錆の希望的生存理論   作:時雨オオカミ

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 誕生日小説は短い二本立てとなっております。
 来年の誕生日もあったらアイランドモードで書いてみたいですね。




No.??『番外小話』ー誕生日ー

・病院組の場合

 

「ねえメイ、どこに連れて行くの?」

「行けば分かりますわ、凪様」

 

 くすくすと笑いながら私の手を引くメイに、困惑の顔を隠して大人しくついて行くととても広い廊下に出た。

 それは玄関ホールへと繋がる廊下だったので不安になった私は、彼女へしきりに話しかけながら少しひんやりとしたその手をぎゅっと強く握る。

 

「さあ凪様、お手を引かせてもらいますから目を瞑ってください。なにがあるかは後のお楽しみですわ」

「え? う、うん……」

 

 メイはなんだかとても楽しそうにしている。

 そんな彼女の表情は至極明るいものだったが、目元にはファンデーションで隈を隠したような形跡がある。巧みに隠しているようだが、毎日彼女と過ごしている私の目は誤魔化せないのだ。

 その目は寝不足からかいつもより充血していて、少し怖い。口元こそ笑みを浮かべてはいるが、彼女を知らない人が今のように暗い廊下を懐中電灯一つで歩いている姿を見たら卒倒してしまいそうだ。よく知っている私が怖いと感じるのだから相当だよ、本当。

 彼女の言う通りに目を瞑って引かれるがままに歩く。時折聞き取りやすいようにか、私の頭に近い位置でどちらに曲がるかなどの指示をしてくれる。

 私が目を瞑っていても迷いなく歩けるのは、間違いなく彼女への信頼がなせる業だろう。分かりやすい指示とタイミング、引かれる手。

 涼しい病院内の、少し薬品臭さが漂う空気。子供体温で温かい手を冷やす彼女の手。頬を撫ぜる空気と、彼女の歩く足音。彼女と、私の吐息…… 静かな病院だからこそ響く音は沢山ありすぎて拾いきれないが、これがヒイラギ姉さんの生きていた世界なのだと私は理解した。

 ヒイラギ姉さんには手を引く人がいたのだろうか…… そう考えるとなんだか胸が締め付けられるように痛い。

 支えていたのはりん子姉さんか。随分と前のことだが、だからりん子姉さんが面会謝絶になった日に取り乱したのだろう。そして、足を失ったと聞いたそのときも。

 

「着きましたわ。ささ、どうぞお座りになってくださいな。そう、そこです。そのままゆっくりとお座りください。大丈夫、騙したりしてませんよ。あなたを騙すだなんて、なんておこがましい…… あなたに私は嘘を吐いたりしませんからね」

「わ、分かってるよ…… 大丈夫、大丈夫……」

 

 不安になりつつもゆっくりと椅子に座り、ストンと腰を落ち着ける。

 

「で、なんでこんな真夜中に連れ出したの?」

「では、もう目を開けていいですよ」

 

 音を敏感に拾えるからか誰かの息遣いが追加でその場にあることが分かった。その数を数えて私はほくそ笑む。

 ぷらぷらと、隠す気もないその鉄が擦れ、揺れる音。必死に息を押し殺している音。装着した機械から空気が出る音…… そして、メイの息遣い。

 

「ハッピーバースデー!」

 

 目をゆっくりと開くと、そこには姉さんたちに加えて橙子ちゃんまでいた。

 目の前の風景は昼間カフェとなっている場所そのもので、小さなロウソクとランタンの灯りの中に皆の顔が見えた。

 テーブルには大きなホールケーキ。夜中に食べたら太ってしまうなんて関係ないとばかりにデンと置かれている。橙子ちゃんはケーキを食べるには一人きりにならないといけないはずだが、彼女はお喋りを楽しむために来ているようなのでいいのだろう。

メイが既に包装されたケーキを彼女に渡している。

 りん子姉さんは相変わらずねっとりとした笑みで頬杖をついてこちらを見ている。ドロッとした濁った黒い目がなかなか恐怖を誘うが、いつものことなので慣れたものだ。

 ヒイラギ姉さんは「別にあんたを祝いたかったわけじゃなくて、メイドさんのケーキに釣られただけよ」と言い訳にもならない言い訳を話している。うん、いつものツンデレだ。

 

「うわぁ、ありがとう! 皆大好き!」

 

 にっこりと笑ってこちらを見つめるその視線に安心しながら、誕生日の夜は静かに過ぎていく――

 

 

 

 

 

・ゆめにっき派生組 

 

 

 

 

 

「はぁ、やっと片付いた。手伝えとは言わないけどさ、なんで部屋でくつろいでるだけなのかな? お前たちは」

「引っ越し祝いに来たんだからそりゃあくつろぐよね」

「え、私はちゃんと昼食とか用意してあげてたよね?」

 

 綺麗に片づけられた部屋で、半目になってこちらを睨みつけるうそつきことうつろちゃん。その手には束ねられた段ボール箱。そう、クリスマスに話していたこと…… うつろちゃんの一人暮らし用に買った、マンションの最上階、その一室に彼女は今日引っ越して来たのだ。

 片づけを手伝うためにやって来たと思われる織月(りづき)は早速置かれていたソファにどかりと座り、一人で酒盛りを始め、私は隣部屋にある日記の整理をしつつ昼食の差し入れをしたりなんだりとお手伝いしていたのだ。

 綺麗に敷かれたラグ。向日葵模様のカーテン。日記を収める本棚。お洒落な電気スタンド。棚の上にはビスクドールが置かれ、玄関には向日葵の鉢植えが二つ置かれている。ラグの端に置かれたソファの近くにはテレビ台と、その上に乗ったパソコンが置かれ、テーブルはこれまたお洒落なガラス製。

 キッチンは黄色と橙色の調理器具で統一され、寝室を彼女が整えているときにチラッと見たら、あちらも向日葵模様の布団だった。その枕元には小さなテーブルと一冊の日記帳、電気スタンドがあり、まるでホテルの一室のようになっていた。

 

「それにしても、本当に向日葵好きだね」

 

 そう言うと彼女は鋭い目をほんの少し緩めて頬を染める。

 

「七瀬が好きだって言ってたから……」

 

 独り言のように呟かれた言葉に目を丸くして彼女を見上げると、慌てたように首を振って 「昔、ばあちゃんちでよく見たんだよ。だから印象に残ってるんだ」 と訂正した。

それを見てにやにやと機嫌よく笑っていた織月が 「そーかそーか、うつろちゃんにとっての大切な人なのね?」 とからかうように言うものだから、うつろちゃんは先程よりも顔を赤くして叫んだ。

 

「うっせーんだよ! あんなやつ大っ嫌いだばかぁ!」

 

 ツンデレがバレバレである。

 

「凪も! なに生暖かい目で見てるんだよ! 気持ち悪いんだよ! やめてよ!」

「あはは…… うつろちゃんをいじるのはいいんだけど、とりあえずおゆはんにしない?」

 

 「よくない!」 と途中で文句を付けられたが無視をして話を進める。

 

「んじゃ、凪の部屋で」

「…… 凪の部屋だな」

 

 お酒を掲げながら言った織月の言葉に追従してうつろちゃんも言う。

 

「え、なんで? そこは引っ越したばかりのうつろちゃんの部屋じゃないの?」

 

 引っ越し祝いと言ったのは織月だ。なのになぜ引っ越したその部屋で祝わないのか。既にお酒を広げてくつろいでいるというのに。

 

「今日は何日だと思ってるんだよ?」

「えーと、4月28日…… あ」

 

 自分でカレンダーを見ながら呟いて気が付いた。

 

「自分の誕生日を忘れてるとか笑えるわー。なんのためにこのお酒持って来たの? ってなるでしょ」

「それは自分のためなんじゃ……」

「わざわざこの日に引っ越してきてやったのに気づいてなかったのかよ」

「ううっ、自分の鈍さが憎い…… !」

 

 にやにや笑って 「あ、おつまみ用意よろしく」 と言って来る織月に、にししと意地悪気に笑ううつろちゃん。

 

「…… でもさ、主役に料理作らせる気なの?」

「つまみは凪ちゃんのがいいんだ、私」

「ケーキと料理は注文するから大丈夫…… 凪の金で」

「ちょっと、私のお金じゃ意味ないんじゃないの!?」

 

 まったく。おつまみと言ってもあまり材料はないし、自分で自分を祝うために買って来たマグロとか梨とか、そんなものしかないんだよね。無茶な注文だなぁ。

 そう思いながらも自室に移動してにやけている私はどうかしてる。ああなんだろう……すっごく嬉しい。

 

「うわーお、相変わらず凪ちゃんの部屋は凄いね、日記の量が」

「うわっ、キモチワルッ!?」

 

 うつろちゃんは口が悪いなぁ。1000冊くらい、毎日書いて捨ててなければ普通にたまると思うのだけど。織月だって小学生の頃から書いているのだからそのくらいあってもおかしくないし。うつろちゃんは分からないけどね。

 

「おお? これなんだ?」

 

 その声と、トントンと叩く音に反応して振り返るとうつろちゃんがなにやら機械をペタペタ触っている。大型のそれに興味を持ったようだった。

 

「あ、それ? 3Dプリンター」

「はぁぁぁ!? このサイズで!?」

 

 かなり大型のそれは一応非常用なのだ。具体的に言うならば、暴動が起きたときなどの。

 そういうときならば何を作ってもいいだろうし…… 今は模型とかを作るのにしか使用していないのだからいいだろう。

 

「チェーンソー作ろう! チェーンソー!」

「や、そこは釘バットだろ!」

「それで武器を作るのは、今はご法度。あと、最強は鉄パイプだから」

「なんだろうね、この武器自慢」

「お前が言うな」

 

 結局、私がおつまみを作っている間に二人はいくつか模型を作ったり、自分の殺傷エフェクトをモデルにした武器の設計図なんかを作成して遊んでいた。

 外に出したり使用したりしなければ問題はないし、まあいいだろう。避難用にするこの部屋に、アレに対抗出来得る武器を造れる機械。これだけあれば二人が死ぬことなんてないだろう…… 全てはその予防策のために。決して友人が、同類が死なぬために。そして、大切な人がいなくならないために。

 全てを見通して用意したそれらに目をやって私は笑みを浮かべた。

 

「エクスカリバールだろ!」

「いいや、そこは 火かきボルグでしょ!」

 

 まあ、なかなかくだらないことで盛り上がっているが、その話は身内だけで盛り上がることを約束して説明書を渡しておいた。

 

「はい、マグロのガーリックペッパー炙り。レモンを添えて…… デザートは梨のムースね」

「わぁい! 凪ちゃん大好き!」

「お、さすがだな!」

 

 熱い議論はおつまみができるのと同時に終わりを告げ、そそくさと織月が酒瓶に手を伸ばす。そしてうつろちゃんはパーティ料理を電話片手に注文し始めた。

 

「ささっ、凪ちゃんも。君の瞳に困憊?」

「おいっ」

「おつまみあげないよ?」

「あ、それは勘弁」

 

 そして平和に誕生日は過ぎて行った。

 ―― それは、高校二年生で抽選に当たる、丁度一年前の出来事だった。

 

 

 




 いつのまにか織月に酒飲み属性が……

・3Dプリンター
 時間が経ったのでもういいかな? と。ほら、某stgの格ゲー版でもやってましたし……
 ちなみに、大活躍します。主に1と2の間とかに? 絶(ry)

「ミナサンは悪用しちゃダメでちゅ! あちしからのお願いだから、約束してね! らーぶらーぶ」

・「君の瞳に困憊☆」
 某作家の原点シリーズ中の台詞。面白いのでネタとして引用。「僕の瞳はアレキサンドライト☆」で唐突に思い出したので使ってみた。

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