「……ふぅ。ったく、トリッシュの奴。病み上がりの人間に遠くの資料室まで荷物運ばせるか、普通?」
───まぁまぁ。トリッシュだって気を利かせてるんだよ……たぶん
───ねぇクリス。ボクお腹空いてきちゃったよ
「フォローになってないフォローをありがとよ、ガブモン。それとアグモンは我慢しろ。デジタルワールドと違ってお前ら用のメシとかそう簡単に調達できねぇんだから」
夏休み中の学園内を、両手に資料やファイルの束を抱えて歩きながら、そんな言葉を交わすクリスとアグモン達
予定よりも早く絶対安静の厳命が解除されたクリスに、トリッシュから待ってましたと言わんばかりの唐突さで資料室への配達が言い渡されていた
「しっかし、わかっちゃいたけどやっぱ校舎内はガラガラだな。生徒も教師もまばらだ」
───みんな、お休みしてるんだね
───整備科の人達は時々来てるんだよね?
「らしいな。後はまぁ、帰省するでもなく寮で時間潰すか、アリーナ貸し切って訓練してるかだ……っと、ここだな」
歩を進めること数分、目的の資料室へと到着した
「えっと……鍵は」
───ねぇ、クリス?
「ん? どした、アグモン」
───気のせいかな? 中から生体反応があるんだ。それも二つ
「……ここ、いつも鍵かけてあるってトリッシュ言ってたよな?」
───うん
「……警戒しとけ、二人とも。行くぞ」
目つきをすっと細め、ゆっくりと扉の前へと近付くクリス
自動ドアである以上、ロックを解除した次の瞬間には人がいることを感知したドアが開かれ、中の様子が晒されるだろう
胸元の愛機へと意識を割き、上着の懐に忍ばせている、何故かイーリスから餞別だと渡されたナイフに手をかける
「
施錠を解除し、空気の抜ける音と共に開かれた扉の先にナイフの切っ先を向ける
その向こうにいた闖入者へと───
「ひあっあぁ、せん、ぱいぃ……!」
「我慢すんなってフォルテ……ほら、速く……!」
───無言で、ドアから一歩退いた
「………」
───………
───………
ぷしゅー……という音がやけに間抜けに聞こえたクリス
壁にもたれ掛かり、頭と腹部を手で抑える
「……いや、うん。人の趣味って、それぞれだよね」
───クリス。あの人達、何をしてたの?
「ナニしてたんだろうなぁ」
───シュミ、って?
「………」
───クリス?
「……部屋間違えたな、うん」
───えっ
「たぶんここじゃないんだろ。何せこの学園広いし」
───でもクリス、さっきここだって
「部屋を間違えた、いいね?」
───アッハイ
「じゃ、行くか」
戸惑う二体を黙らせ、今度は早足で歩き出すクリス
一刻も速くこの場から逃げ出したいという気持ちの表れだった
だが、そうは問屋が卸さない
───あ、さっきの生体反応の一つが……
「待てコラ変態ィィィィィッ!!」
自動ドアなのに蹴破られ、そこから金色の髪を靡かせる少女が躍り出てきた
長い髪をうなじの辺りで纏めたシングルテールに、切れ長な青色の瞳
女性らしい起伏に富んだプロポーションの中に、IS操縦者として鍛え上げられた強さとしなやかさを感じるその体躯
そして、つい先程まで資料室内で行われていた行為を思わせるような、どことなく乱れたままの制服
リボンの色から察するに、三年生らしい
まぁそんなことなど頭の中の警鐘が鳴りっぱなしのクリスにとってはどうでもいい
「来やがったチクショウ!」
背後からかけられた怒号を聞くなり、ダッシュへと切り替えるクリス
ちなみに、本来仕事をしていただけであり情事を妨害する気など欠片も無かったクリスが逃げる必要など一切無い
無いのだが、それで向こうが納得するかと言えば、答えは否
断じて、否である
「うぉおおおおお速ぇぇぇぇ!?」
「逃がすかこの野郎!おかげで二人してイケなかったしフォルテに至ってはマジ泣きしたんだぞ!!」
「知ったことか! 見られたくないんなら寮でヤッてろ!!」
「いいから黙ってボコられろ変態!!」
「真っ昼間の校舎でサカってた痴女に変態呼ばわりされたくねぇ!!」
始まった教師対生徒の鬼ごっこ、ただし捕まれば死ぬ、社会的に
ゲームであっても遊びではないとはこのことなのだと、クリスは身に染みて感じていた
「待ちやがれーーーーっ!!」
「誰が待つかーーーーっ!!」
廊下を全力疾走、階段を数段飛ばしで駆け上ったり数段上から飛び降りたり
上下前後と縦横無尽に駆け回る二人の姿が咎められないのは、偏に人の姿自体がそもそも無いため
そのことがクリスにとっては幸運でも不運でもあった
一方でクリスは逃げ回りながら自身の身体に違和感を感じていた
(……何か、身体が軽い? それにこんだけ走ってるのに息も切れなきゃ苦しくもない……)
加えて、自分は病み上がり
ほんの二週間弱とはいえ寝たきり生活だったというのに、筋肉の衰えも無ければ体力や運動能力に関しては負傷する以前よりも増しているようにも感じる
(……まさか、な)
ふと、ISと操縦者の身体についてのある仮説を思い出した
IS、特に専用機は操縦者との操縦時間が多ければ多いほどその機体性能を操縦者に合わせて自ら変化、最適化、そして進化していき……その逆、機体が自らに合わせ、操縦者の身体を最適化していく、という仮説を
だが、いくらISコアに人格があり、自己進化が可能な代物だとしても流石にそれは眉唾だろうと考えていた
(あいつがそんな物騒なもん造る理由も無いしな)
そして最後に思うのが、自分達との過去を無くしたままの友のこと
速く思い出させ、連れ戻さねばとクリスの胸に使命感という熱い炎が宿る
「このっ、いい加減、待て……!」
「……いや、まずはこの状況をどうにかしなきゃな」
───あの人、なんであんなに怒ってるのかなぁ?
───さぁ……?
「気楽でいいねぇお前らは……」
背後から息を切らしながらもスピードは緩めない女生徒に辟易しつつ、どうするかと考えを巡らせる
ふと、そんな時
「……あ」
「あっ、クリス兄! やっと見つけた!」
通路の影から現れた、クリスを見るなり爽やかなあどけない笑みを見せる少年───織斑一夏の姿
一瞬申し訳ないという感情が生まれるも即座に切り替え、悪い笑みを浮かべる
(ていうか弟分なら兄貴分を助けてナンボだよな?)
「一夏! 気を付けェ!」
「へ!? はっ、はい!」
根はどこまでも素直な少年、敬愛する兄貴分に命じられたからには即座に直立不動の姿勢となる
「礼ィィィィィッ!」
「はいいいいいっ!?」
怒鳴られ、萎縮し、言われるがまま身体を90°の角度で固定する
クリスはそんな一夏へと、速度を落とすことなく駆け寄っていく
「え、ちょっ、クリス兄!?」
「いいからそのまま!」
真面目なことにお辞儀を崩さない一夏
未だ全力で走るクリスはそのままの勢いで
一夏の背中を台に、前転するかのように向こう側へ着地、そのまま再び走り出した
「いいぞ、直れ!」
「は、はい……」
「うおおおおおおいきなり起きるんじゃねええええっ!」
「へ?」
ズドンッ! ドダンッ!!
何かが衝突する音、次いで重量のある物体が落下する音
「いってぇ……ひっ!?」
「むぐ……う゛ぅっ!?」
「こっ、コラてめぇ!なに人の股間に顔……!」
「む゛っ、ん゛ーん゛ー!?」
「やめっ、喋るんじゃ……さっきの、中途半端だったのがぁ……」
「───っ!?」
「くっ、ぅぅぅぅぅっ!」
「……災難だなぁ」
「ひっく……せんぱい……どこッスか……んなっ!?」
「はぁー……はぁー……」
「……なんっ、な、なぅ……」
「せっ、先輩にナニしたッスかこの変態!」
「へっ!?」
「……事情を聞こうか、一夏」
「げぇっ、箒!?」
「……うん、マジでごめん」
◇◆◇
「はぁ……」
「どうかしたんですか、先生?」
「ん?あぁ、ちょっとな」
「そんな時はー、はい、お菓子ー」
「ああ、Thank you」
一夏という尊いのかどうかわからない犠牲のもと、女子生徒を何とか振り切ることに成功したクリスは、整備科の生徒達と共に整備室でティータイムと洒落込んでいた
「……まぁ、本当は精密機械の多い場所で食べカスとか出るもん食うのって褒められたことじゃないんだけどな」
「うっ」
「で、でも長時間の作業中の糖分補給って必須ですしおすし」
「……あくまで、本職の現場なら、な」
その言葉に生徒達は一斉に安堵の息を漏らす
横目でそれを眺めながら、クリスは注いでもらった紅茶に口を付けた
「……しっかし、ここに来るのも随分と久しぶりだなぁ」
「ああ……臨海学校で色々あったみたいですしね」
「驚きましたよー。帰ってきたと思ったら先生ボロボロなんですから」
「んー、まぁなー」
「お、お身体の方は、もう?」
「ん?あぁ、もう完璧だ。心配かけたし、見舞いにも来てくれてありがとな」
「い、いえいえ!」
「ちょっと薫子ー?さらりと隣陣取っといて自分だけいい子チャン?」
「クリス先生に一番懐いてる簪さんがいない隙を狙うとは……」
「汚いな、さすが新聞部汚い」
「だから違うって……!」
女三人寄れば姦しいとは言うが、どう見てもその倍以上の女子生徒で埋め尽くされている整備室
やいのやいのと騒ぎ立てる少女達を眺めつつ、クリスは本音から差し出された菓子を口に運ぶ
「み、見つけたッスよ!」
「年貢の納め時だ変態教師!」
「Bull Shit!!」
「先生!?」
「ひっ、膝だけであんな跳躍を!?」
突如開け放たれたドアの向こうから現れたのは、黒髪の小柄な少女とクリスを追いかけ回していた三年生
その姿を確認した次の瞬間、クリスは文字通り飛び上がりもう一つの出口から逃走を図った
「逃がすか、やれフォルテ!」
「了解ッス!」
フォルテと呼ばれた少女は、まるで猫を思わせる身軽さでクリスに肉薄、その手に握っていたロープをクリスの足へと絡ませた
「げっ!?」
「ナイスだフォルテ! 大人しくオナワをチョウダイしやがれこの野郎!」
「げふぅっ!?」
足を絡め取られたことでバランスを崩し、そこへ追い打ちをかけるかの如く金髪の少女が飛びかかってきた
抵抗する間もなく、少女二人分の全体重を押し付けられたクリスは呆気なく捕らえられてしまった
「……あれ、二年のフォルテ・サファイアさんと三年のダリル・ケイシー先輩よね?」
「クリス先生が変態って……」
ロープで簀巻きにされ整備室の隅っこに連行されたクリス
仁王立ちで見下ろしてくる二人を「わけがわからないよ」という表情で見つめていた
「……さて、と先生。こうなった原因はわかってるよな?」
「わかっちゃいるがここまでされる理由が思い付かん。邪魔したことは正直すまんかったと思ってるけど」
「………」
「おい、涙目で睨むな。何か本当に悪いことした気分になってくる」
「……先輩。ここまでやっといて何なんスけど、この行動って何か意味あるんッスか?」
「なーに言ってんだ、赤っ恥かかされただろうが。特にお前」
「うぅ……」
耳まで真っ赤になる小柄な二年生の少女、フォルテ
その頭をぽんぽんと叩きながら三年生……ダリルが再度クリスを睨む
「……で? 結局俺はどうすりゃいいんだ?」
「……へ?」
「いや、こうしたからには何か俺にさせようとしてたんだろ? 謝罪なり何なり。それに関しては謝るよ、悪かった」
「お、おう」
思いの外あっさりと謝罪されたことに思わず狼狽えるダリル
その間にもそもそと動いていたクリスは、するりと拘束から抜け出した
「……っと。ていうか、お前よく見たらアメリカ代表候補生のダリル・ケイシーじゃねぇかよ」
「……オレのこと知ってんのか?」
「同郷だしな。それに、うちの親父も期待してる奴だし」
「……そっか」
「……まぁ、一つだけ言わせて貰うなら、だ。今日みたいなことになりたくないなら校舎じゃなくてもっと人目につかないとこでやりなさい」
「……うぃっす」
「はいッス……」
「……お前ら、この後予定は?」
「え?」
「いや、特に何も……」
「じゃあ一緒に茶でも飲んでけ。おーい!こいつらもお茶会混ぜてもいいかー!?」
モチノロンデース
「だってよ」
「……どうする、フォルテ?」
「……せっかくッスから」
「ほれ、なら早く行け」
戸惑い気味な二人の背中を押して、元いた場所へと戻るクリス
それから夕刻まで、その場に集った一同は騒がしくも楽しげな時間を過ごしたという
ダリルとフォルテは夏休み時点でくっついてたかどうかはわかりませんがここではそうしました
設定の話を、人物、IS、デジモンに分割
クリス、トリッシュ、オメガモン、アルファモン、オメガ・プリンセス、アルファ・エンプレスの項目を編集
ホーリー・ハザード、カオスデュークモン、マスティモン、ガオモン、ハックモン、ロイヤルナイツの項目をそれぞれ追加しました