始まりは食料調達に本土へ寄ったことだった。
「アキちゃん、周りに人はいる?」
「んー、レーダーには映ってない…… と思うよ」
私は手元にあるスマホに向かって話しかけている。
よそから見たら変な光景だろうが、私たちにとっては日常の光景…… そして今は誰も見ていないので怪しまれる必要もない。
AIの七海さん…… 前は七海ちゃんと呼んでいたけれど、今は〝 アキ 〟ちゃんって呼んでいる。彼女は色々な機能を搭載しているから、いろんなところで大活躍だ。
ゲームももちろんできるし、こうやってリアルスニーキングミッションのためにレーダーも見ることができる。ゲームっぽいことは大抵できると思ってもいい、素晴らしい才能を持っているよ。
不二咲クンに生み出されて、七海さんの性格や才能をプログラミングされた成長型AI…… それが彼女だ。成長の過程によってもはや元の七海さんとも少し違っているけれど、立派な私たちの仲間である。
本来の七海さんは未来機関の13支部長なんだけど、島での事件からひと月ほど経つと、溜まっていた仕事をひと通り片付けてからこちらにやって来ていた。
今、13支部長の彼女がこちらに来ているので、例の会議で代理出席してもらっていた朝日奈さんがそちらを動かしているらしい。
その関係で未来機関の動向も七海さんとアキちゃんを通してリークされていたりもする。
超高校級の希望たる日向クンがいるとはいえ、私たち元超高校級の絶望が逃げきれている理由のひとつだ。
宗方生徒会長は万能型で結構怖いし、逆蔵さんは脳筋だけどブレインの宗方さんがいれば脅威だ。
あ、そうそう。もちろん会議のときに事件はあったらしいが、生き残り…… というより78期生のみんなが総動員した結果。怪我などはあったらしいが、死人は出なかったみたいだ。
どうやら、会議に参加したのは苗木クン、朝日奈さん、霧切さん、十神クンだけで他の人は後から連絡が断たれたことで駆けつけた…… とかなんとか。特に十神クンと音信不通になったことで腐川さんが暴走しそうになったらしい。
あと、苗木クンのために戦場さんもなにも考えずに飛び出したとか。さすが残念なお姉ちゃんである。
私の
とにかく、私たちは食料と、あと作物の種を手に入れるためにスニーキングミッションに挑んでいる。
アキちゃんがいるから楽勝な雰囲気だけれど、早いに越したことはない。
「不二咲クンはこの先だったよね?」
「うん、会うのが楽しみ。お父さんに進歩報告するんだよね…… 新しいゲーム入れてくれないかなあ」
「ソシャゲ入れてるでしょ?」
「狛枝さんのデータはすぐ揃っちゃうから、私だけのデータがほしいの」
「ああ、それは…… ゴメン」
「ううん、狛枝さんが悪いわけじゃないよ」
才能が憎い……
いや、好きなキャラが速攻で揃うのはいいことなんだけど、達成感なんて皆無だよね…… 実際。
と言っても、アキちゃんだってすぐクリアしちゃうじゃないか。対戦系も大体勝っちゃうしね…… 日向クンは別だけど。
まあ、完全クリアしても情緒の成長のためにとかで何度も周回しているらしいから、飽きは来ないみたいだ。
特にRPGはやるたびに新たな発見や感情の勉強ができるらしくて楽しんでるみたい。
彼女の場合アイランドの中で相当成長してるから、今更って感じもするけど……
「ここだね。ええと、塔和シティのこの路地で……」
「えーっと、ここだよね冬子ちゃん」
とうこ…… 橙子?
バッと振り返った先には、想像した人物とは違い2人の人間がいた。
「アキちゃん……」
「うんと、お父さんの端末と同じ電波を飛ばしてるみたいだよ」
「もしかして名代だったり…… ?」
名前に過剰反応してしまったけらど、聞き覚えのある声だった。この2人ならばなんの問題もないはずだ。
「あ、あれ…… 召使いさん!?」
「あ、あ、あんたなにしにきたのよ……!」
苗木こまるさんと、腐川冬子さん。
2人とも私が絶望時代に会った人だ。それも、私が迷惑をかけるという意味で…… あのときは本当に申し訳ない。正直かなりスレてて黒歴史だから気にしないでほしいなあ。いや、加害者側が 「気にするな」 というのは無理があるか。面の皮が厚いにもほどがある。
「あは、久しぶり…… あ、待って待って! 敵対するつもりなんてないから! 不二咲クンから聞いてない?」
「え?不二咲さん…… えっと、千尋さんのほうだよね。もしかしてこの食料の運搬って」
あ、そっか。ここでは不二咲クンのお父さんも復興支援でいろいろやってるんだっけ。だからちょっと迷ったのか。
「うん、私たちへの支援だね」
「こまる、渡さなくていいわよ」
「えっと……」
「うん、ごめんね。本当にごめんね。そんなに恨まれる心当たりは山ほどあるけど、ちゃんと対価は払ってるからさ」
敵意増し増しである。解せ…… るけど、うーん。
「あの、本当に…… なにもしない、んですか?」
「うん、もちろん。こっちは逃亡中だからねぇ。娯楽も、ゲームやらパーリーピーポーなごとくバーベキューやら水泳やらしかないからね」
「船上生活満喫してんじゃないわよ…… 十分じゃないの……」
「復興に協力したくとも、今回の事件の負の部分全部背負ってるからできないし…… いやぁ、満喫しててごめんねぇ」
「煽ってんじゃないわよ! 絶対わざとじゃない! キィィィィ、こまる!」
「え、なに?」
「やっぱ渡さなくていいわよ!」
「あ、それは困る! こまるちゃんだけに!」
「……」
ドン引きした顔しないで! 地味に傷つくから!
そんな押し問答をしている間、私が今は無害だと証明できるアキちゃんは寝ていた。
情報処理と学習のためによく寝るこの子は必要ないと思うとこうしてすぐ居眠りしてしまう。正直今は助けてほしかったんだけど…… 仕方ないか。
…… と、なんとか食料を調達してから港に着けた船へと帰る。
この豪華客船は日々左右田クンの改造で進化を遂げていて、今は潜水もできるほどだ。だからこそ、こうやって堂々とやって来ているわけだが。
船内ホールに帰って食料の入った袋を見る。中に入っているのは大体携帯食料と飲料水だけど、もちろん1人で持てる量なんてたかが知れている。中身の大半は作物の種だ。
船内に畑があるので、そこで育てている。食料の大半はそれで賄っていて、飲料水は海水から左右田クン特製のろ過装置で確保。左右田クン様々だね。
「あれ…… なにこれ」
そして最後に、なにかのポスターが入っていた。
「えっと…… 〝 塔和七夕祭り 〟って…… 明日だこれ」
「お祭り…… わたあめ……」
「ねえ、アキちゃん。なんで私の頭を見て言うの…… ?」
「…… 食べてみたい、かも」
「ねえ、ちょっと…… ? アキちゃん?」
「冗談、だよ」
私、もしかしていじられてる?
「と、とにかく日向クンへ報告して…… あとは、うん。皆きっと行くんだろうね……」
特に澪田さんとか。
全員乗り込みに行く気しかしない。
「ああ、別にいいんじゃないか? その代わり簡単な変装くらいはしていけよ」
簡単に許可が降りてしまった。
日向クンもわりと乗り気だ。楽しみにしている感じ…… 今は意識的に演算をしないよう、〝 日向クン寄り 〟に思考を切り替えているみたいだけど、皆が飛び出していく光景はそれでも容易に想像できるようだ。ま、当たり前かな。
「簡単な変装でいいの?」
呆れて私が言うと、日向クンは苦笑いをして 「がっつりやれって言ってもできないだろー」 と言い放つ。
確かにそうだ。特に以下略。
「まあ、楽しんでこいよ」
「え、日向クンは行かないの?」
「あー、仕事終わったら気まぐれに行くかもしれないけどな」
「仕事って?」
「お前の目撃情報のもみ消し」
「えっ」
ものすごい笑顔で言われて顔が引きつった。
いつ目撃されたんだ?
「お前さあ、冷静だけど馬鹿だよな」
「なんで私が罵倒されないといけないんだよ!?」
「苗木妹や腐川と言い争いしてただろ。そのとき目撃されたみたいだな。動画サイトにアップされてる」
なん…… だと!?
「え、私たちが78期と繋がっているっていうのは……」
「そこはすっぱ抜かれてないぞ。そのあとくだらないことでも言い争いしてただろ。そっちだ」
「たとえば?」
「お前がきのこ派だと割れて炎上してるな」
おのれたけのこ派…… ! たけのこPPでもするつもりか!
「あのなあ、俺もたけのこ派だって忘れてないか?」
「…… お子様舌め」
「おい、全国を敵に回すつもりか?」
「お手伝いいたします、お嬢様」
「湧いて出てくるなよ……」
収拾がつかなくなってきたところでしばらく休憩し、彼と別れる。
アキちゃんも日向クンの仕事を手伝うみたいだから、端末はそのまま彼の元にある。
あーあ、このままだと日向クンは夜遅くにしか参加できなさそうだね。
私は別の人を誘ってみようか…… うーん、変装ねぇ。
「あ、そうだ! こういうときなら見せてくれるよね、きっと」
そうと決まったらさっそく誘おう!
「うーさーぎークーン!」
澪田さんのテンションよろしく廊下を疾走しながら、私はとある個室にピンポンダッシュした。
…… って、だめだ。いたずらしてる場合じゃないよ。お祭りに誘うんだった。
「…… なんだ」
慌てて戻ると、豚神クンがちょうど出てきたところだった。
「お祭り行こう!」
「は?」
「明日は七夕だよね? 塔和シティで復興支援のお祭りがあるんだ! 一緒に行こう!」
「…… 俺たち指名手配犯だろう」
「変装すればいいんだよ!」
「お前がか?」
豚神クンが私の格好を上から下まで見てため息を吐く。
…… 失礼じゃないか?
「お前のその髪はどうにもならんだろう」
「うーん、適当に結んで帽子でも被れば大丈夫じゃない? あとサングラスとか」
「雑だな」
うっ、それはそうだけど……
「私はね、うさぎクンに変装解除してほしいんだよね!」
「はあ?」
「ほら、今も十神クンモードだし…… 昔みたいにさ」
「俺にあの姿に戻せと?」
「うん…… だめ、かな?」
やっぱりトラウマもあるだろうし、自分が死の淵に立っていたときのことや、出生のことを思い出すだろうし……
「まあ、いいだろう。その代わりこれっきりだ」
「えー」
「文句を言うな」
「はーい」
仕方ない。その代わりこの目に焼き付けておこう。
「それじゃあ、明日の…… 祭りの開催時刻にでも行くか」
「うん! よろしくね」
楽しみだ。
久しぶりに怪物クンに会えるのだ。私のトラウマも少しは緩和されてるだろうし、前みたいに一時的狂気にもならないだろう。
最近は夢の中でも追いかけられることが減ったし…… 多分大丈夫。
……
翌日の夕方。私は髪をひとつに結んで、帽子を被って、夏らしく可愛いワンピースで揃えてみた。
うそつき…… うつろちゃんの真似だ。
「…… 準備できたな?」
「え、うさぎクン…… ?」
そこには、律儀に甚平を着た〝 怪物クン 〟がいた。
前に見たときよりも横幅も縦幅も大きいけれど、なにも変わっていない。ただ本来の赤い瞳は片方だけで、義眼は青い目になっている。そちらは豚神クンモードと一緒だ。擬似オッドアイだね。逆に目立つんじゃないかな?これ。私と同じ白髪だし……
「なんだ?」
「いや、ううん…… あのね、うさぎクン。ありがとう」
「………… 大丈夫なんだな?」
「うん、やっとキミの顔を見れるね。よし、行こうか。湿っぽいのはここまでにしておこう!」
それからは簡単にお祭りに潜むことができた。
「え、あれ? は、花村クン…… ?」
「え?あ、…… い、いらっしゃいませー」
わいわいと雰囲気を楽しみながら屋台をまわっていたら、見覚えのあるロゴのものを見つけた。行列がたくさんできているので並んでみたら、その店頭に立っていたのは花村クン…… が髪を下ろして後ろで結んだ姿だった。確かにこれならバレなさそう。
心なしかいつもより清潔感があるように思う。こっちのほうがシェフっぽいのでは……
「えっと、焼きそば2つ……」
「4つだ」
「え、あ、うんそうだね。4つで」
「…… 今日は良心的なんだね」
「お前の店を潰すつもりはないからな」
「あ、やっぱりきみって……」
「早くしろ」
花村クンはうさぎクンの姿について言及しようとしたけど、急かされてすぐに商品を出した。
値段はお祭り補正もあって高めだ。多分復興資金も賄うために高めに設定してるんだろう。私の財布には常に高額が入っているので問題ないけどね! いくらでも支援してやろうじゃないか!
スられたり落としたりしてもまだまだ残額はあるので別に問題ない。なんせ、お金持ちだからね。
「本当に美味しいものを作るよね。きっと食材も喜んでる」
「ぼくはきみを悦ばせて美味しく調理することもでき」
「それじゃ、頑張ってねー」
「…… うん、そう言うと思ってたよ」
焼きそばを買って花村クンと別れる。
まだまだ祭りは始まったばかりだ。
「ふわぁ、おいひい…… ほっぺたが落ちるぅ……」
「相変わらず美味いな」
はっ! 美味しすぎて思考まで蕩けてた…… だめだ。止まらなくなってしまうから花村クンの屋台にはこれ以降行かないほうがいい。
多分資金集めも兼ねてるんだろうし、私が搾取されてどうするんだ。
「あ、あんず飴!」
りんご飴の屋台もあるが、そちらはスルー。なおうさぎクンは買っている模様。
りんご飴の小さなリンゴってなおさらパサパサしてることが多くて苦手なんだよね。ただでさえ苦手なのに…… だからあんず飴だ。
なおうさぎクンは両手に飴を持っている模様。さっきまであった焼きそば3つはもう食べきってしまったのか。早すぎる。
幸せだなあ。
「ひゃっはー! 狙い撃ちっすー!」
「きゃはははは、おねえすごーい! 曲と耳しか脳がないと思ってたよー!」
「ちょっと日寄子ちゃん…… あ、唯吹ちゃんこっち向いて」
「イェーイ! ピースピース!」
「あ、あのえっとぉ…… 次はその、そこの救急セットも……」
「うっし! 任せるっすよ蜜柑ちゃん! うらうらうらうらうらうらー!」
仲の良い4人が射的で遊んでいる。
澪田さんがわりと上手なようで、射的屋さんの店主がもはや泣きそうだ。もうやめたげてよぉ! と言いたくなる悲壮感が漂っている。
小泉さんの一眼レフににっこり顔ダブルピースをしながら澪田さんが景品を持って撮ってもらっている。楽しそうでなによりだ。
「あ、狛枝さぁん!」
そうこうしているうちに罪木ちゃんが私に気がつき、こちらに寄ってきて…… 嫌な予感がしたので私も前に出る。
「ひゃあっ!?」
「っとと、大丈夫?」
彼女が盛大に転ぶ前に、前のめりになった罪木ちゃんを支え、抱きしめる。
相変わらず転びやすい子だなあ。本性は結構怖いのに、このドジっ子は本物なんだもんね。ギャップだ。いつものことだけれど。
「ありがとうございますぅ……」
「ん、罪木ちゃん」
そんな彼女は髪の毛をアップにしていて、可愛らしい浴衣を着ていた。紫陽花柄の夏らしいものだ。
「浴衣姿可愛いね。自分で用意したの?」
「は、はわ、はわわわ…… きゅう」
顔を真っ赤にしちゃってまあ…… 照れてるにしては大袈裟な。
「と、とにかく小泉さん。お願いしてもいい?」
「あー、デート中か。もしかしなくともそっちのって……」
「うん、うさぎクンだよ」
「俺だ」
「うん、その態度は十神だね……」
「えっ! なにこの薄幸美少年! 白夜ちゃんなんすか!? このいかにも〝 馴れ合う気はない 〟と言いたげな美少年が!? 横幅大きいけど!」
みんな思うところは一緒なんだなあ。諦観の極みだよ。
「ところでそのゲロブタどうすんのー? 置いていかなーい? そうだ! 短冊にそいつだけ捕まるように書いてやろー!」
それはやめてあげてね。
…… この濃いメンツはやっぱり変装程度じゃ隠しきれなさそうだな。
声と行動でバレバレだ。また動画化されて炎上するんじゃなかろうか。
ちなみに田中クンとソニアさんはゆったりとデートしているのを見かけた。日本のお祭りが楽しいみたいだ。
花村クンの屋台は例外だけど、お祭り特有の安っぽい食べ物っていいよね。特別な感じがするもん。
あー、田中クンとソニアさんか。仲良くてなにより。あの2人なら本当に付き合うかもね。
左右田クンが草葉の陰でハンカチ噛んでるよ…… いや、まだ死んでないって? そうだったねぇ。
「うーん、屋台も飲み物専門とかあるんだね」
「あれ、お前の姉じゃないか?」
「えっ」
うさぎクンが指差した先にはメイが臨時メイド喫茶を開いているのが目に入った。
いやいやいや、え? いやいやいや。メイド喫茶て…… キミ、その顔で 「お帰りなさいませご主人様」 とか言うの? 冗談でも許さないよ? 私のお姉ちゃんなんだからね?
「なにを無駄に嫉妬心燻らせてるんだ」
「だってさあ……」
「よく見ろ」
再び促されたのでそちらを見る。
そこにはキャピキャピしたメイド服姿の子に混じってメイもいるのだ。
「お帰りくださいませ、お客様」
「うんうん、そんなところがいいよね」
他のメイドとは違い、めちゃくちゃ辛辣な態度のメイだった…… うん、私としては嬉しいんだけど複雑というか。
「んっ、ん……」
ちょっと恥ずかしいけど、やるか。
「お姉ちゃん! こんなところでどうしたの?」
「お帰りなさいませ! お嬢様!」
く、食い気味だー!
端的に言えば、抱きしめられた。
今まで辛辣な態度を取っていたメイの豹変に周囲がざわつく。
その事実に優越感を感じつつ、先ほどの溜飲を下げる。
「理不尽な八つ当たりだろう」
そうとも言う。
しばしメイとうさぎクンとおしゃべりしながら休憩して短冊のある場所へ向かうことにした。
「凪のことお願いしますね」
「なぜ俺に言う」
「あなたしかいないじゃないですか」
彼女は仕事があるのでここでお別れだ。
このまま屋台広場を練り歩いていたら、私まで食欲魔人みたいじゃないか。そう彼に言うと……
「間違ってはないだろう」
「キミや終里さんほどじゃないんだけど……」
ちなみに終里さんは弐大クンに大量の食べ物を買ってもらっていた。
財布は弐大クンが持っているので、花村クンが赤字になるほどは使わないだろう。せっかく資金調達してるんだし。
短冊を書く場所に来ると、やはり人が賑わっていた。
そこに見知った人物を見つけて近くに行く。
「九頭龍クン、辺古山さん!」
「おお、狛枝か」
「テメーも来たか。そういう柄じゃねーだろ」
「それ、そっくりそのまま九頭龍クンに返してもいいんだよ?」
「違いねーな」
2人のお願いは…… きっと互いに同等にとか、そういうことなんだろう。もしかしたらお付き合いに発展するかもしれないし、応援するよ。今のままでも、下手なカップルよりは絆が強いと思うけどね。
「うさぎクンは?」
「願い事は見せるものではないぞ」
「それもそうか」
よし、なら私はこれで。
「ねえうさぎクン、肩車してくれない? なるべく高いところにつけないと。目指すは1番!」
「見栄っ張りだな…… こんなときにも負けず嫌いか?」
「うっ、それを言われると弱いな……」
誰も見ていないというのに目を逸らす。あ、いや、大注目になってはいるけれども。なにせうさぎクンに肩車してもらってるし。
「もう、こうなったら1番上につけるよ」
「届くか?」
「届かせるんだよ!」
なんだか彼相手だと子供っぽい見栄みたいなのが出てくる気がする…… 昔を知られているからだろうか?
「よし、届いた!」
「もういいか?」
「うん、ありがとう」
しっかりと頂上に取り付けられた。
1番大きな笹にはさすがに届かないけど、わりと大きい笹の1番にはなれたようだ。
「あとは、花火があるんだっけ?」
「超高校級の花火師は死んだらしいからな。民間団体の有志だそうだ」
「ああ、犠牲者は出てたんだね……」
「会議の事件以前にも殺人鬼云々でいろいろあったらしいからな。そのときだろう。本物のキラキラちゃんが出たそうだぞ」
「相変わらず情報通だね…… っていうかキラキラちゃん?」
それってソニアさんがファンになってる殺人鬼だよね。本当にいたんだ…… というより、日本にいたんだ…… しかも未来機関絡みとか。
うわー、気になる。なにがあったのか逐一聞きたい…… 絶対それ原作絡みだよね。観測したかった……
「キラキラちゃんとはソニアの言った通り、〝 キラーキラー 〟つまり、殺人鬼殺しのことだ。俺たちとは関係ない」
「私たちもアウトだと思うんだけど……」
人殺しなのは変わらないんだけど。
こうやって日々幸せに過ごしているのも、本来は許されることじゃない。
でも、罪を忘れるより、覚えていながら前に進む。それが大事だと思うんだ。
だから、私たちはこの絶望的な事件全てのマイナスな責を背負って逃亡生活をしているわけだし。
「うん、ともかく花火だよね? 花火。結局日向クンは来れなかったのかなあ」
「日向のやつと来たかったのか?」
「え、べ、べべ別にそんなわけないからね? 日向クンなんてミントチョコもきのこの山もダメだしマスタードもダメだし私と味覚が正反対の子供舌なんだよ? 一緒に来てもキミとみたいに楽しく屋台を回れなかったよ、きっと。たい焼きのあんこかクリームかでも言い争いになるぐらいなんだよ! 粒あんこしあんで口論するくらいなんだよ! ないない。ないってば。なんでそんな顔してるの?」
「いや、いきなり早口になったと思ってな」
「うぐっ、い、いや…… なんでもない」
うさぎクンはものすごく呆れたような顔でため息を吐く。
悪かったね、こんなんで。
「こんなやつに俺は……」
「ん?」
「いや、なんでもないさ。初恋は叶わないと言うからな」
「恋? なんでそんな飛躍するのさ。私と日向クンは、友達なんだよ?」
「…… そうだな」
なんだか複雑そうな顔をした彼は私から目を逸らして上空を見上げる。
もうすぐ花火の時間だ。
「そういえば、さっき屋台付近で日向と七海を見かけたぞ」
「えっ……」
ま、まあ七海さんだもんね。
日向クンは明らかに彼女のこと好きだし、うん。
「分かりやすいやつめ」
「なんか、今日はやたらとからかってくるね…… 私なにかした?」
「いや、昔を思い出しているだけだ」
そういえば昔は兄弟たちで私を虐めようとしてたんだよね。
そんなこともあったなあ。
「…… 思い、出せてるんだよね?」
「ああ、〝 俺 〟は死んだ。だが…… 最近になっていろいろと思い出せるようになった。プログラムのせいか、そうでないかは分からんがな」
「…… そう、ごめんね」
「なにがだ? あれは俺の選択だった。置いていかれたなどと思うことはなにがあってもないぞ」
「そっか」
花火が打ち上がる。
オレンジ色の綺麗な火花が夜空に散っていく。
これは希望の火なんだろう。幸いにも、今日は晴れているし、天の川も一応見えている。
環境汚染のせいでかなり薄っすらと…… だけどね。
「狛枝」
「ん?」
隣にいるうさぎクンがこちらを見る。
「…… すまなかったな」
「んん?」
え、なにが?
えーっと、謝られる心当たりはないんだけど……
「なにそれ、キミが謝罪してくると気持ち悪いんだけど…… はっ、もしかして!?」
「ああ、あのときの……」
うさぎクンが言っているのは…… まさか。
「共用冷蔵庫に入ってたプリン食べたのバレたの!? だからこんな嫌がらせするんだね? ごめんって。前に苗木クンから送られてきたクッキー詰め合わせもネコババしたのも、花村クンの新作ケーキ試食権横取りしたのも謝るからさ!」
「…… ほう?」
おっとぉ!?
「最近妙にお菓子類が減っていると思っていたが、お前か。甘いものは苦手じゃなかったか?」
「あはっ、あははは……」
仕事疲れすると甘いものが食べたくなるよね。
「まあいい、報復は3倍返しだ」
「ホワイトデーじゃないんだから!? いただだだだだだ!」
頭をグリグリされて私はもう満身創痍だ。
でも、おかしいな。私は笑っている。
別にドMになったわけじゃない。だって、楽しいから。こんなくだらないことでじゃれあえるのが嬉しいのだ。
頭が彼の拳からやっと解放され、笑いながら近くのベンチに腰掛ける。
うさぎクンも同時に隣へ座った。
そう、私の願い事は…… もう叶ってる。
みんな一緒に、幸せに。ハッピーエンドに。
だから、私の短冊に書いてあるのは…… ただの感謝の言葉だ。
今日というこの日に、1年に1度の逢瀬をする織姫様も彦星様も…… たくさんの願い事を延々と見続けるのはしんどいんじゃないかなあ。
だから、私だけは感謝の言葉を。
1つだけある特異な短冊に目が止まったらいいなあ、なんて。
ロマンチストすぎるかな。
でも、実際願うことなんてもうないんだよね。
唯一あるとすれば、 「これからも幸せでありますように」 ってくらいで。
そんなこと、お願いせずとも私たちでしっかり叶えてみせるから短冊に書く必要なんてないのだ。
「うさぎクンも願い事、書いたんだっけ?」
「一応はな。他人の願い事は訊くものではない。言ったら叶わなくなるとも言うからな」
「あは、そう言うってことはキミにも叶えたい願い事がちゃんとあるんだね」
「……」
あるんだ。なら、叶えばいいね。
よし、私は勝手にうさぎクンの願い事が叶うように祈っておこう。
私のお願い事なんて、もうないからね。
「…… 初恋は叶わないからな」
「念押ししちゃって、どうしたの?」
「いや、なんでもないな」
そう言った彼は目線を上げる。
7月7日のこの夜に、たくさんの人の願い事が聞き届けられますように。
この幸運が、誰かに分け与えられますように。
「流れ星……」
花火に混じって、流れ星が2つ。
「そういえば、人が死ぬと星になるって言うよね」
あの2つの星は果たして、誰なのだろう。
そんな夢想をしながら私は舟を漕ぐように彼の肩に寄りかかる。
もう夜時間…… と言っていい時間だ。
「寝ても構わない」
「そっかぁ……」
そのまま目を瞑る。
そういえば帰り道はどうするんだろう?
半分ぼんやりとしながら考えてみたが、それよりも眠気が優っていたようだ。
屋台ではしゃいで、いい感じに食べて、遊びまわって、花火を見て…… 思っていたよりも疲れていたみたい。
「おやすみぃ……」
「ああ」
深く、深く意識が沈み込んでいく。
「お前を逃したとき、初めて自覚したことがある…… が、あの俺は死んだのだから、もう関係はないな」
最後に、彼がそう言ったのが聞こえた。
その意味を考える思考なんて、もう…… なにも……
……
…………
「おやすみ」
未来編で眠らされるまで展開が一緒なのになぜ全員生きているのか?それは野放しになっている江ノ島さんの仕業だったり……
「じじいがアタシのやったことパクるとか絶望すぎない? しかも希望のために? こんな絶望もいいですけど…… やっぱりなんか癪に触るんで……モニターとビデオのプログラムにウイルスを仕込んでやったってことだぜぇー! 信じて仕込んだ仕掛けが一切動かなかったときの表情が見ものですね。アドリブ力が求められるでしょう。アタシの苦労をテメーも思い知れクソジジイ!」
…… だそうです。
・「すまなかったな」
主人公が一時的発狂してしまったために最後まで伝えることができなかった言葉。やっと言うことができた。
次回は夏なのでホラー系企画です。
Twitterで4つほど選択肢を作って尋ねたところ、 「未来機関をおちょくりまくるホラー系企画」 が満場一致で決定しました。
他の候補は書けたら書くということで宜しくお願い致します。