錆の希望的生存理論   作:時雨オオカミ

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未来の前の日

 

 

 そもそも、なんでモノミと七海さんはこの最後の裁判にいるのだろう。

 確か、彼女たちが死んだからこそ卒業と留年のコマンドが選べるようになったんじゃなかったっけ?

 ま、いっか。

 

「はああ、ワクワクするわね! まるで卒業アルバムを10年振りに開いたような気分…… って知らないやつもいるんだけどね!」

 

 江ノ島盾子の視線はまっすぐとうろちゃんやうそちゃんへ向いている。そりゃあ知らないだろう。大体会うとしても学園外だったはずだしね。

 

「だ、だだ誰だよ!? なんかいきなり増えたぞォ!?」

「もしかして…… 全員未来機関の方…… なんでしょうか……」

 

 左右田クンとソニアさんが代表し、私以外の全員が困惑を表している。記憶にないのだから当たり前といえば当たり前だろうね。

 

「姉さん、うつろちゃん…… !」

「姉さん!?」

 

 変なところに驚いてる人は置いといて……

 

「まーったく何度呼びかけても無視してくれちゃってさー。どれだけ心配したと思ってるのかな?」

「あーあ、せっかくからかいに来たのに復活するとか…… テンション下がるぜ……」

「姉さんごめん…… 私は私でやりたいことがあったからさ……」

「ちょ、無視とかひどいんじゃねーの?」

 

 だってうつろちゃんの言葉って嘘だろうし……

 

「おおお十神…… !そんなに痩せちまって…… !」

「黙れ、愚民が…… 俺をあの偽物と一緒にするんじゃない」

「サウナダイエットは有効みたいだぜー? お陰様でこーんなに十神も痩せたんだからな!」

 

 ここぞとばかりに嘘を吐くうつろちゃんになんだか懐かしさすら感じて私は…… 思い切り抱きつきに行ってみた。

 

「んなぁっ!? ちょ、やめろぉ!」

 

 無言で低い位置にある頭を撫で回して 「心配してくれてありがとう、うつろちゃん」 と呟く。すると彼女は心底吐きそうな顔になって「冗談キッツイぞそれ…… 凪のことなんて心配するわけないだろ!」 とこれまた分かりやすいツンデレを頂いた。

 それにしても…… やっぱりメイはいない、か。

 

「…… ところで、十神くんの無事を保証するってどういうことなのかな?」

 

 そこで七海さんが本題に戻す。

 数人は本当に十神クンが痩せたと思っていたのか 「え、違うの?」 という顔になっていた。

 

「うん、今外でいろいろ対処してるから安全性は保証する。だから、後は皆と、江ノ島さんをどうにかするだけだ…… !」

 

 キッと江ノ島盾子を睨みつける苗木クン。

 その視線に、画面の中の江ノ島は沈黙をしたと思うと、一気に泣き出し始めた。

 

「びええええええええん!」

「なぜ、そこで泣く」

「こんなの多勢に無勢じゃなあああああい! ただでさえあんまり削れなかったのに、相手が20人もいるとか超絶望的じゃなああああああい!」

 

 あー、それはなんというか…… 御愁傷様としか言えないかな。

 

「まあいい、どちらにせよ強制シャットダウンをすればお前ごとおさらばすることになるんだからな」

 

 痩せた十神クンがそう言うと、なにか引っかかったらしい日向クンが焦りを見せる。

 

「な、なあ疑問なんだけど…… その強制シャットダウンってのをしたらさ…… 俺たちはどうなるんだ?」

「…… 安心しろ、悪いようにはしない」

 

 十神クンのその言葉は、ある意味優しさなのかもしれないな。

 

「いやー、もうちょっも分かりやすく言ってくれないと分かんねっすよ」

「ちょっと、説明するんならきちんとしなさいよね!」

「なっ!」

 

 女子に責められる十神クンは置いといて……

 

「強制シャットダウンをすると、この新世界プログラム…… あ、凪ちゃんは分からないんだっけ? ここはいわゆるバーチャルリアリティみたいなゲームの世界…… って言えば分かりやすいよね。全員同じ物を見せられてるから、あながち夢の中ってのも間違いじゃなかったんだよね。だから君のやったことは無駄じゃなかったんだ。そのおかげで、こうして江ノ島盾子のアルターエゴを引きずり出すことに成功したんだし……」

 

 織月が私向けに説明を始めたため、代わりに苗木クンが強制シャットダウンについての説明を引き継いだ。

 

「このプログラムを強制的に終了させると、プログラム上にある全てのデータが消去されるんだ。江ノ島盾子のアルターエゴは勿論…… その中にいる、アバターも」

「俺らが消えるってことか!?」

「消えるわけではないわ。ただ、正規コマンドの卒業を通らずにシャットダウンしてしまうとアバターの記憶は上書きされないから、あなたたちはプログラムに入る前の状態に戻ることになる」

 

 それはつまり、超高校級の絶望に戻ってしまうということで……

 

「あのね、凪ちゃん…… 君も、絶望だったから…… だから、それに戻っちゃうんだよ」

 

 途中乱入した私に懇切丁寧に織月が解説してくれるから助かる。

 じゃなかったら迂闊になにも言えなくて、議論に参加できないところだったし。

 

「この島で起きたことは全部忘れるということか?」

「んなっ、それじゃあ……」

 

 九頭龍クンが辺古山さんを見る。

 そうだね、今までのすれ違いも元通りだ。せっかく本音でぶつかり会えたのに、それも全て無くしてしまう。記憶は失われ、絶望に戻ってしまう上に、積み上げてきた絆も台無しだ。

 

「それにー! 七海さんもモノミもー、消えて無くなっちゃうんだよ?さっき狛枝さんが助けたこともぜーんぶ、無意味! 無意味…… それって…… とっても絶望的ですよね……」

「…… 七海、たちが………… ?」

「……」

 

 七海さんは、それでも怯まない。

 

「ううん、皆は外に出るべきだよ。それで、またやり直せばいいんだから…… こうやって仲良くなれた皆なら、必ずまた同じように仲間になれるはずだよ。そうだよね、日向くん」

 

 でも、そこにキミはいない。いないんだよ、七海さん……

 

「でも……」

「おい、うじうじするなよ!」

「な、七海…… !?」

 

 むくれた七海さんが彼に発破をかける。

 いきなり口調を変えられると、少しビックリするよね。

 

「大丈夫。また、きっと会えるから…… ね?」

「…………」

 

 

 そうか、七海さんはもうとっくに覚悟してるんだね。

でも、日向クン自身のことは…… どうしようもないんだよね。

 

「ああそうですか、でもそう上手く行くんですかね? だって、そうでしょう?この世界に私を持ち込んだのは、あなたなんですから…… 日向創」

「はあ!?」

 

 それから続いたのは、とても絶望的な話。

 日向クンが、超高校級の希望…… カムクライズルであるという話だ。

 希望ヶ峰学園最大最悪の事件を引き起こし、絶望を加速させた存在。そして、脳をいじられてカムクライズルにされた日向クンは…… 強制シャットダウンをしてしまったら消えてしまうんだ。

 そこにいるのはカムクライズルという、日向クンじゃない別人でしかない。

 

「俺が…… 消える…… ?」

 

 でもそんなことで悩んでいる日向クンなんてさ…… 馬鹿みたいだよね。

 

「あっはははは! なにを言ってるのかな、日向クンは」

「…… 狛枝?」

 

 私を連れ戻したのは誰だったっけ? …… キミなんだよ。

 そんなキミがウジウジとしてるなんて、そんな馬鹿らしいこと黙って見てられるとでも思うの?

 ほら、こんなにいっぱい人がいるんだよ? 誰も死んでない! 絶望的状況なんかじゃないんだ!

 

「奇跡が起こらないなんて、そんなことどうして言えるの?」

 

 苗木クンたちがいなかったとしても、私たちはきっと選んでいた。

 私の渇望した未来は…… 皆で笑える未来だ!

 

「死んだ私を呼び戻しておいて、よく奇跡なんて起きないって確信できるね! バッカみたい!」

 

 そう、切っ掛けさえあれば…… きっと大丈夫だったんだ。

 

 

「死人を蘇らせておいて、眠ってるだけのキミが目覚められないはずないでしょ? まったく、これだから予備学科は視野が狭いんだよ。才能があるとかないとか、できるとかできないとか…… そんなこと考えてる暇があったら行動すればいいんだよ!」

 

 ほら

 

「ねえ? 七海さん」

「うん……」

 

 せーので……

 

「やればできるってやつだよ!」

「考える前に飛び込めってね!」

 

 グジグジ考えてるから悩むはめになるんだからさ。

 たまにはなにも考えずに、やりたいことをやればいいんだ。

 私みたいに、もう戻れないわけじゃないんだからさ。日向クンには、皆が生きて迎えてくれる場所があるんだからさ。

 私みたいに……死体を踏み越えてきたわけじゃないんだから。

 

「そうか…… そうだよな…… お前も…… 本当に死ぬかもしれない状況で、覚悟をしたんだもんな……」

 

 他の皆も、そうだろう?

 

「ほら、花村クンも料理教えてくれるんでしょ? 姉さんのために美味しいおつまみ作るんだから!」

「…… うん、そうだね。約束したからには手取り足取り! 腰取り教えちゃうよ!」

「わ、私のために…… ! う、可愛い妹を持って私は幸せだよ……」

 

 いや、妹じゃないけどね。

 

「小泉さんも……」

「そうね。写真家として…… 母さんみたいに色んな場所を回って、絶望の中にある小さな笑顔でも探してみようかな……」

 

 そう、どんなところにだって希望は芽生える。

 それを探せば、いくらでも世界を幸福にすることができる。

 

「2人の絆はたとえ忘れたとしても変わらないよね」

「ああ」

「時間がある限り、またお互いにぶつかりあえるだろーな。そうすればなんの問題もねー」

 

 この2人が1番安定してるよね。

 どうか未来でもお幸せに!

 

「唯吹のぉぉ! ライブで希望をお届けするっす!」

「汚ギャルの思い通りとか胸糞悪いもんねー!」

「………… 約束、ですよぉ…… ?」

 

 うん、そうだね。約束だ。

 また一緒に遊ぶって、皆揃って人狼するって、約束したもんね。

 だからさ…… 泣かないでよ。ずっと黙っているから、もしかして江ノ島盾子に感化されちゃったのかなって思っていたけれど…… 杞憂だったみたいだ。

 彼女は変わらない。私と友達になった彼女は、彼女のままなんだ。

 

「弟子たちも待っている…… か。ふ、覇王冥利につきるな」

「世界が絶望に染まっているのなら…… 前に立って歩く人物も必要になるのでしょう。それならば、わたくしも頑張りたいです…… いつも、十神さんに任せきりでしたから……」

「ソニアさんは…… 十分に頑張ってくれていたと思いますよ…… オレだって、臆病なままじゃいられねーって思いますし…… 花村も変わったんだ…… オレだって…… !」

 

 周りに影響され、そして前に進んでいく……

 あんまり頑張りすぎても大変だから、一緒に休憩できる仲間がいるといいよね。

 

「オメーに雑魚雑魚言われてちゃやってらんねーよ! もっともっとトレーニングして全部黙らせられるようにしてやるってーの! ゴチャゴチャ難しいことはオレにゃ向かねーし、世界がどうとかデカいこと考えてられっかよ!」

「考える前に飛び込め…… 噴、いい言葉じゃあ。この業界に飛び込んだ時のことを思い出すようじゃなあ」

 

 彼も元は病院にいたんだもんね…… そんな彼はたった1人の人間の希望に影響されて、超高校級のマネージャーへと登りつめた。そんな人が、皆のやりたいことを応援しないわけがないんだよね。

 終里さんはまさに考える前に飛び込めって感じだし。

 

「たとえ私がゲームだったとしても…… ここで出会って、過ごしたことはなくならないよ。そうでしょ? それに…… きっと、大丈夫」

「……」

 

そう言って頭上を見上げる七海さんはまるで誰かを探すように優しい笑みを浮かべて、硬直しているようなモノミを抱き上げた。

 

「ね、皆諦めてなんかないでしょう?」

「ああ…… 思えば、ずっとお前に振り回されてばっかりだったけど………… お前も皆に振り回されてたんだな」

「そうかもしれないね。だって死にたくなかったはずなのに、いつの間にか自分の命まで賭けるようになっちゃったもんね。変なの、引っ掻き回してたはずなのに、1番引っ掻き回されたのは私なのかも」

 

 死人が蘇るようなこんなくだらない世界で、それでも素敵なこんな夢のような世界で、永遠なんて望まないから、皆との細やかな幸せを望ませてほしい。

 

 世界の平和とか、希望の伝染とか絶望の伝染とか、そんなの関係なく、私たちは私たちの渇望する未来を望む。

 人の幸せを願うのなんてとても疲れるから。

 だから自分たちの幸せを目指そう。

 

 そこにキミがいるときっと幸せは訪れないから。

 

「オーバーキルもいいところだってぇぇぇぇ!」

「強制シャットダウンだよ!」

 

 全員で押す。

 卒業と留年のボタンを同時に、そして…… それぞれ願う未来を思い描きながら。

 

 ピロン

 

 そんな軽快な音と共にポケットから飛び出したのは、電子生徒手帳だった。それが空中に溶け出し希望のカケラとなる。

 

「…… !」

「モ、モノミちゃん?」

 

 七海さんの腕から抜け出したモノミがそこに飛び込むと、次々とカケラが彼女を覆っていく。

 そして現れたのは1番最初に見た、ウサミ姿のモノミ。

 彼女が木の棒を頭上に掲げるとそこに次々とカケラが集まり星型を作っていく。そして本当に魔法少女のような〝 希望の杖 〟へと変化する。

 

 巨大な江ノ島はウサミを捕まえようとするのだけれど、その手を鉄串が貫く。そして竹刀を駆け上がり、ウサミが羽ばたいて彼女の頭上へ。

 メスを投げれば江ノ島のツインテールが下され、包帯でぐるぐるに巻いていくように魔法の杖から光が紡がれる。

 全ての希望のカケラで、光の帯が敷かれていく。

 それはまるで虹色の花のようでいて…… なんとなく、寂しいような気もした。

 

「ああああああ!」

 

 崩れていく、江ノ島が。

 崩壊する、夢の世界が……

 

 ああ、これで…… 終わるのか……

 

 願わくば…… 私が、私で…… いられますように……

 

 小さな渇望を手に、1人、目を閉じる。

 

 

 

 

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