錆の希望的生存理論   作:時雨オオカミ

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 グロ注意! 人体実験の描写があるので倫理的に無理な人はブラウザバック!
 サイコポップのポップさは欠片もないよ! 3のおしおきやゼロみたいなグロだよ!

 ※本編は22日の方ですよ! よって暗号の正解者発表も22日ですよ!



「アイ」の証明 ― うそつき ―

 

 「愛」 っていうのは、その人に1度きりしか与えられないものなのだと、センセイが言った。

 センセイは狭い牢獄の中にいる男の子たちにはその 「愛」 とやらを与えるのに、私にはなんにもくれなかった。

 

 からっぽな、私。 「うつろ」 な、私。

 

 性別がダメなら男の子っぽい乱暴な口調にした。少女趣味を我慢した。それでも、愛はもらえない。

 センセイはいつだって私には冷たくて、無視をして、罵倒の1つもくれやしなかった。それはなんの関心も抱いていないということが子供心に分かってしまって、どうしても私のことを見て欲しくて、センセイの真似をして牢屋の男の子たちで人形遊びをしてみたこともあったけれど、結局黙って片付けるだけ。

 

 耳の長くて垂れた男の子の耳をチョキンと切り落として顔の大きな子の首にくっつける。体は野犬を使ったんだって。

 それで最後に太めのチューブを鼻に差し込めばゾウさんの完成。

 馬の下半身の中に生命装置を入れて、上半身だけになった友達が神経回路を無理矢理くっつけられてケンタウロスの完成。

 

 バケモノの研究。バケモノを創造する研究がセンセイのしていること。

 

 正直最初は怖かったけれど、センセイが楽しそうだから私もひとつだけ心に嘘を吐いた。

 センセイが楽しいなら、私も楽しくないと「おかしい」んだ。だから、楽しい。楽しい。楽しい。嬉しい。面白い。

 いつしか、それは嘘ではなくなった。

 

 だって私は七瀬先生の娘だから。

 お父さんと呼ぶことができなくても、センセイとしか言わせて貰えないにしても、センセイのことが大好きだったから。

 

 ゆくゆくは色んな動物の長所を合わせ持った最強の人間を作るっていうのが、あの人の夢なんだって。

 なんちゃら学園の評議委員とかいう人と話しているのを盗み聞きしちゃったから知ってるんだ。そいつらは別の人とも協力関係にあって、センセイと似た研究もしているらしい。今のところ実験に付き合うようなヒトがいないからなんにもできてないみたいだけど。

 でもセンセイはその研究にライバル意識があったみたい。

 だから材料がたくさんある自分が有利だって鼻息を荒くして毎日牢屋から男の子たちを連れてった。

 

「助けて」

 

 なんて言われることもあったけど、私はセンセイにしか興味がない。でも可哀想だから言ってあげたんだ。

 

「助けてやろうか?」

 

 希望を見つけたような表情。

 次の日にはなにに改造されるか分からない状態の男の子は私が女神かなにかのように見えるんだろうな。

 

「バケモノになりたくないなら、ヒトのまま死なせてやるよ」

「…… え?」

 

 希望から一瞬後には失意、そして絶望へと転落する。

その表情が本来センセイに向けられるはずだったと思うと最高に気分が良いし、なんだかゾクゾクした。

 センセイが独り占めしている「絶望」を私がこっそりと吸い上げ、センセイの真似をして命を奪う。

 センセイは散々痛ぶるのが好きだから、私は約束通り人間のまま一瞬で死ねるようにしてやるんだ。約束を守るって大切なことなんだろ? 本に書いてあった。

 

 様々なヒトと出会っては別れていく研究所で、最後に出会ったのは、キマイラと名付けられたなにかだった。唯一実験に成功したそいつは暴走して研究施設ごと破壊していった。まるで今までの恨みを全部晴らすような光景だった。

 因果応報というやつだな。けど、キマイラは威嚇をするだけで私には見向きもしなかった。きっとなにもできないと思ってたんだな。

キマイラは当然、主犯のセンセイを足蹴にしてその牙を見せつけていた。

 

 無視されるのは、嫌いだ。

 なにより、センセイが嫌いならそんなことをするべきじゃない。

 私が教わったそれは、相手へと捧ぐたった1度の 「愛」 の証明であるから。

 

 センセイはそのとき初めて私に目を向けて、 「助けて」 と口にした。

 いつもなら向くことのない視線が私に向けられている。それだけで、理由になった。

 

「ねえ、助けたら愛してくれるのか?」

「ああ、愛すよ。だから愛しい娘、助けてくれ!」

 

 私に関心を向けないキマイラを殺すのは簡単だった。

 いくらか実験に成功していたとはいえ、その体はボロボロで脆いものだった。

 センセイには執念で追いすがっていただけだった。

 

「助けたよ? センセイ、だから私を愛してくれよ」

 

 「アイ」 がそこにあると思っていたかった。

 

「…………」

 

 「 I 」 の証明がほしかった。

 

「…………」

 

 「私」 が必要とされていると思いたかった。

 

「…………」

 

 センセイは見向きもしない。

 まるで何事もなかったかのようにキマイラの死体を蹴りつけてため息をついた。その視界に私は映らない。入らない。愛してもらえない。

 

 どうして?

 

「…………」

 

 邪魔をしても、視界を塞ごうとしても、大声をあげても応えてくれない。ただ黙々と片付けているだけ。

 地面が揺れて、壊れていくようだった。

 辺りに飛散した物を一生懸命集めて、手伝いをしようとしても私の触ったものには手さえ触れない。

 

 なんで、なんで、なんで。

 

 でも気づいてしまったんだ。

 そうだろ? 私

 

 

「……………… うそ、つき」

 

 愛を与えてくれないのなら、私が愛をあげればいいんだってことにさ。

 

「…………」

 

 キマイラを仕留めた釘バットでセンセイの背中に叩きつけ、張り倒す。

 

「っづ!?」

「やっと、こっちを見てくれたな」

 

 痛みを訴えて無視できなくなったセンセイは、その瞳一杯に私を映してこっちを睨む。ああ、やっと見てくれた。

 今センセイは私しか見ていないんだ。その目を恐怖に歪めて、絶望を宿して…… なんて、いい気分。

 

「…… !」

 

 なにか言おうとするセンセイの口に、さっき拾った針を刺し込むと酷い顔をして黙り込む。口を開けたまま、手を使って私を退かそうとしたから思い切り針で床に縫い付けてやった。

 

 センセイの標本が完成。

 

 でも、まだまだだ。私の 「アイ」 をきちんとセンセイに見せてあげないと。だってこれを 「愛」 だって私に教えたのはセンセイなんだから。

 責任は取ってもらわないと。

 

「嘘つきな〝 お父さん 〟にはおしおきしなくちゃいけないだろ?」

 

 口元を隠し、にししと笑って針を一気に口の中へ。

 

「嘘ついたら、針千本の〜ます、ってな」

 

 刺して、刺して、刺して、流れ出るそれを飲み込んでみたら 「うぇ」 と吐き出す。センセイは平気でやっていたけど、私には無理だ。大人の味ってこういう感じなのか?

 

「ゆーびきった!」

 

 バヅン、と業務用の紙切りカッターで挟み込んで人差し指をもらう。

 

「でも使い道なんてないよな」

 

 お守り袋に指を入れて首からぶら下げる。

 

「…… あれ?」

「……」

「あらら、寝ちゃったのか? ならおやすみの時間はまだだぞって!」

 

 もはや手足に力が入らないようで、私が腹の上から退いてもセンセイは起き上がらない。

 それをいいことに私は釘バットをセンセイに叩き込む。

 

 何度も何度も何度も……

 

「グチャグチャのドロドロになっても欠片になってもネクターになってもずっとずっとずっと、愛してやんよ。その体の、隅々まで。だってそれが愛の証明なんだろ?これは、私をこんなんにしたアンタの責任だよ」

 

 そう、私が私であるために。

 アンタが教え込んだように、そんな自分を証明するように。

 これは殺人という名のラブコール。

 たった1度きりの殺し愛。

 

 そうして、シミだけ残るその場所から私は巣立つ。

 自分のココロに、ひとつだけ嘘をついたまま。

 

 楽しい、嬉しい、大好きな先生、私だけのお父さん、「愛」と、「 I 」の証明。

 

 こうして、私はうそつきになった。

 

 

 

 

 

……

…………

 

 

 

「…… ん」

「どうかした? うそちゃん」

織月(りづき)、愛ってなんだと思う…… ?」

「愛ね…… 身を滅ぼすくらい素敵なもの、かな」

 

 その回答にクスクスと笑って 「そうか」 と返事をする。

 

「アンタでもそう思ってるんだな」

「勿論、愛に盲目な自覚はあるけど…… 常識はあるからね」

「常識か?」

「常識だよ」

 

 世間一般じゃあ、愛は果てしないものとか深いものって言うと思うがね。

 

「なら世界は非常識に溢れてるんだな」

「そうだよ、だって自分自身こそが常識なんだから」

「言ってることが違うじゃないか。傲慢か」

「人によって違うって言ってるんだよ」

 

 その言葉に、沈黙。

 

「なあ、コイツはなんて言うと思う…… ?」

 

 ふと、目の前のカプセルに包まれた友人を示す。

 すると織月はすぐに 「〝 そのときになるまで分からない 〟、でしょ」 と返事をする。

 

「違いないな」

 

 つかの間の夢は、ようやく忘れられそうだ。

 頬を叩いて頭を振る。

 さて、モニターに戻るとするかな。

 

 …… 友人の最期を左右する、裁判を見に。

 

 

 そんな、事前譚。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




・うそつき
 他のメンツと比べると殺人数が半端無いです。そりゃあ迂闊に話したりしてくれるわけがありません。
 そして彼女のうそつきという名前は父親と、自分に嘘をつき続けていることからきていると解釈。色々と無理がある気もしますが、この作品内の彼女はこんな感じ。
 サイコポップのポップさの欠片もなくてすみません。

 先生がうそつきを本当の意味で愛してたかどうかはオマエラの解釈次第だよ。

・七瀬先生
 夢日誌のキャラクター。実験施設にいる方が名無しと呼ばれ、病院らしき場所にいる少しずつ傷つきながら死んでいく方が七瀬と呼ばれていたはず。
 2人は色違いであり、七瀬が針だらけの場所でうそつきをジッと見るのに対し、名無しの方はどんなにエフェクトを使っても反応してくれません。そこに闇を感じたのだから仕方ないね。

・その後
 宗教学校に引き取られ、精神的な病気の検査を受けつつ寮から脱走したりして過ごしていました。そこから 「虚ろな嘘を重ね重ねて噛み、色合わせ」 に繋がります。
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