いた
「ハックモン……?」
「人間のせいなんだ、全部……人間が来たから、お師匠様は死んでしまっ……」
「黙れ出来損ない」
瞬間
桃色の甲冑が、ハックモンを蹴り飛ばした
「うあっ!?」
「ハックモン!?」
「……貴様が『ガンクゥモン』を慕い、ロイヤルナイツを目指していたことは承知の上だ」
「だが結局は完全体止まり。その上そこまで退化した貴様に、我らの言葉に口を挟む権利は無い。身の程を弁えろ」
「ぐ、うぅ……」
「……話が逸れたな。では穢らわしい人間共、大人しく……」
「待て、ドゥフトモン!」
「クレニアムモンにロードナイトモン、デュナスモンもだよ」
刃が再び向けられた時、エンジェウーモンとレディーデビモンが一夏達の前へと躍り出た
「……何のつもりだ?」
「彼らを導いたのは私たちだ!……『イグドラシル』の意志に従って!」
「なに……!?」
「バカを抜かすな!我らが主が、人間がデジタルワールドへ踏み入ることを許しただと!?」
ドゥフトモンと呼ばれた剣を持つデジモンと、桃色の甲冑───ロードナイトモンがその言葉に食ってかかる
それを真っ直ぐに受け止ていた二体を見て、紫色の鎧を纏う、クレニアムモンが口を開いた
「……そうか。マスティモンは貴様らの……」
「そうだよ。それに……」
「『ベビーフレイム』!」
「『ファイアボール』!」
「『コキュートスブレス』!」
四体のデジモンの左右から、二つの炎弾と一つの凍結の息吹が襲いかかる
が、それぞれがそれを容易く回避する
「貴様ら……!」
それを放ったのは、アグモン、ギルモン、メタルガルルモンの三体
各々が一夏やクリス達を守るようにして立っていた
「……ここは退いてくれ、ロイヤルナイツ」
「まだ幼年期のデジモン達もいっぱいいるんだ!」
「それに、みんな仲良くしてるじゃないか!」
メタルガルルモンに続いて、アグモンとギルモンが叫ぶ
それを聞いたガオモンも、同じく前へ
「……アグモンとメタルガルルモン、貴様らはわかる。よく戻ってきた。だが……ギルモン」
「っ……」
「貴様、追放された身でありながらよくおめおめと戻ってこられたものだ」
「それは……」
「わかっているならば、疾く去れ。ロイヤルナイツより外れた貴様なぞ……」
「……いい加減にしろよ」
「……なに?」
ドゥフトモン達へと、これまで言葉を失っていた一夏が顔を上げ、まっすぐ見据えながら口を開いた
その後ろにいた箒達も、皆一様に目の前のデジモン達を睨む
「お前達、何様のつもりなんだよ!いきなり現れたと思ったら、好き勝手言って、まだ小さいデジモン達を脅えさせて!」
「口を慎め人間!」
「慎むのは貴様らだ!どうやら私達が気に入らないようだがな、生憎そう言われる筋合いはこちらには無い!」
「どこの世にもいらっしゃいますのね。覚えのない者に対しても、他と同じ態度を取る輩というものは」
「アンタ達みたいなのがね、最後には鼻っ柱へし折られて情けなく消えるってのが世の常なのよ!」
「……さすがに、ここまで言われたら僕でも腹が立ってきたよ」
「同族へも見下す態度……貴様らはこの世界において上位の存在らしいが、これでは破滅も時間の問題だな」
「……こんな、小さいデジモンまで傷つけるなんて……あなた達、最低です……!」
口々に、感じていた不満を爆発させる一同
それを聞いていた四体は、全身から殺気を膨れ上がらせた
「……いい加減、構わんだろう、ドゥフトモン?」
「ああ、デュナスモン。遠慮無く……引き裂いてやれ」
「くっ……みんな、気を付けろよ!」
「調子に乗りすぎたな貴様ら……!」
「こんな時、ISが使えたら……!」
「やべぇぞ……!」
「………」
「クリス!?」
「待ちやがれてめぇら!!」
ボロボロの身体に鞭打って、駆け出したクリス
そのまま、ドゥフトモンの前へと立ちはだかった
「クリス先生!?」
「ロイヤルナイツって聞こえたぞ!お前ら、オメガモン達の仲間だろうが!」
「………」
突然現れたクリスを怪訝な目で見つめるロイヤルナイツ
だが、その内ロードナイトモンが驚愕に満ちた声を上げた
「……っ!貴様…… 15年前の小僧!!」
「……はぁ?」
「なっ……そうか、貴様がこの状況を……!」
「おい、何を」
「よく見ればそこの女……トリッシュ・ラーゼリアだな!」
「!?なぜ、私を……!」
「忘れたとは言わさんぞ……忌々しい15年前の悲劇!貴様ら二人と、『篠ノ之束』がかつてこの世界を破滅寸前まで追い込み、ガンクゥモンを殺し、そして…ロイヤルナイツがバラバラとなる原因を作ったことを!!」
「……は?」
「私達、が……?」
「いや待て……それよりも、姉さんが!?」
「ちょ、どういうことですか先生!?」
「……知らない……俺は、何も……ぐっ!?」
「私も……いったい、何……っ!?」
ドゥフトモンが発した言葉
それを聞いたクリスとトリッシュの脳を、突然激痛が襲う
「ぐ、が……っ!!」
「づぅ、ぅぅぅぅぅ……」
「これは……」
「……そういうことですか、我らが主」
クリスとトリッシュ
感じた事のない頭痛に、膝を着き、その場に倒れ込む
二人の脳裏に、何かの映像が早回しで再生されていく
「デジタルワールド……迷い、こんで……!」
「デジモン達……そう、私達、は……!」
「出会った……アグモンや、ガブモン……」
「ギルモン……貴方とも、私……!」
「ああ、そうだ……俺達……俺と、トリッシュと、束……!」
「そして、私達を見守っていた、ガンクゥモン……!」
「……俺の、俺達の、友達……」
「約束、した……そう……!」
「「イグドラシル……!」」
歯車が、噛み合う
そんな音が聞こえたと思った時
痛みが、一際強く二人を襲った
「ぐっ、あああああああああああっ!!!」
「うあああああああああああああっ!!!」
「ああ、そうだ!俺達……俺達のせいだ、全部!!」
「私達が……私達がぁ……」
「マグナモン……アルフォースブイドラモン……スレイプモン……エグザモン!」
「ごめんなさい……ごめんなさいガンクゥモン……!」
「先、生……?」
「……そうだ」
「え?」
突然のことに言葉を失う一同
そんな時、アグモンがぽつりと呟いた
「そうだ……どうして、ボク達まで忘れてたんだ……」
「それが、アルファモンがあんな行動に走った原因なんだって……」
呆然とした表情のアグモンとメタルガルルモン
今も尚、涙を流しながら懺悔を続ける二人を、周りにいる一同は静かに見据えていた
ハックモンの進化系統にはバオハックモンとセイバーハックモンというのがあるというのを昨日になって知りました