おしおきが終了した後の裁判場は沈黙に包まれていた。
初めてのおしおき、初めて人が死ぬところを目の前で見たという経験はそんな青少年たちには少々刺激が強すぎる。
とくにやみつきちゃんなんてひっどい顔色だ。泣き喚いていて手がつけられないくらい。
私だって…… 悲しい。けれど、それよりもあの子が最期まで見せていた笑顔が忘れられない。
私―― うろつきこと
だからその様を、その最期も看取ったわけだが…… 最期の瞬間の美しさは目を見張るものがあったと言えるんじゃないかな。
鳥肌が立つほどの高揚感、足掻き続けるあの子の覚悟、絶望に屈しない精神。自分の 「死にたくない」 思いを捻じ曲げてまで決行した勇気。なにもかもが美しかった。
うんうん、アキラの最期と同じくらい興奮した。いや、レジェンドは勿論アキラの死にざまなんだけどさ。
できるなら今すぐにでもあの瓦礫の場所に行っていつまでも眺めてたいくらい。
これが異常なことなんて分かっているけれど、それが私の愛というものなんだから仕方ないよね。
愛とは、殺すことと、見つけたり。
伊達に毎日アキラを夢の中で殺しているわけじゃない。
はあ、録画に取っておきたいなんて言ったら霧切ちゃん辺りから不信を買うよね。
仕方ない、心のフィルムに保存。ゾクゾクするようなあの体験を夢で追体験できるように覚えておこう。
こう考えるとこれ仕掛けているあの女…… 江ノ島ちゃんに少しだけシンパシーを感じる。
けれど私には仲間もいるし、なによりさびつきちゃんが希望側にいたいと望むなら私も側にいてあげたいよね。メイドちゃんもそう望んでいることだし。
「これから…… どうする?」
泣き続けているやみつきちゃんを写真家の子が介抱して、剣道家の子がやっと話し始めた。
ショックなのは分かるけどね。でもあの剣道家の子って人の死には慣れてるんじゃなかったっけ。いや、だからこそこんなに早く動けるようになったと言えばいいのかな。
それにしても、話し相手がいないとちょっと虚しいね。
早いとこ起きて凪ちゃんがどうなったか訊きに行きたいけど、動向は最後まで見守らなくちゃ。
「あちしは…… 頼まれたことをするだけでちゅ。ですから、先に行かせてもらいまちゅね」
「あ、ま、待てよ!」
凪ちゃんの電子生徒手帳を抱きしめたままモノミちゃんがその場から消える。アンテナの子が引き止めようとしたけどモノミちゃんはすぐに行っちゃったね。それだけあの子も余裕がないんだろうし、モノクマに荒らされる前に現場に行きたかったってのもあるかもしれない。
あんなあからさまになにかありますって遺言残したらモノクマが黙ってないもんね。
そんなモノミちゃんを見送ってから、七海ちゃんがやみつきちゃんの側による。
「罪木さん…… 狛枝さんのコテージに、行ってみない? モノミも行っちゃったし、なにか残っていたなら、それは罪木さんが見つけないといけない…… と、思うんだ」
「わ、わかって、ますぅ…… で、でもぉ、も、もう少しだけっ、待っていて、もらえますかぁ……?」
凪ちゃんが常に身につけていたホイッスルは彼女が抱きしめている。
ロケットペンダントの方はアンテナの…… 日向君が持っているみたいだね。
遠慮がちにペンダントを開けて、その写真を見ている彼は痛ましげにまた閉じた。
ぐす、ぐすと暫く泣いていたやみつきちゃんは立ち上がり、よろよろとしながら息を落ち着かせている。
「わ、私たちも…… 行きましょう………… 狛枝さんの、コテージ、に」
涙声ではあるものの、やっと落ち着いてきたみたいでなんとな言い切った。そうこなくっちゃね。
もう気づいてもらうのは諦めちゃったけど、私が寄り添ってることで少しだけでも安心してもらいたい。
彼女の近くに寄って頭をポンと撫でる。気づいてはいないけれど、安心感があるのか目を猫みたいに細めて応えてくれた。
「応! なら早く行かんとなぁ!」
「おっし! おっさん競争しようぜ!」
「ガッハッハ!負けんぞぉ!」
一足早く裁判場を出て行く2人。
褐色ちゃんはいつも通りだけど、マネージャー君は少し無理をしてるように見えた。あの人はきっと褐色ちゃんの明るさに救われてるんじゃないかな。
あの人って昔は体が弱かったんだっけ。資料で見た気がする。
羨ましいなあ。アキラも体質が治ってたら超高校級に…… いや、嫉妬は見苦しいね。追いかけよう。
「七海さん、ありがとうございますぅ」
「ううん、いいんだよ。ほら、1番乗りしなくてもいいの?」
「1番乗りはさすがに無理ですよぉ……」
苦笑しながら裁判場を去っていくやみちゃんを見送る。
王女様は厨二病君とツッコミ君と一緒に上がっていき、変態シェフ君は極道君たちに支えられながら着いて行った。あの子も殺人を止められた人だからダメージは大きいみたいだ。
けいおんの子は競争に触発されたのかヘドバンしながら走ってったし、写真家ちゃんと舞踊家ちゃんは連れ立って歩いていく。
アンテナ君はそれを見て、最後につい先程裁判場に置かれた凪ちゃんの遺影へ振り向いた。
目元を隠すようにバッテン印がつけられたそれを見て、なにかを言おうとするんだけど言葉は出てこなかったみたい。
目を瞑って、言えない代わりに心の中でどうやら言いたいことを言ったらしい彼はそのまま出て行く。
1番最後に出て行った彼に置いていかれないよう私もエレベーターへ乗り込む。置き去りにされちゃったら一旦起きるしかなくなるからね。
「最後まで、笑ってたな」
いいや、泣いていたよ。
表面上は笑ってたけど、その奥にいろんなものを押し込めて泣いてたよ。
「けど、笑ってなかった」
そう、それで合ってる。笑っていたけれど、違う。
なんだ、案外この子は凪ちゃんのことが分かってるんだな。
彼の手の中にある電子生徒手帳には、「 狛枝凪 6/6 コンプリート」 の文字。裁判前はコンプリートしていなかったはずなので、あの土壇場でコンプリートしたんだと思う。
まったく、遅いっての。おかげで人一倍臆病なあの子が1番怖い目に遭ったんだから。まったく…… 私は別に、あの子だけ生き残ってくれればそれでも良かったんだけどね。できればやみつきちゃんも。
苗木君にはとても言えないけど、うそちゃんも私と同じ気持ちのはずだ。夢仲間というのはそういうものなのだし。
凪ちゃんのコテージに着くと、丁度中からモノミちゃんが出てきた。
「み、ミナサン…… !」
「モノミ、手伝うぞ」
「そうそう、凪ちゃんもそう言ってたしね」
泣きそうなモノミちゃんが部屋の中へと招き入れる。
一応モノクマには荒らされていなかったようで、中は雑然としているものの静かなものだ。
勿論、彼女が用意していたいくつかのものもそのままとなっている。
「なんだか、チグハグ、だね」
七海ちゃんのいう通り、部屋の中は整頓された場所とそうでない場所があってチグハグな印象を受ける。
そう、まるでわざとそうしているかのような雑然さ。
ガラステーブルには綺麗な紫のアネモネが活けられていて、テレビの横なんかにも置いてある全ての花瓶に同じ花がある。
なのにテーブルの上には本が山積みになっていて、今にも花瓶を倒してしまいそうだ。
その多くは島の資料だが、中には趣味なのかそうでないのか、意味がなさそうな本まで混ざっている。その数およそ30冊以上。
島を調査し、本の情報と照合させた結果なんかもメモで散らばっているので正直綺麗とは言えない部屋だ。
メモには途中のものもあり、ああここにもう凪ちゃんはいないんだな…… なんて感傷に浸りたくなる。
「紫のアネモネ…… ですね。花言葉は確か、〝 あなたを信じて待つ 〟」
「ソニアさんは花言葉も分かるんですね! なんて少女らしい…… 素敵です!」
「我が国には、花言葉のメッセージを込め、植物でマカンゴの首輪を作る習慣があるのです。それを送りあって逢い引きすることもあります。日本で句を送り合うのと似た習慣ですから、花言葉くらいは網羅してないといけないんですよ」
「そ、そうですか…… ところでマカンゴって」
「して雌猫、貴様はこれにどんな意味があると取る?」
すごい形相で飼育委員を見つめているけど、大丈夫かな? 奥歯からギリィッて聞こえるけど。
「罪木さん、以前狛枝さんの部屋に訪れたときもこの花でしたか?」
「い、いいえ…… えっと、確かマリーゴールドと、ヘデラは分かったのですが…… それ以外は分からないですねぇ。狛枝さんが言っていたのはゼラニウムとライラックで迷ったとか…… 結局アロマ効果のあるライラックを採用したとかですかねぇ」
「罪木さん、その花たちの花言葉は総じて〝 友情 〟ですよ。やはり…… 狛枝さんは花言葉を知って飾っているみたいですね」
へえ、見事なものだね。
何ヶ国語も喋れる王女様は花言葉まで瞬時に出て来るとは、恐れ入ったや。
もしかして、私たちが凪ちゃんの部屋に行くと毎回コロコロと花を変えていたのはそういうことだったのかな?
「そういえば…… 狛枝さんに言われて追加した造花も結構ありまちゅね」
「じゃあ、このアネモネにも意味があるってことか? 信じて待つって…… 一体どういうことなんだ?」
「それは…… まだ分かりませんが……」
「とにかく、この部屋にはなにか秘密があるのだろう。遺言にするということはそういうことだ。皆で手分けして探せばそのヒントくらいは見つかるんじゃないか?」
「はあ、回りくどいことしやがって……」
「ってことはー、凪っちゃんて最初から自分が死ぬって分かってたってことじゃないんすか?」
「部屋に遺言がある以上、ドッキリハウスに攫われる前から計画してたってことだよねー。ちょっと胡散臭すぎると思わないの?」
舞踊家ちゃんの言うことはもっともだ。
けれど凪ちゃんは元からペナルティで暫く戻れないって思ってたみたいだし、わりと自然な流れだと思うけどね。
「それより、わたしはゲロブタが絶望病だった事実の方が気になるんだけど。あんた、なんで隠してたの? しかも誰かを殺そうとしてたんでしょ? 誤魔化しても無駄だからね!」
「あ、そ、それは………… 誤魔化したり、しません。私は絶望病で思い出してしまいました。それで、狛枝さんを襲ったんですぅ。狛枝さんも、〝 自殺衝動 〟と〝 殺害衝動 〟の起こる絶望病にかかっていましたから、都合が、良いと思って……」
「ま、待て! 罪木はともかくとして、あいつも絶望病に…… ? そんな素振りなかったぞ!?」
「私とは違って、耐えてたみたいですからねぇ」
「あれって耐えられるようなものじゃなかったっすけど……」
「澪田、覚えてるのか?」
「え、あ、まあ…… そっすね…………」
頬をかいて誤魔化しているけれど、覚えているのはバレバレだよ。
「というより、思い出したとはなんだ?」
「絶望病は、そのとき抱いた気持ちのような…… 既に起こったことは病気が治っても忘れたりはしないんですよぉ」
「自殺衝動に殺害衝動って、そんなもの覚えてたら…… !?」
「それよりあんたが思い出したことについて聞きたいんだけどー?」
皆が皆、本を避けながらやみつきちゃんに群がる。でも、そんなことをしていると……
「お、おい皆待てって! そんな一気に質問して答えられるわけ…… !」
「こんなところで議論したらダメだよ…… !」
「ひ、1つずつちゃんと答えますからぁ…… あっ、」
そこで、詰め寄られたやみつきちゃんが本を踏んでしまい、足を滑らせた。
彼女が背中から転んでダイブしていくのは凪ちゃんのベッド。
咄嗟になにかを掴もうとしたのか、やみつきちゃんが手を伸ばして窓際のカーテンを巻き込んで倒れていく。
「罪木!」
「ひゃあああっ!」
カーテンが引きちぎれて、木枠でできた窓が目に入ったとき、その場にいた全員はそこに釘付けになっていた。
「み、見ないでくださぁい!」
服がはだけてカーテンにより手を拘束されたやみつきちゃんは、足の間に化学の教科書やら意味の分かると怖い話なんかの本を挟んで盛大におっ広げている。
ちょうど危ない位置に〝意味の分かると深い話〟略して意味深が乗っており、題字が大きく見える位置にある。なんてことなの……
「あ、あれ…… ? どうしたんですかぁ…… ?」
「罪木さん、お手柄だね」
ハッとしたように動いた七海ちゃんが彼女の拘束を解いて背後を指差す。
それに促されてやみつきちゃんが振り返り、言葉を失った。
そこにはカレンダーが張ってあった。それはただのカレンダーではなく、バラバラの日めくりカレンダー。それも逆さまのものまであって、一見めちゃくちゃに張られているようにしか見えない。
その中程の木枠に赤いペンキで補足するように線が引かれ、明らかになにかあると言っているような、そんな光景。
細い木を横に組んで大雑把なブラインドのようになっている窓に張られた、暗号。
4/1 2/16 9/16 4/16 4/1 7/3 5/17 1/1 7/3
5/3 9/6 6/6(逆さ) E 9/16 3/1 4/1 7/3
この世界にはもういないはずの、あの子の笑い声が聞こえたような気がした。
・うろつき
狂っていると思ったのならあなたは正常でしょう。
・カレンダー
気になる方はペナルティ直前の文章を読みましょう。しっかりと、カレンダーとペンキでなにかやっている凪がいるはずです。
・暗号
さて、なんでしょう?
この暗号は推理ドラマなんかでも出て来るときがあるとかなんとか。
ヒント一覧
1 この話中にもヒントは出ております。
2 また、Eを入れなくともカレンダーの数字をもう1つそこに追加することで文章は完成します。しかし、あえてEを入れています。これは文章がローマ字になるというヒントだからです。
3 14人と1匹と透明な1人のメンバーの中で1番解ける可能性があるのは、勉強のできる左右田クンか、〝 そういう話 〟が好きなソニアさんです。
4 分からない方は、この話だけでなく何度も出てきている本が2つ存在するはずです。それを探してください。そこがさらなるヒントとなるでしょう。
5 ひらがなで11文字です。
6 分かった上で9月に疑問を覚えた方は、参考にしたその縦列の8の下に9を追加してくださいね。
Twitterにて暗号を先行公開しており、既に正解者が出ています。
繰り園さん、答え根拠共に大正解です! おめでとうございます!
もし、答えが分かった! という方がいらっしゃいましたら 「答えとその根拠」 を添えて作者へメッセージをお送りくださいませ。答え合わせの返信をした後、正解者として公開いたします。
もちろん、名前を出してほしくないようであれば、その旨を書いていただくと対応いたしますのでご安心ください。
しかし、感想欄での回答はお控えください。
期限は来週の更新までです。
それでは皆様、ご健闘をお祈りします。