錆の希望的生存理論   作:時雨オオカミ

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Bad end③【失意】

 罪木ちゃんに殺されるのはうまく回避できたものの…… 私はもうどうすればいいのかが分からない。

 1人ドッキリハウスに監禁され始めて数時間。外れた肩は無理矢理治したけれど、鉤爪の形の傷跡がじくりと痛んだ。

 

 それから、偶然見つけた私への動機により、さらに自らをボロボロにすることとなった。爪は剥がれ、打ち付けた頭からは血を流し、何度も転んだ末に服の下にはどれだけの痣ができているかも分からない。

 罪木ちゃんからもらった包帯はとっくに使い切り、両手を覆っている。

 動かすたびにまだ痛むが、爪が剥がれているので当たり前だろう。自業自得とすら言える。自分がパニックを起こさなければここまで酷いことにはならなかったのだ。

 

「…… いつまでも、こうしているべきじゃないよね」

 

 痛みに耐えながら荒くしていた息を必死に整え、深呼吸を繰り返す。

 辺りに満ちた鉄錆びた血の匂いがむせ返るくらいに肺の中をいっぱいにした。こんなところにいたらそのうち嗅覚が馬鹿になりそうだ。

 それにこんな臭いを振りまいていたら後からやって来るだろう皆に即効でバレるに決まっている。そんなことになるのはごめんだ。

 なんとか、この匂いが納まるまで身を隠すべきなのだ。

 …… となると、やはりそう簡単に辿り着けないあの場所に行くしかないな。

 

「っくぅ……」

 

 壁に手をついて身を引きずりながら移動する。パーカーも血で汚れてしまって正直着替えたいが、今モノクマに打診しても聞いてもらえるかどうか分からないし、なにより私が真っ直ぐファイナルデッドルームに向かっている事実を言い訳できない。

 念のため見つけた部屋を全て確認しながら移動しているものの、さすがにあの場所へ向かっている事実は消しようがない。

 

「どこか……」

 

 いつものように言い訳やらを考える余裕があまりない。

 盲目にファイナルデッドルームへ向かわなかっただけまだ理性が働いていると言えよう。痛みで頭がどうにかなってしまいそうな状態でそこまで考えることができているのだからマシだ。

 だがどうしても急ぎ足になるのは否めない。早く座りたいし寝転がりたいし、体を休ませたい。

 

「うっわ……」

 

 壁伝いに辿り着いたその扉をドン引きするように一旦見つめ、迷う素振りを見せる。

 ファイナルデッドルームの扉はピエロのような見るからに怪しい代物だからだ。中身を知らなけらば絶対に入ることを躊躇うデザイン。それに気づかずさっさと部屋に入るのは不自然だからだ。

 暫く迷う振りをして目線を彷徨わせ、頷く。

 もしモノクマが私を見ていたのなら〝 発見されづらい場所 〟にあえて身を隠そうとしたと考えるだろう。

 それでいい。そう思っていればいい。血生臭さを友達に知られるなんて私は耐えられない。

 

「ここ……は……?」

 

 知っていた。知っていたが、思っていた以上だ。

 背筋を這うように恐怖が駆け抜けていく。薄暗い部屋、血文字のような数字、鉄格子、そしてぽつんと置かれたパソコン。背後の扉は開けていたのにも関わらず、手を放して呆然としている隙に勝手に閉まってしまった。

 それに気づいて慌てて扉を確認するが、鍵がかかっていて逃げることは叶わない。

 案内どころかゲームの説明にすら訪れないモノクマに苛立ちながらパソコンを調べる。そうしてようやくこれが脱出ゲームの一種だと気が付いたように舌打ちをした。

 それからは数字を覚えたり道具を探し回ったり、痛む体に鞭打って暗号を解いてパスワードを入力。

 働かない頭でときおり間違えながらも作業を進める。間違えたらハチの巣にされるとかのペナルティがなく、心底良かったと思いながら最後のパスワードを入力した。

 ペナルティはもうお腹いっぱい。たくさんだよ。

 

「…… ぅえ!?」

 

 カチリ、と背後から鍵の開く音がして油断している隙に、目の前に拳銃がせり上がってきて変な声を出してしまった。知っていたはずなのに不意を打たれるとは…… 恥ずかしい。

 

「クリアおめでとうございまーす!」

 

 ぼよん、という独特の効果音を発しながらモノクマがどこからともなく現れる。

 呑気なこいつに私は顔を顰めながら舌打ちをした。

 

「やだー! オマエボロボロじゃーん! そんなズタボロな雑巾みたいになっちゃって可哀想!」

「うるさい、くだらないことしか言わないならぬいぐるみらしく黙っててよ」

「そこで追い払わない狛枝さんだーい好き!」

「私はキミのこと大っ嫌い」

「ああん! すれ違いって悲しいなあ」

 

 このっ、クソクマ早く説明しろよ。

 

「で、なんのために出てきたの?」

 

 冷めた目で見つめてみると、モノクマは頬をどうやってか染めながら 「ドッキドキするぜ」 とかなんとかふざけたことを言っている。

 だから説明するなら早くしろと。

 

「あ、そうそう後ろの扉の鍵はもう開いてるよ」

 

 自然になるように目線を扉に向ける。手が思わず伸びそうになるがその前にモノクマから 「でも!」 と声がかかる。

 

「この先の秘密の部屋に進むにはもう1つゲームをクリアしてもらわなくちゃいけないんだよね!」

「…… 秘密の、部屋」

 

 今、血の匂いをどうにかしたい私には持って来いの場所だ。それを分かっていてこのクマはもったいぶるようにしている。死ねばいいのに。いや、壊れればいいのに?

 

「それはね…… ? リアルロシアンルーレット! オマエがこの台に置いてある拳銃でロシアンルーレットを成功させたらこの先に進めるようになるってシステムだよ。オマエなら楽勝だろ?」

 

 まあ、危機は他の人に比べればないとは思うけれど。

 

「キミの言いなりになるのはムカつくんだよね」

「ガーン! こ、狛枝さんが反抗期だ…… いいもん。なら最高難易度達成であげようと思ってたマル秘ファイルも廃棄するだけだし……」

 

 こいつ、ホントに嫌な奴だな。

 

「待って、それってヒント?」

「そうだよ! せっかくボクが好意で用意してあげたのに…… 日向クンの才能もこれで分かるようになるのに…… お前の大切な人間の情報まで盛り沢山なのに……」

 

 は? 私の大切な人…… ? なにそれ気になる。

 元々断る気はなかったけれど、これはますますロシアンルーレットに挑戦したくなってしまう。

 モノクマに憂さ晴らし感覚で煽ると良いことあるね。よし、これからもどんどんそうして行こう。

 …… 楽しいし。

 

「しょうがないな…… やるよ。やればいいんでしょ?」

「そうそう! やり方は……」

 

 モノクマが余計な手出しをする前に装填し、準備。安全装置までしっかりついているので外し、シリンダーを回す。手慣れたその様子にモノクマも 「ええ」 ってなっているが、キミにそんな反応されたくないよね。

 あ、もしかして指示なしで弾を5つ入れたことにドン引きしてる?それなら仕方ない。

 

「え、最高難易度でしょ?」

「合ってるけどね! 度胸あるなぁ」

「キミに褒められても嬉しくないから」

「もう、つれないなぁ」

 

 釣られてたまるか。

 

「はい、さーん、にーい、いーち…… Bang(バン)

 

 カシュッと空虚な音がして沈黙する。

 無事空白を引けた様子だ。頬に触れると、貧血のせいかそれ以外のせいによるのか、とても冷たくなっている。鏡でもあれば青冷めている自分を目撃することになるだろう。

 息が若干荒いのは怪我のせいで決して緊張したわけではない。決して。

 

「無駄に発音良くてムカつくね」

「その(カメラ)に風穴開けてあげようか?」

「やってみる? ここで血みどろのコロシアイしてもボクは構わないよ!」

 

 爪を出して左目を光らせるクマに溜め息を1つ。

 モノクマはむしろルール違反者を殺す方が効率良く体を手に入れられると思っているだろう。

 私がそんな隙を晒すわけがないでしょ?

 やれやれと首を振ってから 「冗談だよ」 と口にする。体は再利用されるかもしれないが、精神的な意味でも死ぬのはできれば勘弁したいところだ。

 

 ファイルを受け取って中身を確認。知識通りコロシアイ学園生活のことが書いてある。

 が、そこにメイの顔写真を見つけて苦い顔をしてしまう。どうやらあの忌々しい映像は真実だと確定してしまったようだ。それに少し思うところがないわけではないが、今は保留。

 ざっと他のことも見てから次の部屋に進む。

 そろそろ立っているのも辛くなってきた。早く休んでしまいたい。

 

「ああそうだ、モノクマ。ちょっと寒くてさ…… 暖房設備とかない?」

「んん? …… いいよ! 用意しておくからゆっくりしてなよ!」

 

 優しい? いやいやそんなことはない。

 こいつは私が殺人を計画しているとでも思っているのだろう。だからこんなに融通を利かせているのだ。

 

「どうしよう……」

 

 まだこのドッキリハウスを突破する方法がはっきりしていない。

 やっぱりもう少し図書館に通っておくべきだったか? 〝 罪木ちゃんと一緒に初めて図書館に行った 〟とき、彼女が本棚をひっくり返したりして資料集めも上手く行かなかったんだよね。ソニアさんは大体雑誌読んでたし、十神クンが集めた島の資料もぐちゃぐちゃになるしで忙しかった。

 その後もある程度通ってみたはいいが、どうにも確信が持てない。

 

 道は1つしか見えない。

 

 けれど怖い。

 未だに踏ん切りがつかないでいる。

 死ぬのが怖い。もし目覚めることができなかったら? 自分で死ぬなんて、本当に私にできるのか? そもそも私のやりたかったことを皆が理解してくれるのか?

 原作のようにビデオメッセージを残したくてもここでは手に入らないし…… せめて暗号くらい勉強しておくべきだったか。

 皆と一緒に脱出を目指すのならここが佳境。そして、私にトラウマを乗り越える強い勇気が必要なのも分かっている。あとは吹っ切れるか、なにも考えないうちに死ねるようにトリックを考えるかだ。

 薬や毒でもいいけれど、あれは途中が苦しいらしいから真っ最中に生存本能が首をもたげてくる可能性がある。そうなればきっと罪木ちゃんに救われてしまうし、手段としては良いと言えない。

 

「眠い……」

 

 それはともかくとして、血を流しすぎた。

 視界がぼんやりとしていて、喉が渇く。体が休息を欲しているのが分かる。

 秘密の部屋に血の匂いを充満させながら目を閉じる。起きたら携帯食料を食べて移動しよう。大丈夫、こんな怪我くらいでは死なない。

 あとのことは休息してから考えればいい。

 大丈夫、大丈夫、ダイジョウブ…… きっと、そのときになれば強い意志も持てる。

 

 だって私は、この暖かい居場所を失いたくないから。

 ……きっと、大丈夫なはず。

 

 

 

 

 

 それからはあっという間に時間が過ぎ、皆がこのドッキリハウスにやってきた。

 携帯食料でなんとか1日分の空腹を紛らわせたが、それ以降はどうしようもない。飲み物がない分、携帯食料がパサパサしていて余計に喉が渇いたということもある。

 率直に言うと、ヤバイ死にそう。

 やはりというかなんというか、十神クンには酷いことを言ってしまったり日向クンを避けたり、そうしているうちに私はファイナルデッドルームで1日過ごすようになっていた。

 

「うう、ううう……」

 

 使い慣れた鉄パイプを抱きしめて、体育座りのまま俯く。

 その手に持っているのは、鋭い刃を見せるナイフ。これを手首か、首に滑らせれば全てが終わる。

 ある程度趣向を凝らせば、コロシアイの発生により学級裁判が行われ、私以外の皆はこの悪夢からただちに開放されるだろう。

 そうすれば、あとは殺人を起こす人間などいない。

 これまで、誰1人欠けることなく歩んできた皆はたった1人の人間を犠牲にすることで最終決戦へと挑むだろう。

 

 これができるのは、私だけ。

 

 刃を上に向け、首に当ててみるがその手はカタカタと震えてナイフを取り落としてしまう。

怖い。死にたくなんて、ない。

 でも私しかこれを思いつける人間はいない。

 死なない可能性があるのは、私だけ。

 

 正確には、罪木ちゃんも覚悟さえあれば問題などない。

 でも、彼女を巻き込もうとするには勇気が足りない。彼女に後のことを託していけば安心だと分かっているものの、いざ止められてしまったとき強行できる自信がないのだ。

 逃げ道を与えられてしまったら私は……

 

 あのクソクマの言う通り、私は皆を信用できていないんだ。

 仲良くして、説得して、そして一緒に歩いてきたのに私は自分自身を任せるほど信頼していない。

 罪木ちゃんは私の言葉に応えてくれたのに。

 彼女は私との約束を守ってくれているのに。

 

 なんて、最低な奴なんだろう。

 

 いっそ、槍かなんかを使って原作みたいにトラップを作るしかないかな。

 こう、槍を吊り下げておいて、私がホール内に入ったとき丁度切れて落ちてくるみたいな。

 そうすれば恐怖は一瞬だし、避けさえしなければ即死できる。避けなければね。

 いや、やっぱりだめだ。これだと私は恐怖に負ける。

 

「自分の死の算段を立てるなんて、おかしな感じ」

 

 誰にも明かせない。

 誰にも悟らせない。

 誰にも止められない。

 

 それを止めるのは己の恐怖心のみ。

 

「タイムアップはすぐそこだ……」

 

 今回は時間制限がある。

 田中クンが殺人に動く前に私はやり遂げなければならない。

 

「移動しなくちゃ……」

 

 事前に作っておいた氷の槍を冷蔵庫から取り出し、暖房がついていることを確認。ナイフは証拠が残るのでやっぱりダメだ。

 

 ホールまでやってきて、まだ誰も来ていないことに少し安心する。

 罪木ちゃんへの協力要請はしなかった。彼女の最後に見た顔は心配そうに眉を寄せ、その後微笑んだところだ。その顔を悲しみに上書きしたくない。

 

「っは、っは……」

 

 喉元に槍を食い込ませ、ぱたぱたと流れ落ちていく汗を見送る。

 もう少し、あと少し。所詮は夢だ。なにを怖気づいている!

 

 皆を、皆を、みんなを、死なせないんだから。

 これは、私にしかできない仕事なんだから。

 お願いだから、動いてよ…… !

 

「ううっ、っ…… いやだ、死にたくなんて、ないよ…… いやだ、いやだよ…… なんでわたしだけなの…… ?」

 

 漏れ出でる本音が涙と共に滴り落ち、黒い感情が沸き上がる。

 もういいじゃないか。だって田中クンが弐大クンを殺すのは自然な流れだよ。今までが奇跡だっただけだよ。よく頑張ったじゃないか。だからむきになって全員生存なんかを目指さなくてもいいじゃないか。

 元々皆なんてどうでもいいって思っていたんだから。ほら、自分だけが生きていればそれでいいだろう?

 頑張ったって、なにも良いことなんてないじゃないか。やれるかどうかさえ分からないのにやる必要なんてあるの?

 そもそも、誰がこの先に幸福があると保障してくれるのかな?

 人生、流されるままっていうのも別にいいだろう?

 

 もう私は、疲れたよ。

 

「…………」

 

 もしかしたら、もしかしたら…… ここが所詮夢の中だと思えているのなら、エフェクトがここでも使えるのなら、私自身も死なずに切り抜けられるのでは?

 そんな憶測が頭の中を巡る。

 

 そう思うとできるような気がしてきた。

 この世界でも夢を見るから今まで思いつきもしなかったが、案外いけるものだろうか?

 首に槍を当てながら寝転がり、目を瞑る。

 

〝 ゆうれい 〟

 

 〝 したい 〟も考えたが、あれは動く死体になるだけなのでアウトだ。

 幽霊ならもしかしたら身体からそのまま抜け出すかもしれないし。そうしたらじっとしていなくても大丈夫。

失敗したらそのときはそのときだ。

 

 その場合、私は2人の命を見捨てることになるだろうが。

 

「ん? んんん?」

 

 目を開く。

 そこには見事に目を瞑ったまま槍を握る私が眠っていた。

 まさかの成功だ。

 

「なーんだ、エフェクトが使えるなら簡単に済んだじゃないか……」

 

 本当に幽霊になったみたいにその辺を歩き回り、浮いたり沈んだり。一度モノクマが私の生死を確認しに来たが、やはり分かりにくいのかな。

 そのうち朝早くにやってきた弐大クンが私を発見し、暖房で溶けた血液の槍で大慌て。他の皆が集まってくると無事、死体発見アナウンスが流れる。

 その間も泣いている罪木ちゃんに寄り添いながらずっと見守っていたが、彼女の診断は〝 ショック死 〟だ。そりゃ傷跡なんてないからね。だけれど血まみれになっている私に謎が残っているからか、ちゃんと裁判が開かれるようだ。

 

 裁判に関しては十神クンと田中クンが積極的にファイナルデッドルームへ行ってくれたらしいので今のところどうにかなっている。さてさて、皆が〝 自殺 〟に限りなく近い事故だと気づき始めたので、私は体に戻って蘇ってこようかな。

 そして学級裁判中に乱入して驚かせてやろう!

 

 ……私、死んだ振りしてばっかりだな。

 

 裁判中なのでまだ死体はある。大丈夫だ。

 よし、戻ろう……

 

 ………… あれ?

 

「うん? エフェクト解除は普通に思い浮かべるだけで…… なら魔女に…… んん?」

 

 できない。

 

「他のエフェクトは…… あれ? あれ? 嘘でしょ」

 

 戻れない。

 

「ど、どうしよう…… どうしよう…… これじゃあ……」

 

 目の前が真っ暗になるようだ。

 戻れない。生きていることを証明できない。

 これじゃあ、なんの解決にもなっていない!

 

「なんで…… ? なんでなの…… ? なんで戻れないの!?」

 

 いくら身体に埋まろうとしても透けた身体は戻らない。

 なぜ? どうして? わけが分からない。もしかして、これはことが上手くいった幸運の代償だとでも? けれど、仮死状態になるのは世間一般的には幸運でなんでもないだろう! どうして? どうして?

 

 そのうち、モノクマが身体を回収していってしまう。それと同時に、私の視界も真っ暗になっていく……

 

「待って待って! モノクマ! 見えてないの!?」

 

 私の意識は、そこまでだった。

 

 

 

 

 …… と、まあ色々あったわけだけれど。現実世界で目が覚めたら無事だった。

 なんだ、大丈夫だったんじゃないか。皆のおかげで目覚められたわけだもん! 感謝しないとね!

 

「はうぅ、狛枝さんが無事で…… 無事で良かったですぅぅ!」

「ありがとう罪木ちゃん。約束を守ってくれようとしてありがとうね」

 

 彼女の頭を撫でて微笑みかける。

 なんてチョロい子なんだ。将来が心配になるレベルだよ。学園生活でもちょっと優しくしたら懐いちゃってさ。まあ、同じアニメで泣いた仲なんだし、少しくらいは贔屓してあげてもいいかな。

 

「罪木さん、日向さんが呼んでいますよ」

「あ、狛枝さんのお姉さん…… 分かりましたぁ。ごゆっくりしてくださいねぇ」

「ええ、ありがとうございます」

 

 お姉ちゃんがやってきたようだ。

 〝 私 〟が目覚めたことで喜んでくれたのだろうか。

 いやあ、それにしてもお姉ちゃんか。彼女は本当にしっかり者で素敵だよね。

 

「お嬢様、少し2人になりませんか?」

 

 とても丁寧な言葉で場所を移そうと促すお姉ちゃんに、私はにっこりと笑顔になって手を繋いだ。

 

「…… では、夜景でも見に行きましょう」

 

 最上階のテラスに案内され、彼女は私にジュースを差し出す。さすがに寝起きでお酒を進めてくるわけはないね。

 

「ありがとう」

 

 リンゴジュースだ。絶望的に子供っぽい市販の味がする。

 まあ、たまにはこういうのも悪くないかもね。

 

「……」

「どうしたの?」

「ええと、すみません。市販のものしか用意ができていなくて…… お許しいただけますか?」

「うん、なんの問題もないよ」

 

 ものすごく不味いってわけじゃないし、こんな荒廃した世界でジュースを用意できているだけまだマシだ。

 

「悲惨な夜景だね」

「ええ、本当に」

 

 うーん、光でキラキラしてるのもなくなると、こんなにつまらないものになっちゃうんだね。大発見。

 やりすぎたか。

 

「ところで、お嬢様」

「ん、なあに? お姉ちゃん」

 

 隣にいる彼女を見上げてみると、その視線はどことなく冷たいような気がした。

 

 

 

「あなた、誰ですか」

 

 

 

 心の奥底で泣き喚いているうるさい先輩(ひとじち)を押さえつけて、アタシは笑った。

 

「言うこと聞いてくれるよね、お姉ちゃん?」

「戦場さんが泣きますよ、江ノ島さん」

 

 うぷぷぷぷぷ!

 さーて、面白くなってきたことだし?

 仲良くやろーね、狛枝先輩。

 

 だって、見えてるんでしょ?

 ずっと、ずっと。アタシに身体の主導権を奪われてから!

 先輩とは仲良くやっていけると思うんだ。

 

 

これからも一緒に絶望しようね?

狛枝せ・ん・ぱ・い

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―Bad end③―

Curiosity kill you(好奇心はあなたを殺す)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




・条件
 図書館イベント (意味が分かると怖い話の本と化学の本) の見逃し。また、罪木以外のカケラが全員4つ未満 (本編は日向、十神が5つだった)
 本編と違い、このさび枝は罪木ちゃんと手分けせずに図書館へ訪れています。

 絆レベルが罪木以外低いので、全員生存 < 自分の命。
 その結果妥協し、好奇心の赴くままに〝 ゆうれい 〟を使用するとただちに江ノ島アルターエゴの一部が機械を通して身体を乗っ取ります。
 卒業したら上書き? 機械に繋がってるんだから配線通って乗っ取ればいいだけじゃない! という発想。ただし、死んでいないとやはり乗っ取りは難しいでしょう。
 原作江ノ島は恐らくその辺も舐めプしていたと解釈。
 つまり、死んではいないので意識があるまま江ノ島に乗っ取られます。
 毎夜夢の中で会談できますが、結局江ノ島には勝てないのでどうにもなりません。

 ツノの生えたさびつきをさびつきが傷つきながら殺すイベントがありますね。
 心のうちの戦争かな?

 精神的な意味でも死んでいたほうが、まだ救いようがあったかもしれません。

・メイ子さん
「凪様は私のことをお姉ちゃんとは呼んでくれません……その代わり、〝 メイ 〟と凪様だけの呼称で呼んでくださいます」

・リンゴ
「凪様はナシが好物ですが、リンゴはお嫌いです。私の選んだリンゴしか召し上がられないのですよ。ふふ、可愛い妹でしょう?」

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