『電車。放送。アイツの声。スプーン。目玉。小さい。姉さん。懺悔』
誰もいない、誰もいない。私以外に誰もいない。順番はすぐに来る。
覚めない。頬を抓っているのに逃げられない。どうして。
目なんてあげられない。ごめん許して。姉さん許して。わざとじゃない。わざとなんかじゃない。
死んじゃう死んじゃう死んじゃう。殺される。
次の駅、次の駅はまだか。なんだよそれ。殺される、また殺される。
覚めない、目は覚めない。目が見えない。やだ。
おそろい。でも嫌。ごめんごめんなさい許して。
もう永遠に許してもらえない?私が見殺しにしたから。でもわざとじゃない。
私が知った時にはもう遅かったんだお願い殺さないで。お願い。
また、リアルな夢で死んだ。でも私は生きている。
暫く目が見えなかったが、なんとか回復することができた。
ちょっと違ったが、見てしまったら現実でも死ぬと有名なあの夢だった。でも私は生きている。
よかった、今日も生きていける。
―― さびつきのゆめにっきより抜粋
「………… !…… ぎ…… !」
耳が痛いくらいに静かで、怒鳴られた時のような、近くで誰かが叫んでいるような耳の痛さ。まるで麻痺したように何も聞こえない。ただただ痛みだけがあって、頭が揺さぶられているような、明滅する視界がやがて白と黒に染まり、いつもの光景が目の前に広がった。
ぼんやりとした夢の中、私はエントランスホールにいる。
いつもよりもふわふわとした感覚で、私は辺りを見回した。そして、辺りに玩具のような、イースターエッグにも似たカラフルな卵を見つけた。
合計24のその卵達はどこかで見たような色合いと模様をしており、私はそのうちの1つを手に取った。
「エフェクト…… ?」
淡い光と共に服装が黒いドレスへと変化する。髪には赤い薔薇の髪飾りがついており、さながら西洋の喪服のような…… そんな、〝 ドレス 〟と名付けられたエフェクトだ。
次に緑色の蔦に巻かれたような卵を手に取る。すると手の中に溶け込むように卵が消え、ふわりと体が浮かび上がったような感覚がして、右の視界が真っ赤に染まり、下を見る。
今度は足が植物の根のようになり、右目を貫いている花に触ると、わさわさと揺れた。エフェクト、〝植物〟だ。
それがエフェクトであることが分かり、手に取るたびに体に吸収され、変化する。まるで一度捨てた物を拾うような、その作業に私は言い知れぬ絶望感を感じていた。
赤い目玉がギョロリと睨むような模様の〝 モノアイ 〟
青地に水泡が浮かぶような模様の〝 潜水服 〟
夕焼けのようなグラデーション模様の〝 ホイッスル 〟
星空のような黄色の点と濃い藍色の〝 ほうき 〟
白地にカラフルな音符が散った〝 ヘッドフォン 〟
闇のような真っ黒な卵の〝 黒フード 〟
腐ったような黒ずんだ茶色の〝 死体 〟
真っ赤で罅のような模様が入った〝 内臓 〟
淀んだ川のような緑色をした〝 スライム 〟
ごくごく普通の白地にネクタイ模様の〝 制服 〟
灰色に雫の模様が入った〝 ジョウロ 〟
メタリックな色をした〝 機械 〟
赤いバツ模様の入った〝 拳銃 〟
可愛らしい耳と尻尾の模様が入っている〝 猫 〟
毒々しい緑地に紫の気泡が描かれた〝 ガスマスク 〟
薄紫色の卵に三角頭巾の模様がちょこんと入っている〝 幽霊 〟
卵を抱きしめるような複数の腕が描かれている〝 腕 〟
十字架のような、ピエロの目のような赤い模様が入った〝 刺青 〟
砂嵐のような幾何学模様の〝 テレビ 〟
ポップな色合いがごちゃ混ぜになっている〝 サイケデリック 〟
赤い血飛沫の散った真っ黒な卵の〝 鉄パイプ 〟
…… そして、最後の1つ。目のない、だるまの顔になっている赤い卵に手に取った途端に体を支えられなくなってドサリとその場に私は
体を起こそうとして、手が空を掻くのを認識して戦慄する。
手足がなかった。文字通り、ダルマのようになった私には立ち上がることができない。精々這いつくばって顎を使い、ゴミクズか芋虫のように這い回るだけである。
その状態に本来ある筈の手足を思い浮かべて歯を食いしばる。
次の瞬間にはエフェクトが解除され、手足は元に戻っていたが、言い知れぬ気持ち悪さは払拭できずに体を抱きしめた。
体を抱きしめる時に不安感を覚えたためか勝手に3本の〝腕〟が現れ、自分の腕と共に体を抱きしめる。頭から生えた腕は手持ち無沙汰に空を掻いているが、肩から生えた余分な2本の腕はしっかりと体を抱きすくめている。
集まっている。
全てのエフェクトが集まってしまっている。
それは本来ありえないことだ。
入学式の日、私はまだ全てのエフェクトを集めていなかった。出現すらしていなかったそれらがある。それだけで入学式の日から随分と時間が経っていることの証明となってしまう。私の内側だけの証明。私だけが確信できた証拠品。夢の世界のことは、幾ら私でも同族以外には決して話さないはずだ。それを知らない人たちがこれをお膳立てしていたとしたら、こうなることが分からなかったのも当たり前だ。
何もないエントランスホールの空を仰ぐ。
これだけのエフェクトが出現し、集まるのにどれだけの経験をしたのだろうか。今の私には分からない。だが、少なくともダルマがあるということで恐怖に震えた。
メイが約束を守ったのか、それとも事故によるものか…… それは分からないが、この南国の夢から覚めるときには多大な覚悟が必要になるかもしれないことが分かった。
「メイに会いたい、な」
独りごちて、私は頬を抓った。
◇◆◇
目が覚め、時計を確認する。
まだ時間は午前4時。冷蔵庫を運び入れてから2時間しか経っていないのだ。つまり睡眠時間もそれだけしかなかったということで……
「ふぁ……」
眠気の悪魔が私のことを布団に押し込もうとしてくるが、それをはね退け、冷蔵庫にしまったミネラルウォーターを半分ほどまで飲む。
それだけで多少は眠気も落ち着き、静かに朝の支度を始めた。
朝から重いものを食べる気力がないので、昨夜持ってきた食パンを、同じく持ち込んだトースターで焼き、ピーナッツバターを塗って一枚食べる。
それから顔を洗い、歯を磨き、朝シャワーを浴び、何故か同じものばかり収められたクローゼットの服を着た。
それらを終える頃には既に眠気はどこかへと行ってしまい、時間が余る。皆が起きてくるであろう7時まで2時間はあるのだ。
「砂浜にでも行こうかな……」
お気に入りの黒フードのポケットに鍵と白い手帳。それに財布を入れてコテージを出る。南国の早朝は暑すぎず、比較的過ごしやすい気温だ。
ポストを調べると中に10枚のモノクマメダルが入っている。
そういえば、ウサミメダルはまだ使えるのだろうか。後でモノクマに会ったとき訊いてみよう。もし使えなくなっていたとしても記念として1枚くらいはとっておきたいものである。結構可愛いし。
そうして、着いた砂浜で昨日と違う部分に近づく。
ヤシの木にガチャガチャがつけられていて、中はギッシリと詰まっているうえ、中身が不鮮明なため何が入っているのかも分からない。
私はそのガチャガチャに躊躇いなくメダルを入れ、合計10枚を使い回していく。
そして出てきたカプセルを開くと出てきたのは番号付きの小さな鍵だった。説明書きを見ると、どうやらスーパーマーケットの奥に引き換えカウンターがあるらしい。そこで品を受け取れるとのことだった。
カプセルを開いただけでは景品が分からないというのはなんだかわくわくしていいね。
早速スーパーマーケットに向かい、引き換えカウンターというところでモノミかモノクマを探す。しかし、シンとしていたので誰もいないようだ。
「おーい、モノミかモノクマー。いなーい?」
「呼びまちたか!」
「呼んだー?」
「お、モノミのほうが早かったね」
呼ばれて出てくる速さでいがみ合っている…… というか一方的に八つ当たりをしているモノクマに言う。
「ガチャガチャの景品ってここで合ってるよね?」
「おーそうだったそうだった! 早速あれを回したんですね! 狛枝さんったら好奇心旺盛だねぇ。そうだよ、ここで合ってるよ」
「が、ガチャガチャってなんのことでちゅか!? また勝手にアンタが設置したんでちゅね!」
「ちょっとしたスパイスだよ! こういうお遊び要素があったほうがストレス堪らなくていいだろ?」
ガチャガチャ程度じゃコロシアイのプレッシャーとストレスはなくならないと思うけどねぇ。雀の涙ほどの効果しかないんじゃないかな。もしくは焼け石に水。
「でも、わざわざ交換してると面倒くさいんですよね…… ということで、カウンターは開けとくから勝手に鍵ぶっ刺して持ってけドロボー!」
「だめでちゅ! 自分でやったなら最後まで面倒みなちゃい!」
「やだねー! 拾った犬は元の場所に戻す派なんだよ、ボクは!」
「あ、待ちなちゃーい!」
そんなやりとりをしながらモノクマとモノミはどこかへと去っていった。
つまり、勝手に取ればいいんだよね?
鍵の番号を確認してカウンターの奥にあるロッカーを1つずつ開けていく。最初に手に入ったのはトイカメラという名札のついたカメラ。次に手に入れたのはスパイのように素早く動けると噂のブランド靴。スパイ・スパイクだ。
氷点下のギャグが詰められたらしいスペクターリング。
ロイヤルウッドのブランド湯のみである、ジャパニーズティーカップ。
いいんだか悪いんだか分からない2.5Dヘッドフォン。
ハーフシューズで、つま先の部分に鉄板が仕込まれている半分安全靴。
7本に別れた形が特徴的な七支刀。
〝 ブルーラム、翼をもぎ取る 〟で有名な逆エナジードリンク。ブルーラム。
ありとあらゆるゲームの裏技が記された超技林 第二版。
希望ヶ峰学園の紋章か入った希望の乾パン、の10種類がロッカーから入手することかてきた。
正直スペクターリングはいらないが、部屋に飾るだけ飾っておこうか。
ブルーラムはわりと好きだが、今は退廃的になる気分ではないので後回し。そもそもこれ、自動販売機で購入できるからハズレだね。でもその不運の代わりと言ってはなんだけど、ジャパニーズティーカップと超技林が手に入ったのは幸運だ。
小泉さんと地図作りをするからティーカップをプレゼントできるし、七海さんともゲームして遊びたいし。
まだ1時間ほど余裕があるので先にホテルのレストランへ行っておこう。別にコテージでしか寝れないわけではないし、レストランで寝ててもいいだろう。
くありと欠伸をして誰もいないレストランに入る。
「胃もたれしそう……」
レストランには既に大量の料理が並んでいた。
サラダにコーンフレーク、大きなピザ…… パスタにホットドックにトロピカルといえばこれだねとでも言うように添えられたマンゴージュース。そして、それらがそれぞれのテーブルに山盛りになっていた。
肉やパンもあるし、シーフードも満載。名前の知らない南国っぽい料理がひたすらに並べられている。
朝食としてはそれぞれの料理単品で十分どころか多すぎるくらいだ。いくら人数が多いからってこの量はない。ギッタギタの油が光る肉類など見るだけでもうお腹一杯だ。
だが、散歩した自分の体は素直にお腹を鳴らしている。さすがに食パン1枚で昼まで持たすのは無茶なようだ。早く起きた分、お腹が空いている。
なるべく油の乗っていないチキンや海鮮類を皿に盛り、海藻サラダを持って椅子に座る。私はこれだけあればお腹一杯だ。
絶対に余るだろうに、バイキング形式はなぜなのか…… 十神クンや終里さんがいるからか、納得。
ある程度食べ終わり、食器を一旦キッチンで水に漬けこむ。腕時計で確認したがまだ30分ほど時間があるようだ。私は皆が食べ終わった後に食器洗いを手伝おう。それまでは椅子に座って退屈ながら待っていようか。
だけれど、席についてぼーっとしているうちに追い出したはずの眠気がやってきた。皆が起きるまでまだ時間はある。コテージじゃなくても怒られないだろうし、いくら追い出そうとしても今回の眠気は退屈と手を組んでいて異様にしぶとい。
そしてうとうととしはじめた私は椅子に寄りかかり、そっと目を閉じた。
―― ガタンゴトン、ガタンゴトンと規則的に車体が揺れ、長椅子の並ぶその場所に私はいた。
つり革だけが虚しく揺れ、それに捕まる人はいない。
赤く、毒々しい夕陽が窓から車内を照らすその光景がどこか妙にリアルで、夢だと自覚があるというのに本当にその場にいるような…… かさかさになった手のひらさえ意識できるリアルさに諦観と絶望感に支配される。
「つぎは、えぐりだし。つぎはえぐりだし」
暢気に響く聞き覚えのあるだみ声。
残酷な密室の中で、幻影を見ながらまた私が殺された――
「きゃあああああああああ!」
「い゙ったぁ!?」
不意に訪れる浮遊感。逆さまになる視界。上下が逆転し、天井が床へ、床が天井に変化する。
そして、私は椅子が後ろに倒れたことにより、頭から床へとダイブした。
「こ、狛枝大丈夫か…… って、うわ!?」
星が目の前を飛ぶように頭がくらくらとし、視界が明滅する。
心配気に声をかけてきた日向クンの顔が逆さまに映る。しかし彼はすぐさま顔を背けてしまった。
見てはいけないものを見たような、だが見てみたいという心を表すように背けられた視線がチラチラと私の隣と空中とを彷徨っている。
その顔がわずかに赤いことと視線が隣に向いていることに気が付いた私は落ち着いた頭を動かし、その隣に目を向けた。
…… そこには変わり果てた罪木さんの姿があった。
「はわっ…… はわわわわぁー! こっ、こっ、転んでしまいましたー!」
両足をコンセントコードに絡めとられ、テーブルの上にあった幾つかの調味料を被り、でんぐり返しのような状態になった罪木が涙目で動くこともできずにその恰好のまま固まっている。動けないのかもしれない。
「どうやって転んだら、そんな体勢になるんだ!」
「いや嬉しいけどさぁ! 堪らなく嬉しいけどさぁ!」
「ひゃーん! 恥ずかしいですぅ! た、助けてくださぁあい!」
十神クンが怒鳴り、花村クンが覗き込み、罪木さんが涙目で訴える。
サイズ違いなのか少々食い込み気味な白いショーツが丸見えだ。それと同時に左足に巻かれた包帯が痛々しく、さらに片方の靴下が脱げてしまっている。床一面に散らばったざんばらな長髪を下敷きに、もがこうとするたびに髪が引っ張られ、コードが食い込み、痛そうに身をよじり、また…… と悪循環していく。
私のすぐ傍で倒れているので、もしかしたら転んだ時に私の座っていた椅子ごと引き倒してしまったのかもしれない。
つまり私は巻き込まれたのか。後ろに倒れた椅子の上で自身のスカートがめくれていないことを確認して体を起こす。溜息でもついたら罪木さんが謝り倒してくることが予想できるからだ。
あまりの光景に男性陣も一瞬目を背けることを忘れ、間の抜けた声をあげた後にハッと気が付いては顔を背ける。ただ一人顔を背けなかったのはまじまじと見入っている花村クンと澪田さんだけだ。
「むっはー! 恥ずかしそうなお顔がカアイイー! 萌えすぎてフガフガしちゃいますなぁ! 真昼ちゃん、シャッターチャンスだよ!」
「だめよ! と、とにかく助けてあげましょう! ほら、凪ちゃんも立って!」
澪田さんが小泉さんに写真を要求したがそれも却下され、女子数人で纏わりついたコンセントコードを解き始めた。その間に男性陣は距離を置き、見ないようにしながら話を進めている。
どうやら皆がここに集まっていたのは、十神クンから全員に向けての話があるからのようだ。
「つ、罪木さん、大丈夫?」
「うゆぅ…… なんか頭がガンガン痛みますけど、大丈夫ですぅ……」
頭を抱えて若干目の焦点が合っていないので大丈夫ではなさそうだ。
「頭打ったの? 私の代わりに座りなよ。落ち着いた方がいい」
「うゆぅ…… ありがとうございますぅ」
先程盛大に頭をぶつけて目が覚めたので、今度は眠気冷ましのためにも立っていたほうがいいだろう。
「ドジッ子万歳! 歓迎するよ! 心からね!」
「でも、ドジッ子ってレベルじゃなかったよね。ほとんど手品みたいな転び方だったよね……」
凄い顔をしながら言う花村クンに、小泉さんが困惑顔で話す。ああいう場面に出くわしたのは初めてだったのだろう。
「それよりさ、これで全員揃ったんだよね? だったら、そろそろ始めようよ……………… 眠く…… なってきちゃったし」
「そうだな…… 名残惜しいが朝食はいったん中断して、話を始めるか」
そう言って食べ進めていた料理を一旦置き、律儀にラップで包んでから十神クンが話し始めた。。
「まずは、お前達に質問だ。俺達はあのモノクマによって殺し合いを命じられたわけだが…… そんな異常な状況下を生き抜くにあたって、今の俺達に必要なものは何だと思う?」
十神クンは唐突にそんな話を始めた。
「チッ、知るかよ。いいからさっさと本題に入れや」
「本題に入って欲しくば、さっさと答えることだ」
そういえば本題ってなんだろう?
寝てたから話の流れが分からない。十神クンが全員揃うのを待ってたっていうのは話の流れで分かるが、何が本題なのかも分からない。この話が本題ではないってことは十神クン自身が言っているから分かるけど。
「…… オレらに必要なモン? そんなのメシと寝ることだろ?」
「否ッ、便を忘れておるのぉ…… つまり答えは〝 快食、快眠、快便 〟じゃあああ!」
「もっとマシな答えはないか?」
三大欲求っていうのは確かに生きる上で大切なものだし、いつもと同じように過ごすことは非日常の中であっても自分を見失わないようにする大事な心掛けだ。あながち間違っていないような気もするが、十神クンの言いたいこととは程遠いらしい。
他に意見が出る様子は特にない。意見を出し合うときってなんだか緊張するよね。これでいいのか、呆れられないかってぐるぐる考えちゃって上手く言えないんだ。誰かが口火を切ってくれないと意見しづらいんだよね。今回はすぐに終里さんと弐大クンが反応したからやりやすい。
「決して焦らない、冷静な判断力とかどうかな?」
絆って言えればいいのかもしれないけれど、絆があってもどうにもならないことだってあるんだよ。
絆絆って言って、考えること、相手の隙を探すことを放棄してしまえば乗り越えられるものも乗り越えられないのだ。卑怯だっていい、裏をかいて、狡賢く、狡猾に、何をしてでも生き残る。
生きるためにあれを捨てて、これも捨てて、しまいには大事だったはずの姉妹まで見捨てて、そんな私が絆がどうの、仲間がどうのなんて、言えるわけないんだ。
「みんなが焦らず大きく構えていたらあんなクマなんかの口車にも乗らないでいられるし、頭が幾つもあるんだから打開策だって見つかるはずだよ! 冷静さがあれば、生き残る術だってすぐ見つかるかもしれないよね! 今のところは誰かを蹴落とさなきゃ死ぬってわけでもないんだし、最優先はモノクマがどう出て来るか冷静に見極めることじゃないかな?」
気づいたことを全てメモしているのも、皆を誘導するのに根拠が必要だからに他ならない。だけれど、三人寄れば文殊の知恵とも言うし、人数が多ければ多いほど有利なことには違いない。
「だが、一理あるかもしれんな。だからこそ、モノクマは私達が結束しあわないように、互いが疑心暗鬼になるようなルールを強いるのだろう」
一致団結して立ち向かって来られると面倒だから、かな。少年漫画の敵方とか悪役ってそう考えると大変だよね。モノクマがベタベタの正義感に吐き気を催すのもそういう理由だろうか。いや、アイツは希望がキラキラ輝いているのが気に入らないだけか。
「なるほどな…… なかなか立派な答えだ。確かに、この状況には〝 集団 〟で立ち向かうことが大切だろう。だが、その団結のために必要なものがあるだろう?」
彼の中ではもう既に出してほしい答えが決まっていたのだろう。
「じゃあ、なにかな?」
「今の俺達に必要なのは、明確なリーダーによる〝 秩序を持った統率 〟だ!」
冷静にするためにはまとめ役がいた方が良い。確かにそれも分かる。
羊は一個体をリーダーと決めて、それに従い、リーダーが優秀であればあるほど生存率も高い。それゆえ牧場では白い羊の中に黒い羊を一頭だけ混ぜたり、山羊を一頭紛れ込ませ、故意にリーダーにすることがある。そうすることで一匹のリーダーを人間が制御し、大勢の群れを自由自在に率いるのだ。だから優れたリーダーに盲目的に従う子羊になるというのも良い提案だろう。
しかしそのリーダーが危険に出向けば、羊の群れ全てが危険にさらされ、リーダーが死ねば、レミングよろしく集団自殺のように死の連鎖が起こる。そういうリスクも起こり得ることは知っておかないといけない。
「なるほどのぉ…… 団体競技でもキャプテンが必要不可欠だしのぉ」
「喜べ。俺がその役を引き受けてやろう」
うん、この流れならそう言うと思ったよ。
「私たち迷える子羊は、黙って頼もしいリーダーについていけばいいってこと?ならキミも慎重に立ち回ってくれるんだよね?狼の前にノコノコと姿を現すような真似だけはよしてね」
「貴様にそう言われる所以などないぞ」
「は? おい、どういうことだ?」
十神クンには一蹴されたが、そんな私たちのやりとりを見ていた日向クンがきょろきょろとしながら困惑の声をあげる。今まで話題に入らずにいた彼の顔は心なしか、青い。今朝鏡で見た私の酷い隈とは違い、不安の強く表れた顔だ。
皆も少しばかり顔色が悪く、あんなことがあった昨日の今日なのだからしかたないことかもしれない。
彼と目が合い、にっこりと微笑む。
「羊はリーダーに盲目的に従う。ならそんなリーダーが危険なことに飛び込んだら? 絶望してしまったら? 不安定な上にやっと成り立っているバランスを崩してしまったらなにが起こるか分からない。だからリーダーをやるにしても、自分の面倒を見られる人じゃないとね…… おっと、完璧な御曹司様には要らない世話かな」
実際に原作では十神クンが死んだことで死の連鎖が始まって行った。
本当は忠告とか、そんなの余分で馬鹿馬鹿しくて、私の生存になんら関係ない余計なことだけれど、彼が死んでしまったら私が危険なヤツだって思われかねない。
腫れ物に触るような扱いで長く生きることもできるかもしれないが、現実ではなにが起こるか分からないのだ。
「まあ、こんな状況でリーダーになるって言うくらいなんだし、心配ないか」
「皆は…… 十神がリーダーでいいわけ?強引すぎると思うんだけど」
不満そうに小泉さんが言う。
しかし、すぐに十神クンがフンと鼻を鳴らしながら答える。
「俺以上の適任がどこにいる? 俺は十神家の〝 超高校級の御曹司 〟だ。人の上に立つことを宿命付けられた人間だぞ?」
「でも、人の上に立つならソニアちゃんだっているしさ」
「いいえ、とんでもありません。わたくしなんてお飾りみたいなものですから。小泉さんも気になさらないでください」
ソニアさんは優しく小泉さんに声をかけ、辺りを見回す。
「自らそう名乗り出てくださったのですから、わたくしは十神さんがリーダーで良いと思います。皆さんはどうでしょう?」
皆はお互いに顔を見合わせて軽く頷いていく。この場でさらにリーダーを名乗り出そうとする者もいないようだ。これで決まりだろう。
「であれば決まりだな…… 安心しろ、この俺がリーダーになった以上は、一人の犠牲者も出させん。約束してやる。この俺が、お前たちを導いてやるとな!」
ビシィ! と効果音がつきそうなほどに腰に手を当て、指をさす。
その体型も相まっていいしれない圧倒感があるが、その姿にピョンピョンと跳ねながらテンションの高い澪田さんが声をあげる。
「うっきゃー! 頼もしいっす! カックイーっす! しびれるぅ!」
「きゃー抱いてー!」
「うるさいぞ、花村!」
花村クンがふざけ半分にか、本気なのか分からないが十神クンに抱き着きに行くと、短い手足でルパンダイブを試みようとした矢先に本人の手によって、無言ではたき落とされた。
十神クンを熱心に見ながら何かを考えていたらしい日向くんが、それと同時に叫ぶ。わりと必死そうなその叫びに驚いた私がそちらを見ると、彼の手は強く握りしめらていた。
「さて、本題に入るぞ。俺からお前たちに、見せたいものがある」
「やっと本題? 校長先生並に話長すぎなんだけどー! ハゲたいのかなー?」
「で、見せたいものってなんだよ?」
西園寺さんはつまらなそうにしながらそう言う。少し怒気が混じっているのでほんとうに退屈だったのだろう。椅子に座って遊ばされた足が空を何度も蹴っている。
「中央の島にあるジャバウォック公園だ。ついてこい!」
左右田クンの〝 見せたいもの 〟に対する疑問を見事にスルーして、十神クンは一方的に告げてから大きな足音を立てて足を踏み鳴らし、彼はそのままレストランを去ってしまった。
「はやっ!?」
「ドスドス音出して、御曹司のくせに品もなにもないよねー」
「ッチ……」
「あそこまで走るんですかぁ?」
「はっはっは、トレーニング代わりに走るのもいいのぅ!」
口々に文句を言いながらも、皆の足は動く。
無言で去る者もいれば、 「うっきゃー!追いつくっすよー!」 と叫びながら走り出す澪田さんのような人もいる。
「や、やっぱり強引かもな……」
「あーあ…… リーダー選びに失敗したかもね」
「でも、あの場でリーダーに進み出る人はいなかったんだし、いいんじゃないかな」
私はそう言ってから、テーブルの上へ置いていたミネラルウォーターのペットボトルを掴んで外へ出る。
―― 出るのが遅かった分、バテているときに日向クンに追い抜かれそうになったのは、至極当然のことだった。
・二重夢
さび枝には二種類の見る夢があります。
ひとつはいつもの夢の世界。もう一つは一般的な人が見るようなストーリー調の夢。夢の世界で眠ったり、眠ってすぐ夢から覚めようとすると見ることがあるのです(ホラー限定)
・モノモノヤシーン
ガチャガチャ。原作でナンバーが決まっているのでそれに従い、ネットの機能で100面ダイスロールをして決めています。つまりランダム。二つもいいプレゼントが手に入ったのは幸運でしたね。不運が怖いね(こけしとかこけしとかこけしとか)
残りメダル22枚。
・さび枝と十神
煽る煽る。でも悪感情を持っているわけではない。
キャートンガミサーンカッコイイー
お知らせ
活動報告に一章、「パレード」キャラクターなどの一枚絵を載せる専用の場所を作成致しました。小説内で描写されたものの挿絵を入れていない場面や、明かされている部分のイラストなどを載せていきます。
現在は主人公プロフィール、メインキャラの簡単な紹介、錆理論EXTRA「一枚絵」が活動報告内にあります。