錆の希望的生存理論   作:時雨オオカミ

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〝 あなたにまた、もう1度 〟



ーEXTRAー
【番外編】育成計画軸ハロウィン


 

 

 

 

 10月31日。本日はハロウィン。普段は持ち込みほぼ不可となっているお菓子を堂々と持ち込んでも良い日となるのだ!

 風紀委員会の石丸クンは渋い顔をしつつも校則で許可されている日なので、ちゃんと見逃してくれる。

 今朝見たところ、彼自身も不二咲ク…… さんや大和田クンにお菓子を渡されて満更でもなさそうだった。

 そんな彼も2人にお菓子を渡している姿を見ることができるのだから、希望ヶ峰学園は案外融通が利くものだ。彼が用意していたのはチョコレートではなくお煎餅だったけれどね。

 

 とにかく、学園を挙げてチョコレート贈呈が推奨される日なので私も例によってメイと作った手作りクッキーを持参している。

 霧切さんも学園長に渡したりするのだろうか。もう和解しているはずだが、未だに反抗期気味な彼女がまともにお菓子を渡しに行くかは疑問である。

 苗木クンには積極的に渡すのにね…… ふふっ!

 

 …… と、学園に行く前に寄り道をするのだった。

 学園近くの公園へ行き、待ち合わせしていた人物と会う。

 

「お待たせしました、お姉さん!」

「やあ…… 君といい、まさか本当に来てくれるだなんて」

 

 すっかりと大人びた彼女は相変わらず動きやすそうな服装をしている。

 特徴的な赤縁メガネをしていて、少しだけボーイッシュな彼女。誘拐された私を助けてくれたあの、五月雨結さんだ。

 

 どうやら探偵業も順調なようで、誘拐犯専門の探偵として上手くやっているらしい。たまに霧切さんや最原クンと一緒に事件に巻き込まれたりしているが、未だに無事な辺りを見ると彼女も相当優秀な探偵だ。

 子供に優しいし、巻き込まれた人へのフォローも上手い。探し物が得意な最原クンと霧切さんが事件を解いている間は、人のことをよく見たり観察に勤め不安要素をなるべく退ける役目を買って出たりしているらしい。

 詳しいことは訊いていないが、彼女も大分波乱万丈な人生を歩んできたらしい。

 霧切さんに結お姉さまと呼ばれるくらいなのだから、もしかしたら原作で出てきたのかもしれないが私は知らなかった。

 助けられたあのときもまさかここまで関わることになるとは思っていなかったよ。

 

「学園に入ってからも会ってくれて感謝してるよ……」

「最原クンや霧切さんからよくお話聞いてますよ。改めて、あのとき私を助けてくれたのがキミで良かったと思う」

「探偵として当然のことをしたまでだよ! って…… ドヤ顔で言うとまた霧切ちゃんにどやされちゃうかもね……」

 

 世間話もそこそこに手提げ袋から手作りの小さなケーキを出す。

 彼女には甘いもの。これがここ数年で学んだことだ。なにせ霧切さんに 「クリスマスなのにミサも投げ出して1人で寂しくケーキを食べていたのよ」 と言われてしまうほどの甘党らしいからね。

 でも霧切さんの三つ編みはお姉さんの影響らしいし、彼女がイン・ビトロ・ローズを喜ぶのもお姉さんが理由だとか…… 仲が良くてなにより。

 

「ハッピーハロウィン! と、トリックオアトリート!」

「おっと、じゃあこっちもどうぞ。トリックオアトリート!」

 

 彼女からもらったのは可愛らしい色とりどりのマカロンだ。

 学校で食べても支障がなさそうな良い贈り物だった。

 結お姉さんはどうやら大学は午後からとのことなので、このあとケーキを食べることになるだろう。

 私が来たときからすでに可愛らしい紙袋を持っていたので、きっと先に霧切さんに会っていたんだろうな。

 

「あ、結構早めに来たはずなのに……」

「学園か、いってらっしゃい」

「ええ、マカロンありがとうございます。結お姉さん! いってきます」

 

 手を振って別れ、学園へ。

 すると校門のところで遅めに来た幾人かと一緒になった。

 

「おはよう白銀さん」

「ふぁ…… おはよう狛枝さん」

 

 どことなく眠そうな彼女の隣に行き、大きな紙袋に注目すると笑って 「これは持ち帰りで作ってた仮装衣装だよ」 と教えてくれた。

 どうやら大部分は学校で衣装作りをしていたみたいだが、間に合わなそうないくつかの衣装を自宅に持ち込み徹夜で仕上げてきたみたいだ。

 

「気合い入ってるね。そっちの仮装はクオリティ高そう」

「うーん、でも狛枝さんのとこみたいに全員でわいわい作るのも良いよね。こっちは東条さんが手伝ってくれるとはいえ、ほとんどわたし1人だから、地味に羨ましいかも……」

「それぞれの楽しみ方は違いますわよ。隣の芝は青いとも言いますし」

「そうでしょうなぁ」

 

 と、私と白銀さんが話しているとこれまた大荷物な山田クンと、涼しげな顔で荷物を全部持ってもらっているセレスさんが会話に参加した。

 チラッと見えた部分を考えるに、全部ゴスロリ衣装だろう。あとは執事服とか? さて、誰に着てもらうのか…… 楽しみなような怖いような。

 山田クン自身も大分衣装を持ち込んでいるようだし、確かにそれぞれの楽しみってやつなんだろうね。

 

 教室に向かう途中、すれ違った腐川さんは興奮しながらピンクの耳と巻き尻尾を付けてどこかに向かっていった。

 自ら豚になるとはやはり上級者か…… 本物の十神クンが逃げられるように願ってあげよう。あの人仮装しないだろうし。

 

「オーガは元々仮装してるようなモンだから必要ないべ」

「は?」

「朝日奈…… やめておけ」

 

 すれ違った3人が冷戦状態になっていた。

 朝日奈さんを真顔にするとか逆にすごいな葉隠クン。

 浮き輪ドーナツ持って仮装だよー! とはしゃいでいた朝日奈さんが一瞬にして停止したもん。

 というかなんで葉隠クンがあの2人と一緒にいるんだ。

 

「キミもすでに仮装してるじゃない…… ウニに」

「っぷ……」

「狛枝妹…… 我を庇うようなことは言わなくてもいい。自分の容姿のことは十分に分かっている」

 

 と、言われてもねぇ?

 

「そんなっ! 酷いべ狛妹(こまいも)っち!」

「ねえ、その変な呼び方やめてほしいんだけど」

「無理だべ!」

 

 さすが、通信簿埋める度にクズ度が上がっていくやつだよまったく。

 

 教室の傍まで行くと、舞園さんがハロウィン衣装でなにかを配っている姿が目に入った。

 

「おはようございます。よかったら今夜のライブ来てくださいね」

「おはよう舞園さん。是非とも行かせてもらうよ」

 

 チラシをもらって読む。へえ、澪田さんと赤松さん演奏か。思い切ったことをするものだな。歌詞は誰が担当したんだろう? まさか澪田さんじゃないよね? いや、ハロウィンにはピッタリだろうけれど。

 音楽系の才能3人…… 楽しみにしておこう。

 

「よお狛枝妹! トリックオアトリート!」

「…… あ、桑田クン」

 

 まさか学園最初のトリックオアトリートが桑田クンからとは…… でもなんで私? すぐそこに舞園さんいるけど。

 

「舞園ちゃんの邪魔するわけにはいかねーだろ!?」

「ああ、なるほど…… ならキミは、チラシ配りがひと段落するまで待ってるわけだ」

「そーいうこと! で、菓子は?」

「はいどうぞ。じゃ、こっちからもトリックオアトリート?」

「ほらよ」

 

 チョコバットってキミね……

 まあ、桑田クンらしいといえばらしいか。こういうところにどことなく野球が好きなんだってことが見え隠れしていて、なんだか微笑ましい。

 

「チラシ配り…… 待つくらいなら手伝えばいいんじゃない? その方がきっと喜ぶよ」

「おう、鬼名案じゃねーか! よっしゃあ! 舞園ちゃーん!」

 

 チョロい。

 さて、私も教室に行かなくちゃ。それにしても今日は皆賑やかで楽しいな。

 

「白夜様ー! どこにいるのかしらー!?」

 

 廊下をものすごい勢いで走り去っていくジェノサイダー翔の姿が見えた。どこぞでくしゃみでもしてしまったんだろう。

 そして、その後ろをめっちゃ早歩きしながら石丸クンが追いかけていくという、名状しがたきシュールな絵面が展開されていた。

 なにあれすっごい面白いんだけど。

 「いやそこは走れよ!」 とその場面を見た左右田クンが激しいツッコミを入れているが、まったくその通りだ。

 私が教室に入り、罪木ちゃんと挨拶しながら席に座る。

 たまに剣道場で過ごしていて遅刻する辺古山さんも、いつも遅刻している終里さんもすでに揃っていた。

 十神クンが机の横に下げている袋は道を狭めるほどに大きく、いったいなにが入っているのか容易に想像できる。たくさんお菓子を用意して、そしてたくさんお菓子をもらいたいのだろう。

 

 私が初日にとても驚いた生身の七海さんや、机に向かってずっと作業している御手洗クンなんかもいる。

 私の知っている限りのメンバーは、日向クン以外…… 全員集合だ。

 

「おはようみんな!」

 

 テンション高めの雪染先生が入ってくる。スパンッと開けられたドアはあまりの勢いに悲鳴をあげていた。

 いつにも増してテンションが高いのは、やはりハロウィンだからだろうか?

 学園の生徒は皆イベントごとが好きなようだ。

 もちろん、1部例外もいるが。

 

「今日はお菓子の持ち込みが許可されてるわ。きっと1日中トリックオアトリートって言葉が飛び交うことになるわね。お菓子を用意していない人がいたら、今ここで渡しておこうと思うの」

「あちしに言ってくれればすぐに補充しまちゅ! どんどん頼ってくださいね! らーぶらーぶ!」

「…… ということで、私たちはむしろあなたたちとのイベントを楽しみたいと思っているの。悪戯はほどほどに、みんなで楽しめるようにしましょう! 以上、解散!」

 

 

 先生とウサミが教卓に大量の飴玉を乗せる。

 そして宣言された言葉に小泉さんが困惑の声をあげた。

 

「えっと、先生? 授業はないんですか?」

「ないわ!」

「ええ」

「そんなの野暮だって学園長が決めたの。まあ、十中八九霧切さんからお菓子をもらいたいんでしょうけど」

 

 学園長ェ……

 

「なら今日はなんでもし放題ってことー?」

 

 西園寺さんが疑問を投げかけ、雪染先生が頷く。

 いつも授業らしき授業がないとか言ってはいけない。

 自主参加なだけで雪染先生やら黄桜先生やらは面白い話を聞かせてくれるし、聞けばちゃんとした授業もやってくれるのだ。

 黄桜先生はお酒をお土産にすれば大体機嫌よく答えてくれるから楽でいいよね。先生に餌付け? なんのことかな……

 

「狛枝さんトリックオアトリートです!」

「こちらこそトリックオアトリート!」

 

 まるで挨拶のようにソニアさんとお菓子を交換する。

 彼女の国ではチョコレートが名産だ。とても楽しみにしていたんだよね。

 それから彼女は私とお菓子を交換してすぐ田中クンのところへ走っていった。

 彼にはチョコレートではなく、ドライフルーツの詰め合わせを贈っている。動物にも食べられるようなお菓子をわざわざ選んでいたらしい。他の人に渡すときは全部チョコレートの包みになっているため、彼だけの特別だ。

 ドンマイ左右田クン。涙拭けよ。

 

「んふふ、ぼくからの甘〜いお菓子はお預けだよ。お昼に…… たっぷり振る舞うからね!」

「ケーキか!? ケーキだよなぁ!? お、オレ今から楽しみだ……」

「ほれ、今はこれで飢えをしのぐんじゃなぁ!」

「おっさんのでっかいボールおにぎりじゃねぇか!」

 

 なんか1部変な会話をしているが気にしない気にしない。

 終里さんの食べてるおにぎりか爆弾おにぎりどころじゃない大きさなのも気にしない。

 

 辺古山さんは九頭龍クンと一緒に、順番に回って行っている。

 ちなみに彼女たち、私とメイの関係を知ってから隠す気がなくなったのかすでに主従バレしている。

 私とメイもろともに仲良くさせてもらっている。

 九頭龍クンと私が仲良くなれたのはこの関係性のおかげだね。

 

「あ、あの…… よければ一緒にまわりませんかぁ?」

 

 

「あはは、断るわけないじゃない。よろこんで」

 

 わざと気障ったらしく言ってその手を取ってみる。するとみるみる罪木ちゃんの顔がゆでダコのように真っ赤になってしまった。

 わざととはいえ、相変わらず良い反応をしてくれるね。これだから悪戯はやめられないよ。

 

「いやぁー! 静子ちゃんの馬鹿ぁぁぁぁ!」

「だ、だから、まだ強力すぎるって、言ったのに…… !」

「アンタがもっと強く止めてればやめてたの! と、とりあえず研究教室に逃げ込むのが1番でしょ!?」

「いいことを言う。あそこに立てこもって鍵をかければ問題はないな」

「よいちゃんもっと早く走って!」

「わ、私を、置いていく、気!?」

 

 目の前を通過していく3人にキョトンとしてしまったのは仕方ないだろう。

 十六夜先輩が安藤先輩を横抱きにして走り、そのあとをドーピングしていると思われる忌村先輩が追いかける。

 そしてそのさらに後ろには目をハート状態にした先輩集団が走っている。

 もしかして、またなにか薬を仕込んでお菓子を配り歩いたのだろうか。ならばわりと自業自得なのだが。

 まあいい。私はその逃走劇を見なかったことにして隣のクラスに顔を出すことにした。

 

 隣のクラスでは全員が仮装をしていた。

 私も魔女の格好をしていて、罪木ちゃんは黒猫の装いをしているが、手作りのためクオリティはお察しだ。白銀さんが用意した衣装にはやっぱり敵いそうにない。

 約2名、普段とほとんど変わらないが。

 

 その2名のうち1人、夢野さんはいつもよりも少しだけ豪華な魔女っ子スタイルだ。隣にいる茶柱さんも同じく魔女っ子スタイルで、お揃いの衣装にテンションマックスになっている。よかったねぇ。

 アンジーさんはいつもの水着の上から真っ白なローブを羽織っていて、頭の上に輪っかをつけて背中に真っ白でふわふわな翼…… つまり天使の格好だ。

 浮世離れした彼女にはとてもよく似合っているし、実際めちゃくちゃ可愛い。

 

「おはよう夢野さん! トリックオアトリート!」

「ふむ、とくと見ておれよ! ハロウィンになって魔力の強まったうちは無敵じゃ!」

 

 普段面倒という言葉が漏れる口からは随分と元気な言葉が出てくる。

 目もどことなくキリッとしているようだ。隣にいる茶柱さんのテンションが振り切れてメーターがぶっ壊れた音がする。耳がいたい。

 

 夢野さんがなにやら杖を振るうとどこから出てきたのか、飴玉と紙テープが飛び交い鳩まで出てきた。それから、彼女の杖が私と罪木ちゃんのポケットを指し示す。

 夢野さんはそうすると杖を両手で挟んで思い切りぐいと押し潰す。すると…… 本当にどうなっているのか、杖は両手に挟まれたままするすると短くなっていき、最後には跡形もなくなってしまった。

 

「うわあ、すごいすごい! それどうやってるの!?」

「魔法じゃ…… 狛枝、罪木、ポケットを探ってみるんじゃ」

 

 その言葉に疑問を浮かべながら、先ほど彼女が杖で指したポケットを探る。

 すると、なんと包装されたジンジャーマンクッキーが出てきたではないか! いつのまに…… さすが超高校級のマジシャンだ。

 ハロウィンに相応しいものを見せてもらえて私は大満足である。

 

「わああ! 狛枝さぁん! 狛枝さぁん! クッキーですよぉ!」

 

 はしゃいで喜ぶ罪木ちゃんが可愛らしい。

 

「ありがとう、夢野さん」

「ひとときの夢は楽しめたかのう?」

「うん、とってもね」

 

 夢か。

 うん、こんな夢なら毎日でも見たいね。

 彼女の魔法は1年で1番今日が輝くのかもしれない。

 

「アンジーからはこれだぞー! お前もなにか用意してるんでしょー? ねえねえー、なにかなー? なにが出てくるのかなー?」

 

 アンジーさんからもらったのはまさかのサータアンダギー。えっ、沖縄出身じゃないよね? それともよく似たなにかなのかな?

 それと、わりとリアルな目玉の形をした飴玉だ。まさにハロウィンって感じ。

 

「転子からはこれです!」

 

 茶柱さんからもらったのは麩菓子だ。これまた以外なチョイス。いや、美味しいからいいんだけど。

 私もクッキーを渡して挨拶する。

 

 あとは……

 

「真宮寺クン、トリックオアトリート!」

 

 ほとんど姿が変わってない人その2だ。

 元から近寄りがたいし、まあ似合うだろう。ハロウィンというよりお盆みたいな見た目してるけれど。

 

「トリックオアトリート…… ハロウィンは元々秋の収穫を祝うお祭りなのサ。この日にはあの世とこの世の境目の門が開かれて死者が家族を訪ねてくる…… いわば日本でいうお盆だネ。それと同時に有害な魔女や妖精が悪戯をしてまわるから、子供にお化けの格好をさせて守っていたんだヨ。ジャック・オー・ランタンは元々カボチャではなくて、カブを使っていたと知っているかな? まあ、これほどの大きなイベントになったのはいろんな思惑が絡んでいるようだけれど…… アメリカではれっきとした行事サ」

「そっか、向こうでいうお盆なんだね…… 面白い話をありがとう」

「勝手に話したことだから構わないヨ。それと、はいこれ」

 

 彼から渡されたのは透明な包みに入ったりんご飴のようなもの。でも見た目は茶色くてキャラメル色をしている。

 

「これは…… ?」

「それはキャラメルアップルだヨ。ハロウィンでの伝統的なお菓子サ。姫りんごを使っているから大きさは気にならないだろう? ああ、リンゴなのは勘弁してほしいな。リンゴには愛と美を司り、病を治す魔法の果実だって信じられていたこともあるんだ。気に入らなければ、こっちのバーム・ブラックもあげるヨ。それは中身が梨のドライフルーツのケーキだから安心して食べるといい」

 

 彼の話はやはり、面白い。

 とりあえず苦手なリンゴだが、彼の目利きを信じて後で頂こう。

 

「ありがとう、こんなものしかないけど…… はい、クッキー。お姉さんの分もどうぞ」

「…… ありがとう。姉さんも喜ぶヨ」

 

 真宮寺クンと別れて横目に春川さんと百田クンを見る。最原クン、赤松さんも見守っているようだが、2人仲睦まじくお菓子を交換したり、天海クン迫真のゾンビメイクに驚きすぎて抱きついたりと大忙しだ。

 リア充幸せになりやがれ。

 あ、ちなみに春川さんからはチロルチョコ。百田クンからは宇宙モチーフの棒突き飴をもらった。かなり幻想的でいつまでも見つめていたいくらい綺麗で、まるで芸術作品みたいだ。

 春川さん、百田クンには別のもの渡してたみたいだしやっぱりリア充幸せになれ!

 

「トリックオアトリート! 星クン!」

「ん…… 俺のでいいのか? あんたも物好きだな…… ほら」

「じゃあこれ、交換」

 

 星クンがくれたのは彼のミントシガレットだ。クラスメイト以外に言われるとは思っていなくて、どうも手持ちが少なかったらしい。

 

 他の人は見当たらない。

 キーボクンにはお菓子をあげられないし、入間さんは交換してもらえるか分からないけれど…… まあ場所の検討はつく。

 その間に登校までに出会った人たちとお菓子を交換しつつゆったりと行こう。

 

「えへへへ…… こんなにお菓子をもらったのは生まれて初めてですぅ……!」

 

 無言で撫で回した。

 

「ひゃぁぁぁ!」

 

 ボサボサになった彼女の髪を慌てて手櫛で整えて、謝る。

 罪木ちゃんはそれでも幸せそうにはにかんでいた。

 

「やあ、いるかな? 入間さ」

「ひゃーっはっはっはっはーー!」

 

 カボチャのメガネをかけた入間さんがなにやら機械を向けてきたのでひょいと避けた。もう慣れたものである。

 でも入学初日でパンツを剥ぎ取られたのだけは絶対に忘れない。絶対にだ。

 喋らなければ本当に美人なんだけどな…… いや、その残念さが魅力か。なら、仕方ないね。赤松さんには懐いているみたいだし、悪い子ではないんだろうけれど、ごめん。私は罪木ちゃんで精一杯っていうか……

 

「で、なんですかこれは?」

 

 なんてことを思っていたら奥からキーボクンが出てきた。どうやらなにか機能をつけたあとらしい。

 良い予感はちっともしないけれど!

 

「おう! ビームが出せるようにしてやったぜ!」

「あの…… あまりメカっぽい機能は……」

「いいからやってみろって!」

「は、はい。えいやー!」

 

 彼の手先から出てきたのは真っ白な液体だった……

 

「ちょっ、こっち来ないで……うぁっ!?」

「ひゃぁぁぁぁ! ご、ごめんなさぁい!」

 

 白い液体がなぜか軌道修正してこちらに向かってきた。分散して入間さんの方にもだ。

 しかし、こういうときに限って罪木ちゃんは転び…… そしてそれに巻き込まれた私も当然逃げることができなかった。

 

「冷たっ! って…… これ牛乳………… ?」

「ああんっ…… ミルクビームだ! ひゃっはー!! こんなこと思いつくオレ様つえー!」

 

 よりにもよって牛乳か。それは…… それはなんというか、最悪だ。

 食べ物を粗末にしてはいけません。

 

「う、うう…… 牛乳とか乾いたら臭くなるやつじゃないか……」

「あとでこの機能外してくださいね…… あと、そのメガネはどうしたんですか?」

「ああこれか? これはこのメガネ越しに見た人物を自動的にハロウィン仕様の衣装に見せるメガネだ! 露出アップで牛乳垂らしてうっはうはだな!」

 

 うわぁ……

 

「それはまた…… 花村クンが喜びそうな……」

「おっしキーボ! 実験済ませたしイタズラしまくるぞ!」

「ええ……」

 

 入間さんと、彼女に腕を掴まれたキーボクンは教室から出て行ってしまった……

 待って、この服どうすればいいの…… ?

 

「え、えっとぉ…… 急いで寮のお風呂に行けばなんとかなるでしょうかぁ……」

 

 でも衣装は台無しだよね……

 ああ、メイに教わりながら作った1ヶ月間の苦労が一瞬で水の泡に……

 私たちは、羞恥プレイに晒されながら誰にも呼び止められることなく、無事寮へ帰えることができた。

 入間さんの教室にはしっかりクッキーを置いてきた。ああいう人だというのは分かりきっていたので仕方ない。

 

「ねえねえ、なんでオマエラそんなエロい格好してんの?」

「うっさい! モノクマはどっか行ってよ! 傷口抉りに来ないで!」

「えー」

 

 そのとき、真横から不審な音が聞こえた。

 

「あ、バレちった……」

「ダメよモノタロウ! ちゃんと消音しときなさいって言ったでしょう!」

「つーか隠れるの面倒すぎんだよー! 隠し撮りはもっと情熱的にやるべきだぜぇー!」

「この写真は裏で売れるでぇー!」

「カクシドリ、ヨクナイ」

 

 しばし見つめ合うこと数分。

 素早く飛びかかり、カメラを奪取しようとしたものの見事に全員逃げられてしまった。

 私と罪木ちゃんの人生が今、1番の危機に晒されていることは間違いない。

 最原クンや茶柱さん、豚神クンなどの携帯電話にメールを送る。

 

【Wanted モノクマ&モノクマーズ】

 

「うぷぷぷぷ……」

 

 隠れる気のないピンクブロンドのツインテールが見える。

 

絶 対 に 許 さ な い

 

 お風呂に入ってようやく学園内に戻ってきた。

 すると、向こう側から段々波のように悲鳴が迫ってくる。

 またトラブルか。皆はハロウィンでもマナーは守ろうね……

 

「ゴン太、次のターゲットだぞ! いけー! 虫さん愛好家を増やすんだろ?」

「うん! 狛枝さーん! 罪木さーん!」

 

 ゴン太クンの背中で王馬クンが指示出ししている時点で嫌な予感がする……

 

「トリックオアトリート!」

「はい、2人とも。トリックオアトリート」

 

 手、震えてない? 大丈夫だよね?

 

「うん! ゴン太からはこれ!」

「うっ」

 

 見た目が黒い悪魔でなかっただけマシかもしれない……

 でも、でもさあ…… カブトムシの形とかセミの形したチョコレートって……

 

「あ、あ、ありがとう。あとで美味しくいただくよ……」

 

 一瞬変な声が出たがなんとか笑顔を向けることができた。

 

「えー? その場で食べてくれないのー? オレたち…… 一生懸命作ったのに…… 綺麗な形になる、ようにっで…… う、うう…… ウェアアアンヴ (ジュル) ヤェャァァァ↑ アイィヤエ↑ ヤゥィゥ」

「食べて、くれないの?」

 

 わお。

 これは参ったなあ……

 隣に視線を移してみると、罪木ちゃんは涙目になりつつもそっとセミにかじりついた。若干顔がしかめられている。チョコでできているはずなのに、甘いはずなのに。

 

「いただく、ね?」

 

 私も結構大きいカブトムシにかぶりつく。

 なぜだかめちゃくちゃ苦い。彼の背中にいる王馬クンがすっごいニヤニヤしているので、カカオ85パーセントくらいのチョコレートを使わせたのは間違いなく彼だ。あとで絶対イタズラしてやる。

 精一杯笑いながらチョコを食べ終えると、ゴン太クンはにっこり笑顔で去っていった。

 これで王馬クンの自室に生クリームと歯磨き粉をすり替えたケーキを贈ることが決定したよ。

 

「アンタすっごいわ…… よく完食したね」

「え、江ノ島さん…… 水持ってない?」

「もち! 水筒は常備しとかないといつ物資が届かなくなるかわっかんないからねー」

 

 ちょっと戦場さん、漏れてる漏れてる。

 本当、この人なんで影武者できてるのか不思議なくらい明け透けだよね。

 

「だ、大丈夫!? 狛枝さん」

「ああ、苗木クン…… 今ここを通ってラッキーだったね……」

 

 本当、キミって悪運が強いよ。

 

「妹さんにもこれ、渡してね」

「あ、ありがとう……」

 

 彼に介抱されつつ教室に戻った。歩き回るのはもう散々だ。

 

 

 

 

 

 放課後。

 音楽系3人のライブも無事終わり、下校する際に校門を通ると七海さんと話している日向クンがいた。

よく3人でゲーセンに行くので皆知り合いだ。

 どうやら七海さんは雪染先生と放課後残って委員の仕事があるらしい。一緒には帰れないということだった。

 

「やあ、日向クン」

「狛枝……」

 

 すっかり薄暗くなった道を2人で歩く。

 私はこれから寮で夢仲間とハロウィンパーティなのだが、彼はその買い出しに付き合ってくれるのだそうだ。正直かなりありがたい。

 メイは先に料理の下準備をしているらしいし……

 

「ここの道、暗いね」

「ああ……」

 

 街灯の乏しい道を歩き、商店街へと向かう。

 そんなおり、道の先からきゃっきゃとなにか子供が騒ぐような声が聞こえた。

 きっとハロウィンではしゃいでいるのだろう。

 そう微笑ましく思っていると、その音がだんだんこちら側に近づいて来るのが分かった。

 ガシャン、ガシャンやら、ピッピッとそれぞれ音のなる靴を履いているようで愉快な音を奏でながら3人の子供がやってくる。

 

「トリックオアトリート!」

 

 3人同時に言われた声にどことなく懐かしさを覚えながら笑う。

 1人は大きなカボチャを被り、ジャック・オーランタンに。1人は1つ目の仮面を被って包帯少女に。最後の1人は頭に大きなネジを取り付けているフランケンシュタインスタイルだ。こちらはホッケーマスクを被っている。

 

「はい、どうぞ…… ほら、日向クンも!」

「ああ、飴しかないけどいいか?」

「わーい、ありがとう!」

 

 カボチャ頭がはしゃいで飛び跳ねる。

 オレンジ色のワンピースがひらりと翻った。

 

「感謝するよ」

「ふふん、ご苦労さまね」

 

 残り1人がなかなかのクソガキっぷりを発揮しているが、可愛らしいものだ。

 ヒイラギ姉さんや希望ヶ峰付属小の子たちで慣れてしまっている。あれに比べればまだ可愛気がある。

 

「ありがとう!」

 

 そう言って包帯少女を引っ張っていくカボチャ頭の少女が離れていく。

 子供に対してお菓子をねだるようなことはさすがにしない。

 子供はまだ、もらうだけでいいのだ。

 

「キミはいかないの?」

「……」

 

 最後に取り残されたフランケンシュタインの女の子に聞く。

 すると、俯いていたその子はホッケーマスクのままこちらを見透かすように、ねっとりした笑い方をした。

 

「ありがとう、凪」

「え…… ?」

 

 その場で少女が霧のように消える。

 

「……」

「狛枝?」

「ううん、なんでもない…… なんでもないけど…… んんっ、今…… ここで見てることは、忘れて、ほしい……」

 

 自然と頬を伝う涙は止め処なく溢れ、拭っても拭っても収まる様子を見せなかった。

 そんな私を困ったように見ながら、日向クンはそっと私の頭に手を乗せる。

 

 このときだけは背の高い彼に感謝した。

 だって、私が俯いてしまえば泣き顔は見られないから。

 

「もう少ししたら、きっと大丈夫だから……」

「俺はなにも見てないぞ…… それでいいんだろ?」

「…… うん」

 

 特別な日。

 特別な夜。

 

 こんな日には、お祭りの賑やかさに惹かれて皆の大切な人が戻ってくるのだろう。

 

 私はしばらくそのまま、動くことができなかった。

 

 

 

 

 

 

 





 なるべく全員名前とか、存在を話せるようにしたのですが…… ちゃんとできてるかな?
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