2015/06/14 ロストロギアについて指摘されたので色々加筆修正
魔法が発動するまでの工程というものは、複雑なように見えてその実案外簡素だ。
記述、詠唱、発動。基本的にはこれだけで事足りる。
脳内で魔法式を組み立てる記述。これにより使用する魔法が決まる。
先程記述した魔法式を現実の空間に書き込む詠唱。この際、術式の規模によっては魔導師の足元には魔法陣が展開され、その規模が大きければ大きいほど魔法陣も大きくなる。
そして発動。これは言わずもがな、詠唱された魔法が現実に効果を発揮する事だ。
魔法とは、このような工程によって発動されている。
デバイスというものが出来てからは記述と詠唱をデバイスの補助でもって行うことで高速化したり、インテリジェントデバイスなどであれば、使用者の魔力を使って自動的に魔法を発動させたりなどができるようにもなった。
才能に左右されると言われている魔法だが、そんな現代でも、魔法の黎明期に比べれば大分
最初に魔力量と魔法に対する適性と言う関門があるにしても、検査でそれが正確に解るのだ。
黎明期においては、魔力の量はおおよそでしか解らなかったし、自分の適性外の魔法を無理に使用して身体やリンカーコアを破損する例も少なくなかったのだから。
そう。魔力の量をクリアし、適性を伸ばす訓練さえすれば、その分野において現代の魔導師は
……決して、天性の素養と才能、努力でもって一騎当千の実力を身に付けた一部の例外に敵うわけではないが。
その事を踏まえて。以上の事実を頭の隅に置きながら、聞いて欲しい。
とある一人の男の話だ。
◆
男は管理世界に生まれた。両親は魔導師で、共に時空管理局の局員。
なんてことはない。管理世界の家庭としてであれば、極一般的な家庭である。
だから当然のように魔法を日常的に眼にしたし、両親の仕事である管理局員にも憧れた。
幸いなことに、男には素養があった。魔力量は幼少期の簡易検査でAA。
両親からは期待を受けた。「立派な魔導師になってくれ」と。「未来のエースだ」と。
幼年学校を卒業し、魔法学院に入学した。ここで優秀な成績を修めれば管理局の士官学校にも入学できるだろう。
意気揚々と授業に臨み、しばらくが経った頃。男は絶望していた。
――なんだ、このザマは。
日常生活で使うような、魔導師以外でも使うような極簡素な魔法は問題なかった。だというのに。
魔導師の使う魔法を、男は使えなかった。
防御魔法が使えなかった。浮遊魔法が使えなかった。飛行魔法が使えなかった。射撃が、砲撃が、魔力付与が。幻術も捕獲も補助も召喚も創成も。
何もかもが、使えなかった。
原因はしばらく後に解った。男の魔力は、三次元の空間と酷く相性が悪いのだという。
つまり、魔力でもって魔法式を空間に書き込む詠唱が出来ない。出来たとしてもそれだけで異常なほどに魔力を消費してしまう。
不憫に思った両親は、局員としての伝手でデバイスを用意した。詠唱補助にのみ特化したストレージデバイスは、男を少しだけ魔力付与の魔法がまともに扱えるようにした。それだけだった。
これでは魔導師としては使い物にならない。
つまるところ、男には素養はあったが才能は無かった。それだけの話だ。
男は学院を退学した。通常の学校に移ったのだ。魔法の授業の無い学校へ。
それでも男は諦めてはいなかった。血を吐くような思いをして魔法を使い続け、両親から学び、独学で学び、魔導師になることを諦めなかった。
男の中には未だ管理局員への、いや『魔導師』への憧れが、羨望があったのだ。
「両親のような魔導師になりたい」
その意志だけが男を支えていた。その為ならいくらでも犠牲に出来た。
睡眠時間を削った。友人は作らなかった。学校を休みがちになった。食事を抜くようになった。ありとあらゆるものを死なない程度に放棄した。
いつしか学校を卒業するとひたすら魔法の修練にのみ打ち込んだ。この頃になると両親ですら何も教えることが無かった。
あらゆる資料を読み漁り、研鑽にのみ努めた。そのままいくつかの年数がたった頃、両親の口利きもあり、男は管理局に入局した。
男は歓喜していた。下っ端も下っ端だがあれだけ憧れた魔導師に、局員になれる。ようやく苦労が報われた。
そのはずだった。
男が配属された部隊での男の扱いを、ある隊員はこう言った。
「魔力タンクだ」
魔力量にだけ恵まれている男は元より戦力としては期待されていなかった。
備品だ。男の扱いは備品のソレだったのだ。
訓練や出撃で消耗した班に魔力を提供する。たったソレだけ。それだけが男の役割。
ある隊員は言った。「使ってやっているだけ感謝しろ」と。
男が再び絶望するのにそう時間はかからなかった。間もなく男は管理局を辞めて、姿を消した。
◆
それでも。それでも男は諦めることをしなかったという。
様々な世界を渡り、何がしかで日銭を稼ぎながらあらゆる魔法資料を読み漁る。
黎明期のものも、古代ベルカ時代のものも、まだ知らなかった近代のものも。時には犯罪紛いのことをして、禁書指定のものですら。
もはや男には『魔導師になる』というそれだけが執念のように残るのみだった。
両親も管理局も関係無い。『魔導師』という存在になるためだけに生きていた。
そしてある時。手段を見つける。
切欠は些細なことだ。男が立ち寄った、とある管理世界のとある場末のレストランでの話。
男以外に唯一いた客が、顔見知りなのか、店主と談笑していた。
曰く、ダトゥーを刻んだとのことで、要はそれを自慢しているのだ。最近は魔法を使って痛みも無くタトゥーを刻んだりできるので気楽でいい、などと。
それが切欠だった。
その言葉が男の頭をぐるぐると廻る。
そうだ、空間に魔法式を刻めないのなら他の場所に刻めばいい。どうしてこんな簡単なことに気づかなかった。決して不可能でも難しいことでもない。むしろ至極単純なやり口だ。男は笑う。
――魔法を、
それからの男の行動は早かった。膨大な資料を読み漁った男の頭の中には、ソレをどうやれば成し遂げられるか、その解が既に出来上がっていたのだから。
単純な話、詠唱の段階で空間に書き込む魔法式を直接身体に刻み付ければいい。後は、その魔法式に再度魔力を通すだけで魔法が発動するはずだ。
程なくして、手始めに、と防御魔法の魔法式を左腕に刻み込んだ。想像を絶する苦痛だったが、それも直後に気にならなくなった。
男は、防御魔法を使えていた。
その魔法に綻びは無かった。魔力消費が異常に高いわけでもない。かといって特別頑丈に出来たわけでもない。
だがそれでも、男にとっては初めて自分の力で魔法をまともに扱うことが出来た瞬間だったのだ。
男は次の魔法式を刻んだ。それが終わるとその次へ。そしてまた次へ。次へ。次へ。次へ。次へ。次へ。
──もっと。もっと式を刻み付けなければ。もっと。もっと。もっと。もっと。もっと。もっと。
いつしか男は狂い始めた。それともずっと前からもう狂っていたのだろうか?
自分の知っている魔法式を全て刻み終えると、まだ知らない魔法を求めてまた世界を渡り始めた。
どこかの家系にのみ伝わる一子相伝の魔法があると聞いた。当主を襲って魔法式を奪った。
聖王教会や管理局に禁術指定された魔法があると聞いた。教会や管理局の施設を襲ってその魔法式を奪った。
そんなことを数年続けている内に、男は管理局からA級の次元犯罪者に認定されていた。
だがそれすらどうでもいい。男は最早魔導師だったが、そんなこともどうでもいい。
もっと魔法をこの身に刻みつけて、もっと多くの魔法を使えるようにならなければならないのだ。理由など無い。それが男の存在理由になっている。
だがそれも、そう長く続くわけではなかった。
◆
男は終ぞ、管理局に追い詰められていた。周囲には小隊規模の武装局員。後方には後詰の部隊も居るだろう。
――これでお終いか。
男は既に諦観している。やれるだけのことはやった、と。
そう、あとは一つだけ、たった一つだけをやればいい。
そうして男は最後の魔法を発動させた。
男を中心に広がる爆発のような魔力光。自爆か、と誰かが言い、武装局員達は咄嗟に回避や防御を固めたりしたが、それでもこの光だ。
きっと幾らかの犠牲が出るだろう。そう思っていた。
光が収まると局員達は気づいた。あれだけの光で誰も、かすり傷一つ負っていない。
ただの眼くらましで、男が逃げたのかと、男が居た場所を見やる。
そして誰も彼もが、そのまま動けずにいた。
──本だ。
男が居た場所には本があった。異様な本だ。なにせ、見た目が普通ではない。
酷い火傷を負った人間の皮膚を、そのまま表紙にしたような本。異様であると同時にとても不気味だった。
しかしそれでも。それがただ異様で、不気味なだけの本であるならば何も問題は無い。局員達だってある程度警戒はしても、近づいてそれを確かめるだろう。
だが、誰も近づけない。動けない。その本の発する『何か』に竦んでしまっていたからだ。
どれくらいの間そうなっていただろう。やがて
「オイオイ、いつまでそうしてるつもりだ?」
──男の声だった。
◆
その本に対する処遇は、管理局内でも揉めに揉めた。
それを聞いた局員の一人が馬鹿にするように――同時に何かに取り憑かれたように――本を読んだが、読み終えることは出来なかった。
男が起こした一連の事件の証拠物件として局の重要証拠保管庫にその本が移送され終わるまでに、他に七人がその本を読んだ。やはり読み終えることは出来なかった。
――全員が発狂して死んでしまったから。
本の処遇で揉めた理由はここにある。あまりに危険すぎるのだ。
まるで本自身が呼ぶように、必ず誰かが本を読もうとする。移送途中にすれ違っただけの民間人が読もうとしたことさえあった。
禁書指定をした上で厳重に封印を施した後に、無限書庫の最奥に放り込んでしまおうという考えもあったし、実際に実行もしたが、ダメだった。
書庫に本を運ぶ為に、四人構成の分隊を送り込んだが全員が途中で本を読んでしまったのだ。そしてやはり、全員が死んだ。
ならばロストロギアとして遺失物保管庫に置いておくかとも考えられたが、それも出来ない。
『ロストロギア』とは
決して。そう、決して
ならばどうするのか。いつまでも証拠物件として保管庫に置いておけるような物でもない。今でも保管庫に入り込んで本を読む人間が絶えないからだ。それも、局員民間人問わずに。
そうして会議は長く紛糾したが最終的には妥協案が取られることになる。
――この本をロストロギアに準ずる物として扱う。
つまり「ロストロギアではないが、ロストロギアと同じ扱いをする」と。
その為に『準ロストロギア級遺失物』というその本しか該当しない括りを
本局にある遺失物保管庫は以前の証拠物保管庫よりも余程頑丈で警備も厳重だ。更に警備を担当する局員は、様々な理由から精神汚染に耐性を持っている。
だというのに。そんな場所に移されて尚、本は嘯く。「それでもいつか、俺を読み切る人間が現れるだろう」と。
根拠はあるのかも知れない。本の魅力に取り憑かれてしまったのか、たまたま保管庫を訪れただけの者や
その度にその人物は発狂して死んでしまう。
数名の犠牲者が出た後には、本は保管庫の更に奥、多重結界に守られた隔離区域に移されていた。警備担当の局員はおろか、提督クラスの者でさえ滅多には近づけない場所に。
だが、それでもいつか。この本を読み切る人間が現れるのかもしれない。
そんな場所に移されてなお、どうやってか本に辿り着く者もいるのだから。
──その本は、こう呼ばれている。最も新しく、最も個人でロストロギアに近づいたモノ。
『刻印の
そして今日もまた。
「よう。俺を読むかい?」
超が付くほど思いつき
2015/06/14
ロストロギアに関する指摘を頂いたので、色々それっぽくでっち上げ設定だったりなんだったりを加筆修正