Bad end①【赤錆】
【R15G 殺害衝動と絶望に囚われたさび枝】
ああ、楽だ……
そう、私の中にあった〝 さびつき 〟の部分。それに全て身を任せてしまえばとても楽になれた。手に取った鉄パイプは私の唯一の味方となった。
メイがコロシアイ学園生活に巻き込まれ、そして〝 あの人 〟のモノとなった今、私に生きる意味なんてなくなった。
それでも、いくらかの監禁生活で鈍っていた死生観は、覆されなかった。
塔和シティで再び私は死への恐怖を体験した。
命を狙われ、周りにいた人間は全て食い殺され、上空に僅かに見えたヘリコプターが墜落し、そして町中にモノクマたちが溢れ返った。
どこかの誰かさんのように気絶ができなかった私は直接子供たちにお目にかかることができた。それこそ、幸運だったのだろう。
みっともなく命乞いをし、そして、これが1番効果的だと自らの出生を語った。人権を無視された実験に、大嫌いな父親。ある程度幸せだったことは伏せてあのとき受けた苦しみをより詳しく。そしてそいつらが私の幸運によって無様に死んでいった事実。
男の子たちはそれでも〝 大人 〟となった私に否定的だったが、私の訴えはただ1人に認めさせられれば良かったのだ。
モナカちゃんは思惑通り、私を利用し、そして意外なことに言子ちゃんが 「泣き顔がきゃわいい」 からと私へ首輪をつけることに賛成した。新月クンも最終的には 「魔物に腕輪をつける際に自分たちだけでは時間がかかるだろう」 と肯定の意を示してくれた。
私の命は首輪に繋がれたのだ。
そうして彼らに尻尾を振りながら弱気な〝 主人公 〟様に邂逅し、物語通りになるよう誘導していく。
その際にいくらか命令された我儘に付き合ったり、モナカちゃん経由で下される〝 あの人 〟の意思を遂行した。
最初は結構精神的にきつかった。
大人である私が取り逃した人間を誘導し、私の才能により彼または彼女は不運にも事故死する。
ああ可哀想に! 私に出会わなければもう少し寿命が延びたかもしれないのにね、あはは。
そうやって才能を悪用し、偶然を装って子供たちに対して従順に。そしてときには遠出して避難民の船を沈めたり、飛行機を墜落させたり…… あとは、〝 主人公 〟の行く先のシステムをハッキングして謎解きを用意してみたり?
わざとサイレンモノクマに知らせて混乱させてみたり、ハサミでどうやってか切り裂かれた鉄の塊を組み合わせてジャンクを組み立てて遊んだり…… とにかく、思っていたよりも物語の妨害をするというのは楽しいものだったね。
特にエレベーターのハッキング!
あれは最高だったよ。天才を息子に持つ分、彼もなかなかのプログラマーだった。おかげでビーストモノクマをエレベーターに詰める時間も稼げないところだったよ。
プログラムの才能なんてない私が僅かでもエレベーターの制御に干渉できたのはまさに幸運だったよね!
残念ながら、その作戦は塔和シティで大暴れしてくれているメイや織月に邪魔されちゃったけれど。
その全ての背徳感に苦しんでいた私はある切っ掛けにより、それらに快感さえ覚えるようになった。
それは、見知った顔をこの手にかけたこと。
避難民に紛れていた〝 かみつき 〟
彼女を同類だと自身に刷り込んで見逃すことはできた。けれど、我慢がならなかった。どうしようもなく存在する殺人衝動を抑えきることができなかった。
なぜなら、なぜなら…… そうすることで私が〝 殺される側 〟でないことを実感できて安心できたから。
死にたくない私はそうすることで優越感に浸っていたのだろう。心の拠り所となる写真やぬいぐるみが最初の襲撃でモノクマによって破壊され、そこから少しずつヒビが入っていた良心が、同類を殺す背徳感で粉々に砕けるのが分かった。
希望の妹の物語が終わっても、私は監禁されていた場所から居場所を移すことはなかった。
この機会に知り合ったカムクライズルと一定のビジネス関係を築き、江ノ島盾子からの指令を引っ提げて現れる彼に物資を譲ってもらう。
それが私がアパートで過ごす際の命綱となっていた。大好物の梨なんて、汚染された空気で農家が莫大な損害を被っている中買えるはずもないしね。
その点彼に頼めばどんなものでも用意してくれるから、荒廃した世界でも十分に幸せな暮らしができた。
子供たちからもらった首輪は気に入って今でもつけているし、いつの間にか私は変態になったのかもしれない。
殺人に対して忌避感を抱いていない時点で私はどうかしてる。
拠り所を失い、同族に手をかけ、抗争でホイッスルがジャンクとなった私にはもうなにもない。
私を〝 希望 〟に引き留める物はなに1つない。全て壊されてしまった。
そう、私自身さえも。
「今日は多少使えるかなぁ」
とっくに壊れたヘッドホンからはノイズしか響いてこないが、今日は少し調子が良いらしい。それでも、1音2音聞こえる程度だけれど。
あれ、断線してるんだっけ? じゃあなにも聞こえるはずないや。
あは、そうか、これは悲鳴だったね。うるさすぎて間違えちゃったよ。無音も嫌だけど不協和音の元はしっかりと潰さないとね。
「さようなら」
今日もうるさい避難民を路地裏に引きずり込んで仕事を終えた。
鉄パイプについた血を振って飛ばし、とっくに汚れが落ちなくなった黒パーカーのフードを下す。
さすがに髪が赤色になってしまうのは嫌だし、お仕事をする際にはフードを被っている。黒いから血も目立たないし。
そして私はさっさと帰宅する。
「一仕事したあとのおやつは最高だからね」
手遅れなパーカーを洗濯機に放り込み、すぐさまシャワーを浴びに風呂場へ直行。この水道設備も何故生きているのか不思議でならないが、絶望となった他の皆のところも大体こんな感じらしい。一説にはカムクライズルがこっそりどうにかしてくれているだとか、残党共が〝 あの人 〟と同類になった私たちに奉仕しているからとかがあるが、どっちなんだろうね。
風呂場の鏡をふと覗いてみれば、そこにはかつての面影もなく真っ赤に染まった瞳の私が映っていた。
狛枝の瞳は藍色で、かつての私もその部分は藍色だった。髪型がどちらかというとさびつき寄りな私にとってそれが名前以外の狛枝要素だったのだが、もう見る影もない。
「キミは私みたいになってはいけないよ…… ね」
昔見た夢の内容が蘇る。その中の私…… いや、〝 さびつき 〟は仲間を手にかけ喜び、その背徳感に恍惚とした表情でその死体を眺めて笑っていた。
「もう手遅れだよ」
私は、あのときの彼女と同じ目をしている。
そして、きっと鉄パイプを振るうとき同じように歪んだ笑顔を見せているのだろう。
今更友達ごっこをしたところでそう、虚しいだけさ。自業自得だけれど。もう後戻りは許されない。
拠り所が一つも残されていない〝 私 〟はきっとこうなる運命だったのだ。
「なんてね……」
リセット方法なんて知らないし、あったとしたら今頃この世界は絶望に支配されてなんかいないだろう。
1度死んで人生をリセットした私がなにを言うかって? だから、死んだ先の未来なんて望んだわけじゃないんだってば。
どうせ死んでもまた無理矢理続けさせられるなら狂ったままでいいよ。むしろ今は結構愉しんでいる節があるし。
精神的な苦痛と罪悪感はいつの間にか通り過ぎて消えてしまった。いちいち悩んで葛藤するよりずっと生きやすいから構わない。文字通り、生きるのに死に物狂いになっている今の方が大分心に余裕があるし。
首輪が好きになっちゃったのはちょっと予想外だったけど。
「はあ、お風呂にいるとなんだかたくさん考えちゃうな」
血はしっかりと洗い流し、湯船に浸かってぶくぶく。
この瞳の変化は色彩異常なのか、それとも思考は変わらず私のままなのに行いが〝 さびつき 〟側に傾いたからか? カムクライズルだって瞳の色が変わっているし、精神性が別人みたいになっているとこうなったりするのかな? 格好良いから気に入っているけど。
「あ、そうだおやつおやつ! カムクライズル便の梨が私を待っている!」
ケーキや果物は手に入りづらいから貴重だ。じっくりゆっくり味わわなければ。
身体も十分に温まったので急いでお風呂場から上がり、ちょっとだけ萎れた髪の水分を飛ばす。
首輪はそのままに普段着として使っている適当なワイシャツとスカートに着替え、るんるん気分で冷蔵庫へと向かい、コンポートにでもしようか? とかそのままデザートで食べようか? とかいろいろ考えながら扉を開く。
「…… はあ?」
ない。
「……」
圧倒的に食糧が減っている。
その上1番楽しみにしていた梨も消えている。
別に食べたのを忘れたわけでもない。確かに仕事に行く前はあったはずだ。
なくなっているのはこの荒廃した日常でも数日分の食糧。デザートまで持って行っているところを見ると数人がかりの犯行であり、突発的なものというよりも前から計画していたような手際の良さだ。私が仕事してた時間はそんなに長くないから、こちらの生活パターンがある程度割れている。
プラスしてカムクラ便が来たのは昨日。
今日が1番食糧が多く、そして盗むのに最も狙い目な日だろう。
部屋の中に靴跡がないことからわざわざ脱いだのだろうが甘いね。昨日は雨だったから部屋の中に靴跡がなくったって外に出たらどうかな? よく考えてみれば、今日のアパートの廊下は不自然に綺麗だった気がする。それも中途半端に。
まったくしょうがないな。掃き掃除して証拠隠滅をするのならきっちり全域やってくれないと。これじゃあ……
「あは…… 泥棒に相応しい最高で最悪なおしおきってなんだろう?」
わくわくしながら替えのパーカーを用意して水洗いしたばかりの鉄パイプを持つ。滑らないように専用の手袋をして、振るう。
振り心地は御覧の通り、最高だ。
「食べ物の恨みって怖いんだよね」
どんな目に遭わせてやろうかと考えながらしっかりと家に施錠し、アパートを出る…… わけもなく、身を隠す。
食糧に困った人間が数日分の食糧だけで満足するだなんて当然私は思っていない。あのわざとらしい清掃はフェイク。
私にそんな小細工が通用すると思ったのが運の尽き。文字通りに。
いや、運は私が握っているから元々尽きるほどの運もなかったんじゃない?
思惑通り、窓から侵入してきたのだろう人間が内側から鍵を開け、廊下をバタバタと行儀悪く走ってやってくる二人の男。
おやおや、絶望の残党のくせに私の住居を荒らすのか。これはこれは、そういうことかな?
私を知らないか、もしくは…… 最初から〝 生きる 〟為に絶望の残党の振りをしていたか。
いい度胸をしているじゃないか。そういう〝 生き汚さ 〟は大好きだよ。大好きだから…… なるべく好い思いをさせてから殺してあげよう。
「生き汚いのは私だけでいいんだよ」
私が生きている実感を得るための獲物は、生き汚ければ生き汚いほど最高だ。
私はコロシアイの被害者には絶対にならない。被害者になるのはキミたちの方だ。ルールのない殺戮ならば、私が万が一にも死ぬ必要はない。
そうやって安心するために。
鉄パイプをスカートの下にしまい、無防備を装う。
そしてなにも知らない振りをしながら部屋に入るのだ。
「あれ、鍵閉めたはずなんだけどな?」
そして襲い来る間抜けの攻撃を避けもせず、受ける。
「いっ…… !?」
尻餅をついて涙を浮かばせ、なにか罵詈雑言やら良からぬことを企む間抜け共に弱弱しく見えるように後ずさった。
やめて! 乱暴するつもりでしょう! エロ同人みたいに! なんて心の中で呟きつつ様子を伺う。
ああ、なんてスリリング!
1歩間違えれば殺されるよりも酷い地獄行きのこの絶望。思わず恍惚としちゃうね。
さあ、荒廃した世界の極限状態で生きる人間が本能に抗えるわけもないのだ。
早くその本性を見せろ。迷っているの? 仕方ない、少し後押ししてあげよう。
ナイフ片手に私を怯えさせる男に、恐怖に染まった瞳を見せてやればその方針は簡単に決定する。
嵌めてある首輪の鎖を引く男に今か、今かと待ち受ける二人の男。そのシチュエーションに少しだけ興奮を覚えた私は自分に呆れながらスカートを持ち上げる振りをする。
そして鼻の下を伸ばす馬鹿共の顔面を狙って、手に取った
1番近くにいたやつは今ので鼻の骨でも折れたのか伸びた鼻がだらしなくそのままぶら下がっている。ナイフを取り落としたのでありがたく頂戴し、心臓に向かって1刺し。驚愕の表情のまま逝った男を踏み台に2番目に近かった男の心臓を狙う。
ここらでやっと事態が呑み込めたらしい男たちは応戦しようとするも、獲物は今現在私が持っているナイフと同じものだ。簡単に受け流して腕を斬りつけてやればすぐに取り落とした。痛みへの耐性がなさすぎる。こいつらよく今まで生きてこれたな。
最後の1人はみっともなく命乞いを始めた。
私は立場が逆転して腰を抜かして立てなくなっている男の上に乗ると、極限にまで顔を近づけて囁いた。
「部屋を汚したのはキミたちの方なんだから、お掃除してくれないかな? そうすれば、私もキミのお掃除を手伝ってあげてもいいよ」
わざと際どい位置に手を置き、精一杯の誘惑。
こくこくと頷きながらもこの状況で興奮している変態に私は猶予を与えることにした。
黙ってジュースを飲みながら彼が血で汚れた部屋を清掃するのを眺め、死体をせっせと運んでアパートから投げ落とすのを静観した。
かつての仲間に対して罵倒と悪態を投げかけるさまは見ていてとても愉快な余興だったと言える。
そして一生懸命になって働いた彼に盗んだ食糧を運び込ませ、一息つく。さて、仕上げだ。
「片づけありがとう。キミも私も血で汚れているから…… お風呂にでも入ろうか?」
血走りかけている目に向かって微笑み、風呂場へと誘導する。
そして先に中へ入らせ、するりと手に忍ばせたナイフを持ってワイシャツとスカートを身に着けたまま彼の後を追う。
疑問を浮かべている男に 「我慢ができなかった」 だとか適当なことを言って笑いかける。
そしてすぐに飛びついてきた男はざっくりと、簡単に私の持っているナイフをその心臓に受けた。
驚愕のまま死んでいく彼に最高の笑顔を。
「キミのお掃除を手伝うって言ったでしょう?嘘はついてないよ」
泥棒には泥棒を。
彼へのおしおきは〝 私に心を奪われ 〟ることだ。もちろんその心臓もね。文字通り? でも、最後に好い思いができただろう。
ああなんて、私って優しいんだろうね!
「最後に浮かべるその表情がたまらない!」
裏切りの絶望。
私が最高に絶望させられたその思いを追体験できるだなんて彼は幸運に違いないね。
「あはは、これだからスリリングな遊びがやめられないんだ!」
壊れ切ってしまった私を廃品回収してくれる人なんてきっといない。
一生このまま絶望に踊らされたまま過ごすことになるんだろう。
血に塗れて、絶望を伝道し、世界から朝日が消えてしまうように。
あるいは、朝日が昇るころには絶望が消えてなくなってしまうだろう。そのときには私もきっと……
背徳感に、スリルに、そしてこの抑えきれない衝動と快楽に、染まってしまった私はもう後戻りなんてできないだろう。
たとえプログラムを受けたところで変わってしまった性質は元には戻らない。
全てを忘れても、それはリセットされたわけではない。私の中の根本として残り続ける。それは否が応にも私に影響を与えるだろう。矯正できるようなものじゃない。
まだ罪悪感に苛まれていた時期ならあるいは、矯正が効いたかもしれないけれどね。
粉々に砕かれた思い出の品々のせいで振り切れてしまった私には到底関係ないお話だ。
「うーん、おしおきの為とはいえ、無茶したなあ」
まあ、そのスリルがいいんだけど。
「早く片付けないと」
ビニールシートを使って風呂場から男を運び出し、お外にポイ。
部屋をこれ以上汚さないためとはいえ風呂場に男と2人っきりとか……
「……」
いろいろとまずいよね。
ああ、でもやめられない。急転直下の絶望に堕ちていくあの表情が忘れられないんだ。
あはは、我ながら趣味が悪いね。
「食糧はっと……」
ほとんど手はつけられていないが、梨が行方不明だ。
「そんな……」
絶望した。
「外で八つ当たりでもしてこようかな」
本日3回目の湯浴みが決定した瞬間だった。
・江ノ島
本編ではほぼ無害にまでなっているが、こちらの世界線の彼女は苗木の説得も失敗し、普通に絶望として動いている。
・赤錆
【条件】
ロケットペンダント、ヘッドホン、ホイッスル、ぬいぐるみなどの破壊がされたあと、同族(夢仲間)や友人をその手にかけること。
この世界線のさび枝はプログラム内でどんなに条件を満たしていても殺人阻止に動かない。
拠り所が1つでもまともに残っていれば両目が赤くなることはない。
中途半端にこの条件を達成している場合、どっちつかずになり「青赤のオッドアイ」になる。
この状態は中途半端に良心が残っているので、彼女の精神がもっとも苦しめられることとなる。
青赤の組み合わせのことを〝 イゼット 〟と呼ぶので、この状態のさび枝は〝 イゼ錆 〟という。
とっても厨二病。
絵を描く際の参考などにどうぞ。
外をうろついているときは召使いコーディネートですが、原作とは違い彼女は短パン姿です。