午前1時半ジャスト。停電だ。
辺りが暗くなると同時に、見つめていた壁掛け時計も一瞬で暗闇に塗りつぶされるように消えてしまった。
暫く間を置いて、私がしゃがみこみ、コンセントコードに手を触れたときにようやっと皆は停電に反応し始める。
「うわっ、停電だよ!」
「おいっ、なにも見えねーぞ!?」
この声は小泉さんと左右田クンだな。
それよりも、変な行動をしているのを早々に発見されないように手早く済ませてしまおう。
「ま、真っ暗だよぉ! もうお先真っ暗だよぉっ!」
これは澪田さんか。
幸い、窓が鉄板で完全に塞がれてしまっているからいつまで経っても目が慣れるようなことはない。
暗闇によって
複数の悲鳴と、皿を割る音。幾つかの料理が落ちたのか、ベシャリと湿り気の帯びた落下音がする。それらを聴いてよせばいいのに、なにも見えぬまま逃げ惑う足音がその場に響き渡った。
「み、みんな落ち着いて! こういうときは落ち着かないと!」
小泉さんが逃げ惑う音に対してか、震える声で言った。
よし、目的の場所に到着。あとは手を差し入れて
「俺様の傍を離れるなよ? お前たち……」
「ひゃあぁぁぁっ!?」
田中クンはハムスターが被害に遭わないようにか優し気な声を出し、なにかをグシャリと踏んだような音と罪木さんの悲鳴がこだました。
「おいっ、お前なにをしているっ!」
テーブルの脚先に右手を添えて、そう深くない位置にある光る物体の
「やめろっ!!」
瞬間、素早く引っ込めたはずの左手がなにかに貫かれて激痛が走る。
「いっづっ…… !」
極力声は抑えていたのだが、僅かに漏れた悲鳴は 「お、おいっ! どうした!?」 と心配気な声で叫ぶ日向クンに遮られた。
そして追い打ちをかけるように物凄い衝撃が全身に襲い掛かり、恐らく自分が元居た位置のテーブルへと突っ込んだ。
ガシャアン! と大きな音を立てて倒れるテーブルと、降って来る皿や花瓶。料理は既に食べきっていたから落ちて来たのは皿だけだったが、左手が痛くて受け身をとれない上に割れた皿が頭をぶつけた先にあったのがいけない。
「っ~!!」
どうやら額を切ったようだ。
痛みは大したことないが顔全体にぬるぬると液体が落ちて来て危うく目に入りそうになった。顔の怪我は大袈裟に血が出るから嫌だというのに。
右手で体を支え、左手を花瓶が割れたであろう場所に動かすと激痛と共にわさわさとなにか軽くて柔らかい、葉のようなものが手に張り付く。
その中を掻き分け、ようやっとコツンとぶつかった
「電気点けろって! 飯が食いづれーじゃねーか!」
「っみ、みんなー、どこにいるのー? て、停電って…… 厨房だけじゃないのー?」
「…… あれ?」
終里さんの暢気な声と、混乱したような震える声音の花村クン。その後に七海さんのくぐもった疑問の声が聞こえた。
「これはっ…… おいっ、待て!」
よかった、十神クンの声だ……
そうして緊張が解かれる。
心底安心して私は這うように移動して倒れたテーブルの影へと移動することにした。
正直暗すぎてなにがなんだか分からないが、ぶつかったテーブルの位置くらいは流石に分かるのだ。
「…… ブレーカーが落ちてしまったのでしょうか?」
ドロドロと顔を流れる粘性のある液体が鬱陶しいが、そのうち血も止まるだろう。
しかし問題は恐らく貫通しているであろう左手だ。これは予定外だ。いや、これまでが幸運に運んでいたからその分の不運だろうか? それにしては少し
「ちょ、ちょっと待ってろ! オレが壁伝いになんとかしてくっから」
左右田クンが移動する音が聞こえる。
壁に寄りかかり、私はじっと部屋が明るくなるのを待つ。
血が滴る音を聞きながら気が狂ってしまうのではないかと思うほど待った。
人間というものは 「これはお前の血だ」 と言われて水滴を延々と暗闇の中で流され続けると貧血になって死んでしまうらしい。
良い薬だと信じ込ませて、実際に良い結果が現れた時はプラシーボ効果。前者と、今の私のような状態をノーシーボ効果と言うらしい。
ようはこの滴る血だと思っている音が、実は果汁100%ジュースが垂れる音だったとしても今の私には効果覿面というわけだ。
―― ぇ……………… る………… ?
耳鳴りがする。気持ち悪い…… 幻聴のようなものまで聞こえて来る始末。
闘えるだろうか、私に…… あ、なんだか無理な気がしてきた。
暫くして、周りが真っ白になるような感覚がして目を瞑る。
誰かが…… 多分澪田さんが 「バルス!」 なんて叫んでいたが、まあ気持ちは分からないでもない。
瞑ったまま目が慣れるまで待って、そっと目を開く。目の前には案の定倒れた丸テーブルがあった。
「あ…… !」
「あ、あれはっ!」
幾人かの驚きの声があがり、私もつられて首を動かし、テーブルの向こうを覗く。
そこには衝撃の光景に食い入るように、一つ所に視線を集中させる皆の姿があった。
しかしどうやら、倒れたテーブルの影に隠れる私には気づいていないようだ。
「ご、ごめんなさぁい! また転んでしまいましたぁ!」
皆の視線の先には大胆に仰向けに倒れ、大っぴらに開いた足を閉じることもできないほど哀れな姿になった罪木さんがいた。
包帯を巻いた右足にはソーセージが絡まり、男子が決して見てはいけないスカートの中には一つ、奇跡的に皿が乗っている。太腿にはじっとりとした汗の他にお冷用の水ボトルが倒れて濡れてしまっていた。
その手は足に絡みついたソーセージと同じものが手を絡め、頭上で拘束されているような状態になっていて、この場に花村クンがいればきっと顔を上気させて
「だ、だから…… どうやって転べばそんな風になるんだって!」
「むっ!?」
日向クンがその状態を一瞬視界に入れたと思ったら素早く首を回して目を逸らした。田中クンも片足を下げ、体を逸らし、右手を大袈裟に顎付近にやって驚いたポーズをしている。顔はしっかりと赤い。
「わっほーい!エッチなポーズだよー! うひょひょひょ、こいつはたまんねっすなー! 真昼ちゃん! 今度こそシャッターチャンスだよー!」
「ひっ、ひぃやあああ…… ら、らめれすぅ! 見ないでくらはーい!」
「ダ、ダメって言ったでしょ!」
澪田さんと小泉さんのやりとりは以前レストランで罪木さんが転んだときとそっくりだ。
「…… これは、いわゆるサービスシーン…… だね?」
「ひぅっ…… 許してよぅ…… ! もう許してぇっ…… くらさぁいいい!」
七海さんは興奮したように胸の前で両手を握りしめている。
「み、みなさん…… そろそろ助けてあげましょうよ」
そして、ソニアさんの一言でやっと皆は話すのをやめ、彼女の救出作業を開始した。
「うゆぅ…… ひっく…… う、ううううぅぅぅぅ…… 毎度お騒がせして、ごめんなさぁい!」
「うん、気を付けようね…… 今度からさ」
座り込んで泣いている罪木さんに若干呆れ気味の小泉さんが言う。直らないだろうなと予想していそうだが、しかしその顔は優し気で年上のお姉さんのような雰囲気を醸し出している。
「はい…… あっ、ええと……」
「ほら、立って」
「ありがとうございますぅ……」
罪木さんはそっと差し伸べられている手を困惑気味に見つめていたが、手を取るのを遠慮していることが分かった小泉さんが強引に掴み立ち上がらせる。そして握られた手を頬を染めて見つめる罪木さんに向かって笑顔で言った。
「ま、ドジっちゃうのは仕方ないもんね。そんな困らなくてもアタシは怒らないわよ。それより蜜柑ちゃんの笑顔の写真、あんまり撮れてないから笑ってほしい…… かな?」
「…… っ、本当に、本当にありがとうございますぅ!」
その場にピロリン、と軽快な音が鳴った。こんなときだが、友情とは素晴らしいものだ。
笑い泣きをしてしまっている罪木さんが小泉さんに頭を撫でられ、微笑ましい光景が広がっている。
「おっ、良かった! こっちも明るくなってんじゃん!」
「おやおや? 左右田くんがブレーカーをあげてくれたのかな?」
そんなことが起こっているうちに左右田クンが大広間のドアから帰還した。それに反応した七海さんが疑問を呟くが、それを左右田クンが否定する。
「いや、それが…… ブレーカーがある事務室には辿り着けなくてよォ……」
「え? じゃあどうして電気が点いたの?」
「さぁ……」
「『さぁ』じゃないわよ! この役立たず!」
役立たずは言い過ぎじゃ…… ?
「っだー! じょーがねーだろッ! あんな暗い中を事務室まで辿り着けっかよ! 目は全然慣れねーしよ!」
「あらら?」
「ん、どうしたんだ?」
ソニアさんがやっと違和感に気が付いてくれたようだ。
そろそろ貧血でいろいろとやばい。罪木さんに手当してほしいところだ。
「いえ、十神さんと狛枝さんと…… あと辺古山さんの姿が見当たらないのですが…… どちらに行かれたのでしょう?」
「えっ!」
「いや、ペコちゃんはパーティの最初の方からいなかったから……」
「そうっすね! 一緒に食べようと思ったときにはもういなかったっす!」
困惑気味のソニアさんに日向クンが反応し、辺古山さんの方は停電中にいなくなったわけではないと小泉さんと澪田さんが証明した。
「しかしあの暗闇の中だ。闇に親しんだ住人でなければ移動することもままならないだろう」
いくら十神クンや私でも目が慣れることのない暗闇ではろくに動けない。そう田中クンは言いたいようだ。
そして、全員が困惑の表情で互いの顔色を窺っているとき大広間の扉が開かれた。
「ちょっとソニアおねえ! もう交代の時間だよ! 10分も過ぎてるじゃん! 王女様だからって時間にルーズなのは…… ってなにこれ!?」
痺れを切らした西園寺さんがソニアさんを呼びに来たようだが、大広間の惨状に目を見開いて驚いている。今更だが、辺りはテーブルが倒れていたり料理が床に散乱していたりと散々な状態になっているのだ。そりゃあ驚くだろう。
「あ、ごめんなさいです! 先程停電があったので……」
「停電? なにそれ。停電くらいでこんな状態になるの?」
「ああ…… なあ西園寺。十神か狛枝知らないか? 停電の最中にいなくなってどこにいるか分からないんだ」
「えー? こっちはモノミで遊びながら見張りしてたけど誰も来なかったよー?」
「そうか……」
日向クンが険しい顔をして辺りを見回す。そして 「酷い惨状だなテーブルも倒れ……」 と言いながらこちらにやってきた。ああ、やっと見つけてもらえるのか、なんだか長かったなぁ。
「こ、狛枝!? お、おい大丈夫か!? おい、狛枝! …… よかった、生きてるな。おい罪木! ちょっとこっち来てくれ!」
日向クンがテーブルの影で、壁にもたれかかっていた私を発見する。
目を瞑って血が目に入らないようにしていたので、どうやら一瞬死んでいるのではないかと心配されたようだ。
「お皿で額を切っちゃったみたい…… 血は大袈裟だけどあんまり大したことはないよ……」
「なんで声あげなかったんだよ! …… 見つけるの遅くなってごめんな」
「えーと…… うん、ありがとう」
「ひゃぁぁぁぁ! 狛枝さぁん! ううう、大袈裟なんかじゃないですよ、目の上を切ってるじゃないですかぁ! 今応急処置をしますからじっとしていてくださぁい!」
周りは私の大袈裟な流血を見てかなり騒いでいるようだ。罪木さんも取り乱しつつ的確に応急処置をしてくれているので時期に血も止まるだろう。もう固まりかけていたようだしすぐに動けるようになるだろう。
「おい、無事か」
「み、みんな大丈夫だった!? って、うわぁぁぁぁぁ!?」
大広間に十神クンと花村クンが連れ立ってやって来た。
花村クンは私の血塗れの状態を見てすぐに叫び声をあげたが、十神クンは眉を顰めて 「無事ではないようだが、生きてはいるようだな」 と呟く。
「どこに行ってたんだよ、十神」
「事務室だ」
「じゃあブレーカーを戻したのは十神なの?」
「ああ……」
そう言った小泉さんから目線を逸らしつつ十神クンは私へと目を向ける。
「…… その大量の羽毛はどこから出て来たんだ?」
十神クンが不思議そうな顔で花瓶が割れている場所を見た。
そこには横倒しになったテーブルの近くに、花瓶の破片と辺りに散らばった大量の羽毛が落ちているのだ。
「ああ、これ? 造花を支えるのに入れてたんだよね。ははは、こう見るとなんだかロマンチックだよね」
「そんなこと言ってる場合じゃないだろ!?」
日向クンが応急処置を受けている私を見ながらそう言った。
血を見て結構取り乱しているらしい。
「そんなことって…… どうして?」
「あああ、あの! ちょっといいでしょうかぁ?」
そう言って日向クンと話していると罪木さんが私の左手を取ったまま声をあげた。
「どうした?」
「あ、あのあの…… 狛枝さん…… お皿とか、陶器の破片ではありえない怪我をしているのですけど……」
「…… え?」
「なにそれ…… それってつまり……」
日向クンと小泉さんが顔色を悪くしていく。
そして全員がその事実に気が付き始めたとき、終里さんが食事の手を止めてふらふらと奥のテーブルへと向かって行った。
「…… ん? んー?」
「終里さん、どうかなさったのですか?」
ふらふらと移動する終里さんにソニアさんがついて行き、そう尋ねると彼女は 「いや、なんか臭わねぇか?」 と言いながらさらにテーブルの周りをぐるぐると回り始めた。
「くすくす…… ゲロブタくっさいってさー!」
「わ、私ですかぁ!?」
「いや、そうじゃなくて…… あー? なんだ、これ? 路地裏のラクガキみたいな匂いがすんぞ……」
「路地裏のラクガキ? スプレーみたいな匂いってこと…… ? アタシには…… 分かんないけど」
「シンナー臭いってか? 嗅ぎなれてるオレでも…… っだー! 分かんねェよ! 料理の匂いしかしないっつーの!」
「お、ここか」
鼻をひくつかせながらテーブルの周りを移動していた終里さんはついにその場所をつきとめ、テーブルクロスを思い切り引き上げた。
「っな!?」
「な、なんですかこれ!」
「ど、どうなってるんですかぁ!?」
「ちょ、ちょっと…… みんな無事よね? ペコちゃん、ペコちゃんを見つけなきゃ!」
テーブルの下には大量の赤い液体が飛び散っていた。ずれた絨毯の切れ端やテーブルクロスにべったりと赤い液体が付着し、細かいビニールのようなものが辺りに散らばっている。
その光景を見ただけでは誰かがここで刺されたのではないかと思うほどの赤い液体。そして、テーブルの裏に怪しく光るナイフが張り付けてあったことで全員が恐ろしい事実を認識した。
「うそ…… これって……」
「な、ナイフ!?」
「それにさっき蜜柑ちゃんが、皿の破片でも陶器の破片でもない傷がって言ってたっすね……」
小泉さん、花村クン、澪田さんが驚きながらそのナイフを凝視している。
「これは…… この場にいる者を魔神へと捧ぐ供物にしようと企んだ輩がいるらしいな」
「っおい、それって……」
日向クンが息をのみ、十神クンの方へ視線を動かす。
そしてその視線を受け取った十神クンが軽く頷くと、決定的な一言を零した。
「俺達の中の誰かが、殺人を企んでいた…… ということだろう」
「はぁぁぁぁぁぁ!?」
「きゃはははっ! ホントーにそんなことする奴がいたんだー! 恥知らずだねー? 今すぐ名乗りでもあげて早く恥の上塗りしちゃえばいいのにー!」
こういうときに西園寺さんの煽りはとても有用である。
ああまで言われたら犯人はよく思わないだろう。窘めるという意味でも今の言葉に反応した人物はそう多くはない。それをよく見ている十神クンと日向クンは険しい顔で頷きあった。
「これから……」
「きゃぁぁぁ! 耳を引っ張らないでくだちゃぁぁい! もげちゃいまちゅぅぅぅ!」
「やあ! 真打ち登場だよ!」
十神クンの言葉を邪魔したのはモノクマと、モノクマに耳を掴まれ引きずられているモノミだった。
「なにか用か?」
「うぷぷ、面白いことが起こってるじゃありませんか! これは乗るっきゃないね! 誘いに乗るっきゃないね! ボク誘い受けも嫌いじゃないよ? だから……」
そう言ってどこからか 「放送マイク~!」 と言いながらマイクを取り出して口元に近づける。
モノクマは自分で 「ピーンポーンパーンポーン!」 と口にすると島の全てに行き渡るように生中継の放送を開始した。いつの間にか自分をカメラで映してリポーターのような恰好にまでなっている。用意がいいもんだ。
『現場旧館のモノクマです! えー、殺人未遂が発生しました! 一定の捜査時間のあと、学級
テンション高めに言い切ったモノクマはいい汗かいたと言わんばかりにタオルで額を拭っている。
「さ、殺人未遂ぃぃぃぃ!?」
「捜査って、なんでしょう…… ?」
「あ、それね…… えへん! オマエラには〝 殺人未遂をしたのは誰か 〟を議論…… じゃなくて、闘論してもらいます! そして殺人未遂をしたクロを当てることができたらこのまま修学旅行を続行! 未遂だからね、ちょっと怖い目に遭ってもらうよ。さらに今回のクロは不信感を持たれたうえ、犯罪者の烙印を押されたまま苦しむことになるよね! もし当てることができなかったら…… 殺人が成立したとして狛枝さんには死んでもらうことになるよ!」
「…… え?」
今なんて?
「私が…… 死ぬって…… どういう……」
「おい、モノクマ。クロの罪を暴けなかった場合は他全員の処刑ではなかったのか?」
「あ、それ訊いちゃう?察しの良いガキは嫌いだよ!」
モノクマが十神クンの前で体を器用にクネらせながらしなをつくる。
「……」
しかし無言の圧力に負けたモノクマがとんでもないことを言い始めたのだ。
「言わなきゃだめ? もー、しょうがないなぁ…… そりゃあ、バレずに殺すことが条件なんだから修学旅行は続行だよ? うぷぷ…… バレてなくても肝心の〝 殺し 〟が中途半端じゃあダメダメだよ! 犯人は罪悪感と圧倒的絶望感に苛まれることになるよね!」
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくだちゃい! それは酷すぎまちゅよ!」
「そ、それって犯人に1つも得なんてないじゃないか!?」
「な、なんだその理不尽さはよォ!」
3人の言葉に首をほぼ真後ろにグルンと動かしたモノクマが 「得ってなあに?」 と言う。
もはやホラーの域に片足突っ込んでいるモノクマに、花村クンと左右田クンは怯えつつもいくらなんでもそれはないだろうと訴えた。
モノミは 「きゃあ!」 と言って役に立っていない。モノミェ……
「殺せなかったほうが悪いじゃーん! そもそも、上手く行ってても自分が生きるか死ぬかの問題になるんだよ? そのリスクと殺人を犯したリスクで釣り合うんだから、未遂じゃあ成立するはずもないでしょ! 全ては吊り合いが取れなくちゃね!」
こちらをチラリと見るモノクマと視線が合った。吊り合いと言うのは、幸運と不運のことを揶揄しているのだろうか。まったく、煽るのもやめてほしいな。
本当…… 最悪だ。
「…… つまり、死にたくないなら犯人を暴けばいいってことだよね?」
「そういうことだね!」
にやにやと忌々しい。
つまり、
ああ、やってやろうじゃないか。乗ってあげるよ、その勝負。生きるか死ぬか…… 遊びのつもりだったけれどもう後戻りはできない。
「へえ……」
「おい、狛枝…… 大丈夫か?」
「うん、大丈夫。ふらふらするのも治って来たし、少し動くくらいならできるよ。あ、でも討論するならこの場で、がいいな。ダメかな? モノクマ」
「…… ま、いいよ! 裁判場のお披露目もしたかったけどこれは闘論だからね!」
なんだか楽しそうにしているモノクマを踏みつけてやりたいが、嬉々として槍が降ってきそうなのでやめておく。心配そうに声をかけて来る皆を一瞥して立ち上がり、モノクマを睨みつけた。
「
「おい狛枝…… 本当に大丈夫か?」
「うん……」
コートのポケットに入れたそれをそっと触る。
大丈夫、私は闘える。大丈夫……
「じゃ、これを渡しておくよ! ザ・モノクマファイル~! 怪我のこととか状況とか書いてあるから、あとはよろしく!」
「あ、あわわわ! ええと…… へ…… ? あ、そうでちゅね、ミナサンが生きていて本当に良かったでちゅ…… 本当に……」
「おい、なにを独りで言っている」
罪木さんにタブレットのようなものを押し付けて勝手に帰ってしまったモノクマに、置いて行かれてしまったモノミが独り言を呟きながら背中を向けた。
「大丈夫でちゅ…… あちしはもう負けまちぇん…… 必ずこのまま、このメンバーのままで朝を迎えられるようにしてみせまちゅ!」
「おい、モノミ…… ?」
独り言を話し続けて、モノクマと同じく勝手に去って行ったモノミに日向クンが疑問気に呟いたが、彼女に届くことはなかったようだ。
「…… 捜査か」
日向クンと十神クンがその場で全員をぐるりと見渡した。
「…… 2人か3人ここに残って現場保存を頼む。罪木は一旦狛枝を診ていてやれ。それから…… 小泉。お前は写真を撮っていただろう…… 停電前の位置関係を割り出しておけ。それから停電中のできごとをできるだけ詳しく思い出して誰か書きだしておけ。日向と七海は俺と旧館内の調査だが…… 先に停電中なにをしていたのかを聴いて回るぞ。これでいいな?」
テキパキとやることを組み上げていく十神クンを見ながらわたしは少しだけと思い、目を瞑った。
「す、すまん! ワシはちょっくら…… ふぐぅぅぅ!? スマァァァァァン!!」
予定とは少しズレてしまったがまあいいだろう。
この
盛大に暴れて、
「わたしは死なない……」
暗い目をした私を、心配そうな目で見る日向クンにあえて気づかないフリをした。
「…… 来てくれたんでちゅね、これでやっとあちしも…… !」
―― それぞれの決意を背景に、捜査が始まった。
・空気な弐大クン
終始脂汗をかきながら俯いておりました。我慢するのに必死でろくに話も聴いてないでしょうね……。さび枝が目を瞑った後にドップラー効果を残しながら走り去って行きました。
・わたし
一人称がひらがなになっているときのさび枝は恐らく目が死んでいる。そりゃ心配もしますよ。
・モノミ
先生強化期間? 物語の裏でもゲームとは違う流れが起きているようです。さび枝がいることで変わるのはその周りだけではないのです。
・闘論
これが言いたかっただけとかそんなことは()
・怪我人発見!
床がおかしいとか複雑骨折してそうとか、色々と気にしてはいけない。そして額を切った皿の破片がどこにもないように見えるのは気のせいです(震え声)
単純に実力不足でございます……