錆の希望的生存理論   作:時雨オオカミ

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No.14『失楽園』ー親和2〈日向〉ー

「そういえば、さっきの商品リストって、いつ書いたんだ?」

 

 マーケットに向かう道すがら、ついさっき渡した商品リストを眺めながら日向クンが疑問気に呟いた。

 

「ああ、昨日の夜に頑張って書いたんだよ…… おかげで寝不足になっちゃってさ、ほら、レストランで寝てたでしょ?そういうことだよ」

「昨日の…… 夜?」

 

 日向クンは私の答えに一度詰まると、咽を鳴らして絞り出すようにそう呟く。

 

「…… ? 昨日、なにかあったの?」

「いや、なんでもない…… なあ、昨日、誰か他に出歩いているやつはいなかったか?」

 

 震える声で言う彼の様子をおかしく思って更に追及するが、明確な答えは訊き出すことができない。

 

「昨日の夜は家具も運んだんだけど…… 小型冷蔵庫がどうしても持ち上がらなくてさ。商品リストと荷物持ちを条件に、あとから来た十神クンに手伝ってもらってコテージに運んだんだ。だから、昨日の夜私が見たのは十神クンだけだね。」

「そうか……」

 

 なにか考え込むようにして早歩きになる彼に小走りで追いつきながらマーケットに向かう。

 

「ほらほら、入ろ…… あぐっ!」

「狛枝!?」

 

 頭上の看板は大丈夫だったが、地面に立てられていた看板が風に煽られて倒れ、私はその下敷きになった。あまり重くなかったのは幸いだが、日向クンに罪木さんのようなドジっ子を見る目で見られ、若干解せない。

 

「うーん、大丈夫だよ。頭打っただけだから…… これくらい軽い軽い」

「軽いって、血が出てるんだぞ!?」

 

 看板よりもコンクリートに倒れたことで頭を打ったので額から少し血が出ているが問題はない。このくらいの小さな不運は日常茶飯事だ。怪我は慣れているので、対処も慣れている。ハンカチを押し当て、拭う。傷も小さいからすぐに血も止まるだろう。

 

「すぐに血も止まる。これくらいの傷なら慣れてるよ」

「慣れてるって、お前!」

「言ったよね、私の才能……」

「はあ?」

 

 日向クンは看板の下敷きになったままふてくされている私を、不可解な物を見る目で見つめている。顔は理解できないものを目の前にしたように歪み、困惑と僅かな怯えが見て取れる。

 

「お前の才能? …… 超高校級の、幸運だろ?」

「その通り。だけど、額面通りの才能ってわけではないんだ」

「抽選で受かったから幸運って言われてるんだろ? そんなの……」

「才能だなんて言えない、って? 言ったでしょ、私は〝 必ず抽選に当たる 〟と言われた女子高生なんだよ」

 

 看板を退かし、コートの端を払って立ち上がる。血はもう止まっている。

 

「私の幸運は起きた不運と同等のものが必ず来るって言えばいいのかな…… 幸運が起きたあともそれと同等の不運が起きる。私の運って、すごく極端なんだよ。希望ヶ峰学園に入学できた幸運と、こんなことに巻き込まれている不運…… っていう感じにさ」

「そんなのっ、偶然じゃないのか?」

「偶然、か…… そうだったらいいんだけどね」

 

 日向クンとこの話をするにはまだ早かったようだ。今回はここまでにして、今日やるべきことをやろう。まだ少ししか時間が経っていないのだから、早く日記帳の代わりと、さきほどのパンフレット作りでページがなくなってしまった白い手帳の代わりを探さなければいけない。

 

「さ、早く店に入ろう?」

「あ、あぁ……」

 

 マーケット内に入り、真っ先に文具系が置いてある場所を物色する。

 一番安いのでメダル1枚。しかも、クローバー柄。なんだかモノクマの悪意を感じるような気もするが、これしかないようだ。しかし、文具系に置いてあるものは全て大きさはさまざまだがノートのようで、ずっと書き続けられるほど分厚いものはない。せいぜい50ページ分。中途半端なので長く使えるわけではない。困ったな。

 

「ノート、か?」

「モノミの見せしめで日記帳がダメになっちゃったからさ、それに白猫のメモ帳もページがなくなっちゃったし…… 新しいのが欲しいんだけど、あんまり分厚いものはないみたいだね」

「ああ、あのときのか…… そうだ、悪いことしたからこれ……」

 

 申し訳なさそうな顔をした日向クンが懐から分厚い手帳を出し、差し出してくる。それに目を奪われて、私は興奮しながらそれを受け取った。

 

 

「え、これを私に…… ?」

 

 彼がプレゼントしてきたのは、使いやすいと評判のユビキタス手帳だったのだ。

 前々から欲しかったものの、ブランド品で使い潰すにはもったいないと手を出せなかった素晴らしい品だ。どうして彼がこんなものを…… そうか、モノモノヤシーンか!

 彼は十神クンと自由行動を共にしているし、その間に試してみたのかもしれない。シンプルなデザインのそれは分厚く、ペンまでついていて、しかもスラスラと書きやすい見事な一品だ。小泉さんといい、ここまで私の好みの物を貰うとビックリしてしまう。

 思わず受け取ってから裏表、とひっくり返しながら手帳を眺め、日向クンの手を取って乱暴に上下へと振った。興奮しきった脳内の片隅で羞恥心が湧いたが、それをも上回る興奮で頭がいっぱいになる。

 

「ど、どうしよう日向クン、ねえ惚れていい? 惚れていいの? …… って冗談だよ。それぐらい嬉しかったってことだよ! ありがとう、日向クン! こんなに素晴らしい物をもらえるなんて! 看板に潰された甲斐があったよ!」

 

 自分がなにを言っているのかも判断つかず、思わず織月やうつろちゃんと話しているときのノリが出てきてしまっている。

 私はそれに気がつくと、彼の手を解放してから誤魔化すように手帳を抱きしめた。

 

「そ、そんなに喜んでくれるとビックリするな……」

「これは日記帳にするね。よし、じゃああとはこのクローバーのノートを手帳の代わりにしようかな」

 

 メダルを支払い、ノートを懐に入れる。

 

「そうだ、お礼になんだけど、これあげるよ」

「これ、ブランド靴じゃないか?」

「日向クン足早いし、よく島を周ってるみたいだから、これがあれば少しは疲れにくくなるんじゃないかな」

 

 彼に渡したのはスパイ・スパイク。これは別の人にあげる予定だったが、彼も有効活用できるだろう。

 

「すごく軽いな…… 確かにこれなら疲れにくそうだ。ありがとな、狛枝」

 

 日向クンの笑顔はここに来たときとは違い、随分と柔和なものとなっている。十神クンと過ごしたり、いろいろあったからか、大分落ち着いたようだね。

 さらさらと、雑に持っているプレゼントの名前を書き込んで行く。

 

「狛枝……」

 

 そしてふと、日向クンが雑に書き込んだ私の文字を見ていることに気が付いて私は声をあげた。

 

「ああああ!? こっちは見ないでよ!」

「…… お前って、意外と……」

「字が汚いって? 知ってるよ。人に見せる手帳と、自分しか見ないプライベートな日記じゃ分けてて当たり前だってば。さっき皆に渡したリストとかは意識して丁寧に書いてるからまだマシだけど、癖が強すぎてあれぐらいがやっとなんだよね。丁寧に書いたせいで時間も余計にかかって寝不足だし……」

 

 試し書きをしたユビキタス手帳をしまい、呟く。

 

「リストのほうも酷い物だけど、あれが直せる限界なんだよね。どうしても字が崩し字になって端が伸びちゃう…… ま、そうなってるのは日記くらいだし、日向クンには関係ないよ」

「結構気を遣ってるんだな」

「ああもう、これでこの話はお終いね。順当に周るなら、次は空港だよ」

「……あぁ」

 

 ああもう、恥ずかしい。

 いくら字を書いたって上手くなるわけじゃない。量を書くのだからどうしても荒くなって、子供の頃よりも字が汚くなっているくらいだ。そんなものを見られるなんて恥ずかしいどころじゃあない。

 

 無言のまま着いた空港には誰もいなかった。皆、空港にはなにも希望を持っていないのだろう。そこには大きな粗大ゴミくらいしかないからだ。

 

「お、これは……」

「どうしたの? 日向クン」

 

 日向クンは空港を見渡したあと、いまだに回り続けている荷物の群れに手を伸ばした。

 そして、一つの荷物を手に取った日向クンはその陰に隠れていた、15㎝ほどの小さなモノクマを手に取っている。

 

「なにそれ、モノクマ?」

「ああ、モノクマが島中にヌイグルミを隠したらしくてな。探せって言われてるんだよ」

「隠れモノクマだね? 隠れモノクマなんだね? じゃあ、私も見つけたら日向クンに教えるよ」

「やっぱり俺が集めるんだな……」

「だって頼まれてるのはキミでしょ?」

「まあ、そうなんだけどな」

 

 隠れモノクマ以外の収穫はこれと言ってなく、次の場所へと日向クンと向かう。

 そして、砂浜に着くと、左右田クンと花村クンがヤシの木を前に輪になって悩んでいるようだった。

 日向クンは進んでそちらに歩み寄り、私はその後をついて行く。

 

「っ!? ぐぇ……」

 

 途中でヤシの木の下を通ると、三つのヤシの実が私の頭目がけて振って来た。

 当然油断していた私はそれにぶち当たり、よろけた拍子に追撃の四つ目が背中に当たって砂浜に倒れ込む。

 

「あっつぅ……!」

 

 日向クンはそんな様子の私には気づかず、左右田クンと花村クンと話し始めた。

 

「~っ!!」

 

 先程ぶつけた額から、止まっていたはずの血が滲み出る。

 私は続けてやって来た不運に軽く苛立ち、太腿のホルダーに入れていた鉄パイプで一つのヤシの実を思い切り叩いた。凄い音が鳴るが私の力不足のせいか上手く割れず、上部にヒビが入っただけだった。

 

「な、なんだ!?」

「あ……」

 

 私は慌てて鉄パイプを収縮させ、スカートの下に隠す。それから血に染まった髪をわしゃわしゃとかき回しながらピリピリと痛む頭を押さえた。ここで武器を持ち歩いているのがバレるのは得策ではない。頭ばかり集中攻撃されて少し血が昇ってしまっていたようだ。

 

「狛枝!? また…… って、大丈夫か?」

「な、な、なんでオメーがここに!?」

「ええええ!? なに、なにがあったの!?」

 

 駆け寄って来てくれた日向クンの手を取り、起き上がる。

 

「あはは…… まさかヤシの実に押し倒されるとは思ってなかったよ……」

「押し…… 倒される…… !?」

「オメーはなに想像してんだ!」

 

 鼻血を流す花村クンにツッコミを入れる左右田クン。

 

「まあ、気にしないでよ。あとで罪木さんの所に行くから大丈夫だし」

 

 さすがにここまで頭を怪我しているとぼんやりしてくる。

 あとでしっかり処置をしたほうがいいな。

 

「ちゃんと治療しろよ?」

「うん……」

 

 目の前には四つのヤシの実と、左右田クンの持つ大きなヤシの実。

 

「あれ、大きなヒビが入ってる」

「はぁ!? オメーどんだけ石頭なんだよ!」

「これ、頑張れば二つに割れるんじゃないかな?」

 

 綺麗に上のほうだけヒビ割れているヤシの実は手で十分割ることができそうだ。

 

「あはは、皆にとっては幸運だったみたいだね」

「幸運なのか? これ」

「私は力がないから無理だとして…… 花村クンとか左右田クンはこういうの割れる?」

 

 二人同時に力を入れれば零すこともなさそうだし、私だと全部自分で被りそうな気がするからパスだ。

 

「い、いや、ぼくはそういうワイルドな料理方法を使わないからなぁ…… 分かるかい? どんな相手でも、優しいテクでとろけさせるのがぼくのスタイルなのさ。食材も、女性もね!」

「うぎぎぎぎぎぎぎィ! 鳥さんが肌に大量発生中っすよ! コケケケケケケー!」

「うおわぁ!?」

「み、澪田? お前、いつのまに……」

 

 花村クンの背後で腕をさすりながら澪田さんが叫んでいる。

 それに驚いた左右田クンが、変な格好をしながら勢いよく後ろに下がる。日向クンもビクリと肩を震わせて半歩後ろに下がった。

 

「こんちらー、今来たんすよ! ペコちゃんとお手々繋いで散歩してたら皆が見えたんす!」

「いや、手は繋いでいないだろう……」

「ふんふん…… うん、いいんじゃないかな! 南国に咲く一輪の百合! きっと夜は、昼間と逆で辺古山さんが澪田さんを翻弄してるんだね!」

「おい、妙な想像をするな。それより…… なんの相談をしていたんだ?」

 

 凄まじい妄想力を発揮している花村クンはともかくとして…… 辺古山さんがヤシの実を見てなんとなく察したように話を振った。

 

「実はよォ、ヤシの実を割って中のジュースを飲みてーんだけどよ…… ヒビが入ってねーやつはどうしようもなくってよ」

「なるほどな…… おい日向、その模擬刀を貸してくれ」

「あ、あぁ」

 

 辺古山さんが模擬刀を構え、目線を日向クン、澪田さん、左右田クンへと移す。

 

「左右田、すまないがそのココナッツを上に投げてくれないか? 澪田は罪木を呼んで来てやれ」

「オイオイ、そんな割り方したら中身が零れるどころかオレらにぶちまけられるんじゃねーのか?」

「え?」

 

 私がキョトリと彼女を見つめると、 「見るに堪えん」 と一言だけ漏らされる。

 

「がびーん! 凪ちゃん血だらけっすよ!? 分かったっす、蜜柑ちゃん呼んでくるっすよ?」

 

 それから澪田さんは初めて私が怪我をしていることに気が付いたように驚きの表情を見せた。血に濡れた髪は手で押さえて隠していたからか、途中まで気づけなかったようだ。

 

「そうだね、近くにいるならお願いできるかな? 澪田さん」

「りょーかいっすよ! 超特急で行ってくるっす!」

 

 澪田さんが橋の方へ消えて行く。確かに、生徒手帳を見てみると罪木さんの居場所は公園になっている。

 

「そんな轍は踏まないさ。お前たちはただ落ちて来る物を受け止める準備だけしておけばいい」

 

 模擬刀を構えた辺古山さんが格好良い。

 その言葉を聴いて左右田クンは半信半疑でヤシの実を持って辺古山さんの横に立つ。

 

「ぶちまけられたら斬新なローションプレイになるね! 全裸待機しておいたほうがいいかな?」

「必要ない」

「行くぞー、せーのっと」

 

 高く上げられたヤシの実が重力に従って辺古山さんの前へと落ちて来る。左右に構えた日向クン、花村クンはその動きを目で追い……

 

「行くぞ、はぁっ!」

「よっと」

「ぼくの胸に飛び込んでおいでー!」

 

 …… 一滴も中身を零さずに真っ二つにされたヤシの実を受け止めた。

 

「あはは、すごいすごい! 本当に零れてないよ!」

「次、行くぞ。左右田、頼む。狛枝も受け止めるのを頼めるか?」

「おう!」

「分かったよ」

 

 ココナッツに夢中な左右田クンは私の接近にも気にしていない。

 こうして皆に混ざって遊んで行けば彼とも仲良くなれるだろうか。頭上に上げられ、割られた二つ目のヤシの実を受け止めながらそう思う。

 

「他のはどうしようか」

「砂が付かないように一旦置くしかないが……」

「まかせてくだちゃーい!」

「モノミ!?」

「うぎゃあああぁぁぁぁぁ!?」

 

 残り二つのヤシの実を前に困っていると、背後から現れたモノミがレジャーシートを広げた。

 日向クンは純粋に驚き、左右田クンは大袈裟に驚きながら叫ぶ。しかしその手に持ったヤシの実は手放さなかった。そこには理性が働いているのかもしれない。

 

「ホントはテーブルの一つでも出してあげたいんでちゅけど、今のあちしは力不足でそこまでのことはできないんでちゅ。少しでもこれで役に立てたらいいなー、なんて! らーぶらーぶ!」

 

 レジャーシートを敷いて素早く帰って行ったモノミの背中を見送る。モノクマとは違って本当、いい先生だ。

 

「よし、では次だ」

「おー!」

 

 次々とヤシの実が割られ、レジャーシートの上に並べられていく。

 

「蜜柑ちゃん呼んできたっすよー!」

「こ、狛枝さんが怪我をしたって聴いたのですけどぉ!」

「あ、罪木さん。血はもう止まってるけどちょっと腫れてるみたいなんだよね」

「血まで出てるんですかぁ!? どんな転び方をしたんですかぁ!」

 

 それ、罪木さんにだけは言われたくないんだけどなぁ。

 

「看板の下敷きになってコンクリートに頭をぶつけて…… さっきはヤシの実が四つも落ちて来てぶつかっちゃってさ」

「え、それってどういう状況っすか!?」

 

 澪田さんがヤシの木と私を見比べながら目を白黒させている。

 

「よくあることだよね…… ?」

「そんなことたまにしかありませんよぉ!」

「たまにならあるのかよ!」

「え、たまがなんだって?」

「花村は黙ってろ!」

 

 罪木さんの言葉に反応した左右田クンがツッコミ、同じく反応した花村クンの口を閉じさせた。

 日向クンはそれを見てなにも言えずに固まっている。辺古山さんはため息を吐いてヒビの入ったヤシの実を一人で割ってしまうとレジャーシートに置いた。

 怪我人だと張り切り、座った私の上にまたがって治療をする罪木さんの目を見つめる。

 薄い桃色を垂らしたようなヘーゼルの瞳は仄暗い。至近距離で治療を受けているためか、左目の下にある泣き黒子がよく見える。

 安心させるように気弱そうな微笑みを乗せたその表情はどこか喜んでいるようにも見えた。

 

「どうしましたかぁ? あ、痛いですかぁ? 大丈夫ですよぅ、消毒はしたのでしばらく安静にしているだけでいいです。それか、あとでコテージに帰ったときにきちんと冷却してくださいねぇ」

 

 消毒液を染み込ませたガーゼで患部を清潔にし、薬を塗ったガーゼで覆う。

 慣れた手つきで行われる罪木さんの手はとても冷たくて、南国の空気で温められ、ぼうっとしていた頭がスッキリとしてくる。

 こういうときは怯えないんだな、と考えながら 「ありがとう、罪木さん」 と礼を言うとすぐに彼女は畏まり始めた。治療が終わったためだろうか。

 

「そうだ、罪木さんもココナッツジュース飲んでいかない? 美味しいよきっと」

「ウ・マ・イ・ゾー!」

 

 私たちの後ろでは左右田クンが念願のジュースを飲んで歓喜の声をあげている。

 

「ゲゲー、これは…… ! ほど良い甘さでココナッツ特有の青臭さもなく、まるで夜のカラカウア通りをほうふつとさせる味わいだー!」

「えーっと、それって美味しいってことなんすか?」

「ああ、今まで飲んだココナッツジュースなんて偽物だって思えるくらいにな。狛枝、罪木も辺古山も、お前らも飲むだろ?」

 

 日向クンがレジャーシートの上に置いてあるココナッツを指さす。

 するとすぐに澪田さんが飛びついた。

 

「うはーっ! うめーっす! めちゃうめーっすよー! ペコちゃんもほらほら、飲むっす!」

「あ、いや、私は……」

「飲んでくれよ、お前のおかげでこんなに美味しいジュースが飲めたんだしさ。ほら、罪木もどうだ?」

 

 渋ったように一歩下がった辺古山さんに日向クンが誰も手を付けていないココナッツを一つ差し出して言う。

 

「そうそう、ちっとは南国気分も味わえたし! マジでありがとな、辺古山!」

「ンフフ、新しい料理のインスピレーションも湧いてきたしね。このレシピが完成したら、辺古山さんに是非とも味わってもらわないと」

「大袈裟だな…… 私は私にできることをしたまでなのに…… だが、それで皆が楽しめたのなら…… 幸いだな」

 

 優しい笑顔を見せた辺古山さんは日向クンからココナッツを受け取った。そして、噛み締めるように 「美味いな……」 と言う。硬い表情が解れてとてもいい笑顔だ。そんな彼女の笑みは私に懐かしい既視感を覚えさせる。ああ、私のメイに逢いたい…… ここに彼女がいたら、どんなによかったか……

 

「え、えとえとえと、私なんかが一緒に頂いてもいいのでしょうかぁ…… ?」

「うん、治療したついでに飲んで行くって思えばいいんじゃないかな。沢山あるし、誰も怒らないよ」

「分かりましたぁ…… 美味しいです……」

「そうだね……」

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

 しばしココナッツパーティに興じたあと全員で後片付けをして別れた。

 レジャーシートや飲み終わった後のヤシの実はホテルに戻る花村クンと罪木さんが片づけてくれるようだ。皆で礼を言ってから改めて別れ、砂浜に残っているのは私たちだけになった。

 

「ね、日向クン。ちょっとガチャガチャやって行ってもいいかな?」

「ああ、別に構わないぞ」

 

 日向クンも結局ヤシーンを回すことになった。二人で五回ずつ回して鍵を仕舞う。

 

「牧場の方を通ってマーケットに行くか。お前も怪我してるんだし、早く戻ったほうがいいだろ」

「気にしなくてもいいんだよ? 中央の島を見て周るくらい大丈夫だって」

「ダメだ。お前はコテージで休んだほうがいい」

 

 そういう融通の利かないところは島に来てからずっと変わらないよね。まだ1日しか一緒に過ごしていないが、ずっとずっと長い時間が経っているように錯覚してしまいそうだ。

 

「日向クンって、頑固だよね」

「なにか言ったか?」

「いいや、なんでもないよ」

 

 途中、牧場で牛を持ち上げながら 「トレーニングじゃぁぁぁぁぁぁ!」 と叫んでいる弐大クンに遭遇したが、牛は何百キロもあるという事実からそっと目を逸らしてそのままマーケットに向かった。

 

「おい、狛枝ー、そっちはどうだ?」

「うーん、大したものは当たらなかったみたい」

 

 

 KISSノート、第二ボタン、絶対音叉、包帯…… 戦場ナイフ。

 ナイフは太腿に付けたホルダーに一緒に隠し、他のものを軽く日向クンに見せる。

 日向クンの前には開いたロッカーとチョコチップジャーキー、エプロンドレス、百年ポプリ…… ビバ氷。もう一つは分からないが、日向クンが後ろ手に何かを隠しているので見せられないものでも当たってしまったのだろう。

 

「コテージに置いてくるか…… なあ、狛枝はこれいるか?」

 

 困ったようにそう言って差し出して来たのはビバ氷。これは…… フラグかなにかかな?

 

 結局、スプーンにアタリハズレが書かれているというビバ氷は私が食べ、十神クンが持って行ってくれるまで合計20回当たり続けた私はお腹を壊して罪木さんに怒られたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




・現在のプレゼントアイテム
 トイカメラ、スペクターリング、2.5Dヘッドフォン、半分安全靴、七支刀、ブルーラム、超技林 第二版、希望の乾パン、KISSノート、第二ボタン、戦場ナイフ、絶対音叉、包帯
残りメダル16枚。

・ココナッツパーティ
 イベントは自由行動直前ではなく、自由行動中に発生しています。
改変して、ヤシの実が狛枝のせいで増えています。ついでにかち割るのが得意()なさび枝がヒビを入れる作業と辺古山さんが見事に真っ二つにする作業が同時に行われている。

 死体が発見されました!(嘘)


【挿絵表示】


・ビバ氷
 狛枝って別の人がくじを引かないと延々当たり続けそうですよね。傍から見れば当たりが出るというのは幸運な出来事なので、本人が不運だと思っていてもこれは幸運に分類されます。



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