そのため、当たり前ですがワンサマとヒロインズの痴話喧嘩にはあまり介入はしません(チョロコットさんとのバトルとか二組さんとのバトルとか)
でもちょこちょこ絡ませはする
pipipi、と、目覚ましの簡素な電子音が耳元で響く
「………ん」
徐々に覚醒していく意識と共に、薄く開かれた瞼から陽光が差し込み朧気な視界を白に染めていく
「くぁ……ふぅ」
欠伸を一つ、眼を何度か瞬かせれば、意識は完全に覚醒する
時計を見れば、時刻はAM6時
クリスはベッドから降りると、顔を洗うべく洗面所へと向かう
その途中、ふとベッドの横にある仕切りを越えた時
「ぶっ!?」
───え、山?
───いや、峰というやつだろう
「………」
そこにあったのは、オメガ・プリンセスとオメガモンが口にしたように、山、あるいは山峰という表現がピッタリなもの
………つまるところ、肌蹴たシャツから見えた山田真耶の胸だった
「……朝から眼に毒だぜ……」
どういうわけか同じ副担任という立場の女性と同室になってしまった
遠からず別室になるだろうとは思うが、それがいつになるかわからない
その内クリスは考えるのをやめた
───クリス、なんで前屈みになってるの?
───腹痛か?体調が悪いなら……
「………生理現象だよ言わせんな恥ずかしい」
そして、クリスは昨夜のことを思い出す
◇◆◇
「………」
「………」
「……あの」
「はい」
「わたしたち、同じ部屋なんですか?」
「みたいですね」
「………」
「………」
同室と判明して数時間後
夕食、個々にシャワーを済ませ、今まさに会議中
ラフな服装に着替えた二人だが、異性への耐性が皆無と言ってもいい真耶と予想以上のビッグバン(比喩)を持つ女性を前にしたクリス
そんな二人の間に、和気藹々とした空気などそう簡単に流れるはずも無かった
「……とりあえず」
「はっ、はい!?」
クリスの言葉に、過剰とも言える反応を見せる真耶
「線引きはしましょう、当然ながら」
「そっ、そうですよね!」
「基本、クラスのことやその他諸々あるので、帰ってくる時間はお互い違うでしょ。なんで、シャワーはそちらが先ということで……」
「い、いえ、その、あの。こ、ここには大浴場もありまして、そこは当然というか、女性専用ですので、わたしは、そちらで……ですので、シャワーは、お先に使っていただいて結構ですっ」
「そ、そっすか、んじゃそれで……」
「はっ、はい……あ、それでですね?ベッドは、わたしは元々こっち……入り口側を使っていたので、オーランド先生は、窓際を使って頂けたらと……」
「わかりました、じゃあその方向で……」
「はい……えーと、えーと、後は……」
手をわたわたと動かしながら次の言葉を探す真耶
そんな姿を微笑ましいと思いつつも、クリスも二の句が告げられない
片やしどろもどろ、片や言葉に詰まりっぱなしな二人
そんな時
コンコンッ
『山田先生、少しいいか?』
「
「おっ、織斑先生!?だ、大丈夫です、どうぞ!」
扉が開き、そこから白いジャージ姿の女性が現れる
切れ長の鋭い、猛禽を思わせる瞳と黒い髪
その立ち姿だけでも、眼前に立つ者を畏怖させるような迫力を有したその女性
名を、織斑千冬
世界最強の称号を我が物とする、文字通り最強の元IS操縦者がそこにいた
「ん?お前は……あぁ、そういえば同じ部屋だったか、山田先生」
「はっ、はい」
「……ちゃんとした挨拶がまだだったな、クリス・オーランド先生。改めて名乗るが、織斑千冬だ。一組担任と、一年生寮の寮長を務めている。これから、よろしく頼む」
「あ、ども。四組副担のクリス・オーランドです。こちらこそ」
差し出された右手を握るクリス
ふと、千冬がクリスの胸元……待機状態のオメガ・プリンセスを見つめていることに気がついた
「……俺の機体が、何か?」
「……いや、何でもない。それで、山田先生」
「はひっ!?」
「……慣れない男がいるからといって、そう緊張するな。オーランド先生も困るだけだろう」
「そっ、そうですよね!すみません、オーランド先生っ」
「別に取って喰われるわけでもないだろう。第一、そんな愚行を冒す奴を私が野放しにすると思うか?」
「えっ、俺そう言う風に見られてた?」
「くっ、喰うだなんてそんなっ!あぁいや、オーランド先生がそんな人だと思ってたわけではないですけど、でも男性って何歳になってもそういうことが頭から離れないって聞いたこともありますし……」
「ストップストップ!暴走してんぞ山田先生!」
「ごっ、ごめんなさいぃ!」
凄い勢いで頭を下げて謝る真耶
その拍子に、ゆさり、とおよそ人体が出すものではない音と共に揺れたそれに、思わずクリスの視線が向かう
「………」
「……やはり一度シメた方がよさそうか?」
「いや不可抗力だろう!」
薄く頬を赤くしたクリスを見て、釣られて真耶の顔もトマトの如く真っ赤に染まっていた
◇◆◇
「はぁ……」
歯を磨きながら、回想を打ち切ったクリス
頭に浮かぶのはあの圧倒的なビッグバン
アメリカにいた頃ですら、あのサイズは見たことがなかった
「ジャパニーズであれは反則だろう……」
───クリス、えっちぃこと考えてる
───ふむ。女性の身体的一部分にそこまで動揺するとは……人間、それも男性の思考とは、かくも複雑なのだな……
「うるさいよお前ら……!」
というか、こういう言い方はクリスは好まないが、何故機械がそういうことを気にするのか
ふと
ガチャッ
「え」
「ふぁ~ぁ……ぁ?」
ふいに開かれた背後の扉
振り向けば、寝惚け眼、胸元ほぼ全開の同僚教師
裸眼のためか何が見えているのかわかっていないようで、しぱしぱと眼を瞬かせて、細目で目の前のクリスを凝視する
「………」
「………」
「………っ!?」
ぼふっ
そんな音がして、真耶の顔が一気に限界値を振り切るかのように深紅に染まる
「あ、あぁ、あ」
「………」
こういう事態で次に何が起こるかだいたい把握しているクリス
全てを諦めきったような表情で、口を濯ぎ、それを吐き出す
「……Good morning」
にっこりと、相棒達が悲しくなるほどの爽やかな笑みを浮かべて
「キャァァァーッ!!」
寮内を揺るがすほどの絶叫は、生徒達の目覚まし代わりとなった
◇◆◇
「………」
「……今朝の山田先生の悲鳴と、何か関係あるんですか?」
「別に……」
朝、職員室
悲鳴を聞きつけた千冬に(何故か)絞られたクリス
授業前の待機時間、自分の机にて沈んでいるところをトリッシュに慰められていた
「二日目でこれとかやっていける気しないんだけど……」
「まぁ、恐らくは男所帯だったんでしょうから、急なことに戸惑うでしょうけど……」
「男に免疫無い異性と同室とかそんなん考慮しとらんよ……」
「そうですね。山田先生は元々あまり気の強い方じゃありませんから」
言って、トリッシュが視線を向けた先には赤い顔でちらちらとクリスを盗み見ては千冬に注意されている真耶の姿が
「ほらほら、切り替えてください。今日は昨日に続いてクラス代表を決めなくちゃいけないんですから」
「うーい」
「返事はちゃんと!」
「Yes ma'am!!」
二ヶ月半の訓練生生活で身に染み込まされた軍隊式
無意識の内に、上官には逆らえないという感覚も染み付いてしまったのかもしれない
◇◆◇
『そういや、この学園って工房……というか、整備室的なものもあるんだよな?』
『ええ。ここには整備科もありますし、二年生からはその授業も選択で受けられるから……技術屋としての血が、騒ぎますか?』
『そりゃまぁな。そっちが本職だし』
『ふふっ。なら、今日の職務が終わったら、行ってみたらいかがです?』
『いいのか?』
『ただし、半端に終わらせたりしたら後が怖いですからね?』
『い、Yes ma'am……』
そんな会話をしたのが朝の授業開始前
クラス代表を決めたりクリス目的で休み時間に訪れてきた生徒達の相手をしたりといった時間を過ごしている内にもう放課後
トリッシュの指示通りに本日の全職務を終わらせたクリスは、足早に整備室へと向かっていた
───クリス、いつになく元気がいいな
───そんなに他のISが見れるのが嬉しいの?
「当たり前だろ?なにせ、下手すりゃ世界規模で数少ない専用機が拝めるかもしれないんだ。それに」
───それに?
「聞いてみたい。プリンセス以外のISの声ってやつを。他のISが、どんな思いでここにいるのかを、さ」
聞いた限りでは、この学園にある専用機は十機にも満たないということらしい
専用機持ちは三年生に一人、一年と二年に二人ずつしかおらず、その内一年生の一人の機体は未だ未完成なのだと言う
(うまくやればその開発に関われる可能性が微レ存……!)
………ちなみに、本来専用機の開発はその国のIS研究の最優先事項にして、詳細は身内以外には秘匿すべき機密事項であり、米国機でない限りクリスが携われる余地は皆無
だが、ここは国家に帰属しないIS学園
そこに籍を置く以上、何らかのコネクションを得ればクリスの言うとおり参加できる可能性は微粒子レベルで存在するのだ
だがまぁ、クリスにとっては国家状勢だとか国同士の腹の探り合いだとかはどうでもいい
ただ、自分の夢のために何か得られるものがあれば、それだけで満足なのだ
「到着っと」
年甲斐も無く弾んだ声はまるで少年のよう
恐らく、整備科の生徒達がいるのだろう、中からは指示を飛ばす声や工具の貸し借りなどで走り回る音などが扉越しに響いてくる
(懐かしいな……)
思う
自分も数ヶ月前までは、このように工房を駆け回るスタッフの内の一人だった
それが何の因果か、教師としてIS操縦者育成の最前線に立っている
だが、技術屋としての志は今もこの胸に
「……うし、行くか!」
さぁ、聞かせてくれIS達
お前たちの思いを
お前たちは、何を思ってここにいるのかを………!
「たのもー!!」
重く感じた扉を開け放つ、その瞬間
「………っ!」
───あぁ、薫子ってばエースだけあるわ、やっぱり
───ちょっ、本音ちゃん!?それ油じゃないから!
───おーい、こっちの整備放っぽっていかないでぇ~
クリスの聴覚を通して、その脳に直接声が届く
それは、他でもない
整備を受けている、IS達の「声」
自身を熱心に、大切に取り扱ってくれる少女達への、信頼に満ちた「声」だった
「……幸せなんだな、お前らは」
思わず、クリスの目に涙が溜まる
米軍での、互いに信頼しあう関係のような、そんな、クリスが目指す人間とISの関係に近しい空気が、そこにあった
「……ん?」
そんな時、眼鏡をかけた一人の生徒がクリスに気付いた
「んん?……あぁ!確か、二人目の男のIS操縦者のクリス・オーランド先生!?」
「え、うそ!?」
「なんでこんなところに!」
「あれ~?たしかかんちゃんのクラスの~」
「あっ、あの!私、二年で新聞部副部長の黛薫子っていいます!よ、よろしければ取材させていただいても!いや、させてくださいお願いします!」
眼鏡の生徒……黛薫子は鼻息荒く、クリスに詰め寄る
「あ、あぁ、それはいいけど……整備、途中でいいのか?」
「へ?あぁ、あの子はもう殆ど終わって」
「ほとんど、じゃなくてきっちり終わらせてからな。半端に終わらせると、後で機体も動かす奴も泣きを見るぞ?訓練機のラファール・リヴァイヴだろ、あれ?」
「そ、そうですけど……」
「……時間かかるってんなら、手伝おうか?」
「え?」
「俺、前は実家のラボで働いてたから。整備の腕には自信がある」
「で、でも……」
「心配すんな、別にデータ掻っ払おうなんて思ってねーよ」
不安げな薫子の肩を叩き、整備途中のラファール・リヴァイヴの足下に座るクリス
「……んで?何の作業をどこまでやったんだ?」
「あっ、はい。外部は脚部スラスター、内面はPICや武装展開のメンテを……今、スラスターの調整を」
「OK。んじゃ、先に内面の調整頼む。こっちは2分で済ませる」
「2分って……って、速い!?」
言うが速いか、クリスは既に工具を手に整備を始めていた
長年現場に立ち、様々なISを見て、その全ての整備や調整、挙げ句には開発にすら関わってきたクリスにとって、訓練機の整備など朝飯前だった
「……よし、終わり。ついでにガタが来そうな部分も調整しといた。黛、そっちは?」
「い、1分49秒……ほんとに2分弱で……」
「内面の調整は!?」
「はっ、はい!武装の方は済みました!後はPICの数値調整だけです!」
「よし!んじゃそのまま終わらせて他に回れ!あと、遅れてるとこあるか!?」
「す、すいません!ではこっちをお願いしますっ!」
「よしきた!」
───お兄さん、すごいわね。ありがとう
「………へっ」
自身が整備したラファール・リヴァイヴからかけられる感謝の言葉に親指を立てて応え、クリスは次の生徒の下へと走る
「うし、次は打鉄だな。ここのは?」
「はい。こちらも武装展開と、後は慣性制御が少し。それと、スラスターが不調みたいで」
「武装は後回しでいい。スラスターは見た感じ、排熱部分にチリか何かが詰まってる。そっちは手の空いてそうな奴に任せよう。制御の方、手間かかりそうか?」
「そ、外から見ただけでわかるんですか?」
「長年現場で扱かれてきた奴を甘く見るなよ?クラスのみんなにも言ったが、知識だけなら学生なんかにゃ負けねぇ。それより、どうなんだ?」
「はっ、はい、まだ、もう少し……」
「んじゃ、さっき言ったスラスターの掃除を頼む。そっちは俺が変わる」
「わ、わかりました!」
突然の来客に、最初こそ不信感や戸惑いを抱いた面々だったが、クリスのその整備の腕と指示の的確さに、次第に懐疑的な視線を向ける者はいなくなり
「先生!こっち、終わりました!」
「All right!すぐ確認する!」
「すみません、お聞きしたいことが!」
「少し待ってな!」
「せんせ~みんな~がんばれ~」
「働け小娘ァ!!」
やがて、その場にいた全員が、自分達以上の腕にクリスの言葉を第一に信頼するようになっていた
「遅いわね、オーランド先生……」
もう夕刻をすぎて、夜に差し掛かる時間
未だ宿舎に戻っていないと、クリスの同居人たる山田真耶からの報告を受け、四組担任トリッシュ・ラーゼリアは整備室へ向かっていた
「……考えたくはないけれど」
まさか、アメリカからのスパイでは、などという考えが頭を過ぎる
彼女自身もアメリカの隣国、カナダの出身なため、米国の黒い噂は度々耳にしていた
「考え過ぎよね……」
その内、整備室に到着、扉をゆっくりと開いた
「いやー、お見それしました。まさかここまで手際良く、かつ正確な整備ができるなんて」
「まぁ、もう10年近く技術屋やってるからな」
「あっ、あの。もしよろしければ、整備科にご指導などいただけませんか……?」
「それナイスアイディア!先生、このまま整備科の顧問とかやりませんか?」
「さんせ~。せんせ~すごかったもん~」
「ははっ、気持ちはありがたいけど、今は勘弁な」
「それでは改めて……取材、よろしくお願いします!」
「あははっ。ちゃっかりしてるねー、薫子ー」
「いいぜ。元々そういう約束だったしな」
トリッシュの眼に映ったのは、整備科の生徒達に囲まれて楽しげに談笑するクリスの姿
昨日、そして今朝のような消沈した様子は無く、まるでやりたいことをやりきったような、充足感に満ちた表情だった
「……ん?あ、ラーゼリア先生」
そんな中、クリスがトリッシュに気付く
「……帰りが遅いと、山田先生から連絡がありましたよ?」
「え?……うお、もうこんな時間かよ!悪い黛、取材はまたの機会にしよう!ほれ、とっとと片付けて解散!」
『『『はーいっ』』』
「ちょっ、そんなぁ!ここまで来てぇ!」
「……すごいですね。一日どころか数時間で整備科の子達を手懐けるなんて」
「手懐けるって……いや、まぁ。でも良い腕してるよ、みんな」
「一応、この学園はエリートが集まる場所ですから」
「ははっ、そうだったな」
「……オーランド先生?」
「ん?」
「ここで、やっていけそうですか?」
真剣な眼差しで、見つめるトリッシュ
それに、クリスは真っ直ぐに見つめ返して、告げた
「今日、肌で感じた。教師ってのは、ただ教えるだけじゃない。生徒と一緒になって、一つの目的に進むのも、その務めだって」
一度言葉を区切り、片付けに奔走する生徒達を見る
次に、鎮座するISを見やり、再びトリッシュへと
「だから、今日整備科のみんなと一緒に作業して、思ったよ。みんなは、本気でISと向き合ってる。俺と同じように。……きっと、他の生徒や、専用機持ちも同じだって信じたい。理想論だと思うかもしれないけどさ、そう思いたくなるような時間だったんだ。だから……」
「最高だよ、ここは!」
「……そうですか。それは、よかった」
「あぁ!」
「では、戻りましょうか。片付けも済んだようですし」
「おう」
先に出入口の前に立っていた生徒達の下へと、二人は歩き出す
クリスの後ろを歩くトリッシュは、その背中を見つめながら、一人思う
(……理想論だとしても、それが貴方なのね)
不安を抱きながら、それでも足掻く一人の男
夢を語る子供のような、真っ直ぐな瞳
(……どうか、揺らがないで。これから、何があっても)
トリッシュは、ブラウスの胸元に隠したネックレスに触れる
「……私のように、ならないで」
その呟きは、少女達の喧噪と風の音に掻き消され、誰の耳にも届かなかった
以上
IS開発に関わる云々は完全に自己解釈
設定のクリス・オーランドの情報更新、及びトリッシュ・ラーゼリアを追加しました