錆の希望的生存理論   作:時雨オオカミ

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〝 間違いだらけの私に、おやすみなさい 〟


No.459『遊園地』

「…… どうして?」

 

 俯いたまま溢れた言葉に、静かな裁判場はなんの答えも返さない。

 私がそんなことを言う理由が分からないからだろうと思う。

 

「どうして? 罪木ちゃん」

「え…… ?」

 

 私が目線を向けると彼女は戸惑ったように視線を彷徨わせた。

 分かっていて、目を逸らしているね? 私が気づかないとでも思ったのかな。それとも、私が自分自身に投票したのが予想外だったのか。

 

「なんで、キミは自分に投票してるの? 証拠を探して私を追い詰めていたのはキミなのに? 同情のつもりならそんなものいらないんだよ」

 

 わざとキツイ言葉を紡いで突き離す。

 尚も追いすがってくるようならば、私にだって考えがあるんだよ。

 私は皆から憎まれて退場するのが1番後腐れがなくていいんだ。そうすれば皆は私のことなんかを気負わずに絶望に立ち向かうことができるようになるはずなんだ。

 だから、だからわざわざ彼の名誉を貶めて、皆を嘲笑って、裏切りみたいな真似もして、日向クンの追求にも耐えたのに、それでは意味がない。まったくもって、意味がないじゃないか!

 

「同情…… ? そんなものではありませんよぉ。わ、私は、私のやりたいことをしただけですぅ」

「へえ、キミは自分がやりたいことだからって投票を自分に入れたんだ」

 

 それを聞いて、思っていたよりも冷たい声が出た。

 

「もし、皆が私に投票してなかったらどうするの? キミ1人が票を変えたところで結果は変わらないかもしれないけど、それって自分が…… 結果を間違えて皆が死んでもいいって思ったってことでしょ?」

 

 更に言葉を重ねていくが彼女は泣きそうな素振りも見せずに 「それでも、ですぅ」 と断言した。

 

「でもそれって皆が私に投票するのが分かっていたからやったんでしょ? 安心だよね、自分が好き勝手して間違えても他人がやるから結局死ぬことはないもんね?」

「っ、違いますぅ!」

 

 薄っすらと涙が滲み出て、そしてごしごしと拭って泣いてないと言わんばかりに彼女が食い下がる。

 この口論に 「言い過ぎだ」 と注意が入るが、これから死ぬのだから言いたいことは言っておかないと。皆の恨みや憎しみは全て私が持っていく。すっきりとラスボス戦を迎えてほしいからね。

 そんなお節介。だけれど、それは彼女にとって余計なお世話のようだ。目を見れば分かる。

 

「…… 1つ、貴様に確認したいことがある」

「なに? 今私は忙しいんだけど」

 

 静観していた田中クンが腕を組んだままに言う。

 別に聞きたくないわけではないが、ここはぶっきらぼうに、いかにも機嫌が悪そうに振舞っておいたほうがいいはずだ。なにせ、クロである私はこれから処刑だっていうのに余計なことをされてイライラしているはずなのだから。

 

「貴様、先程からの問答からすると…… 己に投票したのか?」

「…… あっ」

 

 …… と、そこで誤ちに気がついた。

 皆から見えるモニターには相変わらず14票入った私と、1票入った罪木ちゃんの名前が見える。

 しかし罪木ちゃんに投票したのは本人だけ。ならクロの私は自分に入れたと分かってしまう。追求していく前に少しは考えておくべきだった。

 この結果は、明らかに私の性質に反している。

 

「貴様は闇の宴の際に何度も死を否定していたな。俺様は生物として当然のその欲求を好ましく思ってさえいたが…… 貴様、なぜ己に投票した? それは生への冒涜でしかないぞ!」

「……」

 

 一転、私の方がピンチ…… か。

 そうだね、死にたくないと誰よりも思っていたはずの私が、なにも反抗しないだなんておかしいもんね。

 生きることを諦めることは許さない…… だから最後まで足掻く。そんな感じだったか?

 彼が1番それを分かっているのだから、バレて当然だね。

 今の私はおしおきを目的にしていたのだから、最初から自分が負けるつもりでいた。でも、それでは彼を誤魔化せなかった。

 …… いや、私の振る舞いが未熟だっただけだな。十神クンならばきっと足掻いて足掻いて、それでも負ける。そんなシナリオを演じきることが出来たのだろうか?

 自分で選んだこととはいえ、やっぱり私にこの役目は難しいよ…… けど、最後まで、やらなくちゃ。私が望んで、彼にも託されたんだから。

 

「そうだな…… 裁判中もずっと冷静で、まるでこっちを試してるような感じだった…… それはなんでだ?」

「それに、狛枝さんが犯人なら…… なんで私たちをオクタゴンに連れて行ったんだろう…… って思うんだけど」

「……」

 

 オクタゴンへ2人を連れて行ったのは、公平性を保つため…… だ。表向きは。闘論のときのように、私はどうせなら日向クンと勝負を楽しみたかった。でもそれは、死にたくない犯人がする行動ではない。

 本当に知られたくないのならば徹底的に議論を誘導しながら地味に徹し、まるで人狼ゲームの妖狐のようにステルスしているのが正しい。

 私は自ら動きすぎた。

 真実を隠し、間違った過程に導いた結果がこれ…… 自身の矛盾を晒すことになった。

 しかし、まだだ。まだバレるわけにはいかないのだ。

 おしおきが確定事項になるその瞬間までは隠し通すしかない。

 クロとして確定しているようなものだが、モノクマにバレて追求されるわけにはいかないのだから。

 

「……」

「そうだよねー! 人殺しの考えることなんて分かるはずないもんね! 自分の身が可愛いだけの狛枝さんはオマエラを徹底的に叩き潰したかったんじゃないかな?だって! それが昔からオマエがやってきたことなんだからさ!」

「…… モノクマ、なんの話?」

 

 思わぬ援護に眉を顰める。

 しかし、〝 昔から 〟という単語に一抹の不安を覚えてモノクマに尋ねた。それはなんのことを言っている? それは、彼らに知られたくないことなんじゃないか? 頭の中をグルグル回る疑問に答えが出されたのはそれからすぐ後だった。

 

「そうでしょ? 医療機関最大最悪の事件生き残り…… いや、病院の関係者全て見殺しにして逃げた臆病者の…… 狛枝さん?」

 

 凍りつく。

 私が生き残りなのは殆ど周知の事実みたいなものだったが、そんな言い方はないだろう!

 

「あ、それともう1つあったねー! 確か、この島に来る前からオマエは殺人経験者だったね? そりゃあ殺人のハードルが低くなって当然か! むしろ小枝を跨ぐくらいに簡単か! ぶひゃひゃひゃひゃひゃ!」

 

 追い打ちに、思考停止する。

 なぜ知っている? いや、それよりも…… その言い方では私が喜んで殺人に手を染めたようではないか。

 

「あ、れは…… 過剰防衛だったって、認められてるし、そもそもそうしなきゃ私は殺されてた…… はずなんだって…… !」

「殺さなくちゃ殺されるかもしれない…… それってこのコロシアイもそうだよね?」

「…… っ」

 

 モノクマの爆弾発言のせいで皆の目が見られない。顔を上げられない。皆がどんな目で私を見ているのか、想像するだけでも…… 怖いよ。

 否定される。昔も今も人殺しだって、その事実は変わらないから。

 ああ、もうダメだ。人殺しと一緒に過ごしていたなんて、皆どう思うだろう? 恐ろしく思うに違いない。私を否定して、早く殺せと、処刑してしまえと思うに違いない。

 それを望んでいたはずなのに、やっぱり死を望まれるのは…… 嫌だなぁ。

 

「確かに、狛枝さんは過剰防衛で人を殺してしまったのかもしれません…… 病院の人たちを見殺しにしたのかもしれません……」

 

 罪木ちゃんの声が聞こえて、目を瞑る。

 聞きたくない。聞きたくないよ。キミの否定の言葉は聞きたくなんて、ないよ。

 

「…… でも、私はそんな狛枝さんを知らないんですぅ。だって、昔のままの狛枝さんならあり得ないことをしているじゃないですかぁ。だから、私は狛枝さんを人殺しだなんて罵れません。私だって、一歩間違えばそこにいたはずなんです…… 絶望病で動いた私を止めてくれたのは、狛枝さんでしたからぁ」

 

 それは、自分自身が殺人をしようとしていたことを白状するのと同じだった。罪の告白。皆が知らないことを自ら暴露して、彼女は私を否定しなかった。

 

「そうだな、それに…… 狛枝が昔のままだったなら私の犯行を止めたりはしなかっただろう」

「そうね…… アタシも凪ちゃんに助けられたんだよ? あのときはさ、サンキューね!」

「ペコも小泉も…… それに俺を説得したのだってテメーだったろ」

 

 迷いに迷って、一心不乱に、自分を天秤にかけずに行動した結果がそこで笑っている。

 

「ぼ、ぼくだって、危険人物だったはずなのに…… 狛枝さんは真っ先に料理を食べてくれたよね…… 美味しいって、言ってくれたんだ。そんなレディを泣かせるなんてシェフ失格だよね!」

 

 それは、シェフ関係ないんじゃないかなぁ…… ?

 

「でもそいつは豚足ちゃんを殺したんだよ?」

「それは事実ですし、許されることではありません…… が、狛枝さんが昔殺人をしたこととは関係ないはずです。今回狛枝さんが犯行に及んでしまったのは、精神的支柱を失ったこと…… ですから」

 

 西園寺さんが真っ当な正論を言うが、ソニアさんが続けて言う。

 殺人経験者だから殺人をしたわけではない。そんな風に結論づけて。

 

「つまり、狛枝が殺人を犯したのは全てモノクマのせいだ…… って言いたいんだろ?」

「その通りでございます…… です!」

 

 なんで?

 

「つまりあいつをぶっ飛ばせば解決すんだよな!」

「応! しっかし、拳での解決はならんぞぉ!」

「ふはははは! 腕が疼くぞ…… 俺様の本気を見てみたいか? 破壊神暗黒四天王も今宵は毛が騒つくな…… よし、行くぞお前たち!」

 

 どうして?

 

「あちしはミナサンのことが大好きでちゅ。それは、狛枝さんも変わりまちぇんよ。どんな過去があってもアナタはあちしの大切な生徒なんでちゅから!」

「あくまで自分が教師だって言い張んのかよ! …… あー、怖ェもんは怖ェけど…… 今までのオメーは、噂ほど酷いヤツじゃなかったとは、思うぜ」

 

 馬鹿なんじゃないの?

 

「凪っちゃんは白夜ちゃんと一緒に〝 導いてやる! 〟ってカッコよかったっすよね!」

「十神くんのことも皆好きだったし、狛枝さんのことだって、結構頼りにしてた…… と思うよ」

「それなのに、どうしてお前が十神を…… ? 結果が合っててもやっぱり違和感があるんだよな。なにかまだ…… 理由があるのか?」

 

 どうしてそんなにお人好しなの? 馬鹿なの? ねえなんで?

 十神クンを想うなら私を責めて当然なのに、責めもしないし、十神クンを軽視しているわけでもないなんて…… 意味、分かんないよ。

 

「…… ドッキリハウスに来た初日に、言いましたよねぇ」

 

 いきなりなにを言いだすかと思えば…… なんのことだ?

 怪訝な顔で彼女を見つめてみれば、罪木ちゃんは真っ直ぐとこちらを見返してきた。

 

「どこか、痛いところはありませんかぁ? …… って」

 

 ああ、確かに言っていたね。

 でもそれがなにか関係あるのか?

 

「あのときは…… 私自身でもなにを言いたいのかよく分かってなくて…… うまく言えなかったんです。でも、今あなたに言いたいことは分かるんですよぉ」

 

 きゅっと目を瞑り、そして一歩前に出る。

 それから皆よりも少し私に近い位置で皆を振り返り、片手を広げて指し示す。

 

「あなたの居たい場所は、ここにはありませんかぁ?」

 

 いたいところって…… そういう、ことか。

 そういうことだったのか。

 

「狛枝さんの居場所はここにありますよぉ」

 

 やめてよ、そんなこと言わないでよ。

 生還すると約束したとはいえ、私は十神クンを殺してしまったんだ。

 彼のことは勿論、きちんと死を悼んでいるはずだ。なのにその彼を殺した私に居場所があるだと? 馬鹿だよ、本当に馬鹿だよ罪木ちゃんは。

 そんなことを言われたら、覚悟が鈍っちゃうじゃないか。

 だからやめてよ、そんな優しい言葉をかけないで。泣きたく、なってしまうから。

 

「……」

 

 本当は、今すぐにでも彼女のところへ飛び込んで行きたい。

 けれど、そんなことはできなくて…… 私にすることは許されていなくて、私自身が許さない。許せないのだ。

 唇をぐっと噛んで、耐える。約束は守らなくちゃ。皆で幸せな未来を掴むために、そのための通過点で迷っている暇はない。

 俯いて、出そうになる涙を押し殺して、涙声になるのを堪え、落ち着いてから言葉を紡ぐ。

 

 ―― 残酷な、否定の言葉を

 

「私の…… 居場所は………… 昔も今も、メイの前、だけだよ」

「そ、うですかぁ……」

 

 ああ、またやってしまった。

 何度彼女を泣かせれば気がすむんだろう。

 これでは、彼女を虐めていた人たちとなんら〝 変わらない 〟じゃないか。

 もう、〝 友達には戻れない〟のかな……?

 いや、こんなに酷いことをした私なんて、〝 皆嫌うに決まってる 〟……

 

「それは…… 違うぞ!」

「へ…… ?」

 

 え、いきなりどうしたの? 日向クン。

 皆も戸惑っているし…… 私が気づかなかったとかではなく、やはり突然それは違うぞって言ったようだけど。

 

「嫌うわけないだろ? 俯いてないで罪木の顔見てみろよ。それでもまだ嫌われたって思うのか? なんだかんだ、皆お前と過ごして楽しかったんだ。そう簡単に嫌えるわけないだろ?」

 

 なんのことだ?

 私、なにも言ってないはずなのに……まさか、まさかこれがココロンパってやつなのか?

 どうしてだ。モノミはココロンパの機能は自分から離れてどこかに行ったって…… それが日向クンだって言うのか? 元々あったカウンセリング用の機能が日向クンについていたとでも?

 なら日向クンの相談窓口はそれのせい…… ではないな。ココロンパしなくとも彼は人の悩みを解決できていた。

 ココロンパと日向クンが合わさり最強に見えるってやつ?

 いや、ココロンパされて思ったよりも混乱してるな。落ち着け私。

 

「ていうかもう終わった? もういい? その辺でもう十分でしょ?」

 

 冷や水をかけられたかのような冷たい言葉。

 モノクマの言葉に青ざめた罪木ちゃんが口を覆う。

 

「ま、待てよモノクマ! まだ狛枝には訊きたいことがある!」

「そんなの知らないよ…… だってボクは飽きちゃったのです」

 

 そうか、終わりか…… なら、先に言っておかないといけないことがあるんだよね。

 

「モノミ」

「わ、わわっ! な、なんでちょうか?」

 

 檻から解放されているモノミに私の電子生徒手帳を投げて寄越し、慌ててそれを受け取る彼女を見守る。

 

「あのさ、私の部屋にある図書館の本…… 返しといてほしいんだよね」

「此の期に及んで言うのが本の返却かよ!?」

 

 突っ込んでくる左右田クンはおいといて、戸惑うモノミに言う。

 

「ほら、〝 死んだら返す 〟って言ったでしょ? 死んだら自分で返しに行けないし、勝手に持って行ってよ。なんなら皆で部屋の整理してくれても構わないよ」

「こ、狛枝さん…… もしかしてあのときから…… ?」

「あははっ、そんなわけないじゃない。偶然だよ、偶然……」

 

 目を逸らして言う。

 それから、罪木ちゃんの方を向いて 「大丈夫、約束は…… 覚えてるよね?」 と呟く。

 しっかりとそれを聞いた彼女は泣きながら 「はい!」 と大きく返事をした。

 

「…… それじゃあ、お願いモノクマ」

「逃げなくてもいいの?」

「…… いいよ」

 

 そんなやり取りをして頷く。皆よりも少し離れてモノクマのいる裁判長席の近くへ移動する。巻き込まないために。独りで行くために。

 

「はーい! それでは、〝 超高校級の幸運 〟である狛枝凪さんのために…… スペシャルな、おしおきを用意させていただきましたーっ!」

 

 しかし、そんな配慮も足蹴にしてやって来る馬鹿もいるわけで……

 

「狛枝! どうして抵抗しないんだ! お前、これから殺されるんだぞ? いつものお前なら足掻くだろ? 田中の言う通り、やっぱりお前なんかおかしいぞ!?」

 

 掴みかかってきた日向クンの手を両手で取り、俯いたままにしていた顔を彼の耳元へ近づける。

 

「最期だし、教えてあげる」

 

そうでもしないと、きっと彼は力を緩めてくれないだろうから。

 

「本当はね…… この世界で殺されることこそが、私の目的だったんだよ」

「…… は?」

 

 間抜けなその声と、緩められた手に安堵する。

 ああ、これなら私でも振りほどける。

 

『それでは張り切っていきましょう!』

 

 背景で流れるモノクマの声。

 

「本当だよ? だって、私は嘘が嫌いなんだから。ずっと言ってたでしょ? 信じる信じないはキミ次第だけど…… ああ、それとね?」

 

『おしおきターイム!』

 

「あとは頼んだよ、罪木ちゃん」

 

 それは、奇しくもあの人狼ゲームのときと同じ台詞。

 

「…… え?」

 

 戸惑う彼女を他所に、モノクマが木槌でおしおきのスイッチを押す軽快な音が響き渡る。

 

 

 

【 狛枝さんがクロに決まりました

おしおきを開始します 】

 

 

「おやすみなさい、良い夢を……」

「狛枝!?」

 

 緩んでいた彼の腕を思い切り突き飛ばし、1人離れて笑う。

 その次の瞬間にはモノクマカラーの首輪がしっかりと私に嵌っていた。

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

「えっ、あ、狛枝さぁん!!」

「…… なんて、こんな悪夢の中じゃ皮肉でしかないよね」

 

 またね、みんな。

 その言葉は声には出さなかった。

 

 引きずられるように鎖が引っ張られ、足が地面から離れる。

 衝撃で首元から外れたホイッスルとクローバーのロケットペンダントは慌てて手を伸ばしても、届かなかった。

 

 引きずられながら連れて行かれるのは、遊園地。鎖は引っ張られているものの、途中で死なないようにかその体はモノケモノに運ばれる。

 華やかな遊園地。その景色をしっかりと目に収めながら移動する。

 

 怖くない。怖くなんて………… 本当は、少し怖い。これは夢だ。分かっていても、やっぱり怖いや。

 

 …… もしも私が手こずっているようだったら迎えに来てよね、日向クン。

 キミのことちゃんと待ってるからさ。

 私は勿論私自身を信じているし、十神クンのことだって信じている。罪木ちゃんは私がいなくてももうしっかりやれるって信じられるし…… 日向クン、キミのことも信じてるから。

 

 だから、 『キミを信じて待つ』 よ。

 

 信じられないから殺人をしたんじゃない。

 信じているから、退場するんだ。

 信じているから、私はこんなにも勇気を出せる。

 それは勇気なんかじゃなくて、無謀なだけかもしれないけれど…… それでも最期の抵抗くらいは華々しくやってみせようじゃないか。

 大袈裟なくらい〝 誇張 〟して悪役として退場してあげよう! …… 今までのことを考えると無理かも知れないけれど。

 

 けれど、この想いは必ず彼らが見つけ出してくれる。だから私は、今だけは役者となってモノクマの目を惹きつければいい。

 精々その黒豆みたいな目に焼き付けるといい、私の最期の大舞台をね!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一攫千金どりぃむしょー!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 頭の悪そうな文句の看板が下げられた、掘っ建て小屋のような場所に放り込まれてゴロゴロと転がる。

 

 掘っ建て小屋は全て金属で出来ているようで、真っ暗だった。

 そこに照明が灯り、目に入ったのは天井から下がった5本の鎖。

 私は六角形の印のところに固定されているが、鎖が半径1メートル程は伸びて動けるようになっているので普通に立てるようだ。

 まあ、鎖は床に固定されているので立って少し動くくらいしかできないが。

 隣には同じように5本の鎖の前にいるモノクマ。ただし首輪の鎖はされていない。

 周りには観客モノクマがたくさん。

 状況で分かったことは1つ。どうやら運試しさせられるらしい。

 

 先に隣にいるモノクマが鎖を引っ張るが、なにも起こらない。

 私も引っ張るがなにも起こらない。2本目も同様に引っ張るがなにも起こらなかったのでセーフだ。

 しかし、隣のモノクマが2本目を引くとそこめがけて細い針のような物が飛び出してモノクマの元へ。

 モノクマは鎖を引っ張った際に足を滑らせて偶然避けることができたが、少ししか動けない私は避けれるはずもなく右肩と脇腹を針が貫通していく感触を味わうはめになった。

 血が盛大に吹き出して服を汚していく…… でもうめき声はあげなかった。

 

 ここでようやく確信する。

 私は、散々自分がしてきたこと(他人の幸運)で殺されるのだと。

 

 次は槍が降ってきた。なんとか避けたが、それは小屋の柱に直撃していた。

 鉄で出来た小屋が揺れる。

 モノクマがメチャクチャに鎖を引っ張りまくり、自分で引っ張った鎖が振り子のように当たり、小屋から吹っ飛ばされて行った。

 

 柱が折れる。

 金属の天井が嫌な音を立てる。

 すぐにどうなるかを察して、私は痛みを堪えて立ち上がった。

 

「あっははは…… !」

 

 狂ったように笑う(泣く)

 落ちてくるその絶望を見つめながら手を大きく広げ、精一杯の虚勢。

 引きつっているのか、分からないが笑みを浮かべて笑い続けた。

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 どうだ、笑いながら死ぬやつなんてなかなかいないだろう?

 モノクマめ、ざまぁみろ。

 

 でも、やっぱり…… 怖いものは、怖い。

 私はすぐに頭から徐々に潰されて、折れていって、死ぬんだ。

 

「――――」

 

 私の全力の笑い声(小さな悲鳴)は、〝 あのとき 〟のような天井に押し潰されて…… 潰されて――

 

 

 

 

 

……

…………

………………

 

 

 

 

 

 後に残ったのは真っ赤に染まった金属の板と、瓦礫。

 そして、シャワーのように降り注ぐ賞金を手にして、大喜びするモノクマだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




・挿絵
 本編のは左右で笑い顔と泣き顔 (恐怖) 、どちらにも見えるようになっています。
 そして以下は突き飛ばしたときの挿絵差分。これが本当? それとも……



【挿絵表示】



・タイトルNo.
 459=地獄。
 ゆめ2っきの遊園地にあるみんなのトラウマが元ネタ。あれも発券機に459と書いてあったため使用。
 せっかくうろつきも見てますからね!
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