The Black α&White Ω   作:オパール

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秩序の器

「思い出したようだな」

 

クリスとトリッシュの嘆きが落ち着いた時を見計らい、ドゥフトモンが声をかける

 

「貴様らの戯れが、今のこの状況を作り出したのだ」

「おかげで、あと一つで埋まるはずだったロイヤルナイツの席も、我らとオメガモン、アルファモンを含めた6つに減ってしまった」

「ガンクゥモンはデジタマに還ることもなく消滅し、マグナモン、アルフォースブイドラモン、スレイプモン、エグザモンは行方知れずだ」

「加えて、デュークモンはロイヤルナイツの誇りを失い、ただのウィルス種へと格を堕とした」

 

投げ掛けられる言葉にも、二人は反応を返せない

それほど、思い出してしまった事実は重く、苦しいものだった

 

「……会わせろ」

「なに?」

「会わせろよ……イグドラシルに、俺達を会わせろ!」

「ふざけるな!貴様らが今更……!」

「謝らないといけないの!忘れてしまっていたこと、そして、私達が犯してしまったことを!」

「……話にならんな」

「まったくだ」

 

顔を上げ、涙の痕を残しながら叫ぶクリスとトリッシュ

そんな二人を蔑むように呟いたドゥフトモンに、賛同する声があった

 

「……貴様」

「……最悪だ」

 

 

 

「アルファモン……!」

 

蒼いマントをはためかせた、漆黒の巨体が現れる

腕を組み、クリス達を見据える深紅の瞳は、どこまでも冷ややかだった

 

「……その様子。答えは得たようだな」

「ああ。やはり……人間はデジタルワールドにとって、害悪にしかならない」

「ならば取るべき手は一つだ」

「わかっている」

 

それだけを告げ、アルファモンはその手に王竜剣を顕現させる

それを皮切りに、他のロイヤルナイツもクリス達を囲うように広がり、構える

 

「クソッタレ……!」

「先生……この状況は……!」

「……死ねるかよ……全部思い出したんだ!イグドラシルに会って、あいつとの約束を果たすまで死ねるか!」

 

ジリジリと距離を詰めてくるロイヤルナイツを見据え、叫ぶクリス

続けて、トリッシュが声高に叫ぶ

 

「そう……私達は、これからなのだから!」

「だから……!」

 

 

 

「お願い、ギルモン!!」

 

「頼む!アグモォォォォォォンッ!!」

 

 

 

「トリッシュ!」

「クリス……!」

 

二人の叫びに、ギルモンとアグモンの身体が光を放つ

 

先のガブモンと同じく、全てがデータとなり、姿を変え、再構築されていく

 

 

 

『ギルモン、進化!!』

『アグモン!ワープ進化ァ!!』

 

 

 

赤き身体のギルモンが、黒と灰色の鎧を纏った騎士へと

アグモンは、紅蓮の如く燃えさかる竜騎士の姿に変わる

 

 

 

『カオスデュークモン!』

『ウォーグレイモン!!』

 

 

 

並び立つ、二体の究極体

そこにメタルガルルモンとエンジェウーモン、レディーデビモンが加わる

簪に抱えられたハックモン、それを含めた他の者達を守るように、ガオモンとジジモンが立ち塞がる

 

数だけならば、5対5

だがロイヤルナイツ全てが究極体に対し、ウォーグレイモン達は究極体3体に完全体が2体

彼我の戦力差は、はっきり言って絶望的だった

 

「………」

「デューク、モン……?」

「……案ずるな、トリッシュ」

 

「ウォーグレイモン、メタルガルルモン……」

「大丈夫だ、クリス。任せておけ」

「クリスも、みんなも、オレ達が守るから!」

 

「……レディーデビモン」

「正直、不安だけどね……でも、まぁ。ナターシャへの償いくらいはするさ……!」

「………」

 

一触即発、といった状況

誰が、どう動くのか

 

緊張のあまり叫び出しそうになるほどの沈黙の中、その声は響き渡った

 

 

 

 

 

 

 

───何をしている?

 

 

 

 

 

 

 

『『『!?』』』

 

辺り一帯と、クリスの脳に直接響いた声

男とも女とも取れる、それでいて無機質なその響きに、アルファモンを除いたロイヤルナイツは一斉にかしずいた

 

「わ、我らが主……!?」

 

───何をしている、そう私は訊いたぞドゥフトモン?

 

「こ、この世界……主のお膝元に迷い込んだ余所者を、排除しようと……」

 

───ほう。そのために、同胞であるデジモン達をも巻き込もうとしたのか?

 

「それ、は……」

 

───それにだ、ドゥフトモン

 

 

 

───いつ、私がお前達にそんなことを命じた?

 

 

 

「っ!!お、お許しを我らが主!」

「発言をお許しください、主!」

 

───許そう、デュナスモン

 

「ドゥフトモンだけに非があるのではありません!我ら三体も、それに賛同したのです!」

 

───……まぁ、いい

 

「主……!」

 

クリス達への態度とは真逆、脅えるように声へ答えるドゥフトモンとデュナスモン

その様子を不思議そうに見つめていた一同だったが、クリスとトリッシュだけは別だった

 

「……イグドラシル……イグドラシルなんだよな!?俺だ、クリスだ!」

「私も……トリッシュもいるわ!お願い、応えてイグドラシル!」

「貴様ら……!」

 

───黙れロードナイトモン

 

「くっ……!」

 

 

 

声の主こそ、イグドラシル

ロイヤルナイツの直接の長にして、デジタルワールドの全てを司るもの

 

 

 

───ロイヤルナイツに命じる

 

「はっ!」

「何なりと、我らが主」

「………」

 

───そこの二人と、ウォーグレイモン、メタルガルルモン、それにレディーデビモンとエンジェウーモンをここへ連れてこい

 

「なっ……!」

「お、お考え直しを!かつてこ奴らが何をしたのか!」

 

───いつから私の決定に意見できるほど偉くなった、ドゥフトモン?

 

「……っ!!」

 

───アルファモン

 

「………」

 

───お前の決定に口を挟むつもりはない。だが……今は退け

 

「……ああ」

 

それだけ呟くと、アルファモンは王竜剣を消失させ、再び腕を組んだまま身動ぎ一つしなくなった

 

そして、イグドラシルの声もそれを境にパタリと止まっていた

 

「……聞いた通りだ人間。我らが主は貴様らを呼んでいらっしゃる」

「好都合だ……とっとと連れてけ」

「やっと……やっと会える……」

 

ロードナイトモンが腕を振り上げる

すると、そこに黄色い光を放つゲートが現れた

 

「……よし、行くぞみんな」

「ええ……!」

「ちょ、何が起こってるのかさっぱりだ!説明してくれよクリス先生!」

 

そのゲートへと歩き始めたクリス達を、一夏が呼び止める

それに僅かに振り向き、申し訳なさそうな顔でクリスは答える

 

「……悪い。今はこっちを優先させてくれ」

「なっ……!」

「クリス……」

「……全部終わったら、ちゃんと話す。待っててくれ、ナターシャ」

 

それだけを告げて、クリスが

続けてトリッシュ、ウォーグレイモン、メタルガルルモン、エンジェウーモンとレディーデビモンがゲートへと飛び込んだ

 

「先生……」

「……待つしかねぇだろ。なぁ?」

 

呆然とする一夏の肩をイーリスが叩く

そのまま、視線をカオスデュークモンとジジモンへと向けた

 

「……知ってる奴らから事情聞くのが一番だと思うんだけどよ……話してくれるよな?」

「……ああ」

「仕方あるまいて……」

「ジジモン……あなたは、オーランド先生や姉さん達のことを……」

「ああ。知っておる。……彼らがそうだと確信を持ったのは、今し方じゃがの」

 

 

そして、ジジモンとカオスデュークモン、残っていたロイヤルナイツ達は語り始めた

 

三人の子供達

それが起こした事件と悲劇、それに纏わる全てを───

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

目を開いた時、目の前にあったのは「無」だった

 

ゲートを潜り抜けたクリス達の目に飛び込んできたのは、生命を感じさせない真っ白な空間

洞窟のようにも、平原のようにも見えるそこに、クリスとトリッシュ、そしてデジモン達はいた

 

「……こんなに、変わっちまったのか……」

「………」

 

かつては無機質ながら暖かかった空間が、今では生命の気配すら感じさせないものへと変わっている

その事実に、再び零れ落ちそうになった涙を堪え、クリスとトリッシュは前を向く

 

「行こう……イグドラシルが待ってる」

「ええ……」

 

歩を進める内、次第に身体を妙な悪寒が包んでいくのを感じつつ、進み続ける一行

最初は薄らと明るかった空間も進むほどに暗くなり、代わりに彼方に小さな白い光が見えてくる

 

 

 

そして

 

 

 

「……イグドラシル」

 

 

 

鎮座する、白く、巨大な機械

 

楕円形のそれの中央には赤い球体

 

デジタルワールドを統べる、ホストコンピュータ

 

その正体だった

 

 

 

「イグドラシル……俺達がわかるか?」

「15年も待たせて、ごめんなさい……会いに来たの、イグドラシル」

 

───クリスに、トリッシュ、だな。覚えているよ

 

「イグドラシル……!」

 

人と、意思を持つ機械

15年という時を経て再び巡り会えた三者、喜びを隠せない声音のクリス

 

だが、次のイグドラシルの言葉にその表情は真逆の感情に固まることになる

 

 

 

 

 

 

 

───私の世界を、ここまで追い込んでくれたそもそもの元凶共が

 

 

 

 

 

 

 

「……え?」

 

───束はいないようだな

 

「それ、は……でも、私達はこうして……!」

 

───三人で来る、という約束だったはずだ。あの子は何をしている?

 

「………」

 

───所詮は人間か。友と呼ぶ相手との約束も満足に果たせないとは

 

「イグドラシル……」

 

頭が真っ白に染まり、思わず膝をつくクリス

瞳に涙を溜めるトリッシュの横から、ウォーグレイモンとメタルガルルモンが前に出る

 

「イグドラシル。彼らを責めないでくれ」

「ついさっきまで、二人とも15年前のことを思い出せなかった。……それは、イグドラシルが一番わかってるでしょう?」

 

───責めているつもりはない。事実を述べているだけだ。それに……そうだな

 

───三人から15年前の記憶を消したのは、私だったな

 

「……ああ、そうだったな」

「私達が罪の意識に潰されないように、あの時、貴方が私達の記憶を、全て」

「だから、こんなに時間がかかっちまった……」

「………」

 

───それで?今更何の用だ?

 

「……わかってるだろ、イグドラシル」

「約束を、果たしに来たの。一人足りないけれど、でも……!」

 

───ふン。ナにを、カッて、ニ

 

「……イグドラシル?」

 

───■■■■■■

 

「なっ……!」

 

冷徹な口調を続けていたイグドラシル

だが、突如としてその声がノイズに包まれ始めた

 

「イグドラシル!」

「おい、どうしたんだ!?」

「様子がおかしいとは思っていたが……!」

「エンジェウーモン!?」

 

───クリ、ス

 

「!?」

 

───ト、リ、ッシュ……

 

「どうしたの!?一体何が……!」

 

───エン、ジェウー、モン……レディー、デビモ、ン……フタリを、ニ、ガ、セ……

 

「何か、マズいよ……!」

「ウォーグレイモン、メタルガルルモン!私達に続け!」

「おい待てよ!いったいあいつに何が……!」

「イグドラシル!イグドラシル!!」

 

───クリス、トリッシュ

 

「っ!」

 

 

 

 

 

 

 

───私を、止めてくれ

 

 

 

 

 

 

 

『エンジェウーモン!』

『レディーデビモン!』

 

『『ジョグレス進化!!』』

 

『マスティモン!!』

 

ノイズ混じりで、先程までとは違う、どこか親しみを感じる声音となったイグドラシル

だが、それを確認する間も無く、空間そのものを強い揺れが襲う

 

エンジェウーモンとレディーデビモンが一つになり、その姿を福音に取り憑いていたマスティモンへと進化させる

ウォーグレイモンとメタルガルルモン、そしてクリスとトリッシュの身体が宙に浮かび、マスティモンが開いた亀裂の中へと吸い込まれていく

 

「この、感覚は……!」

「人間界に帰れってか……イグドラシル、お前は……!」

 

呼びかけるも、イグドラシルからの返事は無い

 

ゆっくりと上昇していきながら、クリスとトリッシュは物言わぬ旧友へと、最後の声をかけた

 

 

 

「必ず……必ずまた来るから!」

 

「今度は、束も連れてくる!」

 

「だから……!」

 

「待ってろ、イグドラシルー!!」

 

 

 

 

 

 

 

───ああ。待っている

 

───私の、大切な……

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

「っ!?」

 

身体が弾き出されるような感覚の後、意識が覚醒したクリスが見たものは、朝日を受けて煌めく砂浜

思わず周囲を見回すと、離れた場所に一夏達、すぐ傍にはトリッシュの姿

 

だが、デジモン達の姿だけが、そこには無かった

 

「……帰って、きたのか」

「……みたいですね」

 

デジタルワールドではない、本来自分達が生きる、人間界

そこにクリス達は帰ってきていた

 

「先生!」

「クリス、大丈夫!?」

 

しばし混乱していた一同だったが、互いに無事な姿を確認すると、一目散に駆け寄っていく

 

「お前ら……」

「……先生達が行った後、いきなり地震みたいなのが起きて……」

「それで、気がついたら、ここに」

 

一夏と簪が、代表して言う

後ろの面々は、どこか複雑そうな表情でクリスとトリッシュを見つめていた

 

「……その様子だと、聞いたようですね」

「……はい」

「……まぁ、そういう、ことだ」

「先生?」

「おれ達、は……取り返しのつかない、こと、を……」

 

ふらふらと揺らぐクリスの身体

 

言葉を最後まで紡ぐことなく、視界一杯に広がる砂浜を見つめながら、クリスは意識を失った

 

 

 

 

 

 

 

ターニングポイントは、既に過ぎた

 

過去を取り戻した者達の行く末はどうなるのか

 

この時はまだ、誰にもわからなかった

 

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