人間で在りたい神殺し   作:鎌鼬

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龍紀vs草薙護堂、アテナvs王理

 

 

アテナによって闇に閉ざされた浜離宮恩賜庭園に対峙する四つの人影があった。そしてその内の二つが弾けたように同時に動き出す。

 

 

その人影は少年と女性。少年の背後から黄金の渦が現れ、綺羅びやかな武器が弾丸のように放たれる。大気を切り裂き、音すら置き去りにするほどの速度で放たれたそれらを…………女性は柄から刃に至るまですべてが漆黒で染められている鎌で弾く。まぐれや経験か、一、二度くらいならば、達人級の腕前を持つのなら、刃物で弾丸を弾くことは出来るのかもしれない。だが放たれている武器は十や二十では足りないほど、だというのに女性はその細腕で、迫るすべての武器をまるで虫でも払うかのような気軽さで弾いている。

 

 

「はっ!!この程度か!?神殺しよ!?」

「ハッ!!図に乗るなよ!?まつろわぬ神ぃ!!」

 

 

まつろわぬ神アテナと、ウルクの王であったギルガメッシュを殺した神殺しの坂上王理。そのぶつかりは戦いではない、個と個のぶつかり合いだというのに戦争を思わせる。

 

 

そして…………残されたのは同じ神殺しという存在の柊龍紀と草薙護堂。草薙護堂は半身になって身構えているのに対して龍紀はズボンのポケットに手を突っ込んで立っているだけだった。

 

 

「…………構えないのかよ?」

「別に?必要なら構えるさ。必要も無いのに構えるだなんて、馬鹿らしいにも程があるだろ?」

「俺には構える必要は無いって言いたいのか!?」

「そう思いたいならそう思えよ無責任野郎。さて、神殺しの先輩からの施しだ、先制は譲ってやるよ」

「ッ!!テメェ…………!!」

 

 

挑発めいた言動に草薙護堂の頭に血が上る。戦いにおいて先手というのは重要なファクターである。主導権を持っていくことが出来るし、先手の一撃の威力によってはそのまま戦いが決着してしまうことも珍しくない。

 

 

だというのに、龍紀はそのアドバンテージを易々と自分に譲った。それは、自分程度では倒せないと暗に言われているようだった。

 

 

「さて汝は契約を破り、世に悪をもたらした!!主は仰せられる!!咎人には裁きをくだせ!!背を砕き!!骨、髪、脳髄を抉り出し!!血と泥と共に踏み潰せと!!」

 

 

草薙護堂の口から溢れ出るのは言霊。彼が殺したまつろわぬ神が持っていた権能を行使するための聖句。

 

 

「我は鋭く近寄り難き者なれば!!主の仰せにより汝に破滅を与えよう!!猪は汝を粉砕する!!猪は汝を蹂躙する!!」

 

 

草薙護堂の背後に巨大な猪が現れる。全長を20mを優に越える、破壊の遣い。

 

 

もちろんと言うべきか、これだけの権能を行使するには条件が必要となる。この猪の条件は『巨大な物体を目標に定め、破壊を決意する』こと。神殺しを相手にしているとはいえ、過剰すぎる権能の行使を躊躇うことなく草薙護堂は決意した。幸いなことに、猪の条件に必要な物体は周囲に山ほどある。

 

 

「行けっ!!」

『ブモォォォォォォォォォォ!!!!!』

 

 

大気を震わせる程の咆哮をあげ、巨大な猪は大地を砕きながら疾走する。目標である物体の破壊は最後に行われ、猪はその破壊を行う前に敵に破壊をもたらす。今回の目標は『近くにあった高層ビル』、そして敵とはまつろわぬ神に手を貸した『柊龍紀』。

 

 

巨大な体躯にぶつけられた時の衝撃など考えるまでもない。トラックがぶつかった時の数十倍の威力と言えば分かりやすいだろう。誰もが気がつく結末を目の前にしながらーーーーーーーーーー龍紀は猪の突進を真っ正面から受け止めた。

 

 

「なーーーーーーーーーー!?」

 

 

これに驚いたのは他ならぬ草薙護堂本人だ。あれだけ自信満々でいたというのに防御らしい権能を見せることなく猪の突進を受けた事実に驚愕する。そして敵を薙ぎ倒した猪が目標になった高層ビルを破壊する未来に気がついた草薙護堂が顔を青くしかけたところで違和感を感じた。

 

 

龍紀を薙ぎ倒したはずの猪が…………動いていなかった。

 

 

「これが、お前の権能か?」

 

 

そして聞こえるのは龍紀の声。その時、草薙護堂は気がついた。あの猪の突進を…………龍紀は腕一本で抑えているという事実に。龍紀はその場から一歩も下がっていない、足を引きずったような跡すら見られない。完全に、あの猪の突進を腕一本で殺していたのだ。

 

 

「動物に関係のある神様の権能か?…………まぁいい、邪魔だ、失せな」

 

 

蹴り上げ、武術の心得も無いような素人が放つへんてつもないそれが、猪の巨体を持ち上げた。猪の体躯は浮かび上がり、半回転して背中から地面に落ちる。そして呼び出された猪は敵を薙ぎ倒すことも、目標を破壊することもなく元の居場所にへと還っていった。

 

 

「なんで!?」

「驚くのは早ぇぞ黒髪ぃ!!」

 

 

猪が一撃で倒されたことに驚く草薙護堂に龍紀が接近して、大きいモーションから放たれる拳を草薙護堂の胴体にぶつけた。

 

 

神殺しとなった者は例外無く存在そのものが元の人の体とは一変する。まつろわぬ神に対峙したとしても一方的に砕かれぬように強化される。だというのに、龍紀の一撃はまつろわぬ神の拳を受けたときよりも重たかった。

 

 

「グェッ!?」

「よぉ甘ちゃんの神殺しよぉ、先輩からの教えだ、心して聞きやがれ!!」

 

 

そこからは龍紀が一方的に殴るという展開。まつろわぬ神の攻撃よりも、かつてイタリアで会って戦ったカンピオーネのサルバトーレ・ドニの一撃よりも、龍紀の権能を使っていないような拳の方が重たい。

 

 

「神様の物勝手に日本に持ち帰って!!神様呼び出す原因作った癖に!!自分は悪くない?女に頼まれただぁ!?よしんば本当に女の口八丁に騙されたとしてもぉ!!自分(テメェ)を慕ってくれる女に責任押し付けるなぁ!!!ふざけてんじゃねぇぞぉ!!!!!!女の仕出かしたことの尻拭いも出来ないで何が男だぁ!!!!!男の矜持が泣いてんぞぉ!!!!!」

「ガフッ!!グギィ!!ガハッ!!」

 

 

草薙護堂の仕出かしたことが気に食わないのか龍紀は草薙護堂の行動をすべて否定しながら殴り続けた。顔や胴体に固く握り締めた拳をぶつけるだけの技術も工夫も感じられないそれが、神殺しである草薙護堂を一方的に嬲っていた。

 

 

「あぁ気に食わねぇ、気に食わねぇよなぁ!!他人に責任押し付けてりゃあそりゃあ楽だよなぁ!!!!!ふざけてんじゃねぇぞぉこの根性無しが!!!!玉ぁついてんのか!?切り落とすぞぉ!!!!!」

「グァッ!!」

 

 

龍紀の拳が草薙護堂の顔面に突き刺さる。鼻の骨が折れる感触と共に草薙護堂が後ろに飛んでいく。

 

 

「俺はテメェを人間だなんて認めねぇ、家畜も同然だ。だから…………家畜らしく死ね。『形成・(Yelzirah)血の公爵夫人(エリザベート・バートリー)』」

 

 

血で錆び付いた鎖が草薙護堂に絡まり、強引に立たせる。草薙護堂は意識が無いのか抵抗を見せないがそんなことで治まるほど龍紀の怒りは甘くはない。鎖で立たされた草薙護堂の背後に内側にびっしりと棘の着いた物体が現れ…………草薙護堂をその中に納めた。

 

 

鋼鉄処女(アイアンメイデン)ったら知ってるだろ?乙女の抱擁だ、泣いて喜べや…………ま、聞こえてないだろうけどよ?」

 

 

鋼鉄処女の下にある隙間からドクドクと血が流れ出す。それを見届けてから鋼鉄処女を消すとその場に全身穴だらけになった草薙護堂の死体が転がった。

 

 

どこからどう見ても死んでいるようにしか思えない死体を見て、龍紀はスッキリとした表情になる。

 

 

「あ~スッキリした。やっぱりストレス溜め込むのはいけないな、うん」

 

 

死んだ草薙護堂に龍紀は興味を持たない。龍紀が次に興味を持ったのは、離れた場所で戦っているアテナと王理だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アテナと王理の戦いは開始時とはうって変わった状況になっていた。アテナが漆黒の鎌を振るうことは変わっていない、しかし王理は武器を射出することを辞め、代わりに剣を二本持ってアテナと斬り合っていた。

 

 

「武器を飛ばすだけではないか、だがウルクの王の権能ではない…………それは貴方の力量か?」

「そうだとも。ただ飛ばすだけならばそこいらの蒙昧でも出来ることだ。それに飛び道具の効かぬまつろわぬ神が現れぬとも限らぬからな!!」

 

 

気合いを込めた掛け声と共に王理が斬りかかる。一流とまては行かぬもののその剣筋は鋭く、アテナの急所に向けられている。だが流石は闘神と呼ばれるだけのことはあるのか、アテナは鎌の柄と刃の部分で別方向から迫り来る剣を悉く受け流していた。

 

 

そして膠着を嫌ったのか王理は短い時間でアテナに攻めるのを辞めて遠退いた。王理は自身とアテナの力量の差を理解していた。剣に限らず一通りの武器は使うことは出来るがそれは所詮器用貧乏の域を出ないもの、一時的な攻勢に回ることは出来てもいつかボロが出てそこをアテナに突かれることを分かっていたのだ。

 

 

「やるではないか、ならば…………攻め方を変えてみるか!!」

 

 

大地が軋みを上げて、アテナの足元に集う。そして隆起し、巨大な大蛇となる。

 

 

「さぁどうする!?神殺しよ!!」

 

 

大蛇が動く。巨体であっても流石は蛇と言うべきか、その体躯からは信じられないほど無音だった。迫る大蛇の顎を王理は跳躍してかわす。そして大蛇の頭に乗るアテナに向かい黄金の渦から武器を射出しようとしたところを大蛇の尾で弾かれる。

 

 

「グゥッ!?」

 

 

予期せぬ一撃に防御することすら出来ずに王理は地面に叩き伏せられる。大蛇を作る際に荒れてしまった地面に落ちたことで砂煙が上がり王理の姿が見えなくなるが、その程度で手を緩めるアテナではない。

 

 

「行けっ!!」

 

 

大蛇に命令を下し、王理が落ちた場所に突進させる。間をおかぬ追撃は当たるだろうとアテナは考えていたが…………落ちたはずの場所には王理の姿はなかった。

 

 

そして砂煙が僅かに上に向かって流れている。

 

 

「オォォォォォォォォォォォ!!!!!」

 

 

砂にまみれて汚れた王理が上から落ちてきて、大蛇の首を切り落とした。生物ならば致命傷になる一撃だがこの大蛇は大地から作られたもの、その一撃を受けたとしても問題なく修復され元に戻る…………のだが、大蛇は呆気なくボロボロと崩れ落ちて元の大地に還った。

 

 

「その剣…………よもや蛇殺しの剣か!?」

「その通りだ。蛇といえば我が国では八つの頭を持つ蛇が有名、そしてこれはその蛇の頭を切り落とした剣だ」

 

 

この国で八つの頭を持つ蛇と言えば該当するのはヤマタノオロチ、そしてそのオロチの首を切り落とした剣とは『十拳剣』、もしくは『十握剣』と呼ばれる剣である。オロチを殺した剣が蛇を殺すことに特化していてもなんらおかしなことではない。

 

 

そしてこの剣は蛇としての神話を含んでいるアテナにとっても有効だった。しかしアテナはその蛇殺しの剣を前にしても臆すること無く笑みを深めた。

 

 

「良い、実に良いぞ!!神殺し!!」

「ふん、精々猛っていろ。その隙に貴様の首を俺手ずから跳ね飛ばしてやろう」

 

 

アテナは鎌を構え、王理は蛇殺しの剣を構える。戦闘技術はアテナの方に軍配が上がるものの王理には不死の象徴とも言える蛇を殺す剣がある。

 

 

「そろそろ決まるな…………」

 

 

二人の戦いを観ていた龍紀は終わりが近いことを悟った。それは証拠の無い予感めいたものだったが龍紀は間違いないと確信していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして龍紀の予想通りに戦いは終わる。しかし、それはどちらかが勝ち、どちらかが負けるという綺麗なものではない。

 

 

「ァァァァァァァァ!?」

「グァァァァァァァ!?」

「ッ!?」

 

 

園内に雷が降り注ぐ。互いに集中していた二人はもちろん、それを観ていた龍紀もその雷に打たれる。あまりにも不自然な雷は命を奪うほどのものではないが体から自由を奪うには十分すぎた。

 

 

「こ…………この雷は…………まさか」

 

 

王理は倒れ、龍紀の姿は雷に打たれた時に上がった砂煙で見えない。アテナは手にしていた鎌を支えにして膝をつくことはなかったが、この雷に心当たりがあったようだった。

 

 

「ーーーーーーーーーー見つけたぞアテナよ」

 

 

園内の上空に一人の男の姿があった。その男の目は神殺しである龍紀や王理ではなく、まつろわぬ神であるアテナに向けられていた。

 

 

その男の姿を確認したアテナは忌々しそうにその男の名を叫んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やはり…………貴様は…………ゼウス!!」

「迎えに来たぞ、我が娘よ」

 

 

ギリシャ神話においてアテナの父であるゼウスが、まつろわぬ神として現れた。

 

 

 





龍紀式説教術(拳)

この台詞はもう少しキチンとした場面でやりたかったがこの場に合いそうなのがこの台詞しかなかったので…………不完全燃焼なのでどこかでやり直す(断言)

原作主人公死んじゃいましたー(棒)

だけどリレイズ持ちなのでその内生き返るでしょう。それまで放置されてます。

アテナvs王理、上手くできてるか不安です。アテナの眷属のフクロウを使ってませんがそれは王理の権能ではフクロウは効果が薄いと判断したからです。

そしてオロチ殺しの十拳剣。十握剣と二つの書き方があるので蛇殺しの剣と作中では表しています。効果は分かりやすく蛇殺し、蛇に関係するなら殺せば再生すること無く死にます。生きていたとしても傷は治りにくくなる。

そして乱入まつろわぬゼウス。ゼウスの狙いはアテナですね。


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