錆の希望的生存理論   作:時雨オオカミ

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【育成軸】中秋の名月2018

 

 罪木ちゃんが看護学校へ研修しに行くことになり、学園の寮よりも近い位置にある私のマンションへしばらくの間住み込むこととなって最初の1週間が過ぎた。

 はじめのうちは罪木ちゃん専用の食器を買ったり、私服を移動したり、あと雪染先生が車で荷物を運んでくれたり…… まるで引っ越しするような勢いの1週間だった。

 冗談で 「同棲生活だね」 なんて言ったら罪木ちゃんは途端に顔を真っ赤にしてしまってオーバーヒート。反省しつつ宥めて復活するまで結構な時間がかかったりもした。

 あんな可愛い罪木ちゃんが見られるだなんて結構役得だよね。

 罪木ちゃんと私だとそんなに身長が変わらないのもあって生活もしやすいし、毎日オートロックの冷たいマンションに人がいるというのもなんだか暖かくなる。

 …… たまにうそつきことうつろちゃんが忍び込みに来ていたりするから、案外あの部屋に帰ると人がいるが。

 メイは私の希望により隣の部屋に住んでおり、お世話をしにくるのも朝になってから。一日中一緒にいるわけではないのだ。

 罪木ちゃんにも部屋は他にもいっぱいあることを言ったのだけれど、家賃が払えないとかなんとか色々言って遠慮しようとするので 「なら私の部屋に泊まれば解決だね!」 とごり押しした。

 前に2週間ほど研修に行っていたときは遠くて寮に帰るのもやっとという感じで、医者の不養生極まりなかった。最終的に睡眠時間が3時間を切り、授業に出る際も転ぶ頻度が激化するわ、不運に巻き込まれて怪我はするわ、研修先でいじめられて帰ってくるわで散々だったのだ。

 もちろん彼女をいじめた相手は探偵依頼して情報を集め、社会的に抹殺した。

 最原クンは報復目的での調査に苦言を呈して、霧切さんも殺人事件専門の探偵だから専門外だったんだよね。

 そういえばうちの学園には探偵が2人もいるのに、報復補助のために情報集めするタイプのビジネスライクな探偵はいないよね。

 

 閑話休題。

 

 罪木ちゃんがこうして私の部屋に〝 帰って 〟来るようになって怒涛の1週間が過ぎ去り、そして 「おかえり」 と 「ただいま」 が当たり前になるのにそうかからず日が経ったある日、うろつき姉さんからの提案があった。

 

「お月見パーティしよう? 私もちゃんとお酒持ってくからさ。バイクはいつものとこに置くから泊まらせてね? あ、あとうつろちゃんも連れてくから」

 

 ガチャ切りである。

 姉さんの提案はいつも唐突だ。そしていつも拒否権はない。

 急いで洗濯物や洗い物を片付けて罪木ちゃんにメールをする。罪木ちゃんは最近研修が忙しいようで帰りが遅くなっているから、うつろちゃんや姉さんたちが来ることを事前に伝えておかないといけない。

 

 〝 了解ですぅ。あ、なら私もお菓子買っていきますねぇ 〟

 

 うーん、お菓子か。ならお饅頭でも買ってきてもらおうかなぁ。うろつきこと織月(りづき)姉さんはお月見って言っていたことだし。

 リクエストはお饅頭で、と。

 

 おっと、チャイムが鳴った。もう来たのか、早いなあ。

 

 念のためインターフォン越しに顔を確認して玄関の鍵を開ける。

 隣にはメイも既に待機していて、大量のお酒を持った姉さんの荷物を半分受け取っている。

 別の買い物袋も下げているのでおつまみも作ってくれるんだろう。さすがは私の自慢のメイド。大好き。口には出さないけれど。

 

「こんばんは。いらっしゃい、入って」

「こんばんは」

「ばんわー」

「こんばんは、お嬢様」

 

 私たちでテーブルを退けたり、真ん中にスペースを作っている間にメイには料理のリクエスト。キッチンは使い慣れているだろうからなにも言わずとも彼女ならやってくれる。

 

「すごいお酒の量だね…… さては明日も泊まるつもりだね?」

「連休なんだからいいんじゃん、ね?」

 

 この量は彼女とメイだけで今夜中に飲み切れるものではない。これだと私たちが飲まされても確実に余るし、明日も飲むことになるんだろう。2人はバイクで2人乗りして来ているから、つまり明日も飲酒運転しない限りは帰れないわけだ。

 

「うつろちゃんはいいの?」

「実は無理矢理連れて来られて…… あ、明日は大切な試験があるんだぞ。ふざけるなようろつき……」

「へ? 嘘だよね。自分で暇って言ってたじゃない」

「嘘だよ。でも無理矢理連れて来たのは事実だろ」

 

 ちょっとした口論が起こっている間にいい時間になる。

 カーテンを全開にして上を見上げればよく晴れてまん丸のお月様が見えていた。

 

「ほらほら、お月見なんでしょ? 月を見ろ月を」

「あー、それね。凪ちゃんの家に泊まるための言い訳だから」

 

 …… そんなことだろうとは思ってたよ。

 

「花より団子…… いや月より団子か?」

「月よりお酒じゃない?」

「月よりおつまみ、も追加していただきたいですわね」

「お、できたの?」

「ええ」

 

 まずはサーモンチーズフライのご登場だ。これは取り合いになるね。

 

「たくさんありますから、どんどん食べてくださいね。罪木さんの分はきちんと私が取っておいてありますわ」

「オッケー! なら遠慮なく行こう」

「一個も食べられないなんて冗談にならねーな」

「殺気立ちすぎじゃない?」

 

 私は自分の分を気にすることがない。

 なぜなら……

 

「とりゃあっ」

「これは私のだよ!」

 

 カツンと皿に箸が当たり、サーモンチーズフライが一個宙を舞う。こちらに向かってくるそれを私は口でキャッチしながらサムズアップ。

 

「ふふふ、幸運にもサーモンチーズフライは私のお腹に収まることを選んだみたいだね」

「まじか……」

「あちゃー」

「キミたちが喧嘩するたび、私のお腹は満たされていくのさ…… なんてね」

 

 実際こういう場面はよくある。

 だから私は自分の分を確保していなくとも幸運が味方をして食いっぱぐれるようなことがない。

 行儀が悪いからあんまり多用することはないけれど。

 こんな小さな幸運でもあとで指を扉で挟むような、些細な不運が来るから困ったものだ。

 

「ちゃーんとジュースも買ってきてるからうつろちゃんもどう?アルコールは入ってないよ?」

「嘘を吐くな嘘を、って無理矢理は良くないって!」

「メイはどうする?」

「私はお片付けもありますから、皆さんが就寝してから…… になりますね」

 

 ああ、まあそうなるよね。私も無理矢理酔い潰されない限りは片付け要因かなあ。罪木ちゃんの帰りも待たないといけないし。

 

「やめろぉぉぉぉ」

「はい、飲んで飲んでー」

 

 1番年下の未成年が被害に遭っているが、私はなにも見ていないなあ。

 

「凪ぃぃぃぃぃ!」

 

 見ないふり見ないふり。

 ちみちみとおつまみを食べながらそれから数時間後、窓の向こうの月が上まで登り、ああこれ屋上から見たらものすごく綺麗なんだろうなあなんて感想を浮かべ始めた頃…… 玄関の鍵が開く音がした。

 合鍵を渡している相手はメイと罪木ちゃんの2人だけなので、メイがこの場にいる今可能性があるのは罪木ちゃんだけだ。

 

「おかえりなさーい」

 

 とっくに酔い潰されてテーブルに沈んでいるうつろちゃんを避け、ぱたぱたとスリッパの音を響かせて玄関へ。結構夜遅くになってしまったようだから、暖かい飲み物も用意しないとな。

 最近は猛暑も鳴りを潜めて涼しくなっている。ちょっと寒暖差が激しすぎる気もするが、暑苦しいよりはずっといい。

 罪木ちゃんを暖か抱き枕にする言い訳も、寒い季節となればなくなるのだからやはり役得だよね。

 女でも可愛い子は目の保養だし癒しだもの。

 

「あ、あのぉ…… ただいま、帰りましたぁ」

「うんうんおかえり。外は寒くない? まだ涼しいくらい?」

「は、はい…… えっと、結構過ごしやすい気候だと思いますよぉ」

「ココアを用意していますよ、いかがですか?罪木さん」

「は、はい、えへへ…… いただきますねぇ」

 

 罪木ちゃんは荷物を置いて笑顔を浮かべると両手でカップを受け取った。彼女は暖かくて甘いココアをふーふーしながら飲んで一息つく。

 看護学校の研修がどんなものか私には分からないが、神経を使うような仕事なのだろう。彼女の毎日の様子を見ているとそんな感じがする。それとも、この気疲れした顔は人間関係が原因だろうか。

 いじめられてない? 大丈夫? うーん、このモンペ思考。本人が相談してくるか、よっぽどのことがない限り余計なことはするつもりないけどさ。

 

「うーん? 凪ちゃん今何時ぃ?」

「わっ、姉さんちょっと」

 

 背後から酔っ払いに抱きつかれてバランスを崩しそうになる。

 少し眠そうだ。彼女の後ろにある空いた酒瓶たちを見ればこうなるのも分かるが、むしろこんなに飲まないと眠くさえならない織月姉さんもすごいと思う。

 

「もう深夜12時だよ」

「あー、もう0時かぁ。アキラに会いに行かないとぉ……」

 

 言うと同時に姉さんの頭がガクンともたれかかってくる。

 さすがうろつき。有言実行なうえに寝つきが早い。ゲーム通り羊を数えておやすみ3秒だ。

 ところで、寝ている間にも夢の中で探索したり人と会うとすると睡眠した実感はあるのだろうか。昼間も眠くなりそう……

 私自身は基本的に夢の中で死んで目覚めるときと、そもそも夢を見ないときの2種類があるから睡眠の実感は一応ある。私が睡眠不足になるのは単純に寝てる時間が少ないからだね。

 

「罪木さん、お腹は空いていませんか?」

「えっと、えっと、少しだけ……」

「なら今のうちに食べちゃいなよ。2人が起きないうちにね」

「温め直して参ります」

 

 炭酸飲料を嗜みつつ罪木ちゃんの食事が終わるのを待つ。

 窓の向こうの月はいまだに煌々と照っていて、とても綺麗だ。

 こんな日に贈り物をされたりするととてもいい。とてもいいと思うから、実はちょっとしたプレゼントが用意してあったりするんだよね。

 部屋着で肌寒いならいつものパーカーを着ればいいし、なんなら罪木ちゃんに貸せばいいし…… せっかくのお月見なんだから直接見に行きたいよね。

 

「罪木ちゃん、屋上で月見しない?」

「いいですねぇ」

「それではこれを」

 

 メイが相談する私たちの間に置いたのは美味しそうな月見団子だ。

 用意周到なことで……

 

「メイは行かなくていいの?」

「このかたたちならないとは思いますが、部屋を荒らされてしまうと困りますからね。それに、お片付けもありますので」

 

 もしかして気を遣ってくれたのかな?

 

「いつもありがと、お姉ちゃん」

「毎日おそばにいますから、たまにはお譲りしないといけないでしょう?」

「言うねー。姉の余裕かな?」

「さ、最近は私もずっとそばにいますよぉ……」

「うん、そうだね。もっと一緒にいてもいいんだからね罪木ちゃん」

「えへへへ……」

 

 照れてる顔が可愛いよねぇ。

 私の取り合いかな? 姉と友達で? それはそれで…… ハーレム主人公ってこんな感じなのかなあ。罪木ちゃんみたいな子がたくさんいたら過労死しそうかも…… でも、いくら彼女に似ている子がたくさんいても、きっと私なら見つけることができるよね。罪木ちゃんを。

 ほら、どっかの名前を取られちゃう国民的映画みたいにさ。

 やっぱ彼女が1番だね、うん。

 

「それじゃあ、よろしくね。メイ」

「承知致しました」

 

 罪木ちゃんと手を繋ぎ、もう片方に月見団子と飲み物の入った袋を持つ。そしてマンションの屋上へ。

 本来なら屋上の扉は鍵がかかっているのだが、ここのだけは合鍵をわざわざ作ってある。景色がいいからちょくちょく遊びに来るのだ。

 ピッキングを覚えることも考えたけれど、あんまりうまくいかないし、時間がかかるから非効率だと勝手に鍵を作る方法に出た。

 王馬クンに教わりに行っても、のらりくらりと躱されてお金を巻き上げられるだけな気がするし、そもそも彼は人にものを教えるってことをしてくれないだろう。そんな想像もできないことだしね。

 

 扉を開ければふわりと外の冷えた空気が入り込んでくる。

 それが彼女の髪を少し揺らし、私たちの間を通り抜けていく。

 

「あ、ほら、すっごい近くに見える」

「…… あ、はい。そうですねぇ…………」

 

 少しの間ぽうっとしていた罪木ちゃんはすぐに前を向いて月を視界に収める。

 私も手をかざして月を見る。高い高いマンションの屋上だから今にも届きそうなくらい月が近い。王馬クンならどんな嘘を吐くかな? 月が落ちてきちゃうよ! とかかな? ちょっとロマンチックすぎるか。いや、それとも世界の滅亡的な意味で?

 どちらにせよ今のシチュエーションには合わないな。

 

「お団子食べようか」

「美味しそうですぅ」

「多分タレも自家製だね。さっすが私のメイ」

「ふふ、ちょっと嫉妬しちゃいますねぇ。私にもお料理できるでしょうかぁ」

「キミの料理ならきっと美味しいと思うよ? ほら、好きな人からの料理ってそれだけで心がこもってるから」

「ふゆぅ……」

「ただ、キッチンで転ぶのは危ないから、そこだけ心配かなあ」

 

 〝 好きな人からの 〟なんて言葉はもちろんわざとだ。そわそわする彼女に気づかないフリをして話を続ける。

 まったく、思った通りの反応で実に可愛らしい。これだから罪木ちゃんと話すのはやめられないんだ。姉を薬漬けにしたヤンデレさんとはとても思えない初心な反応だ。いや、だからこそこういうのに慣れていないって言えるのだろうか。

 

「あ、あのあの……」

「うん? どうしたの?」

「……」

 

 罪木ちゃんは少し目を泳がせて人差し指同士でちょいちょいと恥ずかしそうに合わせたあと、私服のポケットに手を入れる。

 それからまっすぐとこちらを見て、今度は目を泳がせずに告げる。

 

「す、すす、少し肌寒いですねぇ」

「…… そうだねぇ」

 

 ふむ? 確かに夜の屋上は少しばかり肌寒い。

 でもこれを言うためだけに緊張するなんてことはないはずだ。

 とりあえず私は、彼女にもかかるようにいつものパーカーを広げ、しっかりと自分含めて被せる。隣同士に座ってパーカーを被せているのでさっきよりもずっと近い位置に彼女の頭がある。

 まあ、王道だよね。お姫様はこれをお望みかな?

 

「あ、え、えっと、えっと、ありがとうございますぅ…… えっと、その、これ、狛枝さんに似合うと思って、買ってきたんですけどぉ……」

 

 彼女が先程からポケットに手を入れていたのは寒くてではなかったか。

 渡されたのは透明な石…… 恐らく水晶と、翡翠かな? が2つ並べられてくっついたシンプルなブレスレットと、ネクタイピンだ。

 ブレスレットにいたってはかなり高価なものだろう。両方とも本物を使っているようだ。ネクタイピンも恐らく、それ相応の値段はするだろう。

 

「これ、私に?」

「はい! その、いつも狛枝さんがしているみたいに…… したくて…… あ、あの、いらないなら捨てて構いませんからぁ!」

 

 私はその言葉に思わず笑って、受け取った。

 

「まさか、そんなことするわけないでしょ。ありがとう」

「ふゆぅ……」

 

 まてよ? いつも私がしているように…… ? いや、まだ推理するような段階じゃないか…… ?

 

「それと…… あの、今日は、月も綺麗ですけどぉ…… 星がとても綺麗ですねぇ……」

「…… あは、そうだねぇ。ねえ、すごく静かだよね。こんな深夜だからかなあ。それに、とても寒いね?」

「ふぇっ!?」

 

 そう言って彼女の手を取り、もたれかかる。

 ふふふ、なるほどなるほど?罪木ちゃんの思惑が分かってきたぞ。

 〝 肌寒い 〟は手を繋いでくださいの暗喩だって聞いたことがある。それに、〝 星が綺麗 〟は月が綺麗ですねと同じように〝 あなたは私の想いを知らないでしょう 〟なんて意味のある言葉だ。

 ブレスレットをプレゼントする意味は〝 独占欲 〟

 そしてネクタイピンは〝 あなたは私のもの 〟もしくは〝 あなたを見守っている 〟だ。まったくやってくれるね。いつもならそれをするのは私のほうなんだけどなあ。

 

 対して私が投げかけた〝 静かだね 〟は〝 あなたの声をもっと聞かせてほしい 〟という意味で、〝 とても寒い 〟は〝 あなたを抱きしめたい 〟だ。ちゃんと応えてあげているのだから、素直に受け取ってね。

 

 やっぱり事前にいろいろ調べたのか、彼女は私の言うこと言うことに顔を真っ赤にして慌てている。

 私に言葉遊びを仕掛けるなんていけない子だよね。でも直球勝負も彼女らしくない。だからこれが精一杯の気持ちの表し方なんだろう。

 このヤンデレさんめ。ぞっとしないや。

 

「実は私からもキミにプレゼントがあるんだよね」

 

 そう言って用意していた小箱を開ける。

 指輪?そんなわけないじゃないか。恋人じゃあるまいし。

 

「あ、ありがとうごさいますぅ…… えへへ、いつものお返しにと思っていたんですけどぉ、意味がなくなっちゃいましたねぇ」

「プレゼントし合うだなんて、それこそいつも通りじゃない」

「それもそうでしたぁ」

 

 彼女に渡すのは小さな蹄鉄(ていてつ)が先に付いたネックレスだ。

 蹄鉄の釘を打つ穴には本物のエメラルドがはまっている。金持ちを舐めてはいけない。相当高かったが、このマンションをワンフロア買っている私に買えないものなんてないのだ。なくなってもそのうち幸運で補完されてしまうので使えるものは使わないとね。

 

「キミからもらったこのブレスレットのやつもそうだけど、エメラルド…… 翡翠にはドクターストーンなんて別名があるんだよね。古代では治癒を司る石として認識されてたとかなんとか……」

 

 ほら、アニメや漫画でエメラルドが魔法の媒介に使われることが多いだろう? それにはきっとこういう背景もあるからなんだろう。

 

「ドクターストーンなんてさ、キミにぴったりだよね。誕生石がぴったりだなんて運がいいよ。私が保証する。ね? …… それに、エメラルドは福も呼び込むらしいからさ」

 

 私から、罪木ちゃんへの細やかな気持ちだ。

 

「超高校級の幸運が幸運を呼ぶお守りを人にあげるなんて激レアだよ?まあ、罪木ちゃんにしかあげようとは思わないけどさ……」

 

 まてよ、ちょっと恥ずかしくなってきた。

 1人で舞い上がってないか? さっきから罪木ちゃんの返答がないぞ?

 

「ほ、ほら、キミ怪我ばっかりだし…… 心配だからさ」

 

 おいおい、なにを言い訳しているんだ。

 恥ずかしくて逸らしていた目線を彼女に戻してみれば、その瞳からボロボロと涙を零していた。

 

「え? あ、え?」

 

 も、もしかして嫌だった!?

 

「怪我ばっかりなのはぁ、狛枝さんもじゃないですかぁ」

 

 涙を流しながらふにゃりと笑う彼女にひとまず安心する。嫌がられていたわけではない。良かった。無駄に心配してしまった。

 

「それは…… ほら、キミが必ず治してくれるでしょ?」

「…… そういうところですよぉ」

「え?」

「いいえ、当たり前ですよぉ。なにがあっても、あなたは必ず私が治します」

「うんうん、頼もしいね」

 

 それからもしばらく言葉遊びを交えつつ話して、そして食べるものも、飲むものもなくなった頃。すう、と隣で寝息が聞こえ始めた。

 

「ん…… 帰らないと、冷えちゃう…… けど」

 

 絡めている手が暖かい。隣にいる人の体温が暖かい。

 このままでは風邪をひいてしまうかもしれない。でも、それはそれで2人で風邪ひいて、笑って、馬鹿だねだなんて笑い会えるかも……

 あ、だめだ。眠い……

 

 遠くで、扉の開く音が聞こえる。

 私は2人分の足音が近づいてくるのを耳にしながらうとうとと微睡み、そして意識が落ちる。

 

 あの規則正しい足音は、メイ…… のはずだ。

 だから、大丈夫。

 

 

 

 

 

 ――

 

 

 

 

 

「あらあら、お風邪をひいてしまいます」

「まったく、私の後輩たちは仕方ない子だね。でも、いい寝顔だよ」

「幸せそうでなによりですわ」

「イチャイチャしちゃってさ、見せつけてくれるよね」

「貴女は夢の中で恋人に会っているでしょう」

「メイドさんも羨ましいのなら贈り物でもしたら? あ、それとも贈り物されるのを待ってるとか?」

「いいえ、贈り物なんていりませんわ。そんなことに意味を隠さなくとも、最初から私はこの子のモノですから」

「あー、それは良かった」

「その無理矢理訳した洋画の主人公みたいな反応はいったいなんですか」

「いやー、ノンブレスで詰め寄ってくるのやめて、ねえやめて」

 

 幸せそうな寝顔の2人と、仲よさそうに口喧嘩をする保護者2人、そしてなにも知らず酒によってノックアウトされた不憫な嘘つきたちの夜は更けていく。

 

 美しい月夜に、美しい友情を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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