旅行があったのは小学六年生の頃。
今回は中学三年生最後の休みになった凪の、ちょこっと未来のお話。
(時系列順にするとクリスマス大幅に過ぎちゃうからなんて裏事情は知ってはいけないことなんだ)
〝メリークリスマス!〟
「メリークリスマス!」
「メリークルシミマス!」
「メリークルシミマス!」
…… あれ?
大きな破裂音とともに色とりどりの紙吹雪が舞い、飛んできた紙紐が頭に降りかかる。
目の前にいるのはクラッカーを持ってカラカラと笑っている、露出度高目なサンタ服を着たうろつき……
相変わらず犬の耳のように跳ねた茶髪を揺らしているのが織月。
病院では散々な目に遭わされそれ以来チャットでしか会話していなかったが、私が新たな両親の元に行ってからはたまに会っていた。普段は明るいお姉さんだからあまりトラウマも刺激されることがなく、安心して付き合える。
たまに夢の中で会って戯れている
うつろちゃんは織月と夢についてのチャットを立ててから出会った同士だ。ハンドルネームは〝 うそつき 〟。そう、ゆめにっき派生の一つ、〝 夢日誌 〟の主人公だ。薄い金髪ボブの髪に青や紺の服を好んで着ている女の子。
あと、普段見る服から想像するにロングスカートやワンピースを好んで着ている節がある。口調は少々乱暴なところがあるが、私たちの中では一番女子力が高いと思われる。
飾り付けられた部屋に不釣り合いなほど大きなパソコンが机の上に二つ鎮座し、その雰囲気に合ったご馳走達は隅の机へと追いやられている。その中に、シャンメリーと一緒にして隠すように置かれたシャンパンにキッ、と織月を睨むと暖房の所為だけとはとても思えない赤ら顔でバイクの免許証をチラつかせた。だけれど彼女の誕生日はまだもう少し時間がかかるのだ。成人式もまだなのに一体何をやっているのか。犯罪ですよ。
そう呟きながらコートを脱ぎ、マフラーを外し、仕舞い込んで二人と同じようにパソコンを取り出し、机に置く。
「おやおやぁ? ご飯は食べなくていいのかな?」
「どうせ先にコッチを済ませる予定だったんでしょう?」
上ずった声で私の肩を叩く織月の言葉に返事を返してスレッドを開く。
「オフ会だってのにスレ開くとかないわー」
「議題はこっちでしょ」
にやにやと笑っているうつろちゃんに言い返してパソコンの画面をコツコツと叩く。弄られ慣れているから別にいいけれど、乗るのはなんだか癪だ。希望ヶ峰学園について書かれたスレッドを開き、来年の幸運枠が決まったという噂をピンポイントで映す。
「情報ダダ漏れなのは一体何なんだろうね」
それには黒い目線を引かれた白い髪の少女の写真が貼られていた。スレの反応はやっぱりだとか、悪女のくせにとかの恨み言ばかり。彼らの中では私の存在は事件唯一の生き残りではなく、事件を引き起こし被害者面をしている世紀の大犯罪者だ。噂だけが独り歩きをして私が殺人を犯したことがあるだとかの笑えない話まで書かれている。
一体だれの仕業か知らないがいい迷惑である。
「いい迷惑だよ」
「へー? よかったね」
にししと笑う同い年のうつろちゃんの頭を押さえつけ、乱暴に撫でまわす。低い位置にあるその頭は私にとってかなり丁度良い位置にあるので嫌がらせには十分だ。
「なんだよ、自分ばっかりでかくなってさ!」
「女にとって高身長なことはマイナス要素なんだよなぁ」
「そんなこと言うなら10㎝分けろよ! あと胸も寄越せ!」
私の身長は現在170㎝。彼女の身長は150㎝やっと行ったくらい。
本来の狛枝凪斗は180㎝だから女であることにマイナス補正がかかっているかもしれない。それでも高すぎるくらいだ。
男性は自分よりも身長の低い女性のほうに惹かれる場合が多い。女性も自分より身長の高い男性に惹かれやすい。だから普通に生きて、老衰で死にたい私にとって、身長が高いというのはコンプレックスでしかない。
胸は大きい方がいいと生前は思っていたが、いざ大きくなってみると可愛いデザインで尚且つ大きいサイズの下着なんて滅多に売っていないから不便だ。小さめのサイズのほうが種類もデザインも豊富で羨ましい。ま、持つ者の愚痴ってやつかな。
そうやって口論をしている私たちを微笑ましそうに眺めている織月は放っておいて、スレッドの方に目線を移す。
曰く、どんな動物も手懐ける飼育委員がいる。
曰く、必ず優勝に導く敏腕マネージャーがいる。
曰く、大財閥の御曹司がとうとう入学する。
曰く、ある国の王女様が来日してきた。
曰く、中学生にして仕事を請け負うほどのメカニックがいる。
曰く、あの人気バンドのボーカルが一人入学してくる。
曰く、若き天才写真家が入学する。
エトセトラエトセトラ。
既に噂は大きく広がって行き、スレッドには個人情報などなかったかのように新たな天才たちの顔写真や彼ら、彼女らが載っている掲載誌の切り抜きなどをアップして語り合っている。その中の一つに、私がいた。
本来ならば幸運枠は一般人であるためこのような事態になることはないのだが、私はある意味有名なのだ。そのせいでこうやって明るみに出ることになっている。だが、これはこれでいい。なぜなら、いつか彼女が迎えに来るとき場所に迷うことがないからだ。私はここにいるよ。そういう思いで私はネット住民の所業を無視していた。下手に反応すると余計五月蠅くなるということもある。
「いやぁ、まさか本当に選ばれてるとはね」
「てっきり出来の悪い嘘だと思ってたよー」
嘘だけどね、と最後に付け足してからうつろちゃんがぺろりと舌を出した。織月は朗らかに笑っている。二日酔いになってしまえ。
「一緒に来てくれたりは」
「しない」
「しねーよ」
「…… だよねぇ」
スレッドから目を離して二人に顔を向ける。
「でさ、なんか嫌な予感がするんだよね」
「それは嫌だねぇ」
「卒業するまでずっと平和かっていうと分からないし、疑い深いことは大事だね?」
「うつろちゃんにそれ言われたくないんだけど」
「まあまあ。外は外で平和にやるから人ごとだし―」
彼女たちがこの先、生き残れるかだなんて分からない。外の世界も荒れに荒れてしまう未来が待っているのだからちょっとは注意していてほしい。多分近くに私がいない分理不尽な死に遭うことはないだろうが、それでも死亡率は高い。
私の命が最優先なのは変わらないが知らぬ間に友人が死んでいるというのも寝覚めが悪い。なるべく生き残っていてほしいものだ。
「あ、そうだうつろちゃんって前から一人暮らしできる場所探してたよね?」
「あらら、嫌な予感」
「希望ヶ峰って全寮制だし、私の部屋管理してほしいんだよ。あのマンションの最上階、高くて私以外住民いないから、もう一部屋買えるし」
「でたぁーお金持ちの戯言」
事実である。あのマンションの、さらに最上階ともなると高すぎて他の人は手がだせないらしい。
エレベーターでさえも住民に配られるカードと指紋認証がなければ使えないし、セキュリティは面倒なほどしっかりしている。
未来、二人の避難場所になるならば重畳だし、なんなら最上階のワンフロア買い占めてもいいかも?
宝くじ三回当たっているし、両親と義両親の遺産もあるし、多少バイトもして貯金は十分あるし。住民以外が入っても最上階まで歩きでしか来れないのだし、安全だろう。そう考えれば最上階にうつろちゃんの部屋があれば住民としてエレベーターもつかえるようになるし、彼女と一緒に居れば織月も避難できる。生存確率はぐっと上がるだろう。もし万が一メイに逢ったなら、きっと彼女なら気づいて連れて行ってくれる。
「うん、やっぱり私ワンフロア買い占める」
「はっ!?」
「へっ?」
ポカーンとした二人に万が一のことを原作知識を省いて伝え、メイのことも託す。
「ちょっと、つまりお金は凪が出すってことだろ? それは嫌なんだけど」
自立したいからこそ彼女は一人暮らしを目指している。人にお金を出してもらうというのはやはり抵抗があるか。なら、こういうことにしてはどうだろう?
「勿論、私が全部出すのはちょっと違うよね。だから貸しにする。ほら、奨学金みたいなもんだよ。あとで返してくれればいい。マンションだから家賃というのもなんだけど、そんな感じにすればいい。ね?」
ぐぬぬというような表情で悩むうつろちゃん。魅力的な案ではあるが自身のプライドが許さない。そんな感じだろうか。
「あ、頭金は私が出す!」
「え、すっごい高いよ?」
一部屋の具体的な金額をあげれば頭を抱えだしてしまった彼女。アニメのような大量に汗をかいている様子を幻視した。心の中でものすごく葛藤しているようだ。たまにブツブツと独り言が聞こえてくる。
「あ、頭金の半分出す……」
湯気を出し始めたうつろちゃんがとうとう決断を出した。泣きそうな顔をしている。なんだかものすごく申し訳なくなった。
「まあ、凪ちゃんとは私もご近所さんだし、困ったらこっちに来てもいいからね」
女神を見る目でうつろちゃんがからからと笑う織月に縋りついているが、姉さんの背後に悪魔の尻尾が見えたのは気のせいだろうか。
カオスな状態が収束し、議題を終わらせる。
そして、三人でクリスマスディナーを食べ終わった頃、織月が奥の棚から包装をしたものを二つ取り出して来た。
「食事の後はプレゼント交換だねー」
「ま、まあそうだな」
「おー、二人も用意してたんだね」
三人でそれぞれプレゼント交換をし、開封をしていく。
織月からは、新しいオレンジ色のヘッドフォンと、舞妓さんセットにツインテールのウィッグだった。なぜに? 確かに、彼女には〝 まいこ 〟と〝 ツインテール 〟のエフェクトがあるが。
「変装セット」
語尾にハートが付きそうなほどいい笑顔だった。意味が分からん。
うつろちゃんからのプレゼントは涼し気なスカーフと麦わら帽子。あとビスクドール。ドールはまだ分かるが、上記二つが分からん。なぜ夏のものを冬にプレゼントするんだ。
「嫌がらせ」
サムズアップしてにししと笑う。そのわりには随分とデザインのいいものだが、まあツンデレとして受け取っておこう。ドールも可愛いし、やっぱりこの子乙女だわ。
ちなみに私が二人にあげたのは、うつろちゃんに控えめなヒマワリ柄のスカートと、ウサギの髪飾り。織月に黒い中折れハットと、ペンギンの大きなぬいぐるみ。
この間ウィンドウショッピングしているとき、あのおおきなぬいぐるみに釘付けになっていたからだ。オオカミのぬいぐるみとちょっと迷ったが可愛いし、自立するし、ペンギンにした。中折れハットは…… 〝 バネ 〟のエフェクトで似合ってたから現実でも似合うと思って、だ。
織月はうつろちゃんになぜかウサ耳を贈っている。ウサギのぬいぐるみもだ。彼女がウサギ好きなのは周知の事実である。顔を真っ赤にして、更に涙目で喜んでくれているのが分かって嬉しい限りだ。うつろちゃんから織月へは私のとは色違いのビスクドールとチェックのスカーフだ。織月はチェック柄が好きだから喜んでいる。
「あとクリスマスと言えば?」
「ケーキ!」
「織月姉さん反応早すぎ!」
うつろちゃんが持ってきて、冷蔵庫に入れておいたケーキを取り出してくる。ここは織月の部屋だというのに随分と勝手知ったるなんとやらという感じだ。
「ショートケーキにシャンパンは合うよねぇ!」
「二日酔いになってしまえ。あ、うつろちゃんそれ私が欲しかったやつぅぅぅ!」
「一個ずつ取ってる方が悪い。数は決まってるんだから取っておけばいいんだよ」
こうして、中学三年生。
・空井織月
うつい りづき。うろつき。再びの登場。明るい人だけど、翠(あきら又は青汁君)のことでたまに情緒不安定になる。
・貫洞うつろ
かんとう うつろ。うそつき。ゆめにっき派生、夢日誌主人公。エフェクト〝麦わら帽子〟が可愛らしい。
ハンドルネームをうそつきにするにあたり、それに相応しい名前を考えたところ洞(法螺・嘘)を貫き通すという意味の苗字にしました。嘘吐きのこと、ホラ吹きって言いますからね。