No.12『開幕』
その日は私にとって、単なる365分の1日なんかじゃなくて、もっと特別な意味を持つ1日だった。
来て欲しくなかったその日を迎えた私は、まるで生贄になる目前のか弱い子羊のような気分を味わっていた。
目前に迫るのは私立希望ヶ峰学園。
それは私にとってはただの学校というよりも、もっとどろどろとした、悪い意味での特別な存在だった。
たとえば、囚人が処刑台に上がるとき足並みを遅くするような、肉牛が出荷されていくときのような諦観さえ浮かぶような、大津波が目の前に迫っている光景を見てしまったような、そんな圧倒的な存在に対する絶望感。
私は幼いときから、言ってしまえば生まれたときからずっとこの希望ヶ峰学園に特別な想いを抱いていたのだ。…… 勿論、負の意味で。
そして私は現実逃避をするようにその門前で歩みを止め、ネットで見たホームページや評価を、もう一度頭の中で纏め始めるのだ。
希望ヶ峰学園というのは一等地に巨大な敷地を有する政府公認の特権的な学園で、その全てが政府からの寄付金で成り立っているというとんでもない学園である。
全国各地からありとあらゆる分野の超一流高校生を集めて将来を担う〝 希望 〟に育て上げることを目的とした学校であり、才能というものを研究する場所でもある。
そしてこの学園を語るときについて回る都市伝説のようなくだらない言葉がある。
『この学園を卒業できれば、人生において成功したも同然』
この学園の卒業生が様々な業界で活躍しているので一応事実に基づいた話ではあるのだが、こんなに胡散臭い文句はここ以外にないだろう。
予備学科なんてものを作り、〝 超高校級 〟に憧れ、同じ敷地内で学びたいと思う一般人の心を利用し、莫大な学費を払わせ、それを研究資金へとまわし湯水のように使い続ける。全ては才能持った高校生たちのために。才能を育成する。そんな免罪符を盾に一方的な徴税をしている学園関係者は、それでも尊敬されていた。忌々しいほどに。日本の誇る、素晴らしい組織を作ったのだと。
こんな学校が一体幾つあるのか。
皆考えることは同じだ。同じ事業が成功しているのだから真似しようとする。だから学校というものは嫌いだ。あの病院となにも変わらない。やっていることはなにも、違わない。
しかし超高校級の名称を手に入れた彼ら、彼女らはそんな組織の思惑とは関係ない、と思いたい。
表の学園はさながら学園そのものがアニメに出てくる正義の組織かのように多くの人が憧れ、キラキラとした目で見つめる場所。子供がライダー物や魔法少女物に憧れるような、雲の上の存在になってみたいと手を伸ばし、真似をするような、そんな存在。
一度は誰もが思う、あんなキャラクターになりたい。あんな格好いいことを言ってみたい。みんなに尊敬されたい。ヒーローに、ヒロインになりたい。そんな思いが叶う場所。
学園にいる人は皆特別で、そんな雲の上の存在だ。だからこそ、予備学科制度に隙はない。…… 爆弾を投げ込む、カリスマある先導者さえ現れなければの話だが。
とにかく、そんな良い意味でも悪い意味でも人気な希望ヶ峰学園の入学資格は四つ。〝 現役高校生であること 〟〝 各分野において超一流であること 〟〝 抽選に当たること 〟〝 予備学科生として入学試験を受け、狭き門を突破すること 〟だ。
本来は前者二つが希望ヶ峰学園としての絶対条件であり、抽選で本科になる生徒はたった一人のうえ、入学してからも運についての研究が待ち受けているし、予備学科生は同じ学園に在籍しているだけという悲惨な状況。
ヒーローに憧れて組織に入ったらヒーローに会うこともできず、職場の機械修理しか出来なかった…… みたいな。
こんな制度なのに〝 超高校級の絶望 〟が出てくるまでよく爆発しなかったと関心、感動すらするよ。
学園の教師たちは私がいた病院の人たちとそう変わらない〝 才能 〟という
と、前語ったことをまた長々と考える必要もないか。
この学園側からスカウトされた人物がタダで入学することができる。ま、私は抽選で受かっただけだけれども。織月にも、うつろちゃんにも定期的にチャットすることは伝えてあるし、もう中学校や前の高校に思い残すこともない。
赤いネクタイを締めたシャツにコート程もある大きな黒いパーカー。膝下長めのスカートは前の高校と同じ紺色。スカートの下、太ももには、ホルダーを付け、伸縮式に作った鉄パイプを身につけている。誘拐事件から危機感を感じ、持ち歩き始めたのだ。
首には新しくなったオレンジ色のヘッドフォンをかけ、胸元にはオレンジ色のホイッスルと、思い出の写真が入ったロケットペンダント。ヘッドフォンが織月からプレゼントされた新しい物に変わった以外、いつもの服装だ。
寮に必要なものは全てある。大量の、過去の日記帳はマンションに置いてきた。大丈夫、最上階ワンフロアを買い占め、管理をうつろちゃんに移してあるのだから隙はない。ちゃんと管理してくれるだろう。あの子が、あるいは織月が絶望堕ちしなければの話だが。
思えば、うつろちゃんにはかなりの無茶をさせてしまった。最上階の一部屋だけとは言え、滅茶苦茶高い部屋の頭金を半分も出したのだ。学生の身にはかなり堪えたはずだ。おかげで親に絞められたと愚痴っていたし、申し訳ないことをした。まあ、親がいるというのが嘘という可能性もあるのだが。
入学式だとしてもいつも身につけておきたいものはちゃんと身につけているし、先に寮へ送った物の中にはうつろちゃんからプレゼントされた夏用の麦わら帽子やビスクドールなんかも入っているし、織月に何故かプレゼントされた変装セットも送ってある。今鞄に入れてあるのは装飾としても使える涼しげなストールだけだ。
鞄の中身が
さあ後悔はないぞ。これから私の新しい学園生活が始まるのだ。
いつまでも暗闇を進み続けるのは飽きた。少しでも、その名前に相応しい希望が訪れることを祈り、輝かしい生活が幕を開けることを願おう。
そう決心して一歩、踏み出そうとしたときにそれは起◆た。
内ポケッ■に入れた携◆電話@震/、立ち止まる。メー&@二件。ディス%レイにはあ〒二○の名前。
そこ*は、◇励の@葉が$¥れてい×。
い*でも〇談は受ける。離れ離れ&%!$けれ□、ずっと◆ャットで交@+*>・そう■%ばまた同◇を見つ+>ん#。やみ@きという――ザザ――ネームの女の子で、とっ*+可愛いPなんだよ。凪DTんやうつ■ちゃ‘*+>年だから仲>+して□◆てね。あ――ザ――、――――――噂――ザザザ――――――尋ね@#人――ザ――消え――ザザ――なん――――――――――――から、大丈――――思――――ど気を付――――――情――源?月子――――う私の友――――。
「あ、れ?」
まるで虫食いのように、脳が溶けだして行っているかのように、目がくらみ、ディスプレイに映った文字が見えなくなった。嘘だ、まだうつろちゃんのメールを見ていないのに。
雑音、脳をこねくり回されるような不快感、浮遊感。そして、一面の暗闇と、私の夢の中のような、意味深な模様に扉だけの空間。
「私はあの扉の中にいかなければならない…… ?」
そんな義務感に似た思いを押し殺して俯き、立ち止まったまま考えた。
踏み出したままの一歩を恨みがましく目にしてから私は気づいてしまったんだ。
もう遅かったのだ。なにもかもが、遅かったのだ。
罪を犯していなければこれに巻き込まれることはない。その希望さえも粉々に打ち砕かれた。
ああ、私は何をやってしまったんだ。まったく、遅すぎる。
だって、私はもう、そこに一歩、
・虫食い文章
原作のゲームがバグったような使用を文章で表現しようとするとどうしてもああなっちゃいますね。もっといい表現があればいいのですが、模索中です。
・最後のメール
月子。このワードと.flow作者の名前で調べると?
とまあ、.flow同作者の「少女奇談」ネタをちょこっと。
やみ、なんとかさんを知りたい人は「sickmind」で調べると幸せになれます。黒髪ロング可愛い。
「その日は○○にとって、単なる365分の1日なんかじゃなくて、もっと特別な意味を持つ1日だった」
この一文はダンガンロンパ2が始まったって感じがして大好きなんですよね。