推理要素もあるので、興味のある方は以前の「遺言」推理のようにご参加くださいませ!
カランカラン!
昼下がりの商店街で軽快なベルの音が鳴らされる。
目の前のスタッフさんは驚いた顔で横にいるベテランさんを見つめてから、はっとしたようにクラッカーを鳴らした。
私は取っ手に触れたまま固まっていたが、金色の小さな玉が福引きの機械から出ているという現実は変わらない。
「す、すごいですよぉ狛枝さん! 〝 豪華客船クリスマスパーティーチケット 〟ですぅ!」
罪木ちゃんが商品一覧を指差しながらはしゃいで飛び跳ねた。
「クリスマス…… 確かに十神クンは今年仕事で参加できないって言ってたけどね…… 学園でも他の皆でやるんでしょ? どうしよう、これ」
「これに行くことくらい、皆さんきっと許してくれますよぉ!」
衆目に監視されながら受け取ったチケットを確認すると、このチケットだけで2人豪華客船には入れるらしい。
予定としては24日の昼頃から翌日25日の夕方までの豪華クリスマスパーティだ。要人とまではいかないが、社交界パーティのようなものも兼ねており、財閥関係者やお金持ちやらも集まる一般人の想像もつかない世界に行けるみたいだ。
この一般人枠のチケットはどうやら10枚しか出回っていないらしくて、本当に幸運だったということだろう。
「あっ」
まあ、そうなるよね。
「ひゃぁぁぁぁぁ!?」
目の前にベチャッとなにかが落ちる。
私が察した瞬間罪木ちゃんを全力で引き寄せ、その頭を自分の腕で防御しながら建物の下へ避難する。
避難が完了すると、その次の瞬間から上空から爆弾が大量投下された。
「な、なんですかぁ! このカラスの量は異常ですよぉ!」
「来ると思ったよ」
そう、上空を覆い尽くさんばかりのカラス達が一斉に糞を投下し始めたのだ。
あ、罪木ちゃんを庇うのに精一杯で買い物袋忘れてきた……
「ひゃぁぁぁ! お洋服がぁぁ」
「不運だねぇ」
2人でショッピングした服が糞まみれになるのを眺めながら、直接浴びなかっただけマシな不運かと肩をすくませる。
私の巻き添えになった一般通過の皆さんには悪いけれど。
「豪華客船のチケット…… こんな不運だけでいいんだ」
「え、ええ…… これでも十分不運じゃないですかぁ!」
罪木ちゃんの悲鳴に生返事を返しながら日常とは一転、爆撃される商店街を眺めながら私は考える。
宝くじで誘拐。死の回避で身近な死。なら、超低確率の当選は?いつもならこんな不運で済むはずがない。
少しだけ嫌な予感を持ちながら、私は罪木ちゃんをそのまま誘ってクリスマスを過ごすことにしたのだった。
あれから、更なる不運もなく無事に24日となり乗船することができた。
お昼ご飯は船の中でバイキング形式で摂れるようになっていたため、案内された一般人用の客室に1日分の着替えやらなにやらの荷物を置いて探索を開始した。
「なぜお前達がいる」
「あれ、苗木クンクラスの十神クンじゃない」
「……」
バイキング会場の隅にやたら豪華なテーブルがあると思ったら、すごく見覚えのある顔があった。
その見覚えのある顔よりは、痩せているけれど。ボディーガードに睨まれながら近づくと十神クンが顔を上げてこちらを見た。
この人、バイキング料理じゃなくて1人だけコース料理食べてるんだけど。えっ、財閥の御曹司でもここまで待遇違うか?
「ねえ、痩せてる方の……」
「俺が十神白夜でなくてどうするんだ。いい加減お前達のクラスのあれの名称を決めろと言っただろう。存在することを許しているだけで俺はかなり譲歩してるんだぞ。」
「あー……」
「え、えっと…… なんて言えばいいんでしょうねぇ……」
私が勝手に呼んでいる名前はあるけれど、豚神クンはまだ全員に正体を明かしたわけではない。
聞いて知っているのは私と日向クン。それと、偶然聞いちゃった罪木ちゃんと、察しのいい人たちだ。言われずとも察している人たちは、いつか彼が自分から打ち明けてくれるまで待つことにしているらしい。だから名称は決まっていない。
「で、なぜお前達がここにいる」
「商店街の福引でちょっとね」
「…… 呆れた幸運だな」
「褒め言葉だよ」
「はあ…… 食事の邪魔だ。さっさと失せろ」
しかたない。今日はきっと腐川さんに追いかけられない貴重な時間なんだろうし、尊重してあげないとね。
座席に777と書かれていたので、きっと1番上の階を使っているんだろうな。
私の部屋は306号室。罪木ちゃんは隣の307号室だ。
客室部分は上方の階と下方の階に分かれていて、財閥関係者などの上客は上の階に泊まっているらしいとはその辺で捕まえた太ったスタッフに聞いた話だ。どうでもいいけれど、制服がぱっつんぱっつんすぎて明らかに体に合っていないと見える。
あとでもう1度話かけに行こう。
「もっとたくさん人がいると思っていましたが…… その…… そんなに人がいない気がしますぅ」
罪木ちゃんがお皿を両手に持ってキョロキョロと辺りを見回す。
確かにバイキング会場にはあまり人がいない。まだ18時台であることが関係しているかもしれない。まあ、時期に人が増えてくるだろう。
「カジノとかもあるらしいよ……」
言いながら、いくらするのか分からないローストビーフを口に含む。
十神クンが文句も言わずに食べるレベルなら一般人には手の届かない品だろう。十神クンのシェフ特製の料理も恐らく同じ材料を使っているだろうからね。
こちらのバイキングは冷めても美味しく食べられる物ばかりだが、十神クンのテーブルにあった料理は出来たてを食べるような物ばかりだった。
ああまったく御曹司サマはすごいね、ホントに。
「んむ…… んぐっんぐっ」
「さすがに今日は転ばないでよ?」
「ふぁい!」
高級なご飯を涙を流しながら食べる罪木ちゃんの頭を撫でてみると、全力で頷かれた。昔の境遇もあってか、あまりガツガツ食べられない彼女にはきちんと食べてもらいたいところだ。医者の不養生はよくないからね。
…… でも全部胸に行くんだろうなあ。
「んんん、んぐ狛枝さぁん!」
「ちょっと!?」
言わんこっちゃない。
どこかに視線を彷徨わせていたかと思えば、いきなり振り向いた彼女は自分の足を踏んでよろける。
お皿は落としてしまうだろうが、それよりも彼女を支える方が先だ。
転びそうになった罪木ちゃんの遊ぶ手を掴んで、倒れる前に無理矢理引き起こす。
彼女の持っていたお皿はやはり割れてしまった。周りから少しだけ冷たい視線が突き刺さるが、その視線を彼女に見せないようにその頬をぷにぷにと抓る。
「ふぁぁ、ご、ごめんなさぁい!」
「やるとは思ってたから、気にすることなんてないよ」
「わ、私いつもいつも……」
「卑屈なこと言うのはこの口かな? 後悔は先にできないんだから、これから気をつければいいんだよ」
「はぁい……」
周りの視線なんか気にする暇がないくらいいじり倒してあげれば、更に卑屈を拗らせることはない。私はこの2年間でちゃんと彼女の扱いを覚えたんだ。手のひらで転がすくらいお手の物だ。
「お怪我はありませんか?」
「ああ、大丈夫ですよ。ごめんなさい、お皿の片付けだけお願いします」
「ごめんなさぁい!」
先ほどの太ったスタッフさんが掃除しにやってきたので後を任せる。
そのポケットに高額な二枚の紙片を忍びこませて手を振ると、
まったくお似合いなことで。
「ところで、さっきはどうしたの?」
ある程度食べていたこともあり、カジノ会場に向かいながら罪木ちゃんに聞く。
すると罪木ちゃんは、転ばないよう私の服を掴んだまま後ろを振り返った。
「いえ、あの…… 会場の隅に九頭龍さんと辺古山さんがいた気がして…… 気のせいかもしれませんけど……」
「あー、あの2人ならいてもおかしくないかもしれない…… かな?」
ただし身分を隠して、だけれど。
日本有数の極道が、公的に表の重鎮達が来ている場所にいるのは誤解される可能性もあるからね。結構周りを見ていた私が気づかなかったということは、壁の花に徹していたのかもしれないし。
問題は彼らが一般人枠と重鎮枠どちらできているか…… 一般人枠だったのなら、誰かからチケットを買収していたりして。
普通に遊びに来ているのか、コネを作りに来ているのか、それとも極道が見にくるほどのなにかがここにあるのか…… それも気になるな。
「あ、あれ…… カジノにいる皆さんなんだか沈んでいるみたいですけどぉ……」
カジノに来てみれば、彼女の言う通り嘆きの顔で床を叩いている人物やら、年甲斐もなく泣いているおじさんや、パンツ一枚になってしまっている可哀想な人がそこらに転がっていた。
もちろん公害を晒しているおじさんは船内スタッフに回収してもらった。
カジノディーラーの皆さんもどうやら浮かない表情をしているようだ。カジノの入り口近くにあるバーに足を向けてみれば、ヤケ酒を煽っている人間が多数。
バーテンダーも困惑の表情だ。
「どうしたんですか? この惨状」
「ああ…… 皆さん大負けしてしまったんですよ。それも1人の女の子にね。他のディーラーの皆さんもことごとく負けてしまったようで、今最後の1人が彼女に挑んでいるところですよ。ここで1番正義感が強くて、イカサマなんて許さない人ですからね……あの人も負け知らずなので、私も勝負の行方を是非拝見したかったところです。あの人が負けるところなんて滅多にないでしょうし」
ロックにするための氷を長めのアイスピックで慣れたように加工しているバーテンダーは、ため息でも吐きそうな勢いで視線を動かした。
まるで全勝ちしている女の子がイカサマしているような言い方だが、どこか諦めているような印象を受ける。
もしかして、正義感の強いその人に負けてほしいのかな?
完全に営業用の喋り方が崩れているが、この人も疲れているのかもしれない。
まだ乗船を初めて2時間くらいで出港すらしていないんだけど……
出港は午後7時なのであと1時間ある。
午後8時頃まで夕食があり、それ以降はデザートが並べられサービスワインやらが配られつつ、ピアノ演奏を背景にしたダンスパーティーが始まるようだ。コネ作りやら挨拶回りやらはこのときがメインになるようだ。
「狛枝さん…… 見に行ってみますかぁ?」
「カジノ…… ね。強い人なら楽しめそうだし、勝負挑んでみようかなぁ」
「やめておいたほうがいいと思いますがね……」
メガネオールバックのバーテンダーさんに注意をされたが、私は超高校級の幸運だ。正真正銘、幸運を才能に持った人間だ。
あとでどんな不運が来ようが、運が絡む勝負で負けたことはない。
さて、どんな人が相手なんだろうなあと考えながら、ちょっとした自尊心を胸に人垣ができている場所に歩み寄って行く。
周りにいる人は負けた人か、最初から傍観していた人たちらしく手に汗握りながら円卓を囲んでいる。
「Aのファイブカードですわ」
「ストレートフラッシュ…… いや、お強いですね。イカサマもないようですし、完敗です」
ドッ、と外野が沸く。
その壁を抜けながら、ものすごく聞き覚えのある声に 「なるほどね」 と呟きながら前に躍り出る。もちろん人混みに押されて転びそうになる罪木ちゃんを支えながら。
「セレスさん、ひと勝負どうかな?」
「あら、狛枝さんいらしたんですね。あなたとの勝負なら楽しめそうです。受けて立ちますわ」
相変わらずお人形のようなゴシックドレス調の制服に、巻き髪ツインテール。カラコンで赤い瞳はこちらを見て蛇のように細められた。
「学園長室でやった麻雀はうやむやになっちゃったからね。今度こそ運を才能に持つ者同士、正々堂々勝負しようじゃない」
「お客様、あまりこの人と勝負するのはお勧めできませんが……」
ディーラーとしては言っちゃいけない言葉だが、律儀に忠告してくる彼に笑顔を返す。金髪オールバックだが、礼儀正しいディーラーさんだ。
「正真正銘の幸運で選ばれた、〝 超高校級の幸運 〟狛枝凪。キミに勝負をふっかけさせてもらうよ」
「……〝 超高校級のギャンブラー 〟セレスティア・ルーデンベルクがその勝負、お受けいたしますわ。よろしくお願いいたしますね」
ポーカーフェイスでいつもの笑顔を作ったセレスさんと同じく、席に着く。
ディーラーさんは 「希望ヶ峰の……そりゃ勝てないわけだ」 と言いながら真新しいトランプを右手に持ったハサミで開封してから混ぜ、配り始める。
ポーカー勝負なので本当に運次第だ。
「手持ちのチップ全てを賭けましょう」
「コールしよう。私も同じだけの額を」
「こ、狛枝さんチップなんて持ってないじゃないですかぁ!」
「現金換算でよろしく」
「承知いたしました」
「わたくしもそれで構いませんわ」
もし万が一負けた場合はチップ分を現金で支払う。そういうことだ。
まあ結果は分かりきっていたことだが……
「ロイヤルストレートフラッシュですわ」
「同じく」
「また同じ役。同じ数字ですか……」
幸運が相殺しているのか、向こう側にもこちら側にもファイブカードが揃うことはついぞなかった。
スペードやダイヤがあちら側に出ることが多く、ハートやクローバーがこちらに出ることが多いことが、まさに運の取り合いをしている感じがする要因だ。
「引き分けにしかなり得ませんか……」
「うーん、引き分けじゃあ幸運とは言えないかなあ。いや、キミと勝負して負けないだけ幸運なのかな?」
「仕方ありませんわ。金銭の移動はなしですわね…… 」
「そうだね」
私からふっかけた勝負だ。引き分けに終わったのなら賭けた分が返ってくるだけで、プラスの収入はない。そもそもチップも買ってないし。
「消化不良ですがせっかくですし、わたくしもロイヤルミルクティーをいただきに行きましょう」
セレスさんを仲間に加えてカジノ会場から移動する。
勝負している間に出港し、そろそろダンスパーティーの時間だ。
「ああ、もう少しでこの船にいる愚かな人たちから全財産巻き上げられましたのに」
「なかなか鬼畜なことを言うね」
「あなたのせいで賞金も雀の涙ほどしかありませんし、わたくしにとってはとんでもない不運でしたわ」
「ああ、それはごめん。ついつい……」
「運の才能を持ったお2人の勝負なんて滅多に見られませんし、私にとってはとっても幸運でしたぁ」
幸せそうにとろっとした笑顔を見せる罪木ちゃんの頭を撫でる。
なんだこの子、天使か。そうだ、白衣の天使だった。
ざんばらな髪はあまりよろしくないので短い髪を集めて、現在彼女はハーフアップの髪型だ。服も桃色を基調としたもので、より可愛らしくなっている。
こんな可愛い子を虐めるようなやつは許さない。絶対にだ。
私の格好とセレスさんの格好は普段とほとんど一緒だが、多分セレスさんの衣装は普段の制服とは少しだけ違う。ほとんど制服と同じだけれど、もっとフリルが足されているように感じる。
バイキングのデザートを3人で取り分けていたら、1人で2人分のお皿を持っているスーツ姿の、見覚えのある人間を発見した。
2人に目配せをして近づく。セレスさんはそのまま席にいるつもりのようだ。罪木ちゃんと2人で声をかけにいく。
「最原クン?」
「え? 狛枝さんに、罪木さん……」
「私たちは商店街の福引でちょっとね。セレスさんや痩せてる方の十神クンもいるよ。最原クンも…… ?」
「十神さんは御曹司としてご招待されていますけどぉ……」
「あ、僕は招待されて……」
「え、探偵として? もしかしてなにかあるの? ここ」
私が安易に口にした〝 探偵 〟という言葉に彼は慌てて 「ちょっと!」 と言いながら口元に手を当てた。
「あ、ごめん……」
「い、いやいいけど…… 今日は赤松さんに誘われたんだよ」
その言葉にまず思い浮かんだのは 「クリスマスデートか」 という感想だったが、次に気づいたのは 「ピアノ演奏を背景にダンスパーティ」 という案内だった。
「赤松さんが演奏するんだ? つまり優待者チケットか…… 楽しみだね」
「う、うん……」
ちょっと複雑そうな最原クンの内心を察する。
そうだよね、赤松さんとダンスパーティーに参加したいよね。
「第一奏者は〝 超高校級のピアニスト 〟赤松楓様です」
ざわざわとした喧騒の中、演奏者の紹介が簡単にされる。
超高校級の名前に会場が少し沸き立ち、赤松さんの演奏が始まるのを複数の男女がひと組みになって今か今かと待ち望んでいた。
壇上に現れた赤松さんはピンク色に鍵盤の柄が入った可愛らしいドレスに身を包んでいた。髪も上でひとまとめにお団子にしており、いつもの雰囲気と少し違ってまた良い。
「わぁ、すごいですぅ……」
「う、うん……」
感嘆の言葉を漏らす罪木ちゃんと、見惚れて生返事をする最原クンにクスクスと笑ってその演奏を聴く。
最初の演奏は少し切ないイメージを持った。クラシックは分からないので、後で赤松さんになにを演奏したか教えてもらわないといけないかも。
次の演奏は軽やかで明るい演奏。可愛らしい曲調。3曲目も同様だけれど、こちらはちょっとテンポが早い感じだった。
4曲目は幸い知っている曲で、多分G線上のアリアだと思う。
全てピアノソロで演奏して別の奏者にバトンタッチ。赤松さんは私たちがデザートをたらふく食べた頃に帰ってきた。
「ただいま最原君!あ、他のクラスの3人までいるんだね!」
「あ、赤松さん…… おかえり……」
おっとお邪魔かな?
「演奏、素晴らしいものでしたわ」
「すごかったですぅ!」
「本当? ありがとう2人とも!」
いつの間にかこちらまで来ていたセレスさんと罪木ちゃんに、赤松さんが笑顔で対応する。
「今日は招待ありがとう、赤松さん」
「ううん、最原君に聞いてほしいから呼んでるんだもん。私のほうこそ来てくれて嬉しいな」
「そ、そっか……」
初々しいなあ。
知ってるかこれ、まだ付き合ってないんだよこの2人……
この光景を見て、赤松さんに声をかけようとしていた男性たちが方々に散って行くのが壮観だったよ。
「ところで赤松さん。最後のやつはG線上のアリアだって分かったんだけど、他の演奏はなんの曲だったの? クラシックには疎くて……」
「あっ、そうだよね! 案内には曲目は書いてないから…… えっと、最初のはウラディーミル・ヴァヴィロフの〝 アヴェ・マリア 〟だよ。ジュリオ・カッチーニの曲として広まってるから、普段は〝 カッチーニのアヴェマリア 〟って言われてるけど……」
「ストップ。曲名だけ教えてくれたらちゃんと調べるからさ」
勢いよく話し始めたピアノバカにストップをかけると、ハッとしたように 「本家を聞いてくれたほうがいいもんね!」 と別の解釈をされてしまった。
違う、そうじゃない。
「2曲目はドヴォルザークのユモレスク第7番〝 イン・プラハ 〟って曲で、3曲目はショパンのワルツ第6番変ニ長調。通称は〝 子犬のワルツ 〟だよ。全部明るくなれるいい曲だから、是非聴いてみてね! あ、あと11時にショパンの夜想曲第2番〝 ノクターン 〟を弾くつもりだから、そのときはよろしくね。本当は朝までパーティーは続くんだけど、そこまで起きていられないから第2部の演奏には参加しないんだよ」
さすが超高校級のピアニスト。第1部とはいえ、ラストの曲まで任されているとは。
「それじゃあ後はごゆっくりー」
「そうだね。ねえ、最原君。どのケーキが美味しかった? お勧めはある?」
「あ、赤松さん。ドレスにつけちゃだめだよ」
「分かってるよ! もう、最原君は私のことなんだと思ってるの?」
「だって……」
仲睦まじい2人を置いて、涼しい顔をしたセレスさんと、羨ましそうに見ている罪木ちゃんを連れて離脱する。私は甘すぎて砂を吐きそうだ。
「わたくしは一旦部屋に戻りますわ。ああ、お部屋は517号室ですの。なにかご用がありましたらそちらまでお越しください。起こしたら承知しませんけれど」
「来るなってことじゃないですかぁ!」
「さて、どうでしょうね…… それでは、ごきげんよう」
意味深にクスクス笑ったセレスさんはエレベーターホールの方へ向かっていった。
そのまま罪木ちゃんと2人でバイキング会場に居座り、赤松さんのノクターンも聴き終わった。
時間は午後11時過ぎ。
「ちょっとトイレ行ってくるよ罪木ちゃんは赤松さんと最原クンと待ってて」
「ふぇ!?」
「転ばないようにね」
ちょっと残酷なことをしてしまったが、〝 約束 〟があるからね。
トイレではなく、甲板に上がって私は周りを見渡した。
肌寒い夜の冷え込みに身震いしながら、持参してきていたマフラーを巻きつける。
密会に最適な物陰に向かうと、そこには何度もお世話になった太ったスタッフさんが佇んでいた。
別に密会がスタッフにバレたとか、そんなことはない。〝 彼 〟が密会の相手だ。
「お待たせ、うさぎクン」
「ふん、遅いぞ狛枝」
彼がその見覚えのある体型で腕を組む。
スタッフとして働いていたというのに、なぜか満腹そうな彼の頬はツヤツヤとしていた。
会場の料理の補給がやたら早いと思ったら……
「で、なぜ呼び出した?」
彼の手には2枚の紙幣…… だが、片方はお札に見せかけたメモ帳の切れ端だ。内容は〝 午後11時甲板に 〟とある。
もちろん私の字で間違いない。罪木ちゃんが転びそうになってお皿を割った際、片付けた彼にチップと共に渡したのだ。
「キミこそなんでこんなところに潜入してるの? 仕事? 諜報員でもないのに…… ?」
「九頭龍からの依頼だ。どうやらこの船に密造麻薬を積んでいる人物がいるらしい。この船はクリスマスパーティーの後、一般人などを下ろしてまた出港する。そのとき、麻薬を日本に持ち込むつもりだろう。極道としては他所の組織にシマを汚されたくないらしい。そのために、今夜中に網を張っておくつもりのようだな」
ああ、だから九頭龍クンと辺古山さんがいたんだね。
てことは裏で色々動いてるのか。
「お前も怪しい人物にはマークしておけ」
「うーん、まあ分かったよ」
チラッと腕時計を見ると、私がこの場に遅れたこともあり12時を回ろうとしていた。
「はあ、チケットが当たったり、セレスさんと賭けで引き分けになったりするわりには不運が安すぎると思ってたんだよね……」
「…… お前のそれを聞くとますます嫌な予感がしてくるな」
「殺人事件でも起きたりして……」
「縁起でもないことを言うな」
そのとき、大きな悲鳴が上がった。
「……」
「…… ほらね」
「やめろ」
どちらからともなく走り出し、悲鳴の上がった方へと向かう。
そこには既に人だかりができていたが、すぐに罪木ちゃんや赤松さん。最原クンが割って入って行くのが見えた。
その光景を見てから豚神クンと目を合わせると、あちらが頷き私は歩みを止める。豚神クンはすぐさま人混みの中に消えてどこかへと行った。
ここは〝 超高校級の探偵 〟である最原クンに矢面に立ってもらった方が良い。そうすれば裏で九頭龍クンや豚神クンが動きやすくなる。
裏で探る人物が犯人の目の敵にされてしまってはいけない。
豚神クンが消えたことを確認して私は前に進み出ていく。
犠牲者は…… セレスさんに最後まで挑んでいた、あのカジノディーラーだった。
「僕は〝 超高校級の探偵 〟です。警察関係者の皆さんが回復するまで、この場を鎮めることになりました。乗客の皆さんは客室にてお待ちください」
「待って、最原クン。警察関係者の回復って…… ?」
「この船に乗っていた警察関係者は全員、何者かによる襲撃で意識を失ってしまっているらしいんだよ。明らかに組織絡みの犯行だ。だからしばらく僕達〝 希望ヶ峰学園 〟の生徒で現場を保管しておくしかないんだ」
組織。
例の、麻薬に関係したところだろうか。なら、やはり水面下でも騒動が起こっているということか。面倒な。ああ、怖い怖い。
「そっか、私たちならほとんど一般人に近いし、身元もはっきりしてるから……」
「そういうこと」
最原クンに話を聞きながら人混みをモーセのように真っ二つにしてやってくる影がひとつ。
「退け、群衆ども」
痩せているほうの十神クンがやってきて一言。
「本島の警察に連絡を取ったところ、俺と〝 超高校級の探偵 〟である最原と、〝 超高校級の保健委員 〟である罪木、同じく希望ヶ峰学園の生徒に捜査権利が与えられた。いいか、お前たち現場は荒らすなよ」
十神クンが仕事してる…… だと!?
というか、希望ヶ峰学園の影響すごいな。さりげなく乗客を部屋に戻るよう誘導している九頭龍クン、辺古山さんもいる。
しかし、残された容疑者達の中に予想外な人物が入っていたため、私たちは混乱した。
「あんただってこいつにイカサマを疑われていたじゃないか!きっとそれで…… !」
「わたくし、ですか…… ?」
容疑者として連れてこられたあのバーテンダーに睨まれ、セレスさんが首を傾げる。どうやらこの人が言うところ、超高校級のギャンブラーという才能も疑ってかかっているらしい。
まあ、偽名使ってるし怪しいといえば怪しいか?
それと、高校生が検死することにも苦言を呈している。これは仕方ない。私だってそう思う。どこの探偵漫画だよ。
さて、罪木ちゃんは既に検死をしている。
容疑者の証言は赤松さんと最原クンが聴くようだし…… 私と罪木ちゃん、十神クンで死体周辺。九頭龍クン、辺古山さん、豚神クンはその他の場所で別々に活動。セレスさんは一応現場から遠ざけられるようだ。
「最原クンたちとあとで情報交換して、〝 彼 〟と合流するかな」
「まずは被害者について」
被害者は
カジノの古参トランプディーラーだ。ポーカーをやる円卓に突っ伏すようにして倒れ、その前には乱暴に開封されたトランプの箱と、新品のトランプが横に広がるように綺麗に並べられている。
なぜ新品か分かるかというと、右端にジョーカーが2枚。右からスペード、ハート、クラブ、ダイヤと並んでいるからだ。
奥に突っ伏しているのが被害者。そしてトランプは被害者が広げたようにきっちり並べられている。
被害者の左手は開けられたトランプの箱に添えられ、右手は体に巻き込んで上半身の下敷きになっている。
《コトダマ 開封されたトランプ》
《コトダマ 広げられたトランプ》
《コトダマ 不自然な右手》
「よいしょっと」
「おい、荒らすなと……」
彼の上半身を持ち上げてみると、右手の中に油性ペンが握られていた。キャップが外れ、下敷きになった拍子にか円卓に黒い点がついてしまっている。
《コトダマ 下敷きになっていた油性ペン》
「ふん、犯人は一目瞭然だな」
「…… そう?」
十神クンが指差したのは、並べられたトランプ。
確かにトランプは一部が抜かれされていて、意図的に変えられていると分かるが……
《コトダマ ダイイングメッセージ?》
私は表に出されたトランプを1枚手に取り、少し眺める。すると、側面が少し黒く汚れているのを発見する。やはり、あれをダイイングメッセージとするにはまだ早いんじゃないかな。
《コトダマ トランプ側面の汚れ》
「検死結果出ましたぁ!」
「教えろ」
「は、はいぃ…… えっと、死亡推定時刻は午後23時頃から午前0時頃まで。亡くなって間もないようでしたぁ。死因は背中の複数箇所にある刺し傷ですねぇ。そのうちの1箇所が心臓まで達していると考えられます。けど、即死ではなく、しばらく意識があったのは確かなはずですぅ。凶器は、直径5㎜ほどで、傷口の深さから20㎝程度の長さの鋭利な刃物ですねぇ」
《コトダマ 罪木の検死結果》
刃物の種類を特定することはできないか。
私は表に出されたトランプ。ダイヤの5、クラブの1、ハートの7をメモに取り、トランプを元にあったように重ねてみる。
「だから現場を荒らすなと…… お前」
「うん、やっぱりね」
それから現場を再現するようにトランプを並べ直し、その場から離れる。
一度太ったスタッフと情報交換し、容疑者たちの集められた部屋に向かった。
「最原クン、情報交換しよう」
「分かった」
私側で調べた情報を仮説とともに説明し、私はあちら側からの情報をもらう。
第1容疑者 バイオリニストの木立イオさん37歳。
曰く、 「彼とはよく同じ船に乗る同僚で、恋人同士。でも最近はこの船のイベントごとばかりにかまけていて、喧嘩が増えていた」
今回は彼を振るつもりでこのイベントに参加していた驚きの女性だ。
彼女は第1部の演奏者だったため客室に戻っていて、事件の際アリバイがない。
《コトダマ バイオリニストの証言》
第2容疑者 バーテンダーの吉野十蔵さん53歳。
曰く、 「その頃は客が出払っていて誰もカジノ場にいなかったので、カウンターに呼び出し用の電話番号を置いて、甲板に出て風に当たりに行っていた」
わりと軽薄な性格で、客とフレンドリーに話しては被害者のトランプディーラーに苦言を呈されていた。いわゆる犬猿の仲だったらしい。
《コトダマ バーテンダーの証言》
第3容疑者になってしまったのはセレスさん。
曰く、 「あなたたちと別れたからは少し部屋で一休みしていましたの」とのことだ。
被害者にイカサマを疑われていたのは本当だが、多分彼女にとってはしょっちゅうある日常的なことだろう。
《コトダマ セレスの証言》
最原クンと共に現場に戻る際、太ったスタッフさんと容疑者たちが話している姿を見かけた。
「災難でしたね、皆様」
「ああ、まったくだ」
不機嫌そうにメガネオールバック…… 吉野バーテンダーが言う。
「こんなことになるなら、会いになんて来るんじゃなかったわ」
そう言ったのは恋人の木立さんだ。
「まさかアイスピックで殺人なんて…… 恐ろしいことですね」
「そうそう、あんな長いモンいったいどこから手に入れたんだか」
豚神スタッフと吉野バーテンダーが頷きあうと、セレスさんがその赤い目を細めながら 「あら、どうりで細い傷跡だとおもいました。あんなに傷もできてお可哀想に」 と言うと木立さんが 「探偵さんから滅多刺しって聞いたわ。凶器ってアイスピックなのね、怖いわ」 と相槌を打つ。
その一行の側を通り過ぎながら豚神クンの背後を通ると、後ろ手でさっと渡された電子機器を受け取る。
さすが。
九頭龍クンたちが見当たらないということは、そういうことなんだろう。首尾が上手く行っているようでなにより。
さて、証拠も揃ったし夜明け前に不幸なクリスマスを終わらせてしまおうか。
…… 《コトダマ ボイスレコーダー》
【 コトダマ一覧 】
・開封されたトランプ
乱暴にビニールが開封されている。被害者の左手の手元にあった。
・広げられたトランプ
扇状に全てのトランプの数字と柄が分かるように広げられている。1部が抜かされ、捨てられていた。
・不自然な右手
被害者の突っ伏した上半身に折りたたまれるように隠れていた右手。
・下敷きになっていた油性ペン
上記の右手に握り込まれていた。フタが外れており、触れた卓が汚れている。
・ダイイングメッセージ?
いくつかトランプが抜かされているようだ。
・トランプ側面の汚れ
黒いシミのような汚れ。全てのトランプの側面にあるようだ。
・罪木の証言
被害者は梶野正義。
死亡推定時刻は23時〜0時まで。
凶器は直径5㎜程度で20㎝くらいの鋭利な刃物で滅多刺しにされたうち、いくつかの傷が心臓まで達していると思われる。
即死ではなく、しばらく意識はあった。
・バイオリニストの証言
バイオリニストの木立イオ37歳。
435号室。被害者とは恋人だったが、本日はすれ違いにより振るため乗船した。アリバイはなし。
・バーテンダーの証言
196号室。バーテンダーの吉野十蔵53歳。
カジノには誰もいなかったため、カウンターに呼び出し用の電話番号を置いて甲板に上がっていた。被害者とは衝突することが多かった。
・セレスの証言
517号室で休んでいた。アリバイはなし。被害者にイカサマを疑われた。
・ボイスレコーダー
スタッフに扮した豚神が引き出した会話。
以下会話の内容。
豚「災難でしたね、皆様」
吉「ああ、まったくだ」
木「こんなことになるなら、会いになんて来るんじゃなかったわ」
豚「まさかアイスピックで殺人なんて…… 恐ろしいことですね」
吉「そうそう、あんな長いモンいったいどこから手に入れたんだか」
セ「あら、どうりで細い傷跡だとおもいました。あんなに傷もできてお可哀想に」
木「探偵さんから滅多刺しって聞いたわ。凶器ってアイスピックなのね、怖いわ」
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読者の皆様、メリークリスマス!
予告通り謎解きの時間でございます!
読者の皆様がもし、謎解きをしてくださるのならば以下のことを 「作者の名前を選択してそこの画面から」 直接メッセージで送ってくださいませ。
①犯人
②犯人特定に至った証拠、証言などの根拠
期限は25日の午前7時まで!
正解した方は25日のあとがきにて発表させていただきます!