拝啓。天国だかどっかに居る親父様にお袋様お元気でしょうか? 俺は元気です。
さて、話は変わるけど親父様から貰った畑だけど手放すことになりました。先祖代々の土地なのにごめんなさい。なんでかって? それは俺にも良く分かりません。
1日の畑仕事を終えて家でのんびりしてたらなんかいきなり家に役人がやって来たと思ったら拉致られて、訳も分からない間に都に連れてかれて、そこで風呂にぶち込まれ頭の先からつま先まで徹底的に洗われたと思ったら、なんかこれまで着たこともないような高そうな服着させられてお城に連れてかれました。しかもそこでは変なこと言われるし、本当困った困った。
お城での出来事を簡単に説明するとこうだ。
俺、王様の前に放り出される。
王様「おお、そなたが勇者か!」
俺、違います。でも王様聞く耳持たない。
王様「勇者よ。魔王を倒し、世界を救ってまいれ」
俺、剣とか鎧とか幾ばくかの路銀と旅のお供押し付けられ、強制的に旅立ち←イマココ!
「何があって何がどうなってどうしてこうなった」
てか、鎧重たい。剣重たい。全部ほっぽり出して家に帰って畑仕事してたい。
「おーい。足が止まってんぞ勇者サマ」
「もう少しで、森も抜けますからファイトです!」
「もっとキリキリ歩いてください。あなたのせいで、この森を抜けるのにどれだけかかっていると思ってるんですか?」
幾分か俺の前を歩いていた、旅のお供達がこっちを振り向く。
上から、金で雇われた傭兵のリヴァン。魔法使いのエリナ。僧侶のフィアナ。
「なんで、あんたらそんな元気なんだよ……」
この森に入って3日。2回ほど野宿したわけだが、魔物の奇襲とかで全然休めてない。だからいい加減疲れた。
「かははは。野宿くらい傭兵やってりゃあ嫌でも慣れる。もちろん魔物の奇襲もな」
「魔法には身体能力を補助・強化してくれるものがありますから、意外と楽なんです。野宿も遺跡の調査とかで慣れてますし」
「ある程度以上の僧侶ならこれくらいは問題ありません。何せ、仕事柄あちこちへ向かう事もありますからね。むしろ旅慣れしていないとやってられません」
何事も無いようにそう語る3人。うん、ただの農民とお前らを一緒に考えないでくれ。あ、それはそうと、
「お前ら不満とかないの? いきなり呼び集められて俺みたいなのと旅させられて」
「たんまりと金貰ってるし、俺は別に不満はねぇよ?」
「そうですねぇ。最近、魔法の研究も行き詰まってたし、良い機会だったと思います」
「私は体の良い厄介払いだったんでしょうね。まぁ、特に不満は無いですよ。あるとすればあなたの度し難い動きの悪さですか」
特に不満はないそうです。てか、フィアナさん。俺ついこの前まで畑で農作業しかしてなくて旅なんて一回もしたこと無いんです。生まれてこの方故郷の村からも出たこと無かったんです。だから、旅のいろはなんて分からんとです。
そんな感じで、雑談を交わしつつ俺が盛大に足を引っ張りながら森の中を歩いて行くと、
「お、森の出口が見えてきたぜ勇者サマ……おっと、どうやらお客さんだ」
リヴァンがそう言って、背中に背負った大剣を抜いて構える。それに少し遅れて、木々の陰から魔物が出て来る。
オオカミみたいな魔物が3体。人と同じくらいの大きさの蛇が2体。古びた鎧を身につけ、刃こぼれも酷い廃品みたいな剣を持ったガイコツが1体の合わせて6体。
「ッしゃオラァ!」
雄叫びをあげてリヴァンが突っ込み、大剣をオオカミのうちの1匹に振り下ろして文字通り瞬殺する。そこから更に剣を振り回して瞬く間に残り2体のオオカミも倒してしまった。
「ファイア」
エリナが魔法を発動させる。火球をふたつ作り出すと、それが2匹の蛇に向かって行き爆発が起こる。爆煙に包まれて蛇の姿が見えなくなったが、あれだけの爆発だ。たぶん力尽きてるだろう。
そう思っていた時期が俺にもありました。
爆煙の中から蛇が飛び出してきた。しかも2匹とも傷ついてはいてもめちゃくちゃ元気で、エリナとこっちに向かって来る……って、こっち!?
大口を開けて蛇が突っ込んで来る。俺が着てる鎧なんて意味がないんじゃないのかと思えるような威圧感だ。て言うか、ビビって膝がガクガクと震えて動けません! 残念。俺の冒険はここで終わってしまった!
「ぼさっと突っ立ってないで、少しは戦う姿勢くらい見せてください。素人でも剣を構えるくらいは出来るでしょう」
まっすぐ突っ込んで来ていた蛇が真横からの攻撃に吹っ飛んだ。そして、呆れたような声音でフィアナが俺にそう言う。え、この人何したの? とりあえず言われた通り、腰の剣を抜いて両手で持って構える。
「戦えもしない人に戦えなんて言いません……全く、どうしてこんなのを勇者として送り出したのやら」
「そんなの俺が聞きてぇよ……」
吹っ飛んだ蛇が起き上がって、舌をチロチロとさせながらシューと空気の抜けるような声で鳴いている。それに向かってフィアナがゆっくりと歩を進め、貫頭衣になっているゆったりとした法衣を脱ぎ捨てる。法衣の下からどう見ても聖職者の類には見えないガッチガチの格闘家と言った方がしっくりと来る身動きの取りやすそうな服が出て来た。
「えっとフィアナさん?」
「何ですか。用件は手短にお願いします。今からアレを殴り飛ばさないといけませんので」
「フィアナさんって僧侶だよな? 聖職者だよな?」
「だからなんですか。一応言っておきますと、上位の聖職者の中には神の加護を受け己の肉体で戦う者も居ますので特別私が珍しいわけではありません」
「あ、そう……」
話を終えると、フィアナが蛇に向かう歩みを再開する。
「武神剛拳。私の拳は重たいですよ」
そう言いながら、一瞬見失うような素早さで蛇との間合いを詰めるとフィアナが拳を放った。放たれた拳が蛇の比較的柔らかい腹部分に命中した瞬間。人間1人より普通に重たいであろう蛇の巨体が宙に浮く。そこへ更に蹴りを叩き込み木の幹に叩きつける。
蛇がなんとか起き上がろうとするが、余程ダメージが大きいのか地に伏したままもがくだけで、起き上がる様子はない……一体どんなレベルの攻撃なんだろうか……
カタカタカタカターーー
首を横に向けると、いつの間にかガイコツがそこに居て、ボロボロの剣を振り上げていた。え、なんでお前そこに居んの?
ガイコツの剣が振り下ろされる。よくある物語とかだとガイコツは鈍重だが、こいつはそんなことはない。普通に速い……!
咄嗟に手にした剣をかざして防いだが、どうやって出しているのか分からないがとんでもない力で吹っ飛ばされた。恐ろしいことにガイコツの攻撃が終わっていない。地面を蹴って、剣の切っ先を向けて突っ込んで来る。串刺しにする気だ。
あ、当たる……
「へぶ!?」
真横からの衝撃に吹っ飛ばされる。ボロボロの剣の切っ先がすぐ横を突き抜け、俺の体が木の幹に叩きつけられる。
「いやはや流石はスケルトンと言ったところですか。気取られずに移動して、一番容易く倒せる相手を狙う……狙いは悪くありませんが無意味です」
「残念だったなぁガイコツさんよ?」
そう言って、無傷のリヴァンが大剣を担いでフィアナの隣に並び、エリナが真っ直ぐ木にもたれ掛かってる俺のところに飛んで来る。
「だ、大丈夫ですか!? い、今薬を……!」
「だ、大丈夫だから、そのなんかヤバげな色の薬はしまってください」
「本当ですか?」
こくこくと首を振る。
「今のはガイコツのくせになかなか良い動きだったぜ?」
「敵を褒めてどうするんですか?それも言葉の通じない亡者相手に」
フィアナが冷ややかな目をリヴァンに向けて呆れたように言う。
「かははは。別にいいじゃねぇの……んじゃ、お疲れさん」
そう言いながら、リヴァンが大剣を振るう。ガイコツは剣で防御しようとしたが、ガイコツの古ぼけた剣ではリヴァンの大剣を受け切るのは無理だったようで剣が半ばから砕け、真っ二つにされてしまった。
どうやら戦闘終了らしい。
「……さて、弔いもこれくらいで十分でしょう」
法衣を着なおしたフィアナはあのガイコツの魂を慰めると言って簡単な墓のようなものを作っていた。とりあえず俺はさっきの戦闘で受けたダメージの回復に努めていた。え、フィアナに回復して貰ってないのかって? ……俺の回復はあのガイコツの弔いより順位が低いらしいです。
「んじゃ、そろそろ行くか? 勇者サマも動けるくらいには回復しただろ?」
「まぁ、動ける程度には……あちこち痛いけど」
「痛み止めの薬使います?」
「遠慮しときます」
森を抜けると、高い木も無いとても見晴らしのいい平原が広がっていた。村らしきものは見えない。
「こっから半日ぐらい歩いたとこに確か村があったはずだ。ま、夜には着くだろ」
「そうですね。どっかの誰かさんが足を引っ張っても流石に夜には着くでしょう」
「すんません。マジ田舎帰って良いですか? やっぱり俺には勇者なんて荷が重すぎるみたいです」
そう言って引き返そうとしたらがっと首元を掴まれ、服の襟が喉元にめり込んで変な声が出た。フィアナさんこれはちょっとシャレにならんです。
俺はセイル・リガルド。ついこの前まで畑仕事しかやって来なかった元農民で現在勇者です。世界を救える自信なんて微塵もありません。誰でもいいから勇者変わってください。
ネタ切れの合間の息抜き