「私の話を聞いてくださぁい!」
― 議題長 出現 ―
「凶器が分かったって…… そ、それってホントなの蜜柑ちゃん!?」
小泉さんが叫び、罪木ちゃんはいつもよりも…… そういつもよりもほんの少しだけ自信を持った表情で頷いた。
日向クンも真剣な顔をしているし、ここは重要な場面となるだろう。
さてさて、彼女はどんな話をするだろうか?
わくわくしながら、私はその議論に参加するのだった。
― ロジカル検証 開始 ―
「凶器は既にあの場にあったんですよぉ!」
「あ? だけどよー、あの場には狛枝の鉄パイプと毒薬くらいしかなかっただろーが。刺殺できるようなモンなんてなかっただろ!」
「現場には大量の血痕と倒れていた狛枝…… それに死んでいた十神と凶器になり得るもの以外はなに一つとして存在しなかった。それとも、目に見えない凶器があったとでも言うつもりか?」
「いや、目に見えなかったんじゃなくって、もしかしたら見えてるのに気づけなかったのかもしれないよね」
「あの現場が暖房器具で暑くなっていたのにもちゃんと理由があったんですぅ!」
「んん、暖房を使っていた理由はまだ分かってなかったね。あれだけ暑ければたくさん汗をかいただろうね!」
「あのさ、その言い方なんか含みを感じるんだけど……」
「そういう真昼ちゃんも何を考えてるのかなー? かなかな?」
「そりゃァ、狛枝を仕留め損ねたからだろ? 十神が庇っちまって狛枝にトドメを刺さねーからわざわざ脱水症状にして殺そうとしたんじゃねーのか?」
「そもそも、暑くする必要があったのかもしれない…… とか」
「凶器は…… 血液なんですよぉ!」
「なんと!?」
「血っすかぁ!? いやいやいや、無理っしょ! 常識的に考えて無理じゃないっすか! だって液体っすよ!?」
「そうか、さっき罪木も言ってたな…… だからあそこの温度はマイナス20℃になってたんだな」
「つーかテンパりすぎだろ!」
「支離滅裂だねー、言うんならハッキリしろよゲロブタ!」
罪木ちゃんはどうやら緊張しているみたいで証拠の提示がちゃんとできていないみたいだ。それに話がしっちゃかめっちゃかだ。
ここは私たちで補助してあげないと皆の意見に…… 特に西園寺さんの罵倒に折れて黙ってしまうかもしれない。
さて、彼女の発言の順序を正すのならどの順番かな……
最初はやっぱり…… 〝 凶器が血液 〟だってことだよね。
それから次は…… 〝 現場が暑かった理由 〟だ。
最後に…… 〝 凶器は既に現場にあった 〟ってことだ。
それから、それらに必要な情報を持っている人物の選択だよね。
凶器が血液だったことに言及して…… さらに証拠を持っていそうな人は……
>弐大猫丸
>澪田唯吹
>日向創
>左右田和一
>西園寺日寄子
「キミが証明するんだ!」
日向クンを指差して笑う。
「日向クン。キミなら罪木ちゃんの言葉を肯定してあげられるんじゃない? 血液が凶器…… なんて荒唐無稽な言葉をさ」
私がそう言うと彼は真剣な顔で 「ああ」 と返事をし、彼女の言葉を裏付け始めた。
「血液を凶器にすることはできたはずだぞ」
「で、でも液体じゃないっすか!」
「…… 液体じゃなければいいんだろ?」
「へっ?」
日向クンはそこで再びオクタゴンについて話し始める。
その言葉には自信にあふれていた。
「オクタゴンには冷蔵庫があった。その冷蔵庫の一台はマイナス20℃に設定されていて…… 中に付着した血液が凍りつくほどの温度だったんだ。輸血パックは使い切られていたし、そこで血液を凍らせて凶器にしたなら毒薬のビンが全て上部の収納スペースに押し込まれていたのにも説明がつくだろ?」
氷の凶器なんて推理物じゃあ使い古されてるよね。
でも水でなく、血液を使ったのならそう簡単には分からないし…… DNA判定がある外の世界ならともかく、ここにはそんなものを判明させる設備なんてない。なにせ、私たちは全員ほぼ素人のようなものなのだ。
罪木ちゃんだって血液の多さに着目すれど、それが誰のものかなんて分かるはずがないんだからさ。
だから皆を騙すにはとてもお手軽な方法だったんだよね。
ただ、この方法には少し弱点があるんだよね……
それは次の話にも繋がることだが、周囲の状況から推測すれば簡単に分かってしまうということだ。
なので、次になるのは現場が暑かった理由だ。これは当然……
>花村輝々
>小泉真昼
>澪田唯吹
>左右田和一
>七海千秋
「七海さんが言った通り、現場が暑かったのには理由があったんだね」
「そっか、暖房がついてたのは凪ちゃんにトドメを刺すためじゃなくって…… 血液でできた氷を溶かすためだったんだね」
小泉さんが同意してくれたので 「勿論、あわよくば私を殺そうとしていたのもあるかもしれないけれど」 と真っ赤な嘘を付け足す。
わりと気合いと根性を頼りにしていた面もあるけれど、一応自分が死ななそうなギリギリのラインで温度を設定したからね。
私が自分を殺そうとしていたのなら、45℃とかの異常な温度に設定するし。あの暖房はそれくらいのことができたからね。
あのとき、死ぬ気はさらさらなかったのさ。
最後に凶器は既にその場にあったという事実だが…… これは簡単だよね。
>九頭龍冬彦
>辺古山ペコ
>狛枝凪
勿論、その発言をしたのは私だ。
「目に見えているのにそうとは気づけない…… まさにそんな凶器だったわけだ」
「はい。凍らされた血液を杭のような形にして刺したのだと思いますぅ。だから現場は暖房がつけられていたんですねぇ。凶器は処分などされず、最初からあそこにあったんです」
― Verification ―
「これで筋道通したよ!」
「これで検証できましたぁ!」
2人揃って顔を見合わせて頷く。
彼女は相変わらずどうして私が協力しているのかが分からないのか、顔色が悪い。
クロが自ら追い詰められに来ているのだから気味悪く思うのは仕方ないだろうね。
「しかし、
「エターナルじゃねーだろ! 溶けてるじゃねーか!」
「今は英語力の問題じゃないでしょ!」
「そういえば…… 氷を作る容器なんかなかったな」
真面目に呟いている日向クンと他の皆の温度差がすごい。
そうして、今度は氷の凶器をどうやって作製したかの議論に移っていくのだ。
― 議論 開始 ―
「凍らせるための容器なんてオクタゴンには〝 なかった 〟よね。それは私も確認してるよ。勿論七海さんと日向クンも」
「〝 毒薬のビン 〟を使ったとか?」
「ビンじゃどうあっても〝 長さが足りん 〟だろう!」
「あーもう意味分かんなくなってきたしよ…… メシ……」
「やっぱり氷の凶器なんて〝 不可能 〟なんすよー!」
私が話を切り出し、小泉さん、弐大クンと続いていく。
終里さんは多分もうすぐ出番になるから我慢してて! キミがいないときっと日向クンは困っちゃうよ!
そして、澪田さんが言った一言に対して考えていたらしい日向クンが鋭い声を上げた。
「それは違うぞ!」
それはつまり、不可能じゃないってことだった。
「ずっと疑問に思ってたんだよな。鉄パイプの内側に、血が付いてたことが……」
その言葉に罪木ちゃんもハッとしたように日向クンを見た。
「も、もしかしてぇ…… 鉄パイプに血液を入れて凍らせたってことですかぁ?」
彼女が確信したように言ったときのことだった。
「バッカモーン!!」
「ひ、ひぅ!?」
そこで弐大クンが大声で割り込んだのだ。
罪木ちゃんは悲鳴をあげているが、容赦なく弐大クンは彼女を自身の反論ショーダウンへと持ち込んでいく。
しかし、罪木ちゃんもただ黙ってそれを見過ごすわけではない。
戸惑いつつも、しっかりと彼の反論に対応するのが見て取れた。
― 反論ショーダウン 開始 ―
「鉄パイプに血を入れただとぉ!? そんなわけがあるかぁ!」
「えっ、えっと、ど、どうしてですかぁ!?」
「そんなもん、簡単なことじゃあ! そんなことも分からんかぁ!?」
「は、はっきり言ってくれないと、分かりませんってぇ! ど、どうして鉄パイプじゃだめなのか、説明してくださぁい!」
― 発展 ―
「だから簡単なことじゃあ。お前さんらは鉄パイプに血を入れて凍らせたと言いたいんだろう? そんなことをしても、〝 端から溢れてしまう 〟に決まっとるだろうがぁ!」
「み、見落としは許しませぇん!」
おっと、まさか罪木ちゃんが反論を斬るだなんて思わなかったな。
弐大クンの大声に怯みつつもはっきりと自己主張をしている。記憶のない彼女だったらここまでできたかは怪しいが。
「て、鉄パイプで凍らすことはできたはずですう! 先ほど話題にあがった、TNTを蓋にして塞いでしまえばそう簡単に漏れたりはしませぇん!」
「そうか、TNTはお椀状になって放置されていた…… それは鉄パイプの穴に貼り付けて蓋にしてたからだったんだな!」
「無…… その手があったか。すまんのう罪木! 馬鹿なのはワシだったようだぞ!」
豪快ながら弐大クンは笑って謝る。
それを表情を柔らかくして受けた罪木ちゃんは続きとばかりに指を立て、話す。
「そ、それに鉄パイプを元に凶器を作ったのなら、直径5㎝から8㎝くらいの太さで、30㎝くらいの長さの凶器に該当しますぅ!」
「確か…… 最初に罪木ちゃんが言ってた検死結果がそれだったよね」
「その検死結果を簡単に覆すようなヤツの言うこと信じるのー? もしかして皆揃って馬鹿?」
「そうは言ってもな、検死なんてできるのは罪木だけだし…… 他に参考にできるのはモノクマファイルだけだぞ? それこそ、穴抜けばっかりで凶器も犯行時刻も書いてないファイルだけじゃ推理なんてできないだろ」
日向クンの言う通りだね。
穴だらけのファイルなんて精々参考文献くらいにしかならない。
西園寺さんの言いたいことも分かるが、ここは罪木ちゃんに頼るしかないんだよなぁ。だからこそ、原作の3章は危なかったのだけれど。
あれは確か、絶望している罪木ちゃんが、希望のための殺しをしなかったから本気で狛枝凪斗が追い詰めようとしたのだったか。希望のための殺しならいいとか、ボーダーラインがはっきりしてるんだか曖昧なんだか……
私には到底理解できないが…… 自分の生死に関与しない殺しには一切手を出そうと思っていなかった私も、人のことを言えないか。
でも一歩前進したよね。私も、皆もさ。
「でも、鉄パイプで凍らせたにしても槍みたいにはできないんじゃないの?」
「ああそれなら…… 田中。お前は知ってるだろ?」
「破壊神暗黒四天王が
「め…… なんて?」
冥躯…… 要するに死体のことかな?
「えっと、死体の下から彼のハムスターたちが証拠品を見つけたってことだよ」
「まあ! 捜査協力もしてくださるだなんて…… 四天王さんたちはすごい方たちですね!」
「…………」
「照れてんじゃねーぞ田中ァ!」
それ、嫉妬も込みでしょ左右田クン。
「……ふん、刮目せよ! これが呪われたカードだ!」
そう言って提出されたのは……
「ヤスリ?」
そう、ヤスリだ。
目の荒い紙ヤスリだが、どことなくボロボロでくたびれているようにも見える。鉄のヤスリがあったらもっと楽だったんだろうけど、そんなものはオクタゴンになかったのでわざわざモノクマに用意させたものだ。
暖房器具は元々あったのだが、要求してみたらわりとあっさり許可が降りたよ。鉄のヤスリは許可が降りなかったから仕方なく、ね。
本当なら氷の容器も欲しかったのだが…… そちらも却下された。
そこまで手伝うと証拠品がなくなって容易に勝ててしまい、クロに肩入れすることになるからなんだと。
どんな基準だよ。
「そっか、ヤスリなら氷も簡単に削れるね。まあ、少し冷たいのを我慢しないといけないだろうけど……」
「…… ? 冷たい、我慢…… 鉄パイプ…… どうやって……? 」
ブツブツと呟きながら考え事を始めた日向クンを他所に、裁判は進んでいく。
もしかしたらロジカルダイブでもしてるのかもしれない。
そしてやがて…… 彼が顔を上げると、その目はまっすぐとこちらに向いていた。
「また…… こんなことになるなんてな……」
「どうしたの…… ? 日向くん」
ああ、分かっちゃったんだね。
そうだよね。パーティでの仕掛け人も私で、自殺偽装をしたのも私…… いつもいつもキミには迷惑をかけてしまっている。
でもそうやって真実を暴いてほしいからこうしてキミをまっすぐ見返しているんだ。本当だよ?
でもね、私だって少しくらいは悪足掻きしたいんだよ。だって、ただこのまま認めて死ぬのなんてさ、そんなの〝 面白くない 〟でしょ?
だから……
「十神を殺した犯人は…………」
私も全力で抵抗させてもらうとしようかな。
「お前だ、狛枝凪…… !」
生きたいのなら、キミの力で捻じ伏せろ!
でないと、今のキミらじゃモノクマに勝つなんて到底無理なんだから!
「…… え?」
キミに私の渇望を託せるかどうかも、皆の未来を目指すことができるかどうかも、今、ここで証明してみせてよ!
そして…………
「…………」
身勝手だって思うけれど、でも…… お願いだからさ。
「…………」
いつか…… 私を、迎えにきてね。
…… なーんて、私が諦めちゃったらダメだよね。
・ゲーム仕様
ちなみに日向クンは血液が凶器だったってあたりで〝 閃きアナグラム 〟してます。
出題されていたのは 「どうやって血液を凶器にした?」 で答えは 「こおらせた」 です。